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“ジャイキリ”を起こせるか…仲山氏が横浜F・マリノスで行うチームビルディングを語る/第1回

2017.09.01

インタビュー・文/池田敏明
写真/兼子愼一郎

楽天大学の学長を務め、『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則――『ジャイアントキリング』の流儀』の著者でもある仲山進也氏。2016年10月からは「ジャイアントキリングファシリテーター」として横浜F・マリノスとプロ契約し、育成組織のコーチや選手、スクールのコーチ向けにチームビルディング講座を実施している。「サッカーキング・アカデミー」では過去2回にわたって短期講座を実施しており、10月に3回目の短期講座を実施する予定となっている。
仲山氏は横浜F・マリノスで、どのような講座を実施しているのか。そして、受講しているコーチや選手たちにどのような変化が見られたのか。本人に詳しく話を伺った。

――まず、チームビルディングとはどういったものなのかを教えていただけますか?
仲山進也 「チームビルディング」という言葉を伝えた時の反応には2パターンがあって、「チームビルディング? 何それ?」という反応と「やったことある。みんなで壁を越えたり、手を繋いで何かやったりするやつでしょ?」という反応です。ちょっと困るのが後者の場合で、みんなが仲良くなるためにやるレクリエーション的な位置づけで捉えられていることが多いのですが、そうではないんです。その一瞬で終わるものではなく、「今いるメンバーでジャイアントキリングを起こすチームをつくる」ためにずっと続いていくものなんですよね。

――壁を超えたり、手を繋いで何かやったりというのは、チームビルディングを進めるための手段の一つであって、それが目的ではない、ということですよね。
仲山進也 おっしゃるとおりで、「チームの成長法則」のような考え方をメンバーみんなが共通言語として持ち、活用することによってチームビルディングが進みやすくなります。それをただ話として聞くだけだとピンとこないので、体を動かすアクティビティや考材(考えるための材料)を通してその「法則」などを実体験できるようにするのがファシリテーターの役目です。アクティビティをやって「楽しかったね」で終わるのではなく、やった後の振り返りのなかで、「確かにさっきこういうシーンがあった。今後はあの現象を◯◯と呼ぼう」などとみんなで言語化できるようにプログラム構成を心掛けています。

――仲山さんが横浜F・マリノスでジュニアユースの選手やコーチにチームビルディングを行うことになった経緯を教えてください。
仲山進也 横浜F・マリノスに加わることになって、最初に話しかけてくれたのが菊原志郎さん(現ジュニアユース監督)でした。志郎さんはU-15、U-16、U-17日本代表のコーチを務めていたことがあるのですが、そのとき監督だった吉武博文さん(現FC今治監督)が選手向けに使っていたというスライドを見せてくれました。それを見て「あ、チームビルディングをしっかりやっていたのだな」と思いましたし、志郎さんからも「面白いことをどんどんやっていきたいから、仲山さん、ウチの選手向けにチームビルディングやってよ」と言われて、2016年10月に中2のチーム向けに始めたのが最初でした。普段、楽天大学で、楽天に出店している中小企業の経営者や店長向けにチームビルディング講座をやっているのですが、そこで丸5日間かけてやっているものを、3時間ぐらいずつ小分けにする形で導入しています。

――現在はどのカテゴリーで行っているのでしょうか。
仲山進也 ジュニアユースの選手向け、育成組織のコーチ向けが2グループ、スクールのコーチ向けも2グループで、3カテゴリーにわたって5つのグループがあります。
中2のチームで始めたところ、ある日、他の学年のコーチから「仲山さん、一体どんなことやってるんですか?」と聞かれました。というのも、「中2のメンバーに『どう?』と聞いたら『楽しい』『勉強になる』と返ってきたんですよ。彼らが研修みたいなものをそんなふうに言うことなんてなかなかないから、気になって」とのことでした。
そのあたりからコーチのみなさんにも興味を持ってもらえるようになって、ある時、「育成組織のコーチ向けにビジネスコーチングの講座はできますか?」と相談されました。「各コーチに『選手と面談するようにして』と言っているんだけど、自分自身はサッカー協会でビジネスコーチングの研修を受けたことがあって、そういう知識があったほうが選手とうまく対話できる気がするので」という相談だったので、「やりましょう」と育成組織のコーチ向けのコーチング講座が始まりました。
それを見学しに来たスクールのコーチが「僕らもやりたい」と言ってきてくれて、「やりましょう」と。そうやってクラブ内の「口コミ」で広がっていったのでした。

――具体的なメニューについて教えていただけますか?
仲山進也 3つのカテゴリーで多少アレンジは違いますが、基本的にはそれほど変わらないです。育成組織のコーチ向けは、選手との面談用にビジネスコーチング講座を先にやりました。その後は他と同じく「チームはこうやって成長していく」とか「人の強みはそれぞれ違う」とか「チームワークに必要な要素」といった話です。
ビジネス向けにやっているのともほぼ一緒で、違うのは話の例えがサッカーになるぐらい。歴代の日本代表監督をチームビルディングの視点で見るとどういうタイプなのか、という話をすると「なるほどね!」と聞いてもらえるのが楽しいです。でも、中学生には「(フィリップ)トルシエ監督が……」と言ったら反応がよくなくて、おかしいなと思ったら「その頃はまだ生まれていません」と言われてしまいました(笑)。

――実施してみて、変化は見られますか?
仲山進也 中2向けで印象的だったことがあります。講座の最後に毎回、一人一言ずつ印象に残ったことを喋るのですが、最初は8割ぐらいが“コピペ”のコメントでした。誰かが「自分の考えをちゃんと言うことが大事だと思いました」と言うと、隣の人も似たような内容ことを、ちょっとだけ表現を変えて言う、みたいな感じですね。だけど3回目、4回目ぐらいから、コメントがガラリと変わっていきました。7割ぐらいが自分の言葉になり、自分なりの視点から話をするようになるという変化が一気に起こりました。
スクールコーチ向けでも印象的な変化がありました。スクールコーチは10年以上のキャリアがあるベテランと1、2年目の若手に分かれているため、講座の目的としては若手がいかに遠慮せずに仕事ができるようになるか、が一つのテーマでした。目隠しを使う1時間ほどのアクティビティをした時に、喋らず、動かず、静観して、最後だけちょっと参加した若手コーチがいました。振り返りの時に、「やる気がなかったわけではなく、自分でイメージしながらやっていたけど、途中でついていけなくなった」と。「でもやっぱり、考えていることは口に出して言わないといけないな、というのは今日やってみてすごく感じました」と言っていたのですが、次の回の時には「僕からいきます」と最初に話し始めたのです。みんなから「早速、変化が出ているねぇ」と言われて嬉しそうにしていました。そういうやりとりをお互い気を遣うことなくできるようになると、チームビルディング的には一歩前進です。
スクール生の退校が減っていく可能性を感じる、と言ってくれたコーチもいました。1年後、2年後ぐらいに見たら退校率が下がっていたり、職場がより仕事のしやすい雰囲気になっていたりしたらいいな、と思いながらやっています。

――サッカーをする上での変化は?
仲山進也 志郎さんが言ってくれるのですが、「こういう研修って、すぐに成果が出るようなものではないから、やめずに続けることが大事ですよね」と。まったく同感で、すぐに分かりやすい結果が出るものは、長続きしなかったり、小手先っぽかったりするものが多いと思っています。ただ、「試合中に選手同士でしゃべるシーンが増えた」とか「何となく雰囲気が変わってきたな」というのは感じてもらえているようです。じわじわいきたいと思っています。

 

チームへの意識が変わる…仲山氏がチームビルディングの真意を語る/第2回

楽天株式会社 楽天大学 学長
仲山考材株式会社 代表取締役
横浜マリノス株式会社 ジャイアントキリングファシリテーター
仲山 進也(なかやま しんや)北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。
シャープ株式会社を経て、1999年に社員約20名の楽天株式会社へ移籍。初代ECコンサルタントであり、楽天市場の最古参スタッフ。
2000年に「楽天大学」を設立、楽天市場出店者45,000社の成長パートナーとして活動中。
2004年、Jリーグ「ヴィッセル神戸」の経営に参画。
2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員となり、2008年には仲山考材株式会社を設立、Eコマースの実践コミュニティ「次世代ECアイデアジャングル」を主宰している。
2016年から横浜F・マリノスでジャイアントキリングファシリテーターとしてジュニアユースの選手、及びコーチングスタッフへ指導している。※著書:『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則――「ジャイアントキリング」の流儀』 など

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