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プロスプリントコーチ、秋本真吾氏が語る①…走りの指導はサッカー選手に何をもたらすのか

2017.08.24

文:池田敏明
写真:野口 岳彦

運動が好きな方なら、誰もが「速く走ること」への憧れを持っていることだろう。では、速く走るためにはどうすればいいのか。正しい知識を持っている方は、少ないはずだ。筆者が子供の頃は、仲間うちで「ビーチサンダルを履けば速く走れる」という、都市伝説的な理論がまかり通っていた。

知識に乏しいそんな我々に、速く走るための理論を教えてくれるのが、プロスプリントコーチの秋本真吾氏だ。秋本氏は元陸上選手で、400mハードルではオリンピックの強化指定選手にも選ばれたことがあり、2010年からはプロとして活躍。同年には200メートルハードルのアジア最高記録を打ち立て、100メートル走では10秒44の自己ベスト記録を持つ。

現役引退後はプロスプリントコーチとして、槙野智章や宇賀神友弥を始めとする多くのプロサッカー選手を指導。サッカーキング・アカデミーでも、「スプリント力向上セミナー」を幾度も実施し、好評を得ている。

「各ポジションの動きに合わせた走りのメソッドを開発したい」。そう語る秋本氏に、指導を受けた選手たちがどう変わったのか、どんなメリットがあるのか、詳しく話を聞いた。

――秋本さんはこれまでにトップアスリートを数多く指導されていますが、指導の際に気を付けていることはありますか?
秋本真吾 走りのタイプがいくつかあるので、選手がどのタイプに分類されるのかを、見て瞬時に理解しなければならないのがポイントですね。

――最近ではどのような選手を指導されたのでしょうか。
秋本真吾 川崎フロンターレの小林悠選手や長谷川竜也選手、狩野健太選手ですね。家長昭博選手も見学されていました。先日は大分トリニータの岩田智輝選手に講義だけ行いました。

――どのようなきっかけで指導されたんですか?
秋本真吾 小林選手については、以前から「肉離れしそうな走り方をしているな」と思いながらプレーを見ていました。また、昨年の天皇杯準決勝、浦和レッズ対川崎戦を観戦した時に、長谷川選手の走り方を見て「肉離れしそうだな」と思ったんですね。そうしたら、Jリーグチャンピオンシップ準決勝の川崎対鹿島アントラーズ戦で肉離れを起こしてしまって。試合後に僕が「肉離れを起こしやすい走り方だった」といった内容のツイートをしたら、それが拡散されて長谷川選手本人の目にも届き、僕をフォローしてくれたんですね。その後、直接会って話をすることになり、肉離れを起こす原理を説明したところ、本人もそれを分かっていて、「走る時にひざの裏とハムストリングスが痛いと思っていたんだけど、どうやってフォームを直せばいいのかが分からない」ということだったので、詳しく説明したんです。

――それで、実際に指導されることになったんですね。
秋本真吾 「ケガが治ったら絶対に連絡します」と連絡がきまして、治ったタイミングで指導依頼をいただきました。小林選手も「自分も指摘されたとおりの走り方をしている」と話していたそうで、狩野選手は以前、谷口彰悟選手を指導した時に一緒にやる予定だったんですが、ケガで参加できず、今回、小林選手、長谷川選手と一緒に参加していただきました。家長選手からも興味を持っていただいたんですが、軽いケガを抱えていたので見学だけしていただきました。最初に講義をして、どうして肉離れを起こすのかをPCで動画を用いながらプレゼンし説明し理解してもらって、それからトレーニングに移りました。

――実際に指導をされていかがでしたか?
秋本真吾 小林選手が素晴らしかったんですが、指導をしたその日だけで、走り方が劇的に改善されました。長谷川選手も僕の理論を理解されていたので、狩野選手ともども、指導したら改善されました。小林選手は最初に走ってもらったら、まさに肉離れを起こしそうな走り方だったので、本人にフォームを見てもらい、直してもらったら見違えるように良くなりました。今シーズンのJ1リーグ第1節、第2節、そしてAFCチャンピオンズリーグの試合も見ましたが、すごく良くなっています。第2節のサガン鳥栖戦でゴールを決めたシーンの走り方は完璧に近いものがありました。本人からも「意識してできました」という報告が来たので、これでもしシーズンを通じてケガをせず、ゴールを量産してタイトルを獲得できれば、彼自身にとっての“走りの革命”がかなり大きかったと後から言えると思います。長谷川選手も4/1の仙台戦でのゴール、そして、5節のスプリント回数でもJ1ランキング3位でした。

――これまで指導してきた中で、新たに気づいた点や、メソッドが変化している点はありますか?
秋本真吾 まだまだ勉強不足だな、と思った瞬間がありました。これまで、サッカーの動きにつながるトレーニングメニューを、僕なりの目線で作ってきました。例えば、相手に抜かれないためにしっかり間合いを取り、もし抜かれたとしても反転して追いかけるための姿勢を作るのがセンターバックやサイドバックの選手にとって大事なトレーニングだと思っていたんですけど、一方でバルセロナのハビエル・マスチェラーノ選手の守備を見ると、とにかく詰めるんですよね。間合いを取る局面なんてないんですよ。これこそ日本のDFが模範にすべきものなんじゃないかなって思った時に、「全然、突き詰められてないな」と思いました。

――まだまだ改善させる余地があるということですね?
秋本真吾 これまでに74名のJリーガーを指導してきましたが、ボールを使ったトレーニングまでたどり着いた選手は少ないんですよ。どうしても短期的な指導になってしまうので、一度教えて走りのことを学んで終わり、となってしまい基本的な部分しか教えられてないんですね。浦和レッズの槙野智章さんや宇賀神友弥さんは指導を始めて4年目になるので、ボールを使ったトレーニングをこなし、レベルや要求もかなり高くなっています。でも、小林選手や長谷川選手はまだ1回目、2回目なので、そこでボールを使うと応用になりすぎてしまいます。段階や経験を踏んでいって初めてそこにたどり着けるんですけど、その数が僕の中で少ないので、サッカーにおける実践的なトレーニングはまだ開拓できていない。もっと試合で生きる理論を開発しなきゃなって最近、思っています。

――そのために取り組んでいることはありますか?
秋本真吾 僕自身がサッカーをやらなきゃダメだな、と思いました。全力でサイドを駆け上がる動きとか、ディフェンスの動きを自分で体感しなければならないと思い、知り合いに頼んで、フルコートでやっているチームに入れてもらうようにしています。以前やっていた時は右ウイングのポジションに入り、縦パスに猛ダッシュで追いついてクロス、というプレーが得意だったんですが、今はセンターバックやサイドバックをやらせてもらうようにしています。相手とマッチアップして、抜かれた時についていけるのか。一気に間合いを詰めてピタリと止まれるのか。「トップ選手がこうやっているのでやりましょう」ではなく、自分でやってみて、その動きができるかどうか試さないと、ちゃんと教えることができませんからね。もちろんサッカーを知っている人に尋ねることもありますし、槙野選手、宇賀神選手とトレーニングする時は、彼らの意見を取り入れながらやっています。最終的には、FW、トップ下、ボランチ、センターバック、サイドバックと、各ポジションの動きに合わせたメソッドを開発できたらいいな、と思っています。

プロスプリントコーチ、秋本真吾氏が語る②…走りの指導はサッカー選手に何をもたらすのか

秋本真吾(プロスプリントコーチ)

2012年まで400mハードルのプロ陸上選手として活躍。アテネ、ロンドンオリンピックの選考会をはじめ、ヘルシンキ、大阪、ベルリン、韓国世界陸上の選考会に出場。200mハードルアジア最高記録、日本最高記録、学生最高記録保持者。ハードル選手でありながら100mのベストタイムは10秒44。2013年からスプリントコーチとしてプロ野球球団、Jリーグクラブ所属選手、アメリカンフットボール、ラグビーなど多くのスポーツ選手に走り方の指導を展開。2013年に地元、地元福島県「大熊町」のために被災地支援団体「ARIGTO OKUMA」を立ち上げ、大熊町の子供たちへスポーツ支援、キャリア支援を行う。2015年NIKE RUNNING EXPERTに就任。

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