チャリティマッチで共にプレーした佐藤寿人と柿谷曜一朗[写真]=Getty Images
文/元川悦子
7月は10日のJ1第15節対川崎フロンターレ戦のハットトリックを筆頭に、4得点を固め取りしたサンフレッチェ広島の佐藤寿人。チームの首位浮上に大きく貢献するとともに、今季通算13点で得点ランキングトップに立った状態で東アジアカップの中断期間に入った。
その間、チームメートの青山敏弘、高萩洋次郎がザックジャパンの主力として活躍。日本初の同大会優勝の原動力となった。
佐藤寿人の名が大会中、青山や高萩、そして大会得点王に輝いた柿谷曜一朗らの口から頻繁に出てきたのは特筆すべき点だ。
28日の韓国戦の際、柿谷は先制点のシーンについて「トシ君(青山)はサンフレッチェでもああいうボールを寿人さんに出してるので、そのままのイメージでやれた」と笑顔で語った。
青山も「寿人さんもそうだけど、曜一朗が裏を狙ってくれるのは有難い。あの場面でもいいポジションを取っているのが分かった。狙い通り」と発言。佐藤と柿谷の共通性をイメージしながらロングパスを出したことを明かした。
献身的に前線から守備をした高萩も「今回の曜一朗の決定力にはすごく助けられた。広島にも寿人さんという信頼できる選手がいるから、僕らは安心して守備して、ボールを奪って渡して、ってことができる」と柿谷と佐藤を重ねて見ていたという。
Jリーグ10年連続2ケタゴールを挙げる偉大な点取り屋を「媒介」にして、若いザックジャパンはゴールを量産し、タイトル獲得につなげた。そう言っては少々言い過ぎに思えるかもしれないが、実は大会前、佐藤は彼らの好連係を陰でアシストもしていたのだ。
「6月のチャリティマッチの時に曜一朗と会ったんですけど、東アジアカップを控えていた時期だったので、『たぶんウチからトシとか洋次郎が行くんじゃないか』という話になった。そこで僕が『彼らはダイレクトプレーもできるし、一番危険なところを見れるから、曜一朗がいい動き出しをして、ボールを引き出してあげれば出てくると思うよ』とは言ったんです。それが韓国戦の先制点や、中国戦で洋次郎からのタテパスを引き出して工藤(壮人)君の3点目につながったのかな。Jで対戦する中でお互いが短い時間でコンビネーションを刷り合わせることができたのが、今回成功した一番の要因でしょう」と佐藤は明かす。
代表というのは日頃、別のクラブでプレーしている選手たちが短期間でコンビを構築しなければならない即興の場だ。ザックジャパン常連組のように長い時間が与えられているならまだしも、東アジアカップの代表勢は約10日間の調整期間しかなかった。
そういう彼らが結果を出すには、普段から各選手の特徴を把握する努力を払い、実際のプレーに生かす瞬間的な適応力が求められる。
これまで、代表に呼ばれたり呼ばれなかったりを繰り返してきた佐藤には、その重要性が誰よりも分かっているようだ。
「僕もそうだけど『どういう選手が代表に入ってくるのかな』とか『自分が入ったらどうかな』って目線では常に見る必要がある。そういう観察力がなければ、ポッと代表に入っても難しい。僕なんかも俊さん(中村俊輔)や(中村)憲剛君がどういうタイミングでパスを出してくるか見てますし、播戸(竜二)君や大黒(将志)君といった自分より年上のFWのプレーを参考にしながら、どうすればゴールに近づくかをずっと考えてました。曜一朗もずっと『天才、天才』って言われてきたけど、いろんなことを経験して、そういう観察力も磨いたから、ここへきてすごく成長したんだと思います。下の世代の選手たちが自分をそういう目で見てくれるのは嬉しいこと。彼らに対して恥ずかしくないように、もっとピッチで結果を出さないといけないとは感じます」(佐藤)
7月31日の第18節から、今季J1は2度目の再開となり、広島は大宮アルディージャに勝利したものの、3日の浦和レッズ戦で完敗。佐藤自身も2試合無得点となっている。浦和戦では同い年の那須大亮のマンマークにあい、佐藤ならではのゴール前の鋭さを見せられなかっただけに、その悔しさを今後の糧にしようと自らを奮い立たせている。
若返り志向の強いザックジャパンゆえに、ベテラン・佐藤寿人の日本代表復帰の道は険しいが、可能性がある限り、佐藤は戦い続ける。2年連続得点王とMVPを視野に入れながら、ひたむきにブラジルを目指す。