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初招集組の中で際立つメリット、豊田陽平がブラジルW杯に最も近い位置にいる理由

A代表初召集となった豊田陽平 [写真]=浦正弘

文/清水英斗
[サムライサッカーキング 8月号掲載]

■ザックジャパンの1トップに必要とされる攻守の役割とは 
 豊田陽平がザックジャパンで活躍する可能性はあるのか? 
 結論から言えば、筆者は「ある」と思う。むしろ、コンフェデレーションズカップに招集されていないJリーガーの中で、現状、2014年のブラジル・ワールドカップに出場する23人の枠に最も近いのが豊田ではないかと考えている。起用されるポジションはもちろん、1トップだ。 
 
 ザックジャパンは現状、2列目の攻撃性が持ち味のチームになっている。香川真司、本田圭佑、岡崎慎司(あるいは清武弘嗣)といった、海外組の中でもトップクラスの選手が並ぶ2列目は、世界を見渡してもそれほど多くは見られないほどのクオリティーを発揮する。また、センターバックやボランチなど他のポジションと比べても、日本の攻撃的MFの輸出量はサイドバックと並んで非常に多い。これは日本サッカー界が誇るべきストロングポイントと言えるだろう。 
 
 では、このチームにおいて1トップが果たすべき役割とは何か? 
 特に重要なものとして、次の2つが挙げられる。
 
1)【攻撃面】2列目の選手が前を向き、彼らの長所を発揮するためのサポートをする。
 
 ザックジャパンの1トップには「相手の最終ラインに張り付き、ペナルティーエリアの幅で動く」という原則がある。これは、1トップのポジショニングによって相手の最終ラインの押し上げを抑制するためだ。相手のセンターバックを低い位置に釘付けにすれば、中盤にスペースが生まれ、香川、本田らが楽にプレーできるようになる。
 
 また、ポストプレーも重要な要素だ。中盤が詰まっている時は、そこを越えるパス、いわゆる「クサビ」と呼ばれる縦パスが直接1トップに入ってくる。そのボールをしっかりと収めて、2列目に展開する。このような技術も必要になる。
 
2)【守備面】相手のセンターバックとボランチにプレッシャーを掛け続ける。 
 
 ザックジャパンは、1トップとトップ下の本田が2人でファーストディフェンスを仕掛ける。そしてプレッシャーを掛けて追い込んだボールを、中盤やDFがインターセプトする。この守備戦術はロンドン・オリンピックの《関塚ジャパン》にも似ている。 
 
 この時、特に香川は攻撃時によく中央に入ってくるため、守備に切り替わった時に香川がスタートポジションの左サイドに戻り切れないことがある。その場合は1トップがそのカバーに走り、左サイドのスペースを埋めることも必要になる。 
 
 一言で言えば、ザックジャパンの1トップは《汗かき役》だ。地味な役回りなので、スターになりたい選手が目指すべきポジションではない。「日本代表のために」、「W杯に出られるなら」と、自らの身を粉にする犠牲心がなければ到底務まらないだろう。ポストプレーの技術、プレスを掛け続ける運動量、そして犠牲心を備えた前田遼一は、ザックジャパンにおける1トップの確固たるレギュラー選手だ。 
  
 コンフェデ杯で3大会連続優勝を果たしたブラジル代表を見ても、確かにMVPを獲ったネイマールは輝いたが、しかし、その裏でフレッジ、オスカルといった選手たちが黒子のように彼をサポートした姿も印象深い。チームはスター選手だけでは成り立たない。汗をかける選手が不可欠であり、また、スター選手であるネイマールの側も、一流であるフレッジらに自らをサポートさせる役割を納得させるほど、実力を認めさせる必要もある。 
 
 Jリーグではスター選手である前田だが、ザックジャパンにおいては2列目を生かすための黒子にもなれる。彼ら前線は既に優れたパートナーシップを築いており、前田が1トップのファーストチョイスであることは、この先もそう簡単には揺るがないだろう。

■ハーフナーとの比較から代表での豊田の可能性を探る 
 では、豊田の可能性とは何か? 
 月並みな意見ではあるが、それはハーフナー・マイクの存在を脅かすことだ。1トップの控え選手であるハーフナーは、現状、ザックジャパンでの貢献度があまり高くない。 
 
 ハーフナーの最も大きな問題は、後半に疲労の見える前田に代わって投入された時、前田と同等のプレッシングの強度を維持できないことだ。サッカーは直線的な動きだけではなく、周囲の状況変化に合わせて、瞬時にアクセル、方向転換、ブレーキを使わなければならない。このような《サッカー走り》の性能において、ハーフナーの場合はかなり前田に見劣りしてしまう。 
 
 しかし、このような考え方もできる。ハーフナーは、逆に前田が持たないストロングポイント、すなわち194cmの長身を生かした空中戦が、より期待できるのではないだろうか? 
 
 この点においては、ハーフナーに同情すべき点が多い。コンフェデ杯第2戦のイタリア戦では前田に代わって3─3の後半34分に投入され、ハーフナーは何度かゴール前、相手センターバックの裏に走り込もうとしている。自らのヘディングを生かすための良い動きだ。しかし、味方からクロスが出てこなかった。長身のハーフナー投入は明確なクロスの指示でもあるのに、なぜ……。 
 
 ハーフナーの能力に対して味方からの信頼がないのか、あるいは日本のクロッサーがそのような状況判断に欠けているのか。 
 
 できれば前者であってほしい。前者はハーフナー自身が結果を残せばすぐに解決されるからだ。しかし後者だった場合、解決されるまでには時間が掛かるだろう。瞬間的な状況判断の問題は、一朝一夕に解決されるようなことではないのだ。 
 
 いずれにせよ、ハーフナーの長身を生かせないのなら、ザックジャパンの1トップの交代策は、単純にプレッシングの強度が落ちるだけという目も当てられない結果になってしまう。これではハーフナーをベンチに置く意味がない。 
 
 このような点を考慮すると、豊田の1トップとしての《総合力の高さ》が魅力になる。13年3月のJリーグ第4節ジュビロ磐田戦ではヘディングのみでハットトリックを達成し、空中戦の決定力を改めて見せ付けた。更に豊田は《サッカー走り》も発揮できるのが、ハーフナーとの大きな違いだ。疲労した前田と交代する場合、豊田の場合はプレッシングの強度を同等か、あるいは上昇させことも期待できるはず。 
 
 これは、豊田をチームに組み入れる大きなメリットだ。
 
■セットプレー時の《城壁》という役割
 一方、豊田の課題としては、ポストプレーや足下のシュートが挙げられるだろう。しかし数年前と比べると、この点においてもかなりの上達が見られる。そして、もう一つ重要になるのが、裏への飛び出しだ。 
 
 13年3月のカナダ戦では、1得点を挙げたハーフナーに対し、アルベルト・ザッケローニ監督は「ポストプレーは素晴らしかった。よくやってくれたと思う。ただ、それだけでは完全ではなく、バイタルエリアに落ちるこぼれ球を拾ってからの動きの精度という意味では、FWにもっと裏を狙ってほしかった」と述べている。 
 
 ハーフナーのポストプレーに対して一定の評価を残しつつも、バイタルエリアで2列目がボールを持った時の動きの連続性については、まだまだ課題も残る。このあたりはプレッシングと同様に、動きの機敏さに欠けるところもあるのかもしれない。 
 
 もし、豊田がポストプレーを問題なくこなせたとしたら、プレーの連続性、すなわち2次攻撃、3次攻撃でどんどん裏を狙っていくプレーは、まさに豊田の得意とするところだろう。外に膨らみながらフリーになるプルアウェイの動きなど、裏を狙うランニングの幅も増えている。 
 
 このような動きが香川ら2列目の選手と噛み合えば、相手のディフェンスに恐怖を与える存在になるかもしれない。 
 
 最後のポイントはセットプレーだ。豊田は空中戦に強いので、セットプレーの得点源としてももちろん期待できるが、逆に守備時にもキープレーヤーになるのではないだろうか。セットプレーの守備時には、特定のマークを持たず、入ってきたボールをニアサイドで跳ね返す《城壁》の役割を果たす選手がキーポイントになる。それは普段、本田や前田が行っている役割だ。 
 
 本来なら前田と交代して入ったハーフナーは、いちばん身長が高いので《城壁》に向いているはずなのだが、正直、13年5月のブルガリア戦のパフォーマンスには失望させられた。それは後半25分の場面だ。右サイドでブルガリアがFKを得て、クロスを入れてきた。このボールをニアサイドで跳ね返すポジションにいたのがハーフナーだった。しかし、相手に身体をぶつけられ、あっさりよろめくと、ボールに全く触れられず、最終的には長谷部誠のオウンゴールにつながった。もちろん、マーク側のミスもあるのですべてがハーフナーの責任というわけではないが、このやられ方から、ハーフナーに《城壁》としての期待を持ちづらくなったのも事実だ。 
 
 現在のザックジャパンがハーフナーの長所を生かし切れていないため、彼の短所のほうがより多く出ているのが現状だ。それならば、より総合力が高く、穴のない1トップである豊田のほうが、筆者にとっては魅力的に映る。ザックジャパンの1トップの本質は《汗かき役》。その視点からも、豊田が1トップにフィットする可能性は充分にある。 
  
 また、23人の中に1トップの控え選手を2人置くことはないだろう。実質的に豊田は、ハーフナーとの一対一の対決になる可能性が高い。この競争を勝ち抜くのはどちらか。そして、競争の末に得られるものは何なのか。注視していきたいところだ。

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