2019.01.24

「スポーツビジネスのトップランナーに聞く」 第4回:堀弘人さん(楽天株式会社)<後編>

『ワールドサッカーキング』編集長。元プレミアリーグ、ブンデスリーガ担当。好きなクラブはサンダーランドと名古屋グランパス。

アンドレス・イニエスタのブランド価値を高め、そのパワーを活用してビジネスを動かしていく。楽天でスポーツマーケティングに携わる堀弘人さんは、その戦略を考え続けている。前編中編では、堀さんのこれまでのキャリアと、楽天において描いているプランが、一部ではあるが明確に語られている。事前の想定では、それで取材は十分のはずだった。

しかし、インタビュアーである僕は海外サッカー誌の編集者でもあって、やっぱり気になるわけだ。そう、堀さんがごく身近に接しているイニエスタとは、どんな人なんだろう? 実はこの話がわりと盛り上がってしまったので(みんなイニエスタが大好きなのだ)、僕と同じようにイニエスタのことを知りたいに違いない読者のために、インタビューを3部構成にさせてもらった。今回はイニエスタの人物像がよくわかる、楽しいインタビューになっていると思う。

株式会社フロムワンが運営するFROMONE SPORTS ACADEMYでは、1月28日(月)に堀さんを招いた特別セミナーを開催する。スポーツマーケティングに興味がある方も、そしてもちろん、イニエスタの大ファンの方にもオススメです。

堀弘人(ほり・ひろと)さん
楽天株式会社 グローバル スポンサーシップ オフィス
[写真=兼子愼一郎]

――サッカー雑誌の編集者としては一番気になるところなんですけれども、イニエスタと接する機会が多い中で、堀さんは普段の彼にどんな印象を持っていますか?

 まず、ひとつは寡黙ですね。口数は決して多くないです。それはみなさんがご想像される通りかと思いますが、実はけっこうユーモアやジョークを言う人なんですよ。空気を和らげてくれる。だから、根底に流れている血はラテン気質なんだろうと感じます。ただ、それが多くの言の葉として表現されないだけで、本人は常にいろいろな思考を巡らせていると思います。それはピッチ上での闘志の見せ方も同じで、イニエスタ選手は試合中にレッドカードをもらったことがないという話は有名ですが、本人にその時の感情について尋ねると「怒っている」と言うんですね。怒りを感じていて、内なる部分はフツフツとしていても、それをグッと抑えられるんです。普段からいろいろなことを考えている人だと思いますが、それをすべて発露するわけではない。自分自身をコントロールしている印象を受けますね。

――性格的には、本当に気持ちのいい、優しい人だとよく聞きます。

 そうですね。自分よりも周りのことを考えて、ケアする人だと思います。特にご家族のことは常に考えていますね。彼にとって、初めて海外で生活することになった国がこの日本です。言葉が通じない、食が違う、文化が異なるという中で、一番ストレスを感じているのは奥さんと3人のお子さんだと。そのことをイニエスタ選手はいつも口にしています。家族はどう思っているのか、家族はこれでハッピーだろうかと常に考えを巡らせているんです。

――では、イニエスタとコミュニケーションを取るうえで、難しいと感じたことはない?

 難しさはないです。あるとすれば、私は英語、イニエスタ選手はスペイン語で話すので、言語的なバリアは正直あります。今は彼も、お子さんと一緒に英語と日本語を習っているようですけどね。ただ、不思議なんですが、彼と心が通じている感覚はあるんです。お互いに言っていることを全部は理解できていないのに、それでも何か、通じている感覚がある。イニエスタ選手と話していると、「そうか、人間の本質的なコミュニケーションってこういうものだ」と感じることがあります。

――おもしろい感想ですね。ではサッカー選手としてのイニエスタについてはどうでしょうか。すごいと感じる部分はどこですか?

 彼とはほとんどサッカーの話はしないんですが、それでも「本当に天才なんだな」と感じますね。というのも、彼はいつも「サッカーは僕が小さい頃からやってきたことで、みんながすごいと言うプレーをするのは、自然なことなんだ」と言うんです。つまり、ピッチで見せてくれる素晴らしいパスとか、芸術的なシュートとか、おそらく彼の中ではごく自然の流れでやっていることなんですよ。日々のトレーニングでやっていることを、試合で再現しているだけだと。それだけ聞くと簡単なことのようですが、実はそれこそが、プロのレベルでも難しいことなんだと思います。

――ああ、そうですよね。それが「天才」ってことなんでしょうけども。

 ただ、その天才的な能力を形作ったものは何だろうと考えると、たぶん「基本に忠実」ということではないかと思うんです。以前、イニエスタ選手の体に触れる機会がありました。「アンドレス、元気?」って肩を叩いたときなんですけど、触ると体の分厚さや、見た目以上に筋肉の重さを感じるんですよ。

――そうなんですか? ピッチではむしろ華奢に見えますけどね。

 ずっしりとした、筋肉が詰まってる感じがするんです。それで、彼の理学療法をバルセロナ時代から担当しているエミリ・リカルトというトレーナーに聞いてみたら、そのとおりだと。「彼は体幹が強くて、普通の選手より筋肉量が多いんだ」と言うんですね。それから、走り方もそうです。イニエスタ選手が初めてヴィッセル神戸のトレーニングに参加したとき、チームメイトが一番驚いたのが走り方だったそうです。普通は走ると頭が上下動するのに、彼は新幹線みたいにスーッと頭が動いて、ピッチを見渡しながら走っている。体がブレないんですね。

――サッカースキルの前に、ただ走るだけで周りが驚いた。

 彼のすごさはプレーよりも、もっとベーシックな部分にあると感じますね。体の作り方、走り方といった基本的なところ。それは日頃のトレーニングを大事にして、プレースタイル同様に基本に忠実に、ずっと鍛え続けてきた結果ではないかと思います。ただ、その「基本」のレベルがとてつもなく高いんだと、私はそういう理解をしています。

――同感です。イニエスタはとんでもなく強烈なシュートを打つとか、誰も追いつけないスピードで走るとか、そういう選手ではないですからね。プレーがシンプルだし、他の選手でも真似できるように見える。だから個人的には、サッカー少年はみんなイニエスタを目指せってずっと言っているんですけど(笑)。ピッチ外の態度や言動も含めて、みんなこういう選手になればいいと。

 メンタリティは日本人に近いような気がします。謙虚で、控えめな人ですよね。ただ内側に熱いパッションがあることは間違いない。その感情を爆発的に表現することはなくても、心の中に青白い炎が燃えているような、そういう力強さはいつも感じています。

――最後に、もう一度マーケティングの話を聞かせてください。堀さんは過去にさまざまなブランドマーケティングに関わってこられましたが、ナイキやアディダス、タグ・ホイヤーでは常に商品が、売るべきプロダクトがありましたよね。ところが楽天の場合は、そういう明確なものがない代わりに、ものすごく多様な事業がある。言ってみれば何でも扱える企業です。つまり、プロダクトを売るマーケティングとはずいぶん勝手が違うんじゃないかと。そうなると、イニエスタのプロジェクトの最終的なゴールをどこに描いていらっしゃるのか。それが一番聞きたかったことなんです。

 当社は、今や全世界で70以上のビジネスを展開しているんですね。銀行や証券もあれば、携帯電話の通信事業もあり、最近では農業サービスの「Rakuten Ragri」や「楽天ふるさと納税」のようなサービスもある。我々も把握しきれないぐらいのビジネスを展開しています。ただ、「楽天銀行」、「楽天カード」、「楽天モバイル」というように、多くのの事業が「Rakuten」というブランドを掲げている。その「Rakuten」というブランド自体をもっとダイナミックなものにする、しかも、それをグローバルスケールでやる。これが最も大きなミッションだと思っています。

――イニエスタのブランド価値を日本向けに限定する必要はないですもんね。世界中のファンにアピールできて、世界中の人々が楽天のさまざまなサービスを利用する可能性があるという。

 イニエスタ選手、またはFCバルセロナとのパートナーシップが開始されてから、楽天のヨーロッパでの認知度は劇的に向上したんです。シリコンバレーでもそうです。ゴールデンステート・ウォリアーズのパートナーとなったことで、地元サンフランシスコの人々が「Rakutenってなんだ?」という認知をし始めている。それをもっとダイナミックなものにしていくのが、このスポーツプロジェクトの本質だと考えています。例えばイニエスタ選手の場合はSNSのプラットフォームをすべて足し合わせると、世界中に7,000万人を超えるフォロワーがいます。その力を使って、エンパワーメントを世界的に広げていく。それによって「Rakuten」のブランドがさらに強固になり、引いては「Rakuten」の名を冠した各事業を刺激して、ビジネス拡大に繋がっていくと信じています。

――あの、スポーツ業界には今、本当に楽天に対する期待感があるんですよね。ぜひともいいモデルを作っていただいて、業界全体をリードしてほしいと思っています。

 私自身にとっても、今までのキャリアは海外のものを日本にどう落とし込むか、という仕事だったんですね。アディダスならドイツ、ナイキならアメリカ、タグ・ホイヤーであればスイス。本国の戦略をどう解釈して、日本のマーケットに向けて展開していくかという。それが今は全く逆の発想で、すべての物事がこの日本から起こり始めています。それが世界的なスケールで、ものすごくダイナミックで、スピード感が速い。スポーツマーケティング全体から見ても、これはかなり興味深い事象なんです。そういう意味では我々のスポーツマーケティングプロジェクトには、ぜひとも注目していただきたいと思っています。

インタビュー前編はこちら
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