2018.11.21

「スポーツビジネスのトップランナーに聞く」 第2回:中村武彦さん (Blue United Corporation) <後編>

『ワールドサッカーキング』編集長。元プレミアリーグ、ブンデスリーガ担当。好きなクラブはサンダーランドと名古屋グランパス。

 中村武彦さんはよく話す人だ。およそ30分のインタビュー取材で収録した音声を文字に起こしたら、12,000文字を超えた。経験から言うと、30分の取材なら約8,000文字が平均だから、いわゆる“獲れ高”は1.5倍。当初の予定を変更して、3回に分けてお届けすることにした。今回はその後編に当たる。

 前編では中村さんの興味深いキャリアについて、中編では彼が実現にこぎつけた「パシフィック・リム・カップ」について話を聞いた。そして後編は、日本と海外のスポーツ文化の違いと、彼が考えるスポーツビジネスのおもしろさについて聞いている。こうした話題に興味がある人にとっては“よくあるテーマ”ではある。しかし、“よくある回答”は返ってこなかった。

 株式会社フロムワンが運営するFROMONE SPORTS ACADEMYでは、12月に中村さんを招き、特別セミナーを実施する。中村さんの話は淀みがなく、どの話題もわかりやすく、無駄がなかった(編集でカットする部分もほとんどなかった)。セミナーでもきっと濃い話が聞けると思うので、僕もこっそり参加するつもりです。

中村武彦

中村武彦(なかむら たけひこ)さん
Blue United Corporation
President & CEO
(写真=兼子愼一郎)

──これまで中村さんがやってきたことは、一貫して日本、アメリカ、ヨーロッパといった異なる国・地域の間に立って、いろんなものをつなげていくことだと思うんです。日本と海外のサッカー界の違い、というのはよく言われるテーマでもありますが、中村さんはどの辺に差を感じていますか?

中村武彦 「日本と海外」というより、国・地域ごとに全く違います。たとえばヨーロッパでは、サッカーはもう生活の一部なので、スポーツマーケティングはほとんど関係ないんですね。おじいちゃんからお父さん、自分、子供、孫の代まで、試合に行くのが当たり前だし、試合がすべてなんです。だからキックオフの直前に来て、試合が終わったらバッと帰る。試合そのものがエンターテインメントになっていて、それは3部リーグのチームでも変わらないんですよ。

──つまり、試合自体を目的にして人が集まる。

中村武彦 一方で、アメリカの場合は試合を見るというより、飲み食いしながら雰囲気を楽しんで、友達と会話する。ソーシャライゼーションの場なんです。だからアメリカの4大スポーツは全部、試合時間が長いじゃないですか。勝敗が決まる最後の瞬間は集中して試合を見ますけど、それまでは時間も区切れるし、その間に飲食できるようになっている。そして試合に付随するイベントが、花火があったり、チアリーダーがいたり、ハーフタイムショーがあったり。

──確かに。スーパーボウルのハーフタイムショーなんか、世界的なアーティストが出演しますもんね。

中村武彦 スタンドにいる人は、必ずしもそのスポーツだけを見に行ってるわけじゃないんですよね。家族や友達と楽しく過ごすことが目的。日本の場合は、ヨーロッパとアメリカの両方が混じり始めているような印象があるので、どっちに行くのかなあ、と思って見ていますけど。

──どっちに行くと思いますか?

中村武彦 いや、日本流ができると思います。というのは、文化は輸入できないんですよ。海外のスポーツ文化を日本に持ってくることはできない。でも、スポーツマネジメントというメソッド(手法)を学んで、持ってくることはできます。もちろん日本の文化があるので、そのまま当てはめることはできませんけどね。ただ、日本は海外のいいものを持ち込んで、日本流にして世界一にする、ということは上手じゃないですか。自動車でも家電でもそうですよね。外からもっといろいろな考え方が入ってきて、日本流にアレンジされていけば、日本のスポーツ産業はもっとよくなると思っているんです。

──海外のやり方をただ持ってくるだけではダメで、日本に合った形で伸ばしていく必要があると。まさに中村さんが適役というか、今後求められてくる分野のような気もします。

中村武彦 そうですね。逆に一番ダメなのは、「海外ではこうやっているのに、日本はやっていないからダメだ。日本もそうすべきだ」という考え方です。これは絶対にうまくいかない。

──あちこちでよく聞きますけどね。

中村武彦 「だから日本はダメだ」というのではなく、「今の状態でここが欠けている、でもここまでできている、ということは伸びしろがこれくらいある」と考えるべきなんです。たとえばチケット販売で言えば、MLSのクラブにはチケットを売る専門の人間が30~40人もいる。だから日本もそうすべきだ、と言うのは簡単です。でも考え方を変えると、それだけ人数をかけて、MLSの昨年の平均観客動員数は約22,000人なんですね。その一方でJ1リーグはチケット担当が1人か2人なのに、平均観客動員数は約18,000人。ということは4,000の差しかないんだから、Jリーグでチケットの部署を30人にする日が来たら、ものすごいことになりますよね。そういう考え方にしたほうがいいと思います。

中村武彦

──中村さんは昔からそういう考え方を持っていたんですか?

中村武彦 いや、「日本はこれじゃダメだ」と思うときもありました。でも、「ダメだ」と言われながら仕事したい人はいないですから(笑)。発想を変えて、伸びしろがたくさんある、そこに自分たちも参入できる、と思ったほうがいいですよね。だからブルー・ユナイテッドでは日本に使えそうなものを持ってくる、あるいはもっと日本のスポーツが海外に出ていく、というビジョンを持っています。

──非常にいいお話を聞けて楽しいんですが、そろそろ締めたいと思います。若い頃に光ファイバーを売る仕事ではなく、スポーツビジネスの世界を選び、アメリカを拠点にさまざまなお仕事をされてきた。改めて、スポーツビジネスのおもしろさはどこにあると思いますか?

中村武彦 ひとつは、スポーツって世界のどこに行っても通じるので、活動の場が広がって楽しいな、ということです。世界のあちこちに友達ができますしね。もうひとつは、自分の好きなことなので、仕事をしてる感覚にならないこと。

──確かに、それはいいですね(笑)。

中村武彦 選手をチェックしなくちゃいけないとき、家で試合を見ていると、家族に言われるんです。「それは仕事? ちょっとお皿を洗ってほしいんだけど」って。「いや、これ仕事だから」って答えるんですけど(笑)。そういう仕事ができていることには感謝していますね。

──スポーツビジネスの業界を目指す若い学生や社会人に、たぶん12月のセミナーにも来ると思うんですけど、彼らにどんなアドバイスを送りたいですか?

中村武彦 スポーツビジネスと言っても、中身は普通のビジネスと変わらないです。名刺交換をしたり、お金の出し入れを管理したり、お客さんに喜んでもらうサービスを提供したり。普通に、ビジネスパーソンとして求められることをできるのが大前提ですよね。そのうえでスポーツビジネスの特異性があるので、そこを勉強すればいいだけだと思います。基本的な、一人のビジネスパーソンとして必要なものを身につけているなら、次にスポーツ業界に行こうと思えば普通に行けると思いますね。

──どういうタイプの人が向いていると思いますか?

中村武彦 スポーツ自体が人を喜ばせるものだから、「人を喜ばせるのが楽しい」という人がいいんじゃないですかね。意地悪な人はちょっと向いてないと思います(笑)。

──つまり中村さん自身が、人を喜ばせたいタイプ?

中村武彦 いや、どうでしょう? 人を喜ばせるより、まだ自分自身が楽しんでいるフェイズかもしれないですね(笑)。

インタビュー前編はこちら

インタビュー中編はこちら

▼FROMONE SPORTS ACADEMYでは、中村さんの特別セミナーを実施します▼


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