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「デジタル元年」のその先へ…アントラーズ担当者が語るスマートスタジアム事業/第2回

2017.10.13

鹿島アントラーズの本拠地である県立カシマサッカースタジアムは、今年7月にスマートスタジアム化がスタートした。スタジアム内に高密度Wi-Fi網が整備され、多くのファン・サポーターがデジタルコンテンツを楽しめるようになった。また、試合当日に魅力ある環境を提供するだけでなく、イベントを開催したり、フィットネススタジオやクリニックを併設したりと、試合日以外でも多くの人々が集まり、賑わいを見せる場所となっている。

今回10月にサッカーキング・アカデミーで【鹿島アントラーズ×ソニー 特別セミナー】を開催することとなった。テーマは「観衆を魅了するスタジアムソリューションとは」。そこで登壇するアントラーズの事業部マーケティンググループ所属の土倉幸司氏にインタビューを行った。土倉氏はスマートスタジアム事業や様々なプロモーションの企画、実施を行っている。アントラーズは、カシマサッカースタジアムに整備されたデジタルインフラをどのように活用し、ファン・サポーターに何を提供しようとしているのだろうか。

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――Jリーグは2017年を「デジタル元年」と定めていますが、どのような戦略を練っているのでしょうか。
土倉幸司 Jリーグ全体の課題としては、固定ファンに固執していてはJリーグの発展はない、というのが根本的な問題意識で、やはり新しいファン、ライト層を取り込んでいけるかが重要だと考えています。大きく変化しているデジタルメディアをうまく活用して、いかに新規のファンを増やしていくのか。CRM(顧客関係管理)やソーシャルメディアなど打ち手としてはいろいろありますが、根本にある問題意識はそういったところですね。

――Jリーグは今シーズンからイギリスのパフォーム社と放映権契約を結びました。この連携により、Jリーグにどのような変化が見られたのでしょうか。
土倉幸司 従来のテレビ中継から配信に変わったのと同時に大きかったのが、Jリーグが映像著作権を保有することとなり、試合映像を一定のルールの中でクラブのソーシャル、あるいは公式メディアで使用できることになったことです。これが公式メディアのプロモーションやSNSの活用を大きく変えてくれました。試合に来られない方も大勢いますし、試合日以外にクラブとファン・サポーターがどうやってデジタルでつながっていくかが課題だったのですが、映像が橋渡し役になってくれました。現在かなり密なエンゲージメントを獲得できるようになってきていますし、昨年以上にSNSの質が上がっていると思います。

――県立カシマサッカースタジアムは今年7月にスマートスタジアム化されました。来場者の反響はいかがでしょうか。
土倉幸司 ネットワークに快適につなげるのは特徴の一つですが、それで終わるわけではなく、いかにサービスを積み上げていくかが課題だと思っています。先日は来場者限定でVR映像の視聴が可能なキットを配布してVR映像を見ていただく企画を実施し、ご好評いただきました。今までVRを来場者全員に幅広くご体験いただく機会はなかったので、新しいファンの注目を引き付け、来場の際に試合以外の面で新しい楽しみ方を提供できたことは評価できると思います。そうやって、試合ごとに様々な企画を考え、トライアル的なものも含めながらサービスを導入してお客様の反応を見ているところです。

――やれること、やれる可能性のあることが一気に広がったのですね。
土倉幸司 いろいろ広がりましたね。例えばクーポン一つを配るにしても、今までは紙に印刷して手で配るというオペレーションをやっていたのですが、今はデジタルを使って2,000人、3,000人の来場者に対して一気に配布する手段ができました。今までもメールを送ることはできましたが、スタジアムに実際に来ている人に限定した形のリアルタイムなオペレーションでは必ずしもありませんでした。今はスタジアムに来ている人たちをWi-Fiで特定することができ、そのユーザーに対してピンポイントでクーポンを打ったり、告知を打ったりすることができます。

――改めて、カシマサッカースタジアムの特徴を教えていただけますか?
土倉幸司 複合機能というのが大きな特徴になると思います。フットボール専用スタジアムですので、当然、競技場の役割がありますけど、それ以外にもたくさんのファクションがあり、ヘルスケアやイベント、テクノロジーなどいくつかの特徴があります。ヘルスケアでは病院やフィットネススタジオが併設されていて、試合日以外でもスタジアムがにぎわい、サッカー以外のバリューも提供できるのが大きな特徴ですね。イベントとしては現在、9月27日から11月30日までの2カ月間限定でスタジアムの一区間を使ったハイドアンドシークというお化け屋敷を開設しています。最先端のテクノロジーも大きな特徴で、スマートスタジアム化される前から、中継スタジオや大型映像装置、セキュリティカメラなど、スタジアムを支えるインフラ、スタジアムの感動をうまく伝えるためのテクノロジーがありました。そこにスマートスタジアム化でWi-Fiやウェブを通じたサービスが加わることで、テクノロジーを兼ね備えたスタジアムとしても進化しています。

――テクノロジーの部分では、ソニーの技術が深く関わっていますね。
土倉幸司 そうですね。2013年にカシマサッカースタジアム内に中継スタジオを設置し、Jクラブとしては唯一、自分たちで中継制作を担っています。それもソニーとのコラボレーションがあって実現していることですし、我々だけではできないことを、ソニーとのパートナーシップの中で実現できています。

――土倉さんは元々ソニーで勤めていらっしゃいましたが、客観的に見てソニーの技術力はいかがですか?
土倉幸司 持っている技術のバリエーション、プロダクトのラインナップがたくさんありますし、「アントラーズでこんなことをやりたい」という潜在的なニーズがあったとしたら、それに対して「ソニーとしてはこういうことがオファーできますよ」というアドバイスをいただけるのが大きいですね。ただ商品を持っていて届けていただくだけの関係ではなく、アントラーズが目指していることを実現するために、技術シーズも含めていろいろな持ちネタを組み合わせてくださいます。そこは高い技術力とグループの総合力を持ったソニーならではのバリューだと思います。

――セミナー当日はどのようなお話が聞けるのでしょうか。

土倉幸司 スマートスタジアムやデジタル戦略の話が中心になりますが、その中でアントラーズが目指しているものがどういうものかを、今、実現していることだけではなく、我々の頭の中にある構想も含めてまずはお伝えしたいと思っています。その第一歩として今年、お客様へスマートスタジアムを活用し何を行ってきたのか、その実現に向けてパートナー企業とどうコラボレーションしてソリューションを開発してきたのかを、具体的な事例も交えながらお伝えします。スマートスタジアムや中継サービスがどのように成り立っているのか、パートナーさんとどういったコラボレーションしながらどういうバリューを届けているのかは、外からは見えにくい側面なので、それもお伝えしたいと思っています。

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スマートスタジアム化によって今後は様々なコンテンツが作られ、スタジアムの楽しみ方は大きく変わるはずだ。カシマサッカースタジアムが今後、どのような展開を見せていくのか、ソニーとのコラボレーションに注目していきたい。

インタビュー・文/池田敏明
写真/兼子愼一郎

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株式会社鹿島アントラーズFC
事業部・マーケティンググループ
土倉 幸司
2003年ソニー株式会社入社。コンスーマーエレクトロニクス事業において組織人事、商品企画、アジアパシフィック・欧州各拠点でのプロダクトマーケティングを担当。2014年よりデロイトトーマツコンサルティング合同会社において、経営戦略・M&A、新規事業戦略を中心とする経営コンサルティングに携わる。2016年Jリーグ(公益社団法人日本プロサッカーリーグ)に入社。法人改革特命担当として、Jリーグの組織・ガバナンス改革、成長戦略立案等を推進。2017年より鹿島アントラーズの事業戦略・マーケティングを担当し、スマートスタジアム化のプロジェクトをリードしている。

By サッカーキング編集部

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