練習の2時間前にグラウンドに入り、入念に準備するのが飯倉のルーティーンワーク [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
早起きは三文の徳、である。
横浜F・マリノスの練習は、主に午前10時スタートだ。その約2時間前の午前8時過ぎ、一番乗りでグラウンドにやってくる男がいる。飯倉大樹、30歳。自身のメンテナンスに人一倍時間を割くことで有名な大ベテラン中澤佑二よりも早い出勤だ。
最初は、室内調整場で骨盤の歪みやズレを矯正していく。「寝ている固まった体を元の状態に戻す」(飯倉)意味合いがある。その後、体幹やストレッチなど軽い負荷のトレーニングを約1時間じっくりと行う。
気付くと時計の針は9時を過ぎている。その後、痛みを抱えている患部にしっかりとテーピングを巻き、少しの休憩を挟んで10時からの全体練習開始に向けて心身の状態を整える。持久系よりも瞬発系の動きを求められるGK練習だからこそ、準備運動が大きな意味を持つ。これを毎日欠かさず行う。
本人は「簡単に言うとウォーミングアップ。ケガを予防する意味合いがあるし、トレーニングの効率化を図る狙いもある」と涼しい顔で言う。ルーティーンとなっている作業は、誰にでも真似できることではない。「小さな努力の積み重ねが勝利につながるし、運を呼ぶ」。ゴールマウスを任される守護神は、味方につけられるものをすべて利用する。不確定要素の“運”もその一つだ。
誤解を恐れず言えば、かつての飯倉はセンスや才能にかまけて、全力でサッカーと向き合っていなかったのかもしれない。フィールドプレーヤー顔負けの柔らかいボールタッチと、優れた身体能力や判断能力を生かしたGKスキル。普通に過ごしていてもリーグトップクラスの実力を有していた。
考えを一変させたのは前出の中澤と、そして昨年までチームに在籍していた中村俊輔(現ジュビロ磐田)の存在だ。「ボンバー(中澤)は技術やセンスよりも努力でここまで地位を築いてきた人。シュンさん(中村)は本当のサッカー小僧で、四六時中サッカーのことを考えていた。大先輩たちが努力する姿を見て、自分もやらなければという思いになった」。
現在、飯倉は中澤、栗原勇蔵、中町公祐に次ぐチーム4番目の年長選手で、昨オフに榎本哲也が浦和レッズに移籍したことでGK陣の長となった。昨季から引き続き副主将も務め、名実ともにチームを引っ張っていく立場である。
偉大な先輩の背中を見て学び、今度は自身の背中で後輩に伝えていく。
「チームが負けているからこそやるべきことがあるし、勝っていてもやり続けなければいけない。それがサッカー選手」
終わりのないサッカー道で少しでも高みを目指すために、飯倉は今日も明日も明後日も早起きする。
文=藤井雅彦
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By 藤井雅彦