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日本のスポーツビジネスの新たな可能性がすぐそこに有る…元NFL JAPAN代表 町田氏がその可能性を見極める/後編

2016.06.20

インタビュー・文/池田敏明
写真/小林浩一

 スポーツ先進国であるアメリカで、最も人気のある競技として知られるアメリカンフットボール。高度な情報分析と複雑な戦術を駆使しながら、高い身体能力を備えた屈強な男たちが戦うアメフトの最高峰NFL。目の肥えたスポーツファンを虜にし、その優勝決定戦であるスーパーボウルは国民の半分がテレビ視聴すると言われるほど注目度が高く、それゆえに放映権料やスポンサー契約料などで莫大な金が動く。

 そんなNFLが、1990年代後半に日本への進出を目指し、日本国内にエージェントを設立したのを、皆さんはご存知だろうか。そのプロジェクトにおいて中心的な役割を担い、日本で設立されたNFL JAPAN Link 代表、そしてNFL JAPAN 株式会社 社長を長年に渡って務めたのが、町田光氏だ。

 当時の町田氏はプレーヤーとしてアメフトはおろか、スポーツ全般でほぼ未経験。スポーツビジネスに関しても全くの門外漢だった。しかしアメフトの日本普及についてしたためたレポートが好評を得て責任者に抜擢され、日本での市場開拓に向けて奔走した。

 そして、その手腕が評価され、現在はJリーグマーケティング委員としても活動している。草創期こそ大ブームを巻き起こしたJリーグだが、近年は観客動員が落ち込み、地上波での放送もほぼなくなるなど、苦闘の中にある。その理由はどこにあるのか。そして、今後どのような方向を目指せばいいのか。日本のスポーツビジネス界の「トリックスター」を自称する町田氏が、その極意を楽しく語る。

自分に見えない世界がある…それに気づいてほしい


――先ほどお話しになった日本のプロ野球のファン・マネジメントについて少しお話を聞かせてください。
町田 光 最近の端的な成功例は、横浜DeNAベイスターズですね。DeNAがオーナーになってから、観客動員数がそれ以前と比較して170%に伸びています。そのお客さんのほとんどは、実は野球観戦をしに行っているわけではないんですよ。もちろん大洋ホエールズの時代から、野球を見に来る一定数のファンはいました。一方で、本拠地の横浜スタジアムは都市のど真ん中という好立地にあるので、ビジネスパーソンが「仕事終わったらどうする? 居酒屋行く? それともDeNA見に行く?」と考えたり、ファミリー層が休日に「横浜に行って買い物する? そのついでにみんなでDeNA見に行ってみる?」と相談したりと、いろいろな人々の欲望や人生の都合を集約できるんですよ。そしてそれらを受け止め、ちゃんと「顧客」とする様々な仕掛けや施策を行っています。じゃあDeNAが強いかといったら、ずっと下位に低迷しているし、低迷しているから動員数が下がっているかといったら、下がってはいない。つまり親会社のDeNAは、ただの野球の試合を、もっと多くの人がいろいろな形で楽しめるイベント――僕は「祝祭」と呼んでいるんですが――として設計し直したんです。オールドファンにとっては受け入れられない部分もあると思いますが、コア層もライト層も、両方とも「ファン」なんです。そして、ライト層のファンのほうがポテンシャルは高いんですよ。だって「全ての人が顧客になり得る」んですから。でも一つ言うと、DeNAはスポーツのもう一つの重要な価値である「・・・」(詳細は講義にてお話致します)を壊している面もあるんですよね。

――日本スポーツ界のファン・マネジメントが、海外に比べて遅れをとっているのはなぜでしょうか。
町田 光 日本のJクラブや伝統的なプロ野球チームは自分たち自身で稼ぐお金と、企業スポーツだった頃の親会社から「スポンサーシップ」という名目で入ってくる実質的な「支援金」の額がイコールだったり、むしろ後者のほうが大きかったりするので、従来のような固定のお客さんを相手にするだけのビジネスを疑わないんですよ。疑わないということは、自分たちのビジネスを変えない、だから伸びないんです。もちろんサッカー好きや野球好きの顧客を否定するわけではありません。その競技が大好きで、ルールや奥深さを知っていて、プレーを見に来ているファンはクラブにとってすごく重要ですが、実はそれだけでは選手の給料も払えない。それでも倒産しないのは結局企業スポーツの構造から脱皮しないからですし、できないからだと思います。海外の場合はそれがないので自立するしかない。できないと倒産です。なのでクラブは真剣にお客さんを増やし、市場からお金を集める努力をする。そのノウハウを日本も取り入れればもっと大きくなれると思います。

――「スポーツ界で今の日本の現状を変えたい」と思っているビジネスパーソンに向けて、アドバイスをお願い致します。
町田 光 僕はよく自分の学生に「本当にそのスポーツが好きだったら、その素晴らしさについて1万字の原稿を書いてください」と言います。みんな書けないですよ。それをビジネスにして日本を変えようと思っている人間が、1万字すらも書けないなんてどういうことだって思いますね(笑)。僕はアメフトをやったことないですけど、アメフトの魅力と価値は1万字書けますよ。基本情報で最初の2,000字が埋まります。それからスポーツっていうのは、必ずその競技を生んだ国や地域の歴史を反映していて、そこに魅力の源泉があるんですよ。それをちゃんと勉強していけば、たぶん4,000字埋まります。すると今度は、それが現代の日本の社会に対してどのような意味を持つのかを分析していくと、さらに3,000字ぐらい埋まります。あとは自分自身の思いで1,000字、だから1万字と言っているんです。サッカーが好きな人の場合、特定のクラブが好き、という人が多いと思います。それなら、そのクラブがホームタウンにおいてどのような価値を持っているのか、それはなぜか、ということを突き詰めていけば、1万字に到達すると思います。自分が住んでいる地域にはどんな課題や問題が潜んでいるのか、その歴史的、経済的、地勢的背景は何なのかって考えることもできない人が、サッカーに興味のない人に、あるいはスポンサーに、メディアに、自治体の人に、政治家にサッカーチームの価値を証明できるわけがないんです。「僕らはこの街を豊かにするのでスタジアム創ってください」って、日本を変えるどころか、貧乏な自治体に助けてくださいって言っているだけでしょう。
でも一方で僕にはないもの、つまりスポーツへの愛を持っていて、一方でスポーツマネジメントやスポーツのマーケティングを極めれば、その人は「鬼に金棒」になるでしょう。僕自身はスポーツの仕事をしているのに、スポーツにはそれほど興味ないなんて、そんな奴にスポーツ経営やって欲しくないっていうのもファンの素直な気持ちでしょう。そのスポーツを愛していて、愛しているからこそスポーツを客観的に見られる。その両方がセットになっている人間がほしいですね。

――サッカー界で、そのような視点を持っている方はいらっしゃいますか?
町田 光 川淵三郎さん(現・日本サッカー協会最高顧問)にはそれがありますね。川淵さんは元一流選手で東京五輪にも出場しているし、もちろんサッカーを愛している。一方で「サッカーを一度、突き放して見なければダメなんだ」ともおっしゃっています。川淵さんによると、メキシコ五輪で日本が銅メダルを獲得したのは、日本サッカーの成功例ではなく、大失敗例だったそうです。東京五輪に際し、日本は何人かの選手を海外に送って集中的な強化を図りました。その成果が東京五輪での8強であり、ほぼ同じメンバーで戦ったメキシコ五輪での銅メダルでした。でもその後、日本が再び五輪に出場するまでに28年も掛かりましたよね。だから実は、あの強化は失敗だったと。

――では、どのような強化策が理想的なのでしょうか。
町田 光 本当に強化させるためには、底辺の拡大、裾野を広げなければならないんだ、というのが川淵さんの意見でした。僕も同意見です。ここで言う「裾野」とは子供の遊びのような広く大きなレベルの裾野です。僕自身もNFLのファンを広げるために「フラッグフットボール」というアメフトに似た、それでいて誰でもプレーできる競技の普及活動をしてきて、小学校の学習指導要領に載るまでに成長させました。小さい頃にあるスポーツを体験した人は、大人になってそのスポーツの競技者にならなくても、見る人、関わる人になり得るんです。裾野とは「する、見る、関わる」すべてを広げるという事です。スポーツが発展していくためには、たくさんの人が体験することが大切なんです。日本のスポーツ関係者は、結局強い人をさらに強化して金メダルを取れればそのスポーツは大きく発展すると考えています。そうはならないから日本はオリンピックでメダルを取るけど、いつまで経ってもスポーツが文化にならず、ビジネスも小規模なのだと思います。

――最後に、今回のセミナーでは参加者がどのような収穫を得ることができるのかを教えてください。
町田 光 僕は今回、単発講座ではスポーツビジネスの超基本を話したいと思っています。それは、ファンを作ることがスポーツ経営だということ。ファンがいることによってスポンサーもつくし、メディアもつく。ではファンとは何かというと、さっき言ったようにコアなファンからにわかファンまで多様だという事。そういう極めて基本的な構造は、アメリカのスポーツマーケティングでは一番最初に教わることですが、たぶん皆さん驚くと思います。それをまず話して、今の日本のスポーツビジネスが何をしているのかという対極の話をすることで両国間の落差を紹介し、どこに日本のプロスポーツビジネスの問題があるのかという話をします。短期講座では、スポーツの商品価値とは何か、スポーツのブランドとは何か、広報とは何か、コミュニケーションとは何か、というスポーツビジネスの具体的内容を、実例を立てつつ話をしようと思っています。もちろん要望があれば、もっと詳しい話もします。僕はサービス精神旺盛なので(笑)。その中で、皆さんには自分には見えていない世界があるということに気づいてほしいですね。スポーツの中にいると、なかなか気づかないですから。気づくことができれば、あとは自分でどんどん勉強するのみです。

 日本のスポーツビジネスが抱える様々な問題について、事例を挙げながら分かりやすく丁寧に説明してくれた町田氏。饒舌な話しぶりは、間もなく還暦を迎える方とは思えぬほどのパワーとバイタリティーに溢れていた。エンターテインメントの本場、アメリカで大成功を収めているNFLに関わり、多くを学んだ町田氏にとって、日本のスポーツビジネスの現状はどこまでも歯がゆく、物足りなく映るのだろう。「これから発展する可能性は秘めている」という町田氏の言葉を、彼自身の手で実現へと導いてほしい。

ビジネスの原則に立ち返って日本のスポーツビジネスを変える…元NFL JAPAN代表 町田氏が語る/前編
新たなスポーツの顧客の登場…元NFL JAPAN代表 町田氏が見る日本のスポーツビジネスの可能性/中編

スポーツブランディングジャパン株式会社
シニア・ディレクター
町田光

大学卒業後、就職情報会社勤務を経て、1996年より16年間に渡り北米のプロアメリカンフットボール・リーグであるNFLの日本支社、「NFL JAPAN」の代表取締役を務める。
現在はNFL JAPAN リエゾンオフィスのシニア・アドバイザーの他、(公財)日本フラッグフットボール協会の専務理事、早稲田大学非常勤講師、早稲田大学スポーツナレッジ研究所招聘研究員、Jリーグマーケティング委員、笹川スポーツ財団企業スポーツ研究会座長の座長を務めるなど、経営学だけでなく、社会学・哲学的観点からスポーツと社会の関わりを研究している。

※著書・共著
・Jリーグの挑戦とNFLの軌跡 スポーツ文化の創造とブランド・マネジメント  ベースボールマガジン社
・企業スポーツの現状と展望  笹川スポーツ財団(編)
・スポーツリテラシー  早稲田大学スポーツナレッジ研究所(編)
・ファン・マネジメント  早稲田大学スポーツナレッジ研究所(編)

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By サッカーキング編集部

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