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『ザック革命』の著者・小川光生「ザッケローニさんの人物像を浮き彫りにしたい」
2011年11月02日 17:49

――まずは、本書『ザック革命』の執筆に至った経緯を教えて下さい。
小川 イタリア語を勉強するために留学していた学生時代、ザッケローニさんが幼少期を過ごしたチェゼナーティコという町に暮らしたことがありました。ただ、今からもう15年以上も前のことですし、住んだのはほんの数カ月間だけですから、何かきっかけがなければ思い出すことさえありませんでした。そんな私にチェゼナーティコの町を思い出させてくれたのが、ザッケローニさんの日本代表監督就任というニュースだったのです。
――現在イタリアに活動の拠点を置く小川さんにとっても、チェゼナーティコの町は“原点”だったということですね。
小川 そうです。ですからもう一度、自分の原点でもあるあの町に戻って、ザッケローニさんが歩んできた足跡を自分なりにたどってみたいと考えたました。その手法としては、あくまで日本人である私の主観ではなく、イタリアの住む人々が彼のことをどのように見ているのかを探ることにこだわりました。
――確かに、本書は非常に多くの“関係者”へのインタビューを柱に構成されています。
小川 はい。その道のりを順番にたどりながら当時の関係者に話を聞くことで、当時の彼が何を考え、その考えがどのように変化していったのか、そして、彼がどのようにしてイタリアサッカー界のピラミッドを這い上がっていったのかを知りたかったのです。もちろん、そうした作業によってザッケローニさんの人物像を浮き彫りにしたいという狙いもありました。
――作中では、当時その町に暮らしていたサポーターや現在は不動産業を営むクラブのGM、当時のザッケローニを追いかけ続けたスポーツ紙の番記者、さらにはかつての教え子など、非常にバラエティーに富んだ“ザッケローニ関係者”が登場します。
小川 そうですね。特に、地方の町にザッケローニさんの下積み時代の話を聞きに行くと、とにかくもう、大歓迎されるんですよ。イタリア人はおしゃべりとサッカーが大好きですから、どの人も「オレが教えてやる」という具合に快く迎え入れてくれるんです(笑)。彼らの話を聞いて強く感じたことは、ザッケローニという人が非常に多くの人に愛されていることですね。誰に聞いても「素晴らしい人柄の持ち主」と答えてくれますし、ザッケローニさんの話を口にする人はみな、何か特別な事情がない限りすごく楽しそうでした。それは、取材を続けることでわかった彼の側面の一つだと思います。
――「何か特別な事情がない限り」とは?
小川 それはサッカーと関係しています。例えば、ザッケローニさんがわずか1シーズンで解任されたラツィオのサポーターは、彼に対して今でも厳しい意見を口にしています。しかも、クラブの本拠地ローマに住む人々は、もともと非常にサッカー熱の高い人ばかりですから、今でもそのトーンが衰えることはありません。そうしたことも、イタリアらしさを象徴するエピソードの一つだと思います。
――取材を通じて、特に印象に残った人物はいますか?
小川 キャリアのスタート地点を描いた第1章に登場する、チェゼナーティコの元GMブルーノ・ロッシさんですね。彼はザッケローニさんの資質を最初に見いだした人なのですが、非常に物静かで貫禄があり、独特の緊張感を持った人でした。彼との対話から得た“ヒント”は、ザッケローニさんの人物像を紐解く上で、非常に重要なポイントになっていると思います。
本場イタリアでサッカーの仕事を
小川 学生時代から外国語に興味があり、最初はフランス語を学ぼうと考えていました。ただ、作家である父はフランス語、兄は英語が達者で、母方の祖父は中国 語の通訳を務めていました。ですからふと、「誰にも文句を言われないためにも、イタリア語がいいのでは?」と考えたのです(笑)。そこで、大学ではイタリ ア史を専攻し、1999年にシエナ大学に留学しました。実質的には、それがイタリアでの生活のスタート地点となりました。
――現在はサッカーのお仕事を中心に活動されていますが、そのきっかけは?
小川 きっかけは、2000年、大学時代にお世話になった先生に、現在『ワールドサッカーキング』や『CALCIO2002』の編集人を務める岩本義弘さん を紹介していただいたことです。私は静岡県藤枝市の生まれですので、もの心ついた頃からサッカーに囲まれた生活を送ってきました。だからいつか、“本場” であるイタリアでサッカーの仕事をしてみたいと考えていたのです。それからイタリアサッカーの専門誌である『CALCIO2002』に記事を投稿する仕事 が始まり、セリエAはもちろん、セリエB、セリエCといった下部リーグまで幅広く追い掛ける日々がスタートしました。
――現在はどのような活動をされていますか?
小川 イタリアのサッカー界を追いかけ、その情報を日本に届けるといった姿勢は変わりません。最近ではインテルで活躍する長友佑都選手への取材を行ったり、さまざまな媒体に記事を寄稿させていただいたりしています。
歴史の深み、歴史の重さを伝えたい
小川 ザッケローニさんは、ある意味、サッカー界のピラミッドの底辺から這い上がってきた人です。だから、なかなか成功せずに苦しんでいる選手や、うまくい かずに悩んでいる人の気持ちがわかる。何とか無事に書き終えて、彼のそうした人柄を感じ取ることができました。また、数奇な運命に振り回されてきたという 事実も非常に興味深いですね。そんな彼が日本という縁もゆかりもない土地にたどり着いたのには、何か特別な理由がある気がしてなりません。ザッケローニさ んは、運命に翻弄されながらも力強く歩み続けてきた人。そういった部分を読者の皆さんにも感じ取っていただけるとうれしいですね。
――今後はどのような活動をされる予定ですか?
小川 ヨーロッパならどの国もそうですが、イタリアサッカーはその頂点に位置する「セリエA」だけで構成されているわけではありません。セミプロのクラブも あれば、アマチュアのクラブもある。でも、どんなチームでも真剣にサッカーと向き合い、それぞれに歴史を築いています。そうした歴史の深み、歴史の重さと いったものを日本の皆さんに伝えたい。何十年も昔の栄光を語るおじいさんの姿って、なぜかすごく素敵に見えるんですよね(笑)。
――では最後に、メッセージをお願いします。
小川 まずはこの場を借りて、取材に快く応じてくれた“ザッケローニ関係者”の方々にお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。読者の皆さん には、日本代表を率いるアルベルト・ザッケローニという監督が、イタリアでどのように見られているのか、そしてどのような人物像を持った監督なのかを本書 を読みながら考察いただければ幸いです。この本が、サッカーファンの話の種になればうれしいですね。
小川光生 1970 年静岡県藤枝市生まれ。地元の藤枝東高校を卒業後、慶應義塾大学文学部西洋史学科でイタリア史(ローマ教会史)を専攻し、同大学院を中退。1999年秋に シエナ大学に留学し、翌2000年秋にはヴェネツィアに移住。イタリアサッカー専門誌『CALCIO2002』の翻訳、記事執筆などジャーナリストとして の活動を始める。主な著書に『ヴェネツィア ラグーナの風』(河出書房新社)、『サッカーとイタリア人』(光文社新書)がある。現在はセリエA関連の翻訳・取材執筆を中心に活動している。
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