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ネイマールの代理人が明かす“ブラジルの至宝”の未来

2013.02.22

ワールドサッカーキング 0307号 掲載]

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文=パウロ・パッソス

 

現在発売中のワールドサッカーキング最新号では、今サッカー界で最も注目を集める選手の一人であるネイマールの代理人、ワグネル・リベイロに密着取材したリポートを掲載している。輝かしい“経歴”を持ち、「最高のタレント」を抱える敏腕代理人が、“ブラジルの至宝”の行く末を暗示する。

 

ネイマールを抱える敏腕代理人の一日

 

 8時34分。彼の一日は朝食と朝の祈りから始まる。

 

 サンパウロの高級住宅街にあるマンションの一室。彼の仕事は既に始まっていた。アイロンの利いた白いシャツにスタイリッシュな濃いネイビーのネクタイと同色のサスペンダー。過去10年で数々のブラジル人選手たちの移籍を成功させてきた威厳と風格が、全身からにじみ出ている。カカーをミランへ、ロビーニョをレアル・マドリーへ、最近ではルーカスをパリ・サンジェルマンへと導いた実績を見れば、この男がいかにワールドワイドなコネクションを持っているのかがよく分かる。そして現在、ワグネル・リべイロはその“華麗なる履歴書”の中でも、とりわけ大きなプロジェクトになることが確実な“ブラジルの至宝”ネイマールを顧客に抱えている。

 

 朝食を取りながら、彼はこれまでに経験した移籍交渉の裏話を教えてくれた。ルーカスが昨夏、チェルシーと合意寸前だったこと。しかし、結局はパリSGがより高額な年俸を提示したことで決着がついたこと。

 

「ルーカスの獲得に失敗したチェルシーは、代わりにヴィクター・モーゼスを獲得したんだ」

 

 一つの逸話を聞いただけで、彼の周辺で日々いかに多額の金が動いているかが伝わってくる。

 

ルーカス移籍時のレオナルドとのメール

 

 11時。彼の本格的な仕事がサンパウロのセレブが集う地区、モエマのオフィスで始まる。整頓された4つの部屋には、それぞれの壁に選手たちの写真が掛けられている。待合室の壁に飾られているのは、長年にわたりリベイロが担当したロビーニョの写真だ。ソファーの隣には、2006年のワールドカップ参加全メンバーのサインが入ったボールと、カカーのスパイクが置いてある。リベイロがオフィスに入ると、彼の秘書が一枚の紙を手渡した。どうやらそれは、彼の顧客からの請求費用がまとめられたスプレッドシートのようだ。そこには、彼の家賃や食費も含まれている。

 

「私は20人の選手と仕事をしているが、別のエージェンシーに所属している選手ももう少しいるんだ。彼らのことはジュニオールが担当している」

 

 ジュニオールとはリベイロのいとこで、リベイロの会社のマーケティングディレクターを務める人物だ。彼はリベイロの会社とは別に、設立7年目となる会社を持ち、5人の社員を抱えている。

 

 リベイロの懐に入るのは、あくまで「移籍成立時の手数料のみ」だという。通常、ブラジルの移籍市場では、移籍金のうち1パーセントから10パーセントが手数料として代理人に支払われている。しかし、恐らく彼は、実際に手にした額を正直に明かしてくれてはいないだろう。

 

「これまでも、ブラジルのフットボールビジネスの取引総額、つまり正確な数字は明かされてこなかったんだ。実態は誰にもつかめないよ」

 

 彼がそう首をかしげたところで電話が鳴り、この日の一つ目の仕事が幕を開けた。そう、膨大な仕事のうちの一つ目だ。

 

 カタール王族がオーナーを務めるパリSGに移籍するルーカスは、ドーハで行われる入団会見に臨むため、カタールのビザを取得する必要があった。

 

「とにかく5人分のビザが必要なんだ。私の分、妻の分、そしてルーカスと彼のご両親の分だ」

 

 秘書にそう伝えると、彼は急いで電話を切った。

 

「カタール領事館のスタッフはルーカスが奥さんを連れてくると思い込んでいたらしい。彼はまだ独身だというのにね。もちろん、ガールフレンドの一人や二人はいるだろうが(笑)」

 

 ビザの取得は難航しているようだった。カタール領事館がビザを発行するまでには、通常2週間が必要なのだという。それでは明らかに間に合わない。ただし、それはあくまで“通常”の場合に限ってのことだ。

 

「心配はいらない。レオナルドが既に解決してくれた。彼にパスポートのコピーだけメールしておいてくれ」

 

 気がつくと、彼はもう一度秘書に電話をしていた。どうやら一瞬のうちに、事態は解決してしまったようだ。

 

「レオナルドからのメッセージを見てごらん」

 

 彼が見せてくれた画面には、「問題ない。カタールに新たな法律を作らせればいいのさ」と記されていた。このやりとりは『WhatsApp』(ワザップ)というSMSアプリで行われていた。いつでもどこでも、すぐに連絡を取れるように、レオナルドだけでなく、ネイマール本人や彼の父親、そして多数のクライアントや世界各国のジャーナリストとつながっているのだと彼は語る。リベイロは2台の携帯電話を使いこなしているが、どちらか一方は常に鳴っている状態だ。片方で電話をし、もう片方でメッセージを送る。

 

「せっかくオフィスまで取材に来てもらっているのに申し訳ないね。でも、これは少しばかり緊急の案件なんだ」

 

 取材中、何度このセリフを聞いたか分からない。

 

ネイマールの父親とSMSで食事を約束

 

 12時5分。ビザ問題が解決したかと思えば、早速次の問題が噴出した。ヴァスコ・ダ・ガマのニウトンが、給与の未払い問題に不満を抱き、退団を希望しているのだという。

 

「どうやら3カ月間も給与を受け取っていないようだ。それに、労働者保護のために積み立てられるFGTS(雇用契約期間の給与積立金)に関しては、更に長い期間にわたって支払われていないらしい。さすがに『もう我慢の限界だ』と言っていたよ。まあ、彼には3クラブからオファーが届いているしね」

 

 そう説明すると、リベイロはこの手の問題に詳しいマルコス・モッタ弁護士に電話を掛けた。秘書によるとモッタ弁護士はミーティング中だったようだが、数分後に折り返しの電話が鳴った。モッタ弁護士によれば、ヴァスコ側がニウトンの退団希望を知り、FGTSのみ急きょ支払いを済ませたのだという。クラブの必死の対応によって、ニウトンは退団しにくくなってしまった。

 

「しかし、依然として3カ月分の給与は支払われていないのでは?」

 

 このリベイロの指摘に対し、モッタ弁護士は「それは分かっています。しかし、その問題を解決するには長い期間を要します」とだけ答えた。

 

 弁護士からの電話が切れるや否や、今度はネイマールの父親からSMSが届いた。息子ネイマールとのディズニーワールド旅行を終え、サンパウロに戻ってきたばかりだという。「いくつか話しておきたいことがあるから、今日会いましょう」と返信したところで、ジュニオールが奥の部屋から大声で叫ぶ。

 

「ルーカス家でのランチの約束もお忘れなく!」

 

「やれやれ、すべてがうまくいくわけじゃなさそうだね」と、リベイロは肩をすくめた。

 

 再び彼の電話が鳴る。ヴァスコからの退団を望んでいるニウトンからだ。

 

「退団したい理由は給与のことだけじゃない。トレーニング環境があまりにひどいんだよ。芝のコンディションも悪いし、設備が全く充実していない」

 

 リベイロは約5分間、ニウトンの不満をさえぎることなく聞いていた。しかし、次から次へと飛び出す愚痴についに我慢がならなくなったようで、「ニウトン、君は疲れているんだね。少し頭を空にして休みなさい。絶対に私が解決するから大丈夫だ」となだめ、電話を切った。

 

サントスファンからの痛烈なブーイング

 

 12時50分。ニウトンとの電話を終えたリベイロは、カタールビザの取得までの流れを再度、秘書に伝え、「レオナルドにパスポートのコピーを送る。忘れずにね」と念を押すと、再び自室に戻った。次は、前日に行われた試合結果とその反響をチェックする時間だ。取材日前日(昨年12月12日)は、ルーカスにとってサンパウロでのラストゲームとなった、コパ・スダメリカーナ決勝戦のセカンドレグが行われていた。2-0で勝利を収めたサンパウロは、優勝パーティーを開催。テレビのニュース番組では、その光景が映し出されていた。画面には、全身アディダスのウエアを着用して会場に現れたルーカスが映っている。

 

「よく似合っているだろう? ルーカスはアディダスと契約を結んだんだ。しかし、常にアディダスしか着用してはいけないというルールは、彼にとってキツイことかもしれないね(笑)」

 

 当のリベイロは、試合とパーティーに足を運んだのだろうか?

 

「実はどちらも行っていないんだ。サンパウロは渋滞がひどいだろう? だから諦めて、試合は友人とスポーツバーで観戦した」

 

 サンパウロは世界で8番目に人口の多い都市。700万台もの車が道路を塞ぐ光景が日常茶飯事なのだという。カカーとロビーニョの移籍を成功させたことで、リベイロの名前はブラジルサッカー界でも一躍、有名になった。しかし、彼がファンの前に姿を現すことは極めて少ない。クライアントには称賛を受けるが、監督、そして熱狂的なファンからは痛烈な批判を浴びてきたからだ。

 

「時々、モルンビー(サンパウロのホームスタジアム)には足を運ぶけど、他のスタジアムには行かないようにしている。決まってファンからブーイングを浴びせられるからね(苦笑)。昔、コパ・スダメリカーナのコリンチャンスのホームゲーム、対サントス戦を見に行ったことがある。試合はサントスが敗れた。私は関係者席で観戦していたのだが、ロッカールームに行くためにはサントスサポーターの前を通らなければならなかった。私はネイマールの父親と、(ルイス・アルバロ・デ・オリベイラ)リベイロ会長とともに移動した。この中で一人だけサポーターからブーイングを浴びた人物がいる。誰だと思う? もちろん、私だよ(笑)」

 

「試合に敗れたことでフラストレーションがたまっていたこともあってか、その騒ぎはすさまじいものだった。ネイマールの父親が落ち着くようにとなだめてくれたほどだ。私に殴り掛かってくる者もいた。サポーターは自分の愛するクラブから、私がネイマールを引き抜こうとしていると思っていたんだ。『もし自分の子供がプロ選手だったら、お前には絶対に預けたくない』。私のことを“金もうけのことしか頭にない人物”だと考えているんだよ。『くそったれ』とか『盗っ人』だとか、罵声を浴び続けた」

 

 実際、リベイロには“ワグネル・ディネイロ”(ブラジル語で「金」)というあだ名が付けられている。

 

「全く気にしていないけどね。私にとって大事なのは、クライアントである選手たちとの結びつきだ。どのクラブにとっても、選手を売却するのは辛い決断だが、クラブ運営も一つのビジネス。お金のために、選手を放出しなければならないこともある」

 

 リベイロにとって初めての大仕事は、サンパウロからブンデスリーガのレヴァークーゼンに移籍したフランサだった。1996年、田舎の小さなクラブ、キンゼ・デ・ジャウーに所属する無名の若者を、10倍の値段でサンパウロに売ってみせたリベイロは、その6年後にこのストライカーをドイツに送り込んでいる。そして、リベイロの名前を一躍広めたのがカカーの移籍だ。移籍金を釣り上げようとしたサンパウロのフロントとの激しい抗争を経て、リベイロは850万ユーロ(約10億2000万円)の移籍金でカカーのミラン移籍を成立させた。移籍成立から程なく、ミランのシルヴィオ・ベルルスコーニ会長(現名誉会長)は「信じられないくらい安い買い物だった」とカカーの獲得を振り返り、カカーの父親、ジョアン・ボスコ・ライテ氏(現在はカカーの代理人を務める)は直ちにリベイロを解雇した。

 

「カカーの父親から電話が掛かってきて、『契約は打ち切る』と伝えられた。当時、カカーの才能に多くのビッグクラブが気づき始めていて、彼はワールドクラスの選手へとステップアップするところだった。解雇通達はショックだったが、カカー本人とはいまだに友好な関係を保っているし、電話でもよく話をする」

 

 ロビーニョもかつてはリベイロのクライアントだったが、彼がR・マドリーからマンチェスター・シティーに移籍した09年に契約は解消された。カカーのケースと同じく、リベイロはロビーニョともいまだに友人関係が続いていると言い、契約解消に至った理由はあくまで個人的な問題――ロビーニョ夫人とリベイロの元夫人の仲が険悪だったこと――にあると明かした。彼がブラジルからR・マドリーへ渡る際は、その移籍が失敗に終わるのではないかと、正直不安だったという。

 

「サントスの会長はもちろん退団してほしくなかったはずだ。しかし、ロビーニョはどうしてもヨーロッパに行きたがっていた。私はその願いをどうしてもかなえたくて、彼をリオデジャネイロのアングラ・ドス・レイス(高級リゾート)に連れて行ったんだ。覚えているかい? 彼の母親が04年に誘拐されたことを。家族を連れてブラジルから出たいとロビーニョが考えたのも当然のことだ。私は迷わず彼の移籍をサポートした。『自国の最高の逸材をヨーロッパへ売るなんて頭がおかしい』とファンが怒るのも分からなくはないが、私はロビーニョを助けたかった」

 

「誹謗中傷のメールも山ほど届いたよ。一部のファンがSNS上で“アンチ・リベイロ”コミュニティーを作っていたんだ。『娘を誘拐する』という脅迫文が届いた時には、さすがにパニックになったよ。結局、事なきを得たが、あの時は生きた心地がしなかった」

 

R・マドリーとネイマールの過去

 

 13時30分。ようやくランチタイムだ。リベイロは我々をルーカスの家に連れて行ってくれた。リベイロと彼の友人、ルーカス、そして彼の家族が同席していた。食事中の会話は、前日に行われた試合のことからカタールへの遠征のこと、そしてもちろん、パリでの今後についてまで及んだ。

 

 実は、ルーカスの兄弟であるチアーゴもリベイロのオフィスで勤務している一人だ。チアーゴには、様々な若手有望株のプレーシーンが収められたDVDをくまなくチェックし、新人を発掘する役割が任されている。「私にはDVDをチェックしている時間がないからね」と、リベイロは説明する。

 

 選手の家族から信頼を得ることは、代理人にとって重要な仕事だ。多くのエージェンシーが乱立する昨今、有望な選手を獲得するためには若い頃からその選手に目をつけていなければならない。リベイロはルーカスが13歳の頃から彼を担当している。ネイマールも同様だ。

 

 ネイマールが13歳の頃、リベイロは彼をR・マドリーのトライアルに参加させた。契約にこそ至らなかったものの、実はネイマールには“銀河系軍団”の下部組織でプレーした過去があるという。26ゴールを挙げ、当時からその才能を遺憾なく発揮していたネイマールに対し、300万ドル(約2億4000万円)のオファーが提示された。しかし、13歳の若さでは契約を結ぶことができず、それならばと、R・マドリー側は彼の両親をマドリッドにあるアウディの工場で働かせることで家族とともに移住させようと考えた。しかし結果は……ネイマールの経歴を見れば明らかだろう。

 

ニウトンのクルゼイロ移籍が成立

 

 16時10分。サンパウロ名物の渋滞に巻き込まれること数時間、ようやく次の目的地に到着した。トレンドの発信地、ジャルディン・パウリスタにある五つ星ホテルだ。美しいカーブを描いたテラスからは、“怪物”ロナウドのお気に入りのナイトスポットであるイビラプエラパークが見下ろせる。

 

 我々の前に現れたのはモッタ弁護士だ。リベイロはニウトンの問題を解決するために、モッタ氏との会談に臨むという。モッタ氏はブラジルのスポーツ界で最も有名な敏腕弁護士。ブラジルサッカー連盟(CBF)のコンサルタントを務め、海外移籍の際にはクラブと選手の間に立ち、調整役も担っている。チアーゴ・シウヴァ、ネイマール、そしてもちろんルーカスも彼の世話になった。

 

 敏腕同士による会談が始まると、すぐに解決の道筋が見えてきた。どうやらニウトンをヴァスコから移籍させることで合意したようだ。くしくも数日前に、ジュニーニョ・ペルナンブカーノが同様の未払問題でヴァスコを退団したところだった。「精いっぱい戦いましょう」と、リベイロはモッタ氏の手を力強く握った。そして2週間後、ニウトンのクルゼイロへの移籍が成立した。

 

ネイマールの父親と“プライベート”な夕食

 

 20時10分。リベイロの電話が再び鳴った。本日最後のアポイント、ネイマールの父親との夕食の時間だ。リベイロは、この食事会が「あくまでプライベートなもの」であるということを強調した。詳しいことは「今は内緒だ」と。

 

 しかし、ネイマールというクライアントは、数々の大物を抱えてきたリベイロにとっても、そしてブラジルサッカー界にとっても“最も大きな仕事”となるだろう。バルセロナ、R・マドリー、チェルシー、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・C、パリSGと、“ブラジルの至宝”を狙うビッグクラブは枚挙にいとまがない。ネイマールの移籍が完了する時、リベイロは3台目の携帯電話を所持しているはずだ。

 

 

 

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