[ワールドサッカーキング 0307号 掲載]
インタビュー・文=デイヴィッド・マクドネル
翻訳=栗原正夫
ワールドサッカーキング最新号では、得意のドリブルでタッチライン沿いを駆け上がり、天性の速さで相手DFを置き去りにする“イングランドの新星”ラヒーム・スターリングのインタビューを掲載している。アンフィールドに登場したこの若きスピードスターは巻き返しを目指すリヴァプールのキーマンになるかもしれない。
ラヒーム・スターリングがプレミアリーグのピッチに初めて登場したのは、わずか1年前のことだった。
2012年3月14日、リヴァプール史上2番目の若さとなる17歳107日でデビュー(編集部注:ジェローム・シンクレアの16歳6日が最年少記録)を飾ったこの快足ウインガーは今シーズン、第2節のマンチェスター・シティー戦で初スタメンを飾ると、第27節終了時点で実に23試合に出場。リヴァプールの主力の一人として、躍動感溢れるプレーでチームに新たな息吹を吹き込んでいる。
サッカーが僕の人生を切り開いてくれた
まずは簡単な自己紹介をお願いできるかな。イングランド代表としてもプレーしている君だけど、ルーツはジャマイカにあるんだよね?
スターリング(以下S)―そう、出身はジャマイカのキングストンなんだ。でも、その頃のことはほとんど記憶にないよ。去年の夏に帰省した時は、多少思い出がよみがえってきたけど、その程度さ。僕が生まれてすぐに家族そろってイングランドに移住したんだ。だから育ったのはウェンブリーで、幼少期はほとんどの時間をそこで過ごしたよ。
知らない土地での生活はどうだった?
S―最初は大変だったよ。でも、サッカーを始めたことで、環境に慣れることができた。もうその頃から、サッカーが僕の人生を切り開いてくれていたんだ。
なるほど。幼い頃からサッカーが生活の一部だったわけだね。本格的にサッカーに取り組み始めたのはいつからなんだい?
S―サッカースクールに通い始めたのは10歳の時だね。地元のQPRの下部組織に入団したんだ。
今はスピードを生かしたドリブルが持ち味だけど、当時からそういうプレースタイルだったの?
S―いや、最初はトップ下でプレーしていた。ピッチ全体を見渡してパスを出したり、自分で得点を狙いにいったりする、いわゆる「背番号10」の役割をしていたんだ。でも、いつからか監督が僕を左サイドで起用するようになった。そこからはずっとウイングとしてプレーしているよ。
その後、君は2010年に、10歳から過ごしてきたQPRを離れてリヴァプール行きを決断した。その理由を教えてもらえるかな?
S―自分を成長させて夢を実現させるには、旅立たなきゃいけないと思ったんだ。環境を変える必要性を感じていたし、何より最高の指導を受けたいという思いがあった。当時はイングランドのU-16代表でプレーしていたんだけど、チームメートにアーセナルの選手が何人もいてね。彼らに才能があったことはもちろんだけど、アーセナルにいる優秀な指導者や、アカデミーの施設の充実が成長の助けになっているんだと肌で感じたよ。その時、「このままQPRにいたらダメだ」と思ったんだ。実際、リヴァプールに来てみて、自分が最高の選択をしたと感じることができた。僕にすごく合っていたんだ。コーチは面倒見がいいし、スタッフも初日からよくしてくれた。自分が成長する上で、とても助けになったよ。
ということは、君にとっては当時のQPRの環境が物足りなかったということ?
S―まあね。ただ、QPRには感謝しているよ。当時は年上の選手に交じってプレーしていて、みんなが自分より経験があって体が強いっていう環境だったんだ。だからすごく苦労した。でも、そのおかげで頭を使うことを覚えたんだ。知恵を絞ってプレーすることで、ポジショニングや競り合いで勝つコツを身につけたと思う。それが今に生きていることは間違いないからね。
2013年はきっとリヴァプールの年になる
ここからは今のチームの話を聞かせてもらうよ。昨夏からブレンダン・ロジャーズ監督がリヴァプールの指揮を執っているけど、彼はどんな監督なんだい?
S―素晴らしいビジョンを持っているし、いい指導者だと思う。シーズン前の話なんだけど、監督は僕を含めたユースチームのメンバーにこう言ったんだ。「十分な実力があれば、プレシーズンのアメリカツアーに連れて行く。年齢は関係ない」とね。それを聞いて、監督が実力で選手を見ていてくれるということがよく分かったよ。アメリカでのプレシーズンツアーは絶好のチャンスだったし、みんなアピールしようと必死だった。僕自身はいいスタートが切れなかったけど、監督と2人で話し合うことで問題を解決することができたんだ。彼はチャレンジすれば失敗してもまたチャンスをくれる。それに、僕はツイッターでファンからよく批判を受けるけど(苦笑)、それでも彼は信頼してくれるし、自信をつけさせてくれる。本当にありがたいよ。
ロジャーズ監督は、君を第2節のシティー戦で先発起用した。君にとって、プレミアリーグでの初スタメンになったけど、こんなに早く出番があると思っていなかったんじゃない?
S―考えもしなかったよ! 正直、本当に信じられなかった。試合の前日に「明日はスタメンで使うから」と言われたせいで、一睡もできなかったよ(笑)。アンフィールドでどんなプレーをするか、試合のことやファンのことを考えていたら、そのまま朝になってしまったんだ。何せ、プレミアリーグでのスタメンデビュー戦だったからね! あの試合は一生忘れられない。これまでのキャリアの中で一番のハイライトだし、監督には本当に感謝している。
監督をかなり信頼しているようだね。では、チームメートについてはどうだろう? 冬に加入したダニエル・スタリッジは既に得点を量産しているよね。
S―彼は本物だよ。すぐにチームにフィットして、(移籍後初のリーグ戦となった)マンチェスター・ユナイテッド戦でいきなりゴールを決めたんだからね。彼がどれだけいい選手なのか、誰もが実感したはずさ。一流のフィニッシャーだから、チームにとって大きなプラスになったことは間違いないよ。
エースのルイス・スアレスについては? ここまで17得点を挙げて、得点ランキングで2位につけている。ウイングタイプの君とストライカータイプのスアレスとでは少しプレースタイルが異なるけど、刺激を受ける部分も少なくないんじゃないかな?
S―そうだね。彼を見ていると本当に勉強になるよ。すごいところがたくさんあって、何より、信じられないほどシュートがうまいんだ。相手DFにとっては厄介な存在だと思う。しかも自分でゴールを決めるだけじゃなくて、チームメートのためにチャンスを作ってくれるんだ。僕がボックス内に入って行くと必ずボールを回してくれるからね。彼みたいな最高の“お手本”がチーム内にいることは本当にありがたいことだよ。
ということは、スアレスが君にとって一番のお手本というわけだ。
S―いや、一番はやっぱりスティーヴィー(スティーヴン・ジェラードの愛称)だね。彼の場合はお手本というか、憧れの存在なんだ。いつも優しくて、僕をすごくかわいがってくれているし、何か困っていないか、いつも気に掛けてくれる。試合中に僕が誰かに削られているのを見ると、代わりにタックルし返してくれるくらいさ!(笑)。スティーヴィー、そしてジェイミー・キャラガーの2人がいてくれるおかげでドレッシングルームはいつも明るくて最高の雰囲気なんだ。クラブの生え抜きでもあるし、マジで憧れるよ。
つまり、君はジェラードのファンってことか(笑)。
S―ハハハ(笑)。ファンじゃないよ、大ファンさ!
じゃあ、今度はチームの話を聞きたい。ここまでは9位と期待されたような成績を残せず、優勝争いから脱落して、ジェラードも「4位以内が目標」と話している。君は現状をどう考えている?
S―確かに満足できる結果じゃないね。もっと頑張らなきゃいけないし、順位を上げていきたいと思っているよ。ただ、スタートダッシュに失敗したけど、常に前進は続けていると思う。監督のプランがようやく形になろうとしているしね。これからギアを入れ直していくつもりだから、2013年はきっと僕らの年になるはずだよ。何より僕らが、リヴァプールにとって飛躍の1年にしなければいけないと思っている。
代表デビュー戦は信じられない気分だった
少し話題を変えよう。サッカー選手としての、君の今後の目標について聞かせてほしい。
S―まずは、もっとピッチに立つことが目標だね。今は体をもっと大きく強くしようと思って、ジムでトレーニングをしているんだ。今シーズン中に、突然ムキムキになることは難しいけど(笑)、フィットネスを上げて体を強くしていけば、コンディションももっと安定すると思う。
得点やタイトルへのこだわりはある?
S―もちろん。当たり前だけど、ゴールを決めて、アシストをして、チームに貢献したいと思っているよ。選手としてできるだけ上を目指して、タイトルをたくさん取ることが夢なんだ。クラブでもイングランド代表でも成功することしか考えていないし、それも不可能じゃないと信じている。
キャリアを築いていく上で、君を支えているものは何なんだろう?
S―やっぱり家族かな。一緒に難しい時期を乗り越えてきたし、それはこれからも変わらないと思う。実は小さい頃から、「将来はスポーツ選手になる」って漠然と思っていたから、学校の勉強に身が入らなかったんだ。そのせいで進級できずに、特別支援学校に通ったこともあった。そういう時期を乗りきれたのは全部家族のおかげだし、それが人としての成長につながったと感じている。実は、サッカーを真剣にするようになったのもその頃なんだよね。だから家族がいなければ、少なくともサッカー選手の僕はいなかったんじゃないかな。これからも家族への感謝を忘れるつもりはないよ。
ちなみに、昔は陸上の選手だったそうだね。
S―そう、種目は100メートルだった。最後に記録を測ったのは15歳の時で、タイムは10.98秒だったよ! 今は昔よりスピードがないから、測ったら12秒くらいかかりそうだけど(苦笑)。
じゃあ最後の質問だ。キャリアにも大きく関わってくるイングランド代表の話を聞かせてくれるかな? 昨年11月14日のスウェーデン戦でA代表デビューを飾ったよね。
S―信じられなかったけど、最高の気分だったよ。
チームにはすぐなじめた?
S―うん。ここでもスティーヴィーがすごくよくしてくれて、面倒を見てくれたんだ。僕が大丈夫なように気を配ってくれて、夕食の時も同じテーブルに座って、困ったことはないか心配してくれてね。あとはチェンボ(アレックス・チェンバレンの愛称)やダニー・ウェルベックと部屋でゲームをしてリラックスしたよ。代表がどんな感じか知らなかったから、一員になれてうれしかった。
ということは、デビューに向けた準備は完璧だったみたいだね。
S―そうだね。ただ、肝心の試合は本来の出来ではなかったから、ロイ・ホジソン監督に「アイツは使えないな」って思われてないといいな。早く次のチャンスをもらえるように願っているよ。
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