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進化する日本代表…2013年を語るザッケローニ「技術力とスピードを生命線に」

2013.01.30

[サムライサッカーキング 2月号掲載]
2013年、日本代表は大きな戦いを迎える。アジア最終予選突破のかかった3月のヨルダン戦。そして6月のコンフェデレーションズカップ。ザッケローニ監督はチームをどのように率いるのか。その言葉から、日本代表が挑む“2013年”を読み解いていこう。
アルベルト・ザッケローニ
文=増島みどり 写真=足立雅史

 日本代表にとって2013年最大のターゲットは、ブラジル・ワールドカップの出場切符をいち早く獲得することである。アジア最終予選(B組)で2位以下に勝ち点8の大差をつけて、本戦出場に王手をかけた12年を、アルベルト・ザッケローニ監督は「悪い誤算は一つもなかった。逆にうれしい誤算が多かった」と振り返る。今年3月のヨルダン戦でのアジア最終予選突破、続くブラジルでのコンフェデレーションズカップに向けて「カメレオン」と「背骨」という、ユニークなキーワードを掲げた。

W杯への準備は3月のアジア最終予選突破からスタートする

―― 13年にはコンフェデ杯も行われます。どんなプランで臨みますか。コンフェデ杯の前に、予選突破を決めたいところでしょうが……。

ザッケローニ 13年は、14年のブラジル・ワールドカップへの強化に向けて、いかに最大限有効利用をするかにかかっていると言えるだろう。W杯は6月に始まり、来年は準備が半年しかできない上に、その間、各国リーグ戦が行われている。来年に入って代表を強化する時間はほとんどないことを前提とすると、13年を最大限の強化に充てるためにもまずはW杯アジア最終予選を突破し、早く本大会出場を決めることだ。3月のヨルダンとのアジア最終予選でW杯出場を決めてしまいたいと願っている。早く決めれば決めるほど、W杯の本大会に向けた準備に長く取りかかることができるからだ。ヨルダン戦で(勝利し本大会)出場を決めたところからが、W杯の準備期間だと私は捉えている。その点で、コンフェデ杯で強豪国の揃うグループに入ったことをとても歓迎しているし、予選突破をしていればその後にも、9、10、11月とインターナショナルマッチデーに試合を組める。またヨーロッパに遠征するなど強豪とのマッチメークをしていきたいと考えている。彼らはそこで欧州予選を行うのでたやすい計画ではないのは分かっているが、やはりいかに強豪との試合を、アウェーでこなせるかにかかっている。

――そのために日本のスタイルを更に磨いていくにはどうすればいいでしょう。ここまでアジアとの戦いが主でしたが、本番に向かって更に戦術を変えるようなことに取り組むのでしょうか。

ザッケローニ チームのコンセプトを更に浸透させることが重要だ。戦術をこれから変えるつもりもないし、更に良いところ、日本人の特長をもっと強く前面に押し出していく。当然、相手のある競技なので相手の持ち味を消す作業も行わなければならないが、常にベースとなる部分は絶対に変えない。コンセプトというベースの上に、攻撃のバリエーション、コンビネーションの精度やスピード、選手同士が自分たちにとって程よい加減の距離感を更につかんでいくことが必要になる。12年には、この距離感が個人と、パートでも精度を上げたと実感しているが、ここから更に上を目指せるはずだという期待値を持っている。そのために、日本の持ち味であるスピード、攻守の切り替えを今以上に速くしてコンパクトな戦いをしなくてはならない。成長とは、満足してはいけないということなのだから。

――監督が更に高めていきたい日本人の特長について、例えばフィジカルの強いオーストラリアのような相手との対戦の場合は、どう考えますか。

ザッケローニ 世界に出ればこそ、強じんな体力をベースとしたチームとの対戦がある。日本人選手の持つ基礎技術力の高さを、世界の強豪は更にスピードに乗りながら展開する。パスの精度、マークを外す動き、ゴールに向かう動きを連動し、常に継続していかなればならない。技術力とスピード、これが日本代表の生命線だ。相手に的を絞らせず、多彩に攻める。私のイメージでは、ピッチでカメレオンのような(状況に応じて自らで変色する)攻撃をする代表だ。

 11年の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)戦、12年のW杯3次予選ウズベキスタン戦で敗れた頃(既に3次予選は突破した後の2敗)、チームに漂ったある種の「閉塞感」は少し重苦しいものだったように思えた。しかし6月、監督、選手の大きな目標であったW杯最終予選の6月シリーズ(オマーン、ヨルダン、オーストラリア)3連戦を勝ち点7で滑り出してから、アジアで求められる常勝の重圧が多少軽くなったのか、監督自身の采配にも、選手の戦いにもある「変化」が起きていった。

 北朝鮮戦で62分から見せたザック監督の「宝刀」とも言える「3-4-3」は今まで陰を潜めているが、昨年は8月のべネゼエラ戦で本田圭佑をワントップに据え、10月、ザック監督指揮下で初の欧州遠征でのフランス戦では香川真司を左サイドハーフ、ワントップ、更にトップ下と1試合で3つのポジションに置くなど、これまでなかった起用で勝利につなげた。

 11月の最終予選オマーン戦では、過酷なアウェーの中で同点とされた後に長友佑都を中盤に押し上げ、一方で細貝萌を、守備を固めるボランチのポジションに。遠藤保仁をトップ下に置いて、ここでも決勝ゴールをもぎ取った。オマーン戦については、中東と百戦錬磨の選手の粘り、冷静さが際立ってはいたが、予選中、あるいはアジアとの対戦中には、一つのポジションに必ず2人のレギュラーとサブを置き、この間での交代のみを「カード」としていた監督の起用に、変化が見てとれる。

 カメレオンは周囲に合わせて同化する保護色ではなく、熱や光、興奮状態や体調によって体色が変化自在に変わるそうだから、ザック監督の交代カード、選手の動きにも、まさにカメレオン的傾向が少しずつピッチで表現され始めているのだろう。13年は、鮮やかな黄色や緑、時に茶色といった多彩なバリエーションの変化をピッチで楽しめるだろうか。

 カメレオンが変化のバリエーションを意味するとすれば、変わらぬベースについて監督はサッカーの鉄則とも言える「背骨」と表現する。

『背骨の強いカメレオン』

 ザック監督の理想だ。


アルベルト・ザッケローニ
――12年の収穫は何にありましたか。

ザッケローニ 良かったのはアジア最終予選で多くの勝ち点( 13点=4勝1分)を取れたことだろう。個人的な見解だが、3次予選から最終予選になってより難しい相手になったにも関わらず12年のほうが結果、内容とも確実に11年からバージョンアップできたと確信している。

――逆に誤算は?

ザッケローニ もちろん、1年という期間で良い状態だけで戦うことは不可能だ。準備期間が短い時に多少の波はあったのは間違いない。それは、例えばウズベキスタン戦(2月)だろう。しかし、時間があって、しっかり準備ができた際の内容は想定以上のもので、私にとって悪い意味での誤算は一つもなく、良い意味での、うれしい誤算といった出来事が多く起きたと思っている。例えば、皆さんには大きなニュースではないのかもしれないが、実際には3次予選も長友を欠き、最終予選も本田がケガで不在、香川が試合直前に(腰痛で)出られなくなるなど、いろいろなアクシデントに見舞われてきた。DFの吉田麻也、今野泰幸の同時出場停止もあった。しかし、そういう危機に代わりに入った選手たちが本当に立派に働いてくれた。その結果、チームとしてレギュラー組、サブ組全体の底上げがなされたのではないか。誤算といっても、これらはうれしい誤算だろう。あまりにもポジティブな結果が出たからこそ、皆さん(報道陣)にはそれほど驚きもなかったのだと思う。順調に見えたのは、底上げがスムーズだったからこそである。

――順調に成長できた理由は何だとお考えですか?

ザッケローニ チームとしての核の部分を大切にしたからだろう。ポジションで言えば、GK、MF、FWのセンターラインの顔ぶれはケガを除けば変えずに戦い続けた。GKからセンターFWまで、中央ラインを私はチームの“幹”だと考えている。人間同様、背骨がしっかりしているかどうかはサッカーの軸になる。そこがしっかりと強いものではないと、ボディーバランスを崩してしまうからだ。しかしこれは日本代表に限ったことではなく、イタリア時代からの私のポリシーだ。おのずと、メンバーチェンジするのがサイドに多くなる。

――その重要なセンターを構成するガンバ大阪の遠藤保仁、今野泰幸の2人がJ2降格。これについてはどうお考えですか。

ザッケローニ 代表チームに大きな影響はないだろう。彼らに真の実力があれば、J1でもJ2でも関係ない。彼らがJ2でプレーする決断をしても、代表にふさわしいクオリティーを保てていると思えば招集するだけだ。彼らの真面目な性格からして、チームを早くJ1に戻そうと更に頑張るかもしれない。だからプレーのクオリティーは心配していないし、スタッフと視察は続ける。もちろん、センターラインを構成する特定のメンバーを重要視しているという意味ではない。13年は、昨年出場機会に恵まれなかった選手、代表には呼ばれていない選手も、自分をもっと強く、継続してアピールできるようにして欲しいと願っている。選手の名前を挙げるのは私の主義ではないので今ここで明かす気はないが、とにかく若い選手には予想を超えた大きな「伸びしろ」がある。積極的に、正確に、そして継続性を持ってそれを表現することだ。私は、固定したプレーヤーのために日本で監督をしているわけではなく、「日本代表」チームの監督に就任したのだ。日本でサッカーをするサッカー選手皆さんにチャンスがあること、そこに目を向けていることを忘れないでほしい。

――経験のある選手もそこには含まれますか?

ザッケローニ 監督の就任時に、私は3つの目標を掲げている。「チームの成長を促す」、「W杯の出場を決めて本大会でいい戦いをする」、そして「日本を去る時には私の足跡と呼べる何かを残すこと」。若い選手を成長させることは未来につながるわけで、3番目の私の目標にも合致する。もっとも、日本を去る日に何かを残したい、なんて今は考えたくない。目の前のことに全力で集中するだけだ。

――コンフェデ杯への抱負は? タフなグループに入りました。

ザッケローニ 大きな意義は、来年W杯が開かれる場所で実際の予行演習ができることだ。来年のW杯本番の時に自分たちがなりたいと思う理想の姿と、1年前のコンフェデ杯での自分たちの現実の姿をよく見比べて、何が足りないのか、どこを埋めていく必要があるのか、そういう情報をたくさん収集できる大会になるのは間違いない。抽選の後に、ブラジルの(フェリペ)スコラーリ監督と話したんだが、コンフェデ杯のルールが日本にとっては問題だということだった。大会規定で各国とも初戦の4日前に現地入りすることが義務付けられているんだが、私たちは6月11日にイラクとアウェーでアジア最終予選を戦わなくてはならない。そしてブラジルとの開幕戦は15日。AFC(アジアサッカー連盟)とFIFA(国際サッカー連盟)の違いから生じた過密日程で直前にしかブラジル入りできない日本を開幕戦にぶつけずに、本来なら、もう少し先に組んで準備をさせてほしかった。時差や移動での疲労が免れないだろう。しかし、ブラジリアでブラジルと戦える経験は何にも得難い。ポジティブに捉えるだけだ。

――昨年の欧州遠征でのフランス、ブラジル戦はどう踏まえて戦うのでしょう。

ザッケローニ パーソナリティーという点では、勝ったフランス戦よりも、負けたブラジル戦をとても気に入っている。自分たちで試合の主導権を握ろうとしたからだ。フランス戦も終盤で1点を取りながら、更に2点目を奪おうとした。ブラジルは予選のない分、あの試合を代表入りの一つのビッグチャンスとして選手が挑んできたので、球際も本当に厳しく来た試合だ。翌日、世界中の新聞に、「日本完敗」、あるいは「ネイマール最高!」と書いてあったと思う。しかし、彼はオウンゴールとPKを決めたに過ぎないのだ。4失点したが、ブラジルに完全に崩されたのではないし、一対一で負けたシーンがそれほどあったわけでもない。あの試合が、今後の成長を助ける薬になったことは間違いなく、コンフェデ杯でもあのブラジル戦で見せた姿勢、自分たちの良さ、やり方を日本代表は貫くだろう。押し込まれることはある。しかし、試合前から、引いて守って、などと考えることは絶対にしない。

FWに必要なのは、「このシュートが試合で唯一最後のチャンスだ」と言う気迫

――コンフェデ杯のスタメンは、W杯を意識したメンバーになりますか。

ザッケローニ それはない。その時、もっとも良い状態の選手を起用することは変わらない。ただ、W杯は結果のみを求められた場所で、結果を出せる実力のある選手を選ぶ。

――昨年の反省の中に、決定力不足をあげられていましたが。

ザッケローニ 最終予選で勝ち点13、それ以上に13 得点で2失点の成果は満足に値すると思っている。しかし、実際には得点以上にチャンスを作ったはずだ。いくらチャンスを作ってもシュートを決めきれなくては試合に勝てない。考え方は2つある。一つは、これまで以上に、ゴール前のチャンスを確実にものにする集中力であり、2つめは組織力を高めること。個人が「俺が決める」という強い自覚で、決定力不足解消に努力しなくては。アタッカーに常に求められるのは、「このチャンスは、試合で唯一無二のもの」と思ってシュートを打つ気迫だ。

――ところで監督、4月1日で、日本で言う還暦を迎えます。このお祝いには“赤いちゃんちゃんこ2を着るのですが、私たちからもプレゼントしましょう。

ザッケローニ 私もスタッフも、日本の文化を尊重しようと決意して日本にやって来たのだから、日本の文化になじむこと、受け入れることをしてきた。しかし、赤いベストはどうだろう……。絶対に着なければなりませんか? 赤いネクタイなんてどうだろうか? 第一、自分はまだ50歳以下だと思っている。60歳なんて、まだまだこれからですから。(※取材は12年12月に行いました)

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