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2012年のザックJAPANを検証①「アジアと世界の戦いで得た収穫と課題」

2012.12.21

[サムライサッカーキング1月号]

アジアの舞台で見せた圧倒的な勝負強さ。真っ向勝負を挑んだ世界トップクラスとの戦い。2つの異なるステージで得た収穫と課題とは――。ワールドカップ予選や欧州遠征を戦い抜いた2012年のザックジャパンを振り返る。
ザッケローニ
Text by Toshio NINOMIYA Photo by Shin-ichiro KANEKO

過酷なアウェイ戦で勝ち点3 ブラジルW杯出場に王手

「年内最後の試合で勝てたので、監督やコーチにもいいクリスマスを過ごしてもらえるんじゃないですかね」

 ようやく涼しい風が吹くようになったマスカットの夕刻。ブラジル・ワールドカップアジア最終予選、アウェイのオマーン戦に2-1で勝利した後のミックスゾーン(取材エリア)で、キャプテンの長谷部誠は最後にそう言って白い歯をこぼした。

 過酷な状況での一戦だった。

 11月といっても気温は35度と高く、冬の気配を迎えている欧州と寒暖の差は激しい。特に、酷寒のモスクワから降り立った本田圭佑にとっては厳しかったはずだ。更には直前に合流した選手もいるため、全員が揃って練習したのは1回のみ。攻撃の核となる香川真司は負傷で不在という状況だった。

 一方、オマーンは調整試合までこなし、万全な状態で臨んできた。日本にとって、オマーンは“勝って当然の相手”ではあるものの、とても“勝って当然のシチュエーション”と言える状況ではなかった。

 試合開始後、その不安は現実となる。キーマンの本田を筆頭に、全体的に体が重く、いつもの日本でないのは明らかだった。

 ヒヤリとさせられた。前半11分には素早いスローインからグラウンダーのクロスを入れられ、フリーで駆け上がってきた選手に決定的な場面を作られてしまう。幸いにもシュートを外してくれたが、守備に回る際の切り替えが遅く、この日は相手に長い距離を走られてしまう場面がいくつか見られた。

 それでも、日本は落ち着き払っていた。焦りの色も、動揺の色もない。攻め急ぐのを防ごうと遠藤保仁がゆったりとしたリズムでボールを回す。それがチームの呼吸となり、前半20分にオマーンの弱点であるサイドを突いて先制点は生まれた。

 後半32分、FKで同点に追いつかれ、スルタン・カブース・スポーツコンプレックスのスタンドが一気に盛り上がりを見せても、彼らが呼吸を乱すことはなかった。試合終了間際、またしてもサイドを攻略して2点目を奪った。

 決して褒められる内容ではなかったのかもしれない。しかしながら、いかなる状況に置かれても精神的に受け身になることなく、冷静にミッションを遂行したザックジャパンに成長の跡を感じることができた。また、ロンドン・オリンピック世代の活躍というのも明るいニュースだろう。清武弘嗣が代表初ゴールを挙げれば、酒井高徳は積極果敢な仕掛けで決勝点を呼び込んだ。

 ここまで、最終予選5試合を消化して「4勝1分け、勝ち点13」は十分な数字だろう。2位のオーストラリアは消化試合が1試合少ないとはいえ、日本はライバル相手に勝ち点8差をつけて独走状態に入っており、早くも5大会連続のW杯本大会出場に王手を掛けている。

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“良薬”となったウズベキスタン戦の敗戦

 振り返ってみれば、ザックジャパンにとって順調な1年だったと言える。だが、2012年の始まりは重い空気に支配されていた。

 2月29日、ホームで行われた3次予選のウズベキスタン戦。ボールを支配しながらもシュートまで持ち込めない消極的な試合運びで敗北を喫してしまう。既に最終予選への突破を決めていたが、昨年11月に行われた同予選の北朝鮮戦に続いての2連敗に、豊田スタジアムのスタンドも静まり返った。ベストメンバーを揃えた日本に対して、ウズベキスタンはセルヴェル・ジェパロフ、アレクサンドル・ゲインリフ、マクシム・シャツキフら攻撃の要がいなかったにも関わらず、だ。

「この敗戦を結果として受け止めなければならない。3次予選で2敗してしまったということは、自分たちもまだまだという弱さを感じている。自分たちが慢心していたわけではない。でも、アジアは甘くないというのをもう一度突きつけられた感じもする」

 キャプテンの長谷部誠は厳しい表情に終始していた。

 この日のザックジャパンはバタつきが目立ち、全体が間延びしてバランスを崩してしまった。選手同士の距離が遠いこともあって効果的な連動、連係が生まれない。試合中に修正できなかったことも問題だった。

 ただ、この苦い敗戦が“良薬”となったことは間違いない。

 ケガで長期離脱していた本田が9カ月ぶりに代表復帰して迎えた6月の最終予選3連戦。チームは見違えるように締まっていた。危機感を募らせたザックジャパンはスタートダッシュに成功することになる。

 6月3日、初戦のホーム、オマーン戦。日本は立ち上がりから集中を研ぎ澄ませ、一瞬の隙も見せなかった。全員が球際で激しいプレーを見せ、汗をかこうとした。

 前半11分の先制点は見事の一言に尽きる。

 今野泰幸がルーズボールを拾って、クサビに入った前田遼一に当てる。香川とのワンツーから左サイドの裏に出た長友佑都のクロスに、ファーサイドで待ち受けていた本田が左足でゴール右隅に蹴り込んだ。ボールを速く正確に動かす日本の攻撃は、オマーンの守備を置き去りにした。

 相手の弱点であるサイドを狙い、作戦どおりにゴールを奪った日本は、3-0で初戦を見事に勝利で飾った。しかし、快勝劇の立役者となった本田は満足していなかった。

「勝てばOKじゃない。アウェイで戦う時に相手に『(日本とは)もうやりたくない』と思わせるほどじゃないとダメ」だと――。

 叩きのめさなきゃ、意味がない。

 続くヨルダン戦、本田はその気概を見せつけていく。

 相手のボランチにマンマーク気味に対応されながらも、本田は周囲との連係で数的優位を作り、サイドから攻略を目指す。チャンスという分母を増やしていきながら、確実にヨルダンを追い詰めていった。

 前半18分、本田のCKから前田のゴールで先制すると、あとは日本の一方的な展開となる。ゴールにこだわる本田は後半8分までにハットトリックを達成。中だるみの時間帯こそあったものの、本田のそれはチームの気概となっていた。ただ、計6ゴールを奪っても、彼は笑顔を作らなかった。

「(シュートを)外している場面も多いし、自分自身、余裕がまだまだ足りない。チームとしてもそうだし、だからこそまだまだ伸びしろがあると思う。アグレッシブに攻めることができていることやチャレンジの気持ちは素晴らしいと思うが、でもまだ分からない」

 高い場所を目指すゆえ、現状に甘んじることはない。これは本田だけの思いではなく、チーム全体にその思い、雰囲気が漂っていた。

 ホーム2連戦で9得点、無失点。3連戦最後となるアウェイのオーストラリア戦は1-1の引き分けに終わったものの、ウズベキスタンに力負けした危機感がロケットスタートをもたらした。

真っ向勝負を挑んだ欧州遠征、強豪との戦いで見えた希望

 アジアとの戦いに身を置く一方で、世界における日本の現在地を確認した年にもなった。

 10月、ザックジャパンは初の欧州遠征を行った。相手はフランスとブラジル。ともにW杯優勝経験を持つ文句なしの強豪である。

 0-5で大敗を喫した「サンドニの悲劇」以来、11年半ぶりに立ったスタッド・ドゥ・フランスのピッチ。フランスの激しいプレッシングにひるんだ前半、そこにチャレンジャーの姿はなかった。ラインを下げざるを得ず、攻撃の突破口となるべきサイドバックも高い位置を取れなかった。

 しかし、後半に入って高い位置から攻撃に転じることで、フランスを押し返すようになっていく。“守備のための守備”から“攻撃のための守備”に。フランスのスタミナを徐々に吸い取っていった日本は、試合終了間際に相手CKからのカウンターで香川が決勝ゴールを奪い、1-0で勝利を手にした。

「(カウンターの時)相手が戻るのも遅かったし、最後のチャンスだと思ってみんなが走った。右サイドにスペースがあって、(長友)佑都が相手を引きつけてくれました。練習どおりだし、みんなが焦らずにスペースを空けて、最後は佑都がパスを出してくれました」

 香川は、全員で奪った決勝点を喜び、チームも試合後にひとしきり歓喜に包まれたが、それ以上の余韻には誰一人とて浸っていなかった。ボール保持率はフランスの59パーセントに対して日本は41パーセント、シュート数もフランスの23本に対して6本と、終始フランスに主導権を握られていたことは明らかであり、彼らは勝利に隠された課題をしっかりと見つめていた。

 続いてポーランドで行われたブラジル戦。日本はフランス戦の反省を踏まえ、序盤から高いライン設定で全体をコンパクトにし、素早いパスワークで攻撃を仕掛けていく。ブラジルに先制点を許す前半12分まで、ボールを保持して攻め込んでいたのは日本のほうだった。短い時間帯ではあったものの、本気の王国に対して臆することなくシュートまで持ち込めたことは収穫だった。

 だが、良いところはここまで。結局、その後はブラジルの鋭いカウンターの餌食となり、0-4と大敗を喫した。それでも、選手たちは絶望を見ていたわけではなかった。むしろ、希望を見ていたと言っていいだろう。

 長谷部は前を見て言った。

「正直、ショックはないですよ。どちらかと言うと09年にアウェイでオランダとやった親善試合のほうが、手も足も出ない感じがした。そういう感じが今回はない。追いついているということではないが、距離は間違いなく縮まっているし、距離感をつかめたことは良かった」

 真っ向から挑んだことによって収穫も課題もはっきりと見えた。引いて守りを固める戦法では決して得られない情報量だった。また、自分たちが正しい方向に進んでいることを選手たちが実感できたことも大きかった。

 来たる13年は残りの最終予選、夏には各大陸王者が集まるコンフェデレーションズカップが控えており、ブラジルW杯の準備を進める大事な1年になる。

 個のレベルアップは言うまでもなく、若手の台頭などチームの底上げは必要不可欠。チームとしても、世界トップクラスの相手に対し、攻撃面では最後のところで崩し切れておらず、カウンターに翻弄された守備面も脆弱だと言わざるを得ない。とはいえ、アジアとしのぎを削り、世界に真っ向から挑んだ12年の経験は貴重な財産となった。

 希望は見えた。あとはそれに向かって突き進むだけである。

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