2012.12.19

元日本代表GK小島伸幸氏が分析「川島永嗣のプレーとは」

[サムライサッカーキング1月号掲載]
adachi-121016_1788 Interview and text by Kenichiro KITA Photo by Masashi ADACHI

当たり前のことを当たり前にやるすごさ

 GKの選手を見る時に私が重視しているのは、「当たり前のことを当たり前にできているか」ということですね。

 川島選手が国内でも群を抜いていると思うのは、パフォーマンスの平均水準の高さです。どんなGKでも調子が良い時は良いプレーができます。でも、これは当たり前で、GKに求められるのは、調子が悪い時でも良いプレーをすることです。

 川島選手は所属チームでも年間を通じて試合に出場し続けていますし、日本代表での試合でも極端にパフォーマンスが悪かったことがありません。本人の中では「調子が悪かった」と感じている試合もあるでしょうけど、それを見る者に感じさせない。これは素晴らしいことですよ。

 技術面ではポジショニングのミスが少ないですね。分かりやすい比較例を出すとすると、例えばオマーン代表のGKアリ・アル・ハブシ(ウィガン)。アル・ハブシは身体能力が非常に高く、人間とは思えないような反応でシュートを止めることがあります。ただしそれは、ポジショニングのミスをカバーした結果、ファインセーブで止めていることも少なくない。一方で川島選手は、そういったことがありません。

 ボールの位置に対して、どこに打たれてもいいように最適なポジションを取る。これはGKの基本中の基本です。ゴールを背にした状態で左右均等な位置を取りながら、ボールを持った選手との距離を詰める。アル・ハブシはアジア最高のGKと評価されていますが、ポジショニングに関しては川島選手に一日の長があると思います。

 セービング技術に関しては、「シュートコースに対して最短距離で行くこと」が自然とできています。ボールが自分のところに飛んで来るのを待つのではなく、ちょっとでも前に出て触ろうとする。

 また、キャッチできなさそうなボールをキャッチして、「相手の攻撃を断ち切る」という意識も高い。ボールを弾いてしまえば、二次攻撃を受けたり、結果的に相手を勢いづけたりしてしまいますから、とても重要なことです。

世界レベルに行くために必要なもの

 クロスボールへの対応は、見極めが難しいですね。チームのコンセプトや監督の求めるGK像によっても変わりますから。空中戦に強いCBがいるのかどうか、監督がGKに積極的に前に出ることを求めるのか、それともゴール前にいることを求めるのか。

 ただ、今はルール的にGKが昔に比べて保護されていないので、GKが出て行った時のメリットが小さくなっています。「手を使える」という面では優位性がありますが、接触してバランスを崩してボールを落としてしまったりすれば、ゴールが空いているのでかなり危険です。

 川島選手はGKの中では特別にサイズが大きいほうではないので、前に出れば確実にボールに触れるかというと、そうではありません。ですから、より慎重な判断が要求されます。川島選手は「出過ぎず出なさ過ぎず」といった感じの、ちょうど良いバランスを保っていると思います。

 川島選手の課題を挙げるとするならば、ビルドアップやフィードキックなど攻撃面になるでしょう。練習を見ていると前線へ良いパスを出していることもありますが、世界のトップレベルのGK、例えばもう引退してしまいましたが、元オランダ代表のエドウィン・ファン・デル・サールなどと比較すると、その点では物足りなさがあります。

 現代サッカーでは最終ラインを高い位置に保つ中で、ペナルティーエリアの外でボールに触れる回数も増えていますし、ボールを取ったあとの攻撃の起点としての技術も求められています。僕らの時代はGKがバックパスを手で取っても良かったんですから、大違いです(笑)。

 

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 サッカー選手としての総合的な能力がGKにも求められる時代になって、「何でもできるGK」が評価されるようになっている。遅かれ早かれ、GKの足元の技術は特別な能力ではなくなるでしょう。時代の流れに適応し、スキルを高めることが、上のレベルを目指すためには大事になってくるはずです。

 もちろん、GKとしての本分である「シュートを止めること」のレベルアップも必要不可欠です。例えば、先日のブラジル戦で川島選手はパウリーニョにトゥキックを決められましたが、リプレイを見ると、ボールがツマ先に当たった瞬間、川島選手の両足は地面から離れてしまっていて、着地してから反応しています。細かい点ですが、わずかなタイミングの遅れが「命取り」になったわけです。

 恐らく、川島選手はあの場面でインステップのシュートを予測していたはずです。もしも川島選手の中に「トゥキックで打って来るかもしれない」というイメージがあれば、もうちょっと早めにセービングの体勢を作って、止められていたかもしれない。

 これは川島選手だけで解決できる問題ではありませんが、世界のトップレベルと戦う機会を増やして、経験値を増やしておくことが重要になるでしょう。

海外でGKが躍するための条件

 川島選手以前まで、海外リーグで日本人GKが活躍することはほとんどありませんでした。日本人GKにとって第一の壁になるのが「言葉」です。

 GKにとって、ボールをセーブするのは大事な仕事ですが、それは90分の中でいえば数秒から数十秒ぐらい。それ以外に何をしているかと言うと、ほとんどの時間で「喋っている」わけです。

 どんなに良いGKでもDFとの協力がなければ守れません。DFを必要な時に必要な場所に動かせるかはGKにとって死活問題です。「後ろに人がいるぞ」という一言で、ポジションが50センチ変わり、失点を防げたりするわけですから。

 しかも、日本人選手が海外でプレーする場合は、それを的確な言葉で瞬時に言わなければいけない。これは決して簡単なことではありません。川島選手が海外リーグで活躍できているのは、GKにとっての語学の重要性に気付き、早い段階から勉強していたことが大きいでしょう。

  これまでの実績から「日本人は速くてテクニックがある前線の選手しか通用しない」というイメージがあります。でも、川島選手が世界で一流と言われるリーグでレギュラーを取ることで、「日本のGKもやるな」と思わせてほしい。GK出身の人間として、川島選手の活躍を本当に楽しみにしています。

小島伸幸/Nobuyuki KOJIMA
1966年1月17日生まれ、群馬県出身。元日本代表GK。フジタ工業サッカー部で選手としてのキャリアをスタートさせ、その後平塚、福岡、草津などでプレー。J1リーグ通算239試合、日本代表として4試合に出場。現在はサッカー解説者として活躍中。

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