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『僕は主人公じゃなくていい』 内田篤人ロングインタビュー

2012.11.30

サムライサッカーキング Nov.2012 掲載]

『スラムダンク』の流川楓のように「普通の顔してすごいことをやりたい」と言う。『ドラゴンボール』で例えれば、「セルや魔人ブウくらい」の位置づけがいいと言う。目指す選手像は、“玄人受けする”気が利くサイドバックで、志す生き方は、ずばり“ジョーカー”。飄々としていて、周りに流されない自分があって、装飾のない言葉で、思いを表現する。“サムライ”内田篤人の流儀。その魅力を存分に味わってほしい。

インタビュー・文:浅野祐介 (@asasukeno ) 写真:千葉格

 取材場所はコートヤード・バイ・マリオット・ゲルゼンキルヘン。シャルケのホームスタジアム「フェルティンス・アレーナ」から徒歩3分圏にあるこのホテルのロビーに、内田篤人は予定時間の5分前に現れた。

「今日は取材の時間をいただき、ありがとうございます」との挨拶には、「いえ、こちらこそ。この2日間は、ずっとソファーの上で過ごしていましたし(笑)」の返し。言葉のチョイス、そして間合いの取り方が実に上手い人だ。

 3年目を迎えたシャルケ、ドイツでの日々、日本代表への思い、日本人としての矜持、サイドバックとしての在り方、そして目指すべき人生のスタイル。飾らない“自分の言葉”で発信される『内田篤人の流儀』を、とくとご堪能あれ。

ドイツでの3年目、シャルケでの3年目

──まずは、シャルケでの今シーズンについて。昨シーズンはコンディション面の問題もあり、特に前半戦は出場時間が限られていました。3年目の今シーズン、意識的にオフのコンディション調整で気を遣ったことはありましたか?

内田 オフはいつもっていうか、毎年トレーナーを一人つけて、高校の同級生と一緒に練習をやるんですけど、メニューは「大きく変わらず」でした。基本的には体幹トレーニングをやったり、走ったり。

──走りのメニューも多いんですか?

内田 ボールを使って走ります。素走りはあまり得意じゃないし、その辺はトレーナーさんがうまくやってくれるので、言われたメニューを、とりあえず全力でやります。けっこう楽しいですよ。みんな銀行員とか学校の先生だったりするんで、全然動けなくて(笑)。同級生と一緒に練習するのは、すごく楽しいです。

──みんな最後までトレーニングについてこられるんですか?

内田 一応(笑)。途中で足がつったり、足がもつれてコケたりしながら。でも、みんな静岡のやつらだしサッカー上手いから。本当に、すごく楽しいです。きつい練習は楽しくやらないともったいないから。

──ドイツでの生活も3年目ですが、ドイツ語の向上はいかがですか?

内田 ミーティングとか、サッカーの場面では、言っていることはだいたい分かります。でも、レストランとか、電車に乗るとか、そういった面ではちょっと分からないですね。まあ、別に仕事だけできればいいかなって。

──電車に乗ったりする機会もあるんですか?

内田 いや、正確にはないです。何度か(電車の)チケットを買おうとしたことがあるんですけど、いつもあの自販機(券売機)みたいなところの前で挫折して、結局は乗らない。これまでに4、5回繰り返しました(笑)。

──困ることはないですか?

内田 全然ないです。「Ich spreche kein Deutsch.」そう言っておけばいいかなって。

──意味は?

内田 「ドイツ語しゃべれません」。それで何とかなりますよ。

──でも、ミーティングとか、監督の話などは理解できると。

内田 サッカー用語というか、サッカーに関することはだいたい分かります。

──フーブ・ステーフェンス監督について「厳しいけどフェアな監督」という表現をされていましたが、監督としてどういう人物ですか?

内田 選手を平等に見ますね。「調子が悪いな」って思ったら使わないです。ちょっと本来の調子じゃないなと思ったら、絶対に使わないですね。

──それは毎日の練習を見て判断するということですよね。

内田 そうですね。「あいつ、いつもあそこの球際は行っているのに今日は行かなかったな」となったら、すぐに次の日からサブ組に入るし。でも、逆に言うと、そういう風に入れ替わりがある分、チャンスもいっぱいありますね。

──その都度、選手への説明はあるんですか?

内田 ないです。あるのかもしれないけど、僕は聞きには行かないです。昨シーズンもケガをした時とか、自分の調子が悪いからっていうのは分かっていたので、ここで聞きに行くのもどうかなって。自分の100パーセントをやって試合に出ていないなら聞きに行くのもありかなって思いましたけど、100パーセントじゃないし。それで理由を聞きに行くのは、なしかなって。あとはもう、「上手けりゃ試合に出られるだろう」って思っていたから。良い選手ならね。そこはなんかこう、言葉で誤魔化したくないというか、言い訳っぽくなるし。「今、調子が良くないんだけど」みたいなことを言いに行くのはちょっと違うかなと。練習で、プレーで見てもらおうと思っています。

──3月に放送された『情熱大陸』は、出場機会が得られない時期にフォーカスしていましたよね。

内田 はいはいはい。あそこが一番ね、上がる前。本当にいい時に来ました(笑)。実は、『情熱大陸』の収録は他のチャンス、タイミングもあったんですよ。チャンピオンズリーグのベスト8、ベスト4ぐらいの時。最初は「いいじゃないですか、面白い」と思ったんですけど、一生に一度あるかないかぐらいじゃないですか、CLの準決勝を戦えるなんて。だから、ちょっとそこで密着はやめてほしいなと思って。その結果、タイミング的には試合に出られない時期と被ったんですけど、普通に出場できている時をテレビで映すより、出られない時期を映すほうが面白いと思って、「じゃあ来てよ」みたいな。実際、そういう世界ですからね、サッカー選手って。華はあるかもしれないけど。個人的には、出られない時のほうが面白い、それを見てもらうのもまた一つかなと思いました。

──放送の最後で「今は冬の時期」と言っていましたが、今を季節で表現するといかがですか?

内田 まあ、一応試合には出られているんで、春先。春先のジャケットが……。

──似合うくらい。

内田 そう、春先のジャケットが似合うくらいの季節ですね(笑)。
──ラウール(ゴンサレス)選手ら、ベテランが抜けたことでチームに変化はありましたか?

内田 やっぱり、CLで上まで行けたのは、ラウール(2012年夏にアル・サッドに移籍)と(マヌエル)ノイアー(11年夏にバイエルンに移籍)、彼ら2人の力がすごく強かったですし、それはチームみんなが分かっていることだと思います。でも、みんな心のどこかで「ラウールがいなくなったから」と言われたくないと思っているんですよね。特に、ラウールと同じ前めのポジションの選手が。海外の選手は気持ちが強いから、絶対に言われたくないと思うんですよね。

──なるほど。

内田 でも、僕が考えるのは、やっぱり失点したくないということです。DFですし。攻撃面は前の選手にある程度任せなといけないですけど、やっぱり昨シーズンは失点が多かったですから。特にセットプレーからの失点が。

──今シーズンのブンデスリーガ第2節、アウグスブルク戦で相手CKの時に、手を叩いて周りに声を掛けていましたよね。個人的に、これまで内田選手にああいうイメージがあまりなかったので、印象に残りました。

内田 その前のハノーファー戦でも、残り数分の場面でセットプレーからやられていたんで、同じやられ方は面倒くさいし、もったいないし。声を出すことで防げるなら、やってもいいんじゃないかなって、そんな感じですね。特に意識していたわけではないですけど、気づいたら勝手にという感じです。やっぱり勝負事なんだよなって思いながら。

──あの場面は何と声を掛けたんですか?

内田 「ラスト5分だから集中して」みたいな感じです。

──3年目ということで、新人時代とは違う自覚というか、気持ちの面で変化してきた部分はありますか?

内田 レクリエーションのゲームとか、よく若いチームと年寄りチームで分けるんですけど、今は自分がギリギリ若いほうに入っているんですよね。今まで若いほうでも真ん中くらいだったんですけど、ギリギリ若いくらいなんで、「ああ、自分もそういう位置になってきたのかな」って。それは鹿島でも代表でも、あまり感じなかったことですし、これまでいつも先輩に可愛がってもらってついて行くくらいの感じだったから。でも、意識か……どうですかね、あまり気にしていないというか、年下でも心の中では、そんなにアタフタしていない部分があったので、あまり変わらないかもしれないですけど、もっと“チームを引っ張れ的な役割”になってきたら変わるのかもしれないですね。まあ、そこまでやる気はないですけど(笑)。

──その辺は自分の中で線引きが明確なんですね(笑)。

内田 まだね、いいでしょ( 笑)。まあやらなきゃいけないんだろうけど、いいじゃないですか、キャラ的にも弟分みたいな感じだし。

──今のシャルケでは、チームを引っ張る役割を誰が担っているんですか?

内田 ボランチの(ジャーメイン)ジョーンズとか、あとは、(クラース・ヤン)フンテラールですね。

──フンテラールも。

内田 監督とそういう話をしたみたいです。あとは、キャプテンのベネ(ベネディクト・ヘヴェデス)あたり。それから、試合にはあまり出ていないけど、(クリストフ)メッツェルダーですね。メッツェルダーは経験がありますし、みんなの中でも存在的に大きいのかなと思います。レアル(マドリー)でもやっていたし、顔も広いし。

──序盤戦の手応えについてはどう感じていますか?

内田 練習でやっていること、みんなが意識していることをゲームで出せれば、ある程度やれるという手応えはあります。もっと切り替えを速くして、前からプレスしていければなと。セットプレーでサクッと失点しちゃうことがあるから、それはもったいないけど。

──では、そこを徐々に改善して。

内田 そうですね。上に行くには、やっぱりセットプレーで点を取られないというのは大事だし。セットプレーからの失点を防いで、逆にセットプレーから点を取れるようにしていきたいですね。

──「上に行く」という意味では、今シーズンは自身2度目のCLにも参戦。アーセナル、オリンピアコス、モンペリエが同じグループに入りましたが、印象はいかがですか?(11月26日現在、3勝2分けの勝ち点11でグループB首位、グループリーグ突破決定)

内田 ギリシャのチームということでは、(キリアコス)パパドプロスがいるんで、何となくオリンピアコスのイメージは。それと、ユーロ2012でギリシャの試合を見ましたけど、全員強くて、ガシャガシャ行く感じ、そういう印象があります。アーセナルは昨シーズンのCLでドルトムントと対戦したのを見ました。まあメンバーも変わっているし、なんとも言えないですけど。宮市(亮)に電話して聞こうかな、「どうだった?」って。

──昨シーズンのCLではベスト4に進出しました。「次はファイナルに残るためにどうすればいいか、そこに行けるようにというのが目標」と話していましたね。

内田 もちろん、難しい目標であることも分かっています。昨シーズンとかは、「(一昨シーズン)よくベスト4まで行ったな」っていう感じで見てましたし。グループリーグまでは、ある程度想像できるんですけど、決勝トーナメント、ベスト8、ベスト4あたりからは、ちょっと違う。インテルはもう壊れていたんであれですけど、マンU(マンチェスター・ユナイテッド。準決勝で対戦)と、バレンシア(ベスト16で対戦)に関しては、やっぱりちょっと「こいつらすげえな」ってインパクトがありました。スペインのチームはやっぱりいいですね。やりたくない。

──相手としてやりづらいと。

内田 面倒くさいです。ダイレクトでつないでくれたらもっと楽なのに、途中でタメたり、フェイントを入れて重心や体の向きを入れ替えたりとか、そういうのはやっていてすごく疲れる。ジャブのように効いてくる感じです。スピードもありますし。
──ファイナルに残る方法として「ビッグクラブに入る」ことも挙げていましたが、実際に興味を持っているクラブはありますか?

内田 (香川)真司がマンUに行ったり、長友(佑都)さんがインテルに行ったりしていますけど、やっぱり、僕はシャルケが好きだから。

──香川選手のユナイテッド移籍についてはどう感じましたか?

内田 「あのチームに入るんだ」っていう感じでした。「とうとう、あのチームに入る日本人が」と思いつつ、「まあ普通か、あいつなら」っていう感じもありますね。でも、ホント強かったですよ、マンUは。

── 実際に対戦してみて、チーム全体が、という感じですか?

内田 はい、もう全員ですね。全員がサッカーを知っているし、ボールを取れないというより触れない。サッカーには“追いどころ”ってあるんですけど、マンUの場合、そこがない。全員上手いから。パスして動いてというのが自然で、やっぱり、地力が違ったかなと。

──純粋に日本のファンも楽しみにしていると思いますが、ユナイテッドに日本人選手が入って活躍する姿を見たら、日本のサッカー少年にとっても夢が広がるのかなと。

内田 そうですね。真司なんて完全に技術、センスで勝負する選手じゃないですか。イングランドのディフェンスラインは速いし、でかいし、強いし。そういう相手に技術で向かい合い、上回る。それは、日本人の、なんて言うんだろう、鑑じゃないですけど、日本人の生きていく道はあいつのプレースタイルが一番簡単。1トップで180、190センチくらいの日本人がフィジカルで競い合うのはなかなか難しいかなって思いますけど、中盤でもらって、さばいて、ゴール前に顔を出してっていうのは、前線のほうで言えば、日本人の生きる道じゃないですか。

──では、後ろだとどうですか?

内田 でかいやつらの中に入って、パワーで勝負するのは分が悪いかなと思います。長友さんみたいに、ちっちゃくてよく動いて、粘り強くみたいな。特にイタリアって遅いじゃないですか。ボールを取ってからは速いけど、ゆったりしたゲームの中では長友さんのああいう動きがよく目立つと思います。基本的に、サイドバックの選手は海外でやれると思いますよ。

──ドイツでプレーして3年目になりますが、海外が自分に合っているなと感じる部分はありますか?

内田 周りを気にしなくていいところかな、私生活もみんな。雑音が少ないですね。言葉が分かんないっていうのもありますけど(笑)。

──こちらのメディアの記事に目を通したりはしますか?

内田 あまりしないですね。新聞も、結局見ても点数しか書いていないし。点数なんか誰が書いているのか分からないし、失礼な言い方ですけど、「プロじゃないじゃん」と。OBに言われたらいいですよ。名波(浩)さんとか、自分が小学校の頃に憧れていたああいう人たちに「ここもうちょっとこうしろよ」って言われたら、「はい!」ってなるけど、やっぱり、やっているのと見るのとでは、だいぶ違いますから。もちろん、指摘されて「分かっているんだけどな」っていうのはあるし、たまに、「あっ、よく見ているな」みたいなこともありますけどね。

──メディアの人間として、「選手の立場としてプロではない」という意見は耳が痛いところもありますね。

内田 でも、それが仕事ということも分かりますし、それはそれで仕方ないかなとも思います。逆に聞いてみたいのが、例えば選手の好き嫌いで「こいつ1点高くしてやろう」とかあるのかなと。絶対ありますよね(笑)。

──うちは選手の採点をすることがないので何とも答えようがありませんが、心情としては理解できないこともないですね。

内田 あると思うな。「あいつ、この前の取材で適当に受け答えしたし」とか。僕とかちゃんと答えないことが多いし、少なくともドイツでは絶対にあると思います。

──攻守を入れ替えたいので、話題を変えましょう(笑)。シャルケ1年目でドイツカップ優勝を経験。以前、「ブンデスリーガのタイトルを獲ったら泣いてしまうかも」と話していましたが、どう予想しますか?

内田 鹿島の時、1回目(の優勝)は泣いて、2回目は泣かなかったけど、3回目の時、一瞬だけ涙が出てきたんですよ。すぐ止まったけど。つらさに比例して、つらさと驚きに比例して泣いているんで、優勝の仕方もありますよね。最終節次第だと思います。競って競って優勝できたら、泣くかもしれないです。

──ただ、泣いてもすぐに涙を止めるタイプですよね。

内田 止めますね。

──そういった点も含めて、内田選手の飄々としていて、周りに流されない自分があって、というスタイルはいつ頃から身についたものなんですか? 先ほどの話でも出ましたが、例えば苦しい時でも、それを言葉に出さず、自分の考えに基づいて黙々と行動に移しますよね。

内田 いつ頃かはちょっと分からないですけど、口に出して言うのが「何かかっこ悪いな」って思うんですね。言葉にするとリスクもありますし。言わないでどんどんやったほうがいいんじゃね、みたいな。サッカー選手というか、人間は黙々と、コツコツと、結局そこかなって思っているんで。やる前にいくら言ってもね。失敗した時のリスクもあるし、別に言わなければ言わないでいいかなと。あとは、面倒くさいじゃないですか、いろいろと反応も。「内田、今、メンタル落ちちゃってるの?」みたいな。そうじゃないんだけどなって。そうなると親も心配するし。だからいいんですよ、内田篤人はコツコツやっていれば(笑)。

──平常心を保つコツみたいなのものはあるんですか?

内田 何事も大袈裟に予想しておくことですかね。そうすると、「ああ、この程度ね」みたいな感じになるので。それは生活でも一緒で、ドイツ人に「何時に終わりますか?」って聞くと、例えばその答えが「5時に終わる」だったとしても、5時半になっても6時になっても終わらないのが普通だったりするので、今は「5時に終わる」と言われたら、その2時間後くらいの予定で物事を考えるようにしています。「おまえら本当に嘘つきだな」って思いながら(笑)。その余裕が大事ですね。

──その余裕はドイツに来てからより強くなった感じですか?

内田 そうですね。サッカーでもそうだし、気持ちの持ち方も。「ああ、こんなもんね」って。まあ、余裕ができますよね。

──シャルケでの2年間で成長したなと感じる部分、3年目で成長させたいと思う部分はそれぞれどういうところですか?

内田 2年間やって、やっと生活も慣れてきたし、本当の意味で。楽しくなってきたし、仲間もお互いにちゃんと分かるようになってきて、ここからがちょっと本番という気はしますね。でも、あまり自分で自分を評価したことがないので、そこはお任せします(笑)。

──今もオフの時は自宅にいることが多いんですか?

内田 そうですね。あっ、成長したという点では、最近パスタを作れるようになりました。

──自炊ですか? ちなみにどんなパスタですか?

内田 いや、正確には、ついに僕が、麺を茹でるという行動に出た、ということです。

──なるほど(笑)。うまく茹でられますか?

内田 そこはけっこう自信があります。アルデンテでしたっけ、家庭科で昔やりましたけど。ただ、ソースは作れないので、結局、「パスタ作れてないじゃん」と言われたら、作れていないんですけどね。

──でも、大きな一歩じゃないですか。

内田 はい、大きな一歩です。米が炊けるようになって、パスタを茹でられるようになった。生活面では、だいぶ成長しました。

──確かに、主食はいけますね。

内田 かなりいけます。1年間は米とパスタで回せますし。

──日本のファンに向けてという意味で、シャルケの魅力とゲルゼンキルヘンの魅力について、内田選手がどういうふうに感じているかをそれぞれ教えてもらえますか。

内田 シャルケのファンって、本当にシャルケが大好きなんですよ。(吉田)麻也も言っていました。「ここのヤツらって本当にシャルケが好きだよね」って。ほとんどの人が車にステッカーや旗を貼ってるし、熱いですよね。歴史もあるし、選手もいいし。やっぱり、シャルケはビッグクラブ。でも、結局、2番手3番手ぐらいで止まっちゃうからね。バイエルンとドルトムント。そこを破るためには、一回勝っておかないと。鹿島もそうでしたけど、2番手3番手で終わるのか、殻を破って勝つのかという違いは大きいと思います。もちろん、そのためには補強とかお金も必要でしょうね。

──では、ゲルゼンキルヘンという街はいかがですか?

内田 親切な人もいるし、そうでないヤツもいる。ただ、ドイツは全体的にサッカー選手のことをすごくリスペクトしてくれるから、「あっ、有名人だ」みたいな感じで馬鹿にされないというか、そういう感じはします。「一緒に写真を撮ってください」と声を掛けられる時も、1枚撮ったらすぐに解放してくれますし。生活は楽かもしれないですね。ゲルゼンキルヘンは、あまり大きな街ではないし、観光地もないけど、その分、サッカーしかできないというか、ちょっと鹿島に似ている気がします。遊ぶところがないから、結局は家に帰るみたいな。観光できたり、遊ぶようなところがあると、また雰囲気もちょっと違うかなとは思いますけどね。

──確かに、ゲルゼンキルヘンの駅の周辺とかを見ると、スアジアムを満員にするほどの人がどこにいるんだろうって思いますね。

内田 ですよね。「どこに住んでるのかな、どこに隠れているんだろう」って思う。でも、試合になったら本当によく来ますよね。毎試合、スタジアムは満員になるし。でも、けっこういろいろなところから来るみたいですよ。ベルリンとかから毎試合バスに乗って来る方もいるみたいですし。

──自分には合っている場所ですか?

内田 好きですね、ゲルゼンキルヘン。

──日本からの観光者向けに、ここがオススメといった場所はありますか?

内田 取りあえず、ドイツはやめておいたほうがいいと思います。

──ドイツ全体ですか?

内田 はい。ドイツって本当に何もないから。ドイツに来るなら、フランス経由とか、イタリア経由で来たほうがいいと思います。

──どこか他の国を観光した上で?

内田 そう、どこか観光して、その帰り道にドイツのスタジアムに寄るみたいなほうがいいと思います。ドイツ目当てで来たら、本当に何もないと思うし。

理想のサイドバック像、日本と世界の違い

──ここからは、「サイドバック」というテーマで話をうかがいます。内田選手にとって、サイドバックが担う最も大切な役割とは何ですか?

内田 やっぱり、ディフェンスですね。もちろん、「攻撃の始まり」ということも意識していますけど、僕らはいくら上がって前に行っても、良いタイミングで上がれるのは(1試合で)多くて4、5回程度。良いチーム、レベルの高いチームとの試合だと、相手もついてくるし、「無駄走りだな」っていう時もあります。基本的には、前の選手に伸び伸びやってもらえれば、前の選手の守備の負担を減らせれば、それだけでいいと思っています。あとはバランス。サイドで重要なのはバランスですね。

──以前、「気を遣えるプレーヤー」という表現をされていましたね。

内田 それが大事だと思います。

──今の自分はどれくらい「気を遣えるサイドバック」だと思いますか?

内田 そこそこです。「危ないな」って思われる前に出てこられる選手になりたいなって思いますね。「あそこ危ないな」っていう前に潰せる選手。コンちゃん(今野泰幸)とか、満男さん(小笠原満男)みたいに、ポイント、ポイントで潰せる選手ですね。ポジショニングでどうにかなるなら、それで終わらせるのもありですし。そこは、外から見ていても分からないと思いますけど、相手にしたら本当に嫌なタイプかなと思います。

──小笠原選手はまさに「気を遣えるプレーヤー」ですね。

内田 あの人は後ろから見ていても、「ここで前向かれたら危ない」と思ったらファールで止めてくれるし。やっぱり、サッカー知ってんなっていう。ああいう人がいると、後ろがすごく楽ですね。

──先ほど、「サイドバックの選手は海外でやれる」という話が出ましたが。日本代表のメンバーでも多いですよね。

内田 多いですね。ダブル酒井(酒井高徳、酒井宏樹)に長友さん、僕。長谷部(誠)さんもサイドバックやるしね。だから、サイドバックはやれるんですよ、たぶん。ある程度、ボールを止めて、蹴れれば。そんなに難しいポジションではないと思います。

──目標とするサイドバック、あるいは参考にしている選手はいますか?

内田 それが、あんまりいないというか、見ていないですし、ゲームを(苦笑)。いろいろな選手を見て、良いところだけパクるみたいな感じですね。でも、ちょっと矛盾しますけど、“自分の形”ってあるじゃないですか、プレースタイルというか。それがゴリゴリのプレースタイルなら、今さら僕には無理だし。

──これは個人的な意見ですが、サイドバックというポジションの良し悪しは、一般的には分かりづらい部分もありますよね。

内田 難しいと思います。ちょっとサッカーを知っている人なら別ですけど、分かりにくいですよね。そんなに「ドーン」って行くわけでもないし、「ここであそこにパスか」とか、「こういう読み方ね」みたいなものって、なかなか分かりにくいと思います。

──今後、内田選手がサイドバックとして更に成長するために、どんなことが必要だと感じていますか?

内田 やっぱり、チームを勝たせないといけないので、ある程度の消える時間、自分にとっては「サッカーつまんねえな」っていう時間帯も試合中にはあるんですけど、ここで顔を出さないほうがいいとか、ここで動かないほうがいいとか、それを意識せずにチームのためにと思える、そう自然に動ければチームはうまく回りますよね。

──そこで「つまらない」と思う瞬間があることは、自分の中では消化できることですか?

内田 まあ、「勝ちゃいいか」って。ガンガン行って、行けばもらえるし、ある程度の形になるんですけど、そこで体力を使うより、残り5分の守備でガッツリ寄せられるほうが大事かなって思います。

──ヨーロッパ、そして日本代表でプレーする中で感じる「日本のサッカーと世界のサッカーの違い」はどんな点にありますか? Jリーグを含めた日本のサッカーとヨーロッパのサッカーの一番の大きな違いはどこに感じますか?

内田 それ、昔、ヤナギさん(柳沢敦)に聞いたことがあるんですよ。ヤナギさんがイタリアから鹿島に戻って来た時、僕がちょうど1年目で入ったから、「何が違うんですか?」って聞いたら、ヤナギさんは「歴史だ」って。まさにそのとおりというか、違いは“歴史”ですね。

──それはピッチの外の部分も含めて?

内田 雰囲気もそうですし、もう根づいている部分がありますよね。それを日本がひっくり返せないのか、追いつけないのかっていうと分かりませんけど、今は、差がだいぶあると思います。もちろん、スタートも違いますけど。

──語弊があるかもしれませんが、日本では、各クラブ以上に代表人気が顕著ですよね。

内田 そうですね。でも、まあ、それもいいと思います。代表さえ見てくれるなら。ただ、やっぱり違うじゃないですか。こんなに面白いスタジアムがあってとか、こんなにいいサッカーをしているチームがあってとか、もっと見てほしいなって思います。

──代表というテーマで言うと、日本がワールドカップでベスト8に進むために、優勝を目指すために、世界の本当の強豪と肩を並べ、上回るために、クリアしなければいけない課題や向上すべき点はどこだと感じていますか?

内田 強いチームと戦って、勝つ方法を明確にするということが一つあると思います。アウェーで強いチームとやる機会は少ないので、そういう試合は大事ですよね。コンフェデ(コンフェデレーションズカップ)とか、フランス、ブラジルとのアウェー戦もそうだし。引くなら引くで、そういう戦い方もいいと思っています。アウェーで、ガンガン普通にやれるとは思っていないですし。上を目指すには、“勝ち癖》と、強い相手に勝てる方法を身につけることが大切。しっかり現実を見ながら、やっていくことだと思います。

――フランス戦ではフランク・リベリーとのマッチアップもあり得ますね。

内田 何か、みんな(代表のチームメート)勘違いしてるんですよ。僕が簡単にリベリーを止められるって思ってる。ふざけるなと。どんだけ、死ぬ気でやってるかって話ですよ(笑)。

サッカー選手としての夢、人としてかなえたい夢

──少し話は変わりますが、色に例えるなら“黒”を連想させる人間になりたいとおっしゃっていましたね。

内田 実際、他の選手とかに聞いたら「内田は黒だ」っていう答えか分からないですけど、「黒だ」と答えてほしい。「黒っぽい」って言われたいですね。

──それは昔から?

内田 いや、昔は白で、さわやか、純粋みたいなイメージ。まあ、さわやかな青年でいようみたいな感じだったんですけど(笑)、いつからか、黒になりました。ちょっと危ない部分があり、生意気な部分もあり、でも根は堅いっていう。そういうイメージいいなって。

──以前、海外でプレーすることで、より日本を意識させられるようになったと話していましたが、日本のどういう部分が好きになりましたか?

内田 海外にいると、日本のニュースをすごく見るんですよ。日本にいる時よりもずっと。基本的にテレビは全然見ないけど、ニュースを見ると、スポーツとか政治とか、まあ芸能だったりもそうですし、ちょっと広がる。ドイツの生活と比べると、「ああこんなことで困ってんのか」みたいなのもありますし、逆にこっちで困るようなことが日本ではなかったりして。例えば、電車は決まった時間に必ず来ますし、「ああ、やっぱり日本っていい国だな」、「やっぱり日本人っていいな」と思います。サッカーでも、協調性とか、真面目に練習することとか、日本人にとっては自然なことを、海外の選手や監督は特別な長所として認めてくれますし。今は昔よりも、日本人である誇りのようなものを感じながらプレーしています。

──そういう点では、内田選手のスタイル、必要以上に主張しないという姿勢は、もともと日本人らしいスタイルなのかなと思います。

内田 完全に日本人でしょ。侘び寂びじゃないけど、黒子じゃないけど、表に出ない。自分が前に前にと出ない。こっちの人って「こんなに頑張りましたよ」とか、「こんなに痛いのに頑張りました」とかが多くて、そういうのはあんまり好きじゃないですね。

──それは昔から?

内田 そうですね。要するに、普通の顔してすごいことやりたいんですよ。

──それで、『スラムダンク』の流川(楓)好き。

内田 そうです、そんな感じです。もちろん、スタイルは人それぞれだし、好みだから、いろいろあっていいと思うんですけど、涼しい顔してやるのがカッコイイじゃないですか。漫画とかでも、キャラクターが全員集合する時、横にスッと立っている奴がめちゃくちゃ強いんですよ。伝わるかな? 『ドラゴンボール』で言うと、(孫)悟空とか(孫)悟飯、(孫)悟天がいるけど、脇のほうにいるセルとか、(魔人)ブウとか、隠れキャラのジョーカー的存在が絶対に強い。自分は、あのくらいでいいかなと。僕は主人公じゃなくていい。主人公は絶対に攻撃陣だし、攻撃陣じゃないと逆に困るし。

──確かに、悟空が「ディフェンスやる」って言ってきたら困るかもしれないですね(笑)。

内田 そう、香川真司や本田圭佑、あそこが主役じゃないとダメでしょ。

──そんな内田選手が、サッカー選手として一番大切にしていることは何ですか?

内田 昨シーズン、やっぱり出られない時期があったし、出られない時って「調子悪いな、出られないな」と思うんですけど、今思えば、「なんだ、結局はケガしてただけじゃん」って。ダメな時ってどんどん沈んでいっちゃうし、逆に、良い時って「よしよし」って思っちゃうけど、その起伏をなくせば、実はたいしたことないなって考えるようになりました。ちっちゃな悩みも、おっきな悩みも、それこそ、おっきな喜びも、後々考えれば、本当にたいしたことないなって。だからこう、その時の感情に左右されないことが一つ。でも、やっぱりサッカーできて楽しいな、幸せだなっていうのは、常に感じていたいです。それはやっぱり昨シーズンがあったから、一所懸命頑張ろうとか、100パーセントでやろうとか思いますし、こういうふうにピッチを離れたところでもいろいろな人に会えるわけ ですし。そういうのは楽しいなって。

──サッカー選手としてかなえたい夢はいかがですか?

内田 夢、なんだろう……記録って抜かれちゃいますしね。最年少ゴールとか、日本人唯一のCLベスト4とかいろいろ言われていますけど、結局、そのうち新しい記録が出てきますしね。CLで言えば、真司なんてそのうちすぐに僕を抜くでしょうし、長友さんも抜ける位置にいるんで、すぐだし。記録とかではなくて、なんかこう、通の人を喜ばせたいなと。“玄人受けする選手”になりたいですね。ちょっと通な感じで、「知ってんね、お前」みたいなところを目指したいです。というのも、高校の時に先生にも言われたんですよ。梅田(和男)先生という監督さんと、渡辺(勝已)先生っていうコーチの方がいたんですけど、渡辺先生には「玄人受けするような選手になれよ」って言われました。最初は意味が分からなかったんですけど、プロになって満男さんとか見始めたら、こういうことかと。代表だったら、中田(浩二)さんとか。当時、“黄金の中盤”みたいなこと言われてたじゃないですか。稲本(潤一)さんとか、中村俊輔さんとか、そこももちろんいいんだけど、玄人受けする選手ってカッコイイなって。

──では、人間“内田篤人”としてかなえたい夢は? 10年後、20年後の自分をどうイメージしていますか?

内田 10年後だと34。サッカー続けているかな、続けていないかなっていうくらいですね。

──20年後は?

内田 44歳か、そう考えると、キング・カズ、カズさん(三浦知良)はすごいですよね。ああいう方は、毎日、サッカーに幸せを感じ続けられる人なんだと思います。本当に尊敬します。

──同感です。

内田 あとは将来でいうと、結婚していたいですね。

──それは10年後?

内田 10年後。できればサッカーを続けていたいし、続けていなかったとしても、幸せでいたいですね、家族と。もしサッカーを続けていなくても、家庭を持って幸せならいいかな。

──もし将来、男の子が生まれたら、サッカーをやってほしいですか?

内田 一応サッカーボールは渡してみますけど、やりたくないならやらなくていいです。でも、何かしらスポーツはやらせたい。特に団体競技がいいかなと思います。部活をやっておけば、まあ大丈夫だろうって思いますね。別に一流を目指せというわけじゃなくて、人としての思いやりとか、集団で行動することの大切さとか、人に迷惑を掛けるなとか、学校行事プラスで部活はやってほしいですね。

──では、最後の質問です。内田篤人の生き方、スタイルを一言で表現すると?

内田 ジョーカー。つかみどころがなくて、でも、いたら心強い。変化できるし、変化しなくてもいいし、みたいな感じですね。

──今の内田篤人は、ジョーカーというスタイルを目指す上で、どれくらい自分の理想になっていますか?

内田 40パーセントかな。それって周りの認識も必要じゃないですか。

──確かに、自分で「俺はジョーカー」と思っているだけじゃ成立しませんね。

内田 そう。「ジョーカー? いや、あいつ完全にクリリンだから」とか、「スペードのエース」じゃんみたいな(笑)。

──ジョーカーというスタイルが理想というのはいつ頃から?

内田 やっぱり、段々ですね。いろいろ経験して、思うこともいっぱいあったし、少しずつだと思います。

──最後と言いつつ、これが本当に最後の質問です。僕は茨城出身でして、かなり個人的な希望として、内田選手にはいつか鹿島に戻ってきてほしいなと。その可能性はいかがですか?

内田 いつかは戻るでしょうね。墓は鹿島でしょう。できるだけ動ける体で戻りたいし、鹿島に恩返しをしたいなと思っています。それがいつになるか、どういう形になるのかは分からないですけど、仮に戻るとすれば、鹿島アントラーズというチームが好きだったのか、鹿島アントラーズにいた人たちが好きだったのかによって、いろいろと変わってくるのかなとも思います。一緒にプレーしていた人が全然いなくなっていたらどうしようとか、知っているスタッフやフロントの人が全部いなくなっちゃっていたらどうしようとか考えたら「うーん」ってなるけど、でも、やっぱり鹿島が一番ですね。

 インタビュー終了後、シャルケの練習を取材。「サッカーに関することはだいたい分かります」という言葉を証明するように、練習の合間に選手たちと声を交わし、練習後にサポーターに囲まれる内田篤人の姿を見て、その“愛される理由”を改めて実感した。

 サインを依頼する日本人観光客のグループ、「ウッシー、ウッシー」と連呼しながら駆け寄る地元の子供たち、記念写真を頼む若いカップルや、その光景を優しく見守る老夫婦。一人ひとりに丁寧に対応し、こちらに足を運んでくれた彼に「すごい人気ですね」と声を掛けてみた。

「いや、まだまだですよ(笑)。インタビュー楽しかったです。気をつけて帰ってくださいね」

 内田篤人は、愛されるわけだ。

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