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下平隆宏(柏U-18コーチ)「哲学を貫き、勝負にこだわる」

2012.11.24

Jリーグサッカーキング12月号 掲載]
柏レイソルアカデミーの元気がいい。4年前のユースチームが“黄金期”を築き上げ、その後もコンスタントにトップチームに選手を輩出してきた。レイソルの哲学を染み込ませると同時に、“グループとしていかに戦っていくか”という育成理念を持つ。将来の太陽王を目指す若き選手たちを指導する指揮官に、アカデミーの哲学を聞いた。
「哲学を貫き、勝負にこだわる」下平隆宏
インタビュー・文=鈴木 潤 写真=兼子愼一郎

下平隆宏(しもたいら・たかひろ)
1971年12月18日生まれ。青森県出身。五戸高を卒業後、柏レイソルの前身である日立製作所へ。93年から00年までレイソルでプレーし、主にボランチとして活躍した。その後はFC東京でプレーし、03年に柏へ復帰。04年の現役引退後は指導者の道に入り、2010年から柏レイソルU-18の監督を任されている。

トップチームの理想的な形は「8+3」のメンバー構成

アカデミーを指導する上で、クラブ側からはどのようなことを求められているのでしょうか?

下平 まず、アカデミーには「8+3」という目標があります。トップチームのスタメン11人中、アカデミー出身選手が8人、外国籍選手が3人、その11人で試合をスタートができるようにという考え方です。もちろん、外から来る人間を排除するという意味ではなくて、目標の一つに「8+3」があるということです。

実際に昨シーズンは、それに近い数字を残しました。

下平 優勝を決めた最終節の浦和レッズ戦では、5人のアカデミー出身選手がスタメンでした。近い将来、「8+3」に近づいていくと思いますよ。

指導する上で気をつけていることは?

下平 U─18では、ある程度アカデミーの哲学を植え付けながら、勝負にこだわるところも求めています。例えば、U─12でいろいろなことを学んでいる段階にもかかわらず、勝負だけにこだわっていたら、アカデミーの軸はぶれてしまうでしょう。U─15も勝利だけを求めるのなら、もう少し違ったサッカー、違った哲学が生まれてくると思います。しかし最終的にはプロになった時、サッカー選手としてどう成功するかが重要なので、U─18ではそこにもこだわります。プロの世界には、やはり勝負という要素が入ってきますから。ただ、こだわり過ぎるあまり、今までやってきたことをないがしろにするつもりはありません。今までどおりベースをしっかり築き上げた上で勝利につなげることを大切にしています。

今年は日本クラブユース選手権で優勝し、プリンスリーグ関東では首位を争っています。また、U─18から3選手がトップチームに2種登録され、育成も結果も良いバランスで進んでいるように思います。

下平 我々は選手の集団を“グループ”と呼びますが、今年は本当に良いグループなんです。「自分だけ目立てばいい」とか「自分だけが活躍すればいい」などと和を乱す選手がおらず、全員が「このグループで成長していくんだ」と考え、みんなで支え合ってくれていました。僕がよく選手に話すことに、「チーム平均点」というテーマがあります。例えば昨年であれば山中亮輔という飛び抜けた選手がいましたが、他にも選手がいる中で、それを合わせたものがチームの平均点になります。その平均点が今年は高いんですよ。質の高いタレントがいて、平均点を下げるような選手も少なかった。それは選手みんなが一体感と向上心、そして意欲を持ってチームの平均点を上げていこうと考えてくれたからだと見ています。いい例がGK中村航輔のケガですよね。クラブユース直前の負傷離脱で代えの利かないポジションだったんですが、2年生の伊藤俊祐をみんなが引っ張ってくれて、チームとしての平均点を下げずに済みました。


Jリーグサッカーキング12月号 掲載]

泣き崩れた相手選手を見て気を引き締めました

「哲学を貫き、勝負にこだわる」下平隆宏
今年は春先にダラスカップに出場しました。海外での経験が、チーム全体の意識を高めたのでしょうか?

下平 ダラスカップの経験は大きかったと思います。U─18は、4年前の工藤壮人たちの世代が海外で結果を出したこともあって、最初から互角に渡り合って勝つことを意識して出場しました。海外での経験は大きいですし、秋野央樹や中村は年代別の日本代表を経験した選手で、国のために戦った経験を持っていましたから。

海外チームとの対戦だからこそ、経験できたものとは?

下平 フィジカル面は圧倒的に違いました。あとはゲームに対する集中力。僕らはボールを動かしながらポゼッションをしていても、一つの些細なミスで大ピンチを迎える緊張感やスリルを味わいました。日本では多少ミスが出ても、素早く切り替えて守れば防げたり、自分たちのペースに持ち込めます。ただ、海外のチームに一度主導権を渡してしまうと、それを取り返すのにすごいパワーが必要ですし、そのまま主導権を取り返せずに失点することもありましたから。ダラスでは貴重な経験ができましたね。

今年のU─18はメンタル的な部分で大きな成長を感じます。クラブユース決勝、ヴェルフェたかはら那須との天皇杯1回戦、プリンスリーグ関東の桐光学園高との首位攻防戦と、大事な一戦で逆転勝ちが目立ちます。

下平 今年のチームには抜群の勝負強さがあります。ただ、勝負強さは何から生まれるのかと言ったら、それは自分たちのサッカーを持っているからなんです。アンラッキーな失点を喫するケースもありますが、自分たちのサッカーをやっていれば追いつき、そして逆転できると思って選手たちはプレーしています。

8月にはクラブユースで初優勝を成し遂げました。選手の頑張りもありますが、下平監督が引き寄せた大きなポイントがありましたね。

下平 抽選ですか?(笑) グループリーグ最終戦でセレッソ大阪U─18に負けた時は敗退を覚悟したんですけど、他会場で東京ヴェルディユースが名古屋グランパスU18に負けて、勝ち点、得失点差、総得点、すべてが並んで勝ちあがりを抽選で決めることになったんですよね。「抽選かよ……」って青ざめました(苦笑)。ものすごく緊張しましたよ。

選手たちの様子はいかがでしたか?

下平 うちはスタッフだけが抽選会場に行きました。ホテルから出ていく時、選手たちから「お願いします! シモさんなら大丈夫だと思ってます!」って言われて。「おいおい、プレッシャーを掛けるなよ」と思いました(笑)。

その抽選の様子は?

下平 僕は左利きなので、抽選の封筒は最初から左側を取ろうと決めていて、コーチにもそう話していたんです。でも、ヴェルディの監督とジャンケンをして、勝ったほうが先に引くことになって、僕はジャンケンで負けてしまったんですよ。それでヴェルディの監督が左の封筒を選び、「左を取られた」と思って右を選んだら、その封筒がE組2位だったんです。ジャンケンで勝って、予定どおり左を選んでいたことを考えると恐ろしいですよ。僕はその封筒を宝物にしています。選手全員に名前を書いてもらって、今でも僕のバインダーに挟んであります。

抽選によって勝敗が決まってしまうのも残酷ですね。

下平 抽選でうちと名古屋U18が勝ち上がったんですが、ヴェルディは抽選会場のホテルに選手全員が駆けつけていて、監督から結果を聞いた時にみんな泣き崩れて……。それを見て、改めて事の重大さを認識しましたし、安堵感と同時に自分たちは優勝するしかないと、グッと気を引き締めた記憶があります。

クラブユース優勝後、選手たちに変化はありましたか?

下平 もしかしたら“燃え尽き症候群”にとらわれて停滞してしまうかと心配したんですが、すぐに天皇杯の県予選が始まり、間もなく中国遠征で世界の強豪と対戦することになっていました。満足感を得る前に次の目標ができた流れが良かったと思います。階段を一気に駆け上がっていった感じでした。


Jリーグサッカーキング12月号 掲載]

U─18では哲学を貫いた上で勝負にもこだわり続けます

「哲学を貫き、勝負にこだわる」下平隆宏
天皇杯2回戦では、トップチームとの兄弟対決が実現しました。

下平 正直、イベント的な雰囲気がありましたね。当初は自分たちのサッカーを披露できれば満足だと思っていたんですが、今になって思えばもっとトップチームを分析して、勝負に徹するべきだったかなと反省しています。勝つための守備を綿密に練って、トップチームが主導権を握っている時に、こちらから守備を仕掛けて、追い込んで奪う戦術を落とし込んでいけば、もっと違うゲームになったかもしれません。高校生が相手の場合、僕らが主導権を握れないことはほとんどないので、本当の格上と試合をして主導権を完全に握れない時にどう戦うかが今後の課題になるでしょうから。それでも選手からすればすごく良い経験だったと思います。あの雰囲気の中、憧れの日立台で、憧れのトップチームと真剣に体をぶつけ合って試合ができた。ただ、トップチームが相手ではどこか遠慮の気持ちが働いてしまうので、今度は違うJクラブと遠慮なく対戦してみたいです。

天皇杯の兄弟対決、クラブユース優勝はどのような意義がありましたか?

下平 U─15の指導者は、この試合を踏まえて「3年後は、君たちがあそこでトップチームと戦うんだ」という話ができますし、選手たちもモチベーションが上がったでしょうね。クラブユースのタイトルでは、僕ら指導者やスタッフが大会を通じて一つになれたと思っています。そして「今までやってきたことは間違っていない。これを突き詰めてやっていこう」という意思確認ができた。アカデミーの方向性が間違っていないと再確認できたことは、クラブとしても大きかった。4年前の世代がアカデミーにおいてモデルケースになったように、どうすればあのようなグループを作れるのかという部分で、今年のチームもモデルケースになり、それが次のサイクルにつながっていくと思います。

アカデミー指導者の皆さんは何かを成し遂げても満足せず、いつも先を見て行動しているように思えます。

下平 時代によってサッカーは変わっていきますし、満足していたら取り残されてしまう。選手は年代が低くなればなるほど、ものすごいスピードで成長しますから、指導者も一緒に成長していかなくてはいけません。だから満足感はなかなか得られないのかもしれない。哲学を持って育成に力を入れるクラブはこれから増えていくでしょうから、自分たちは満足せず、貫いてやっていくことが大事だと思います。

では、今後の目標を聞かせてください。

下平 U─18は今年、クラブユース、プリンスリーグ、Jユースカップのタイトルに加えて、天皇杯でトップチームと対戦することを目標にやってきたので、残りのタイトルを狙いにいきます。リーグ戦は長丁場で、優勝するには安定した力が必要になってきます。プリンスリーグはその力を証明する場だと思うし、その後はJユースカップで有終の美を飾りたいと思います。アカデミー全体の目標としては、コンスタントに選手を輩出していくのは大前提。すべてのカテゴリーでタイトルを獲得できればいいですが、同時に成熟した選手をトップチームに何人か輩出できるかが目標にあります。先ほども述べたように、U─18では哲学を貫いた上で勝負にもこだわります。僕らの目標は、スタイルを一貫した中でトップがJリーグのチャンピオンになり、AFCチャンピオンズリーグで優勝すること。そのためにトップで活躍できる選手を輩出し続けたいと思います。

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