ニューカッスル戦で復帰を果たしたFWウェイン・ルーニー
香川真司がドルトムントにおけるブンデスリーガ2連覇を引っさげユナイテッドへと加わり、宿命のライバルチームでプレミア得点王の称号を手にしたロビン・ファン・ペルシーがオールド・トラッフォードへと足を踏み入れた。
マンチェスター・Uにおける今夏の大きな話題が2人の加入であったことに疑いの余地はない。
しかし、9月29日に行われたトッテナム戦では、ユナイテッドにおける中心選手が誰なのかが、改めて明らかになった。やはり、ウェイン・ルーニーの存在なくしてユナイテッドの躍進はありえない。
文=松岡宗一郎(サッカーキング編集部)
写真=Getty Images
前後半で変貌したユナイテッド
スコアボードの数字を変えるための作業は、あまりにもあっけなく発生した。前半2分、ディフェンダーのヤン・フェルトンゲンにするすると突破を許したユナイテッドはそのままゴールを決められてあっさりと先制されてしまう。しかも32分にはギャレス・ベイルにも侵入を許し、2点のビハインドを負って前半を終えた。
パトリス・エヴラが「45分しかプレーしていないに等しかった」と語ったように、前半はほとんど“空白の時間”と表現して差し支えないほど空虚なものだった。ルーニーをベンチに置き、ファン・ペルシーをワントップに、香川をトップ下に置いた4−2−3−1システムを採用したが、攻撃陣が噛みあうことはなかった。
マイケル・キャリックとポール・スコールズは展開力こそあれど、サイドやラインの裏を狙うパスがほとんど。香川がボールに触る回数は数えるほどで、その分ユナイテッドの攻撃は迫力に欠け、スパーズに主導権を握られることになったのだ。
流れを引き寄せた潤滑油ルーニー
しかし良いところのなかったユナイテッドが後半は変貌を遂げる。その理由が、ルーニーの投入にあったことは誰の目から見ても明らかだろう。ルーニーはファン・ペルシーと2トップを形成し、香川は左サイドへ回った。それに伴い、中盤における密度は減ったものの、選手同士の距離感をルーニーが埋める役割を果たす。サイドに流れた香川との関係性も良好。トップ下にいたときの香川は、小さなスペースの中で生きる道を探していたが、後半からは基本的にポジションをサイドに置きつつも、中央へ侵入したり開いたりとドルトムント時代を思い起こさせるプレーぶりを披露する。
中盤の充実に伴いファン・ペルシーも徐々に登場回数が増え、53分の香川のゴールに繋がったといえる。結果的に守備が破綻して敗れたユナイテッドだったが、攻撃面に関しては一定の収穫を得る試合となった。そしてその中心にいたのが、ルーニーであることはもはや疑いようのないことである。
ルーニーが香川とV・ペルシーをいかす
シーズン序盤はコンディションにばらつきが出やすく、ルーニーの場合はここ数年の例に漏れず、今年もスロースタートだった。加えて負傷離脱してしまったこと、攻撃陣に強力な選手が加わったことで、「ルーニー不要説」などと謳うメディアも早々に登場する事態となった。
しかし騒ぎ立てるべきはルーニーが必要なくなったか、ではなくルーニーが負傷離脱したユナイテッドが力を発揮できるのか、といったところだったわけだ。
ルーニーはクリスティアーノ・ロナウドやリオネル・メッシのように爆発的に得点を量産するタイプの選手ではない。そのやんちゃな性格とは裏腹にピッチ上では誰よりも献身的で、攻撃はもちろん守備への貢献も怠らない従順な青年だ。C・ロナウドがいた時代にも、自らが主役になれる才能がありながら、カルロス・テベスとともにサポート役を演じている。
ファン・ペルシーや香川は、必ずしも使いやすいタイプの選手ではないかもしれない。実際、スパーズ戦の前半はどちらも多くの時間帯で消えていた。しかし、ルーニーが持ち前の献身さで2人の繋ぎ目となれば、ユナイテッドの攻撃陣はさらに魅力を増していくはずだ。
守備面の改善など、課題も多々あるユナイテッドだが、ルーニーという潤滑油をさしたことによる効率化は、ピッチに目に見える形で現れていた。