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勝利とともに大きな収穫…香川の“代役”清武弘嗣が持ち込む競争原理/イラク戦

2012.09.12

清武弘嗣

写真=兼子愼一郎
文= 小谷絋友

 

 日本代表監督時代に試合を控えて先発メンバーを明かしていた姿は、もはや見る陰もない。前日会見で「奇策で挑むようなことは必要ない」と語ったジーコ監督の言葉とは裏腹に、イラク代表は最終予選で初先発となる選手を10人起用して、日本とのアウェー戦に挑んできた。

 

 日本は思わぬ顔ぶれが並ぶ相手に対して、序盤は劣勢に立たされた。GK川島永嗣の好セーブによって難を逃れたが、開始4分に許したCKからの決定的なヘディングシュートから先制点を奪われていたならば、試合の趨勢が大きく異なっていた可能性も十分にあったと言える。平均年齢22.9歳の若手で固めてきたイラクは、荒削りながらもセットプレーとカウンターという自身が持つ武器を特化させることで、自力に優る日本へ対抗してきた。

 

 一方、平均年齢が27.3歳と上回る日本でも、イラクの選手と同世代となる22歳の清武弘嗣が突き上げを印象づけている。

 

 清武自身は既にA代表の常連だったものの、先発出場はイラク戦で3試合目と、これまではスーパーサブ的な起用が主だった。今回も香川真司が前日練習で感じた腰の違和感から出場を回避したことでスタメンの座が回ってきた形だが、フタを開けてみると代役としてではなく、自身の持ち味を発揮することでチームに新たな武器を与えている。

 

 日本はこれまで、4-2-3-1のフォーメーションの「3」にあたる部分で、岡崎慎司、本田圭佑、香川を並べてきた。本田と香川はパスの出し手でもあるが、ゴールへの意識を考えれば全員がフィニッシャーの性質を色濃く持つ並びだったとも言える。6日に行われたUAE戦の後半と同じ並びではあったが、イラク戦では香川の代わり、よりパサーとしての特長を持つ清武が起用されたことで、今までは香川や岡崎がゴールを狙っていたサイドからのクロスにも、本田が飛び込んでくるなど、新たな攻撃のアプローチを生んでいた。

 

 また、トップ下が本来のポジションである香川を左サイドで起用したため、度々議論を呼んでいた連係面の問題も、「3」のポジションならばどこでもこなせる清武が入ることで、今回は解消されている。

 

 6月に行われた最終予選の3連戦を経たことで、先発メンバーは成熟。アルベルト・ザッケローニ監督もイラク戦後、「現時点で選ばれている選手のコンディションが良い場合は、これ以上の選手を探すことは難しいと思う」と語ったが、新戦力に限らず代表の常連にとっても、先発メンバーの壁は厚いものだった。しかし、今回の清武の他にも、内田篤人の出場停止により数試合先発出場が続いていた駒野友一が抜群の安定感を示すなど、硬直化が懸念され始めたメンバー構成にも、変化の見られる可能性が出てきた。香川や内田が代表で確固たる地位を築いていることを考えれば、ポジションが被る選手同士ではなく、数選手を巻き込んだ大幅な配置変更に及ぶかもしれない。

 

 日本は、最終予選4試合を終えて勝ち点を10まで伸ばし、首位ターンを決めるとともに独走態勢を築きつつあるが、予選後半戦ではアウェー戦が3試合残る。敵地に乗り込んだオーストラリアがヨルダンに敗れたことを考えれば、楽観的になるにはまだ早いだろう。しかし、11月のオマーン戦や10月のフランスとブラジルと対する欧州遠征を前に、チーム内に新たな競争原理の兆しが見えたことは、勝ち点3とともに大きな収穫と言えるのではないか。

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