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よみがえる過去の記憶…日本は敵将ジーコをどのように迎えるのか/イラク戦

2012.09.11

 

 

 試合を前にしたやり取りから、既に懐かしさが漂っている。

 選手に対して、「私は率いているチームに最後まで諦めない、100パーセントの力を出すことをいつも求めているんだ」という考えとともに、各々に信頼を置く姿勢は揺らいでいなかった。「非公開にする理由があるのかい?  フットボールはミステリーじゃない」と語り、試合前日でも包み隠すことない練習も変わらぬままである。

 日本代表は、11日にホームで行われるブラジル・ワールドカップのアジア最終予選で、かつて日本代表を指揮したジーコ監督が率いるイラク代表と対戦する。今回の試合で、日本は最終予選を折り返す。現在は、2位のイラクと同勝ち点で3位につけるオーストラリアより消化試合が1試合多いものの、勝ち点5差をつけて首位に立つ。イラク戦で勝利を挙げるとなれば、アウェー戦が3試合ある後半戦に向けても、一気に見通しは明るくなる。

 大事な戦いになるのは間違いない。ただ、試合直前になるにつれてジーコの存在はますますクローズアップされていく。

 遠藤保仁が「対戦相手はジーコではないので。相手はあくまでもイラク」と語るように、対戦相手の指揮官がここまで取り上げられる試合は珍しい。それでも、実際にピッチ上でイラク代表と対峙する選手たちと異なり、周囲にとっては意識するなというほうが、かえって不自然になってしまう。

 ジーコが日本を離れ、早6年の月日が流れた。代表監督以前の鹿島時代はもちろん、三顧の礼を持って迎えられた2002年から批判が渦巻く中で退いた2006年まででも、振り返れば多くの忘れがたいシーンが蘇ってくる。

 豊富なタレントを中盤に並べることで、観るものの期待感を高まらせた就任当初。中国では逆境に陥りながらも驚異の粘りでアジアカップ制覇を果たした。そして、ドイツ・ワールドカップでの敗戦の記憶。

 期待されたワールドカップでの惨敗や退任会見での発言が物議を醸したことで、決して円満とは言えない状況で日本を発った印象があったが、昨年6月のチャリティーマッチ参加と被災地訪問、今回の来日で「日本のサポーターには感謝を言いたい。また戻ってきて、皆さんに温かく接してもらい、写真を撮ったり握手をしたり、抱きついたりしてくれた。日本での15年が実りあるものだったと自覚し、とても幸せな気分になったよ」という発言から、喧嘩別れでなかったことは証明されている。

 ジーコは退任後、ワールドカップ最終予選という真剣勝負の舞台で、そして対戦相手の指揮官として、初めて日本代表の前に姿を現すことになる。待ち受けるのは、敵軍の将に向けられた盛大なブーイングか。それとも、日本サッカーの発展に尽力した功労者への感謝の拍手か。

 判断を下す権利を持つのは、ジーコ政権の以前と以後も変わらずにスタジアムに駆けつけて、日本代表を包み込み声援を送るサポーターたちである。

文=小谷紘友(サッカーキング編集部)写真=足立雅史

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