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「障害はかわいそう」とかうるせえ/澤山大輔

2016.02.10

 2011年にスタートし、年に一度サッカー&映画ファンが集う一大イベントに成長、今年も2月11日(木・祝)~14日(日)の4日間で11作品を上映する「ヨコハマ・フットボール映画祭2016」。さらに全国12都市で映画を上映するジャパンツアーも開催されます。

 そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各作品の映画評を順次ご紹介。

 今回はスポーツマーケティング・ナレッジ編集長の澤山大輔さんに、杖を使ってプレーする新しい障害者スポーツ「アンプティサッカー」に密着した“無料”上映作品『走る!蹴る!笑う! アンプティサッカーアフィ―レ広島の1年』についての映画評を寄稿いただきました。

「障害はかわいそう」とかうるせえ/澤山大輔

 無知な健常者の繰り言と叱られるかもしれないが、あえてこう書くと、障害者スポーツの「仕組み」の見事さには常々驚かされる。
 
 その代表格であるブラインドサッカーは、GKが晴眼者であり、FP全員が目にアイパッチを貼り、さらにアイマスクをつけて視界を公平に無くし、音の鳴るボールとコーラーの「ヴォイ!」を頼りにボールを追う。「見えない」というハンデを逆手に取り、健常者でも同じ条件でプレーするのは難しい競技に仕上げている。競技の仕組みが整うことは、熱狂を生む一歩目だ。
 
 アンプティサッカーも、仕組みの見事さに関しては同じように思う。7人制競技で、FPは下肢切断者、GKは上肢切断者。ただし、切断側の四肢を使うことは禁止。クラッチと呼ばれる杖で移動するが、杖は手と同じ扱いとなり、クラッチでボールを触るとハンドリングをとられる。体験したことはないが、健常者の自分が片足を縛ってもう片足だけでプレーし、クラッチで移動するのは相当に難儀することは容易に想像できる。
 
 しっかりと作られた競技ルールは、人を競技に没頭させる吸引力となる。「目が見えなくて」あるいは「四肢が切断されて」「かわいそう」を介在させる余地を無くし、かわりに熱狂を生む下地をつくる。そうした意味では、精緻に作られたこの力強いドキュメンタリーもまた、「熱狂の下地」になる可能性を秘めている。
 
 アフィーレ広島は、2013年5月に代表・坂光徹彦によって創設されたアンプティサッカーチーム。かつて医療関係の仕事をしていた坂光は、競技普及とともに「身体的にも精神的にも落ち込んでいるかも知れない障害者を太陽の下に呼び出すこと」を目的にチームを立ち上げた。実際、このドキュメンタリーにはうつ病に苦しむ選手、生きる希望を見出せなくなった選手が再生していく様子が描かれている。チームの創設が、どれだけ選手たちの生きる希望になっているかはこのドキュメンタリーをみれば理解できるし、ぜひ本編を見て体感してほしい。ので、あえて詳細には記さない。
 
 僕は、映像内に映し出される競技性の高さに目を奪われた。2本のクラッチを軸足代わりにし、1本の脚をブランコのように振り、ボールに当てる。インパクトの瞬間、身体は宙に浮いており、クラッチが脚代わりになっている。その状態で精度の高いボールを蹴るのは簡単なことではないだろう。「彼らは、どれだけの練習を重ねたのか」と思わずにはいられなかった。
 
 アフィーレ広島も、彼らと対戦したチームのプレーも、「健常者がやるアンプティサッカー」と遜色ないレベルにあったように思う。同じ条件で僕がプレーしても、彼らに立ち向かうのは簡単ではないだろう。そして、そうした強度の高いチームが存在しているというのは、競技としての完成度がしっかりしているからだ。
 
 制約が想像力を生むように、障害がクリエイティビティを生み、熱狂を生む。乙武洋匡氏は「障害は不便だが、不幸ではない」という名言を残した。むろん、そうした精神状態に至ることは簡単なことではないだろう。未だ健常者でいられる自分だが、仮に何らかのアクシデントで四肢を切断することになったら? 「不幸でない」と簡単に書くことができるかはわからない。
 
 だがアンプティサッカーを通じ、ある選手は「臆さず、隠さないで生活できる」精神状態を手に入れた。アンプティサッカーを通じ、四肢のどこかが欠けている自分を誇りに思い、こうしたドキュメンタリーに露出できるほどに尊厳を回復した。
 
 この映画祭で公開される、ある優れた作品になぞらえて、この作品を一言で記すのなら、こうなる。
 
<「障害はかわいそう」とかうるせえ>
 
 このドキュメンタリーに出ている人物の誰も、哀れんでほしがってなどいない。少なくともそう見える。ある病気にかかって、数年単位だが障害者のような心境を送った自分も、「かわいそう」という目線の残酷さは少しだが理解できる。「哀れんでほしくない、自分が自分としていられるように、希望となる何かがほしい」。そんな気分でいっぱいだった。彼らにとってのアンプティサッカーは、紛れもなくその「何か」になっているように思う。

澤山大輔(さわやま・だいすけ)
1978年生まれ、広島県出身。編集者・翻訳者・プロデューサー。フロムワン、スポーツナビなど複数のスポーツ媒体を経て2006年からフリー。スポーツマーケティング・ナレッジ編集長。複数の媒体でのインタビュー構成・リライト・校正、スポーツ・自動車・音楽・医療・ITなど様々な分野の翻訳を手がける。訳書に「ザ・シークレット・フットボーラー」「ダービー!! 28都市の熱狂」(東邦出版)。

【映画詳細】
『走る!蹴る!笑う! アンプティサッカーアフィ―レ広島の1年』
2015年 日本/ドキュメンタリー/43分/ディレクター:菱野将史
製作:テレビ新広島

【ヨコハマ・フットボール映画祭について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2016年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線・みなとみらい駅から徒歩6分)にて2月11日(木・祝)、12日(金)、13日(土)、14日(日)の4日間開催!全国ツアーの日程も含め、詳細は公式サイト(http://2016.yfff.org/)にて。

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