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“どこか遠い国”との“繋がり”の物語/篠幸彦

2016.02.06

 2011年にスタートし、年に一度サッカー&映画ファンが集う一大イベントに成長、今年も2月11日(木・祝)~14日(日)の4日間で11作品を上映する「ヨコハマ・フットボール映画祭2016」。さらに全国12都市で映画を上映するジャパンツアーも開催されます。

 そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各作品の映画評を順次ご紹介。

 今回は気鋭のスポーツライター篠幸彦さんに、日本のブラジルタウンである群馬県大泉町を舞台に制作された“まち映画”『サンゴーヨン★サッカー』についての映画評を寄稿いただきました。

“どこか遠い国”との“繋がり”の物語/篠幸彦

“3-5-4”のサッカーと聞いて、随分と攻撃的なサッカー映画なのかと思いきや、どうやら「サンゴーヨン」は国道354号線のことを指しているそうだ。舞台はその国道が走る群馬県・大泉町。サッカーファンであれば、2015年ブラジルW杯の際に、やたらとブラジル人の多い町として中継されていたことを覚えている方も多いのではないだろうか。人口の1割がブラジル人だそうで、“リトルブラジル”とも言われる日本有数のブラジルタウンなのだ。

 そんな多くのブラジル人が暮らす大泉町とサッカーという組み合わせ。もしかしたらこの町ではブラジル人が路上でサッカーをやっていたりするのではないだろうか? 内陸で海に面していないからビーチのシーンはないだろうけれど、派手な衣装に身を包んだ美女が踊るサンバカーニバルならもしかしたら…。

 些か下世話な期待もしつつ、大泉町とブラジル人のコラボレーションを興味深く拝見すると、こちらの期待とは裏腹な冒頭シーンから始まる。モノクロ画面に主人公・亜美が映し出され、何者かが「ジャポネス?」とポルトガル語で語りかける。それに対して亜美は「ごめんなさい、何言っているいかわからない」と、どこかから聞こえるその声に無愛想に突き放すようなひと言で応える。

 亜美のみならず、大泉町とブラジル人の遠い距離感までも印象付けるセリフに聞こえた。その後、フットサル場にブラジル人が集まり、パブリックビューイングで母国のW杯での活躍に一喜一憂する姿をメディアがカメラに収めていくシーンが流れる。
 亜美はそれをうんざりしたような、少し哀しげな面持ちで眺める。亜美の個人的な感情でもあるが、地元の人が持つ微妙な感情も含まれたシーンではないだろうか。フットサル場を後にした亜美は、青く晴れた空を見上げて心の中でつぶやく。

「あの空は、どこか遠い国と繋がっている。私の知らないどこか遠い国と」

 これは、“どこか遠い国”との“繋がり”の物語なのだ。

“サッカーの本質”を尋ねられれば、「ゴールを奪うこと」「戦うこと」といったピッチ中での言葉をイメージする。しかし、世界中で愛され、生き甲斐とされるサッカーにおいて、本質はもはやピッチ内だけにとどまらない。サッカーとは世界のあらゆる人々、国、地域を繋げるものである。

 この映画でもサッカーが持つ“繋げる”チカラにフォーカスし、大泉町とブラジル人との友好の手掛かりを見出している。

 町の商工会で働く亜美の父・秀俊は、あるとき8年間暮らしたブラジルの農場で働く恵まれない子供たちとのひと時を回想する。朝からクタクタになるまで働かされても、農場の子供たちはいつも笑顔だった。秀俊は子供たちに「なんでそんなに笑っていられるんだ」と尋ねた。

「仕事が終わったらみんなでサッカーができるから」

 サッカー場ではなく、アスファルトの上でボロボロになったサッカーボールを笑顔で追いかける子供たちの記憶が、大泉町とブラジル人を繋げるアイデアへとリンクしていく。日本人とブラジル人で、あの子供たちのようにみんなでサッカーができれば、きっと笑顔で繋がることができる――。国道を封鎖して、ストリートの日本人対ブラジル人の試合をしようと、秀俊はサンゴーヨンサッカーを提案するのだ。

 イベント開催に向けて、亜美たちは協力して準備を進めていくのだが、筆者は開催するための困難にいくつか見舞われるのだろうと予想していたがそうではない。待っていたのは日本人とブラジル人が混在する大泉町だから描ける文化の違いである。居酒屋の店主とブラジル人の少年の言い争いなどは、まさに大泉町が抱える問題の一端が垣間見えるシーンだろう。

 そういった中でこの映画が伝えたいのは、サッカーを通じて繋がり、共に手を携えて生きていこうというメッセージではないだろうか。ラストシーン、日本人とブラジル人が入り乱れてサンゴーヨンサッカーをする姿を見て、「さぁ、次のゴールへ」という亜美のひと言には、きっとそんな思いが込められているはずである。

篠幸彦(しの・ゆきひこ)
東京都生まれ。スポーツジャーナリスト。編集プロダクションを経て、実用系出版社に勤務。技術論や対談集、サッカービジネスといった多彩なスポーツ系の書籍編集を担当。2011年よりフリーランスへ。著書に「弱小校のチカラを引き出す」「高校サッカーは頭脳が9割」(東邦出版)、「長友佑都の折れないこころ」(ぱる出版)がある。

【映画詳細】
『サンゴーヨン★サッカー』
2015年 日本/青春映画/64分
監督:藤橋誠

【ヨコハマ・フットボール映画祭について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2016年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線・みなとみらい駅から徒歩6分)にて2月11日(木・祝)、12日(金)、13日(土)、14日(日)の4日間開催!全国ツアーの日程も含め、詳細は公式サイト(http://2016.yfff.org/)にて。

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