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【全文掲載・後編】注目のJFA会長選へ――原専務理事、田嶋副会長が語る日本サッカー界の明日

2016.01.24

[写真]=兼子愼一郎

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写真=兼子愼一郎

 2016年1月21日、朝日新聞東京本社読者ホールにおいて、朝日新聞サッカーシンポジウム「協会会長候補と語る日本サッカーの明日」が開催された。前編はこちら

 続いてのテーマは「新しい日本サッカー協会の姿」。この日の理事会で原、田嶋両氏が候補者として承認されたが、会長選挙を実施することの意義について、まずは大住氏が語った。

大住「これまでの日本サッカー協会の役員の選び方は、非常に問題が大きいと僕はずっと感じていて、20年以上も改革が必要だと何度も書いてきたんですけど、ようやく今回、非常に複雑な形で分かりにくい部分もたくさんあるんですけど、でも、一歩前進したなという感じです。それから何よりもお二人が立候補してくれたことに非常に感謝しているんですが、今回の形ができて、もし候補者が一人しかいなかったら、前と同じような感じになっちゃうと思っていたんですが、お二人が『私がやります』と積極的に手を挙げてくれたことについては非常に感謝しています。ありがとうございます」

「じゃあ、出てよかったですね(笑)」

 選挙は1月31日、評議員75人の投票によって行われる。今後、任期の問題も含めて会長選のやり方を見直す可能性もある。

田嶋「僕自身も、自分が会長になったらこんなことをしたい、こんなことを提案したいと言えることを、ものすごく幸せに思っています。今までの経験の中で思ったこと、原さんも思っていることがあると思いますが、それを言い合えて、皆さんもそれを聞けるというのは、本当に開かれた協会の証だと思いますし、ポジティブな部分だと思います。選挙がどんなものかは、僕はアジアの選挙とかでかなりやってきたんで、そういう意味では、手続き上の分かりにくさ等も含め、悪くならないようにしていきたいという気持ちはあります。それと、これはFIFAの理事になって分かったことなんですが、今のFIFA腐敗の原因はすべて選挙なんです。将来、そうなっていかないように、僕らはちゃんと決めなければいけない。今回の選挙だけで進められるものではないと思っています。そこの改革はもちろん、選挙のいい面は残しつつも、どうやったら任期を4年にできるんだろうか――これは日本の公益財団法人の法律に則ってやらなければいけないわけですが――そこはしっかり考えながらやっていきたい。FIFAは『自分たちのレギュレーションに従いなさい』と我々に押し付けたんですが、今は彼らもすでに新しいものに変えています。そういう意味では、我々もしっかりと自分たちが正しいと思うものを作り上げていくべきだと思っています」

 JFA理事会メンバーの一人でもある北澤氏は、新しい会長のイメージについて次のように語った。

北澤「難しいこともあると思うし、関わっていないと分かりづらい、実際に関わっていても分からないというか、難しいなと思うことも多かったりするんですけど、こういったお話を聞いている中で、参加している皆さんも慎重に聞かれていると思いますが、すごくワクワクすることは確かにあるなと感じますよね。変わっていくと言っても、具体的な話がなかなか出てこない部分もあると思います。ただ、僕個人も『俺もこう思うな』とか、『こうしてみたいな』と思うきっかけが、僕だけじゃなく日本全体に広がることは、とても大切な進歩かなと思います。いろいろ言うのは簡単じゃないですか。でも、みんながこう思う、ああ思うと意見を交わすことが大切だと思います」

「これはサッカー界だけでなく、日本のスポーツ界において大きな一歩だと思います。確かに選挙制度の煩雑さは最初だったのでありましたが、これは終わってから検証します。ですけど、サッカーファミリーの声が反映されて次の会長が決まる。これが最も大きな改革だと僕は思っています。例えば僕は出身が栃木県ですけど、最近はあまり栃木に帰ってこないから、栃木県サッカー協会が応援してくれるか分からないんですけど(笑)、そういう県のサッカーファミリーが『原さんじゃなくて田嶋さんを推そうよ』という声、僕はFC東京にいたんですが、Jクラブのサポーターが『あの時、成績悪かったから、田嶋さんを推そうや』とか、そういういろいろな声が聞こえてくるわけですよ。その中で評議員の方が直接投票する。これはサッカー界だけの大きな出来事じゃなく、日本のスポーツ界にとってすごく大きな第一歩だと思うんです。僕は皆さんの前でこうしてお話できることもそうですが、むしろ話をするというよりは、地方の方々の話を前よりさらに聞くようになった。それは今までのように理事会の中で会長を決めるのではなく、皆さんの意見を聞くようになったことが大きいので、僕はその第一歩として立候補しました。皆さんの意見が伝わるように自分も話を聞いていきたいし、皆さんの声が、サポーターの声が、サッカーファミリーの声が集まることを期待して立候補しました。大きな第一歩だと思います。ただ、FIFAの腐敗に関して言うと、選挙が悪いんじゃないんじゃないですか? 僕は少なくとも、選挙のほうが公明性とか公平性は確保されて、少ない役員の中で決まったとしたら、そのほうがもっと大変なことになるんじゃないかなと個人的には思っているんで。選挙もいろいろな問題はありますよ。終わってから派閥ができちゃったとかなんだとか。でも、それよりも皆さんの意見を直接聞けて、地方の評議員の方、Jクラブの方、各種連盟の方、いろいろな声を聞いて決める。これが最も大きいことなので、今のシステムのほうがいいと思いますし、これでやっぱり自分も出ないと、たぶん『あまり変わらないのかな』と思って立候補しました」

 ここで潮氏が、「地方の方々は会長選挙があまりにかけ離れているように感じているのではないか。実際に地方の意見が届いているという実感はあるか」という疑問を提示。これについて、田嶋、原両氏が回答した。

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田嶋「実感は非常にあります。ここ数年は国際部門のほうに従事しているので、地方に直接足を運んでいない部分はありますが、インストラクター時代、技術委員長時代に地方をずいぶん回った、その時に関わった方々が今、評議員などのポジションにいてくださっていて、実際に生の声をメールでいただいたり、自分のマニフェストに対して『この部分は反対だ』という方もいらっしゃいます。それは僕にとってプラスになりますし、実感として非常にあります」

「届いていますよ。地方のほうが実際にすぐ動かなければいけないわけですから。毎週毎週トレーニングがあったり、指導者養成があったり、グラスルーツがあったり。それと感じるのは、これだけJクラブが増えてきて、地方協会の方も地元にできたJクラブと一緒にいろいろなことを考えてやっていこうとしているということ。僕がいろいろ聞いた中では、それを加速させていこうとする意見が多かったですね。Jクラブには当然、自分たちのサポーターがいますけど、ホームタウンもあるわけだから、そこからサッカーファミリーを増やして、あるいはサッカーをやれる環境を整備していく。一緒なんですよね。このマニフェストはそういった生の声を聞いて作ったつもりではいるんで、その声が本当に伝わってきているという実感はありますよ」

 今回の会長選挙は、地方との連携、一体化に向けての大きな一歩でもある。大住氏は候補者2人に対し、次のように期待の言葉を送った。

大住「今回は本当に大きな進歩だと思うし、お二人がこうして話してくださっていることで、いろいろなことが生かされる。非常にいいことだと思います。ただ、実際に投票する評議員が一つの代表の下で動いているのは、Jリーグだけじゃないかと思います。残りは非常に大きなチームや団体を抱えている中で代表者が投票する。本来ならこのような話を踏まえて、評議員を抱えている団体が総会を開いて、投票する候補者を決めて、その投票を元に決めていく形が一番いいと思います。ただ、日本全国でサッカーをしているチームの選手、子供たちも含めて、みんなが『自分たちの会長なんだ』と思えるようにしたい。どうすればそのようにできるのかについては、会長になった暁には是非、考えていただきたいなと思っています」

 また、大住氏は報道関係者に対してもこのように呼びかけた。

大住「もう一つ言えば、今日はメディアの方がたくさん来ていますが、今日、告示されて、31日に投票がある。その間にお二人の考えや選挙がどうなるかという話、あるいは地域の少年チームに『どっちがいいと思う?』といった話を聞いて、たくさん露出していただきたい。朝日新聞さんは1月5日の紙面にお二人の対談を載せて、今日のシンポジウムを主催したからそれでOKなのではなく、当然、毎日記事が出ると思うんですけど、本当に期待しています」

「ありがとうございます」

 ここで話に出たのは、1月5日の対談の際に役員報酬を公開してはどうかという件。紙面では原氏が本件について慎重な姿勢を示したとされたが、現時点での意見を聞くと意外な答えが返ってきた。

「なんか、ああいう形でまとめられちゃうと『慎重』と出ちゃうんですね(笑)。僕は別に、それを公開することに対して嫌だというわけではないです。ただ、新しい会長になった場合に役員と話をして、『そうしたほうがいいんじゃないか』という意見になれば当然そうするし、出すタイミングや出し方はいろいろある。それは皆さんで話して決めればいいんじゃないですか? ということで、反対なわけでは全くないです。隠す必要もないと思っていますし、隠したいという思いは全くないです。ただ、何か『慎重』って出ちゃったんで、そこだけは訂正させていただきたいです(笑)」

 理事の一人である北澤氏、そして田嶋氏の意見はどうだろうか。

北澤「オープンなのか、クローズなのかということすら考えなかったですけど、僕はどちらでも、というスタンスでいます。実際に今の会長がいくらもらっているのかも知らないですし」

田嶋「私は出すべきだとずっと思っています。今まで出せなかったのは、やはり全体の意思統一がなかなかできなかった部分がある。そこは出すべきだと思います。一つは、なんかすごくもらってるんじゃないかと思われているみたいなんですが(笑)、そこが実際にどうなのかもオープンにしたい部分ですし、ただ、会長職だけではなく、専務理事など様々な役員の報酬が適切な額なのかというのを皆さんに見ていただく必要があるんじゃないかと思っています。もちろん『公益財団法人』としての枠組みで、僕らは2年でクビになるかもしれないという中でやっていて責任も重い。いろいろなことを含めて、この報酬が正しいのかどうかをどこかで議論して、その上でオープンにするならどんどんやりたいと思っています」

 日本サッカー協会の2016年の収入は204億円。そのうち代表関連で18.7パーセント、事業関連費は44.4パーセントとなり、代表関連の収入が総額の63.1パーセントを占める計算になる。

大住「この代表関連というのは、入場料収入と放映権ですね。それから事業関連はスポンサーやメディア。スポンサーは代表関連のスポンサーが多いので、日本サッカー協会の収入の3分の2が代表に依存していることになります」

 これについて、両氏はどのように考えているのか。

「これが現状ですけど、スポンサーさんのおかげで2022年までの長期契約を結ぶことができましたので、その間で次にどのような手を打つか。例えば単純に登録料を倍にしたら競技人口が減っていくので非常に難しい。どういったことをやっていくかは考えていかなければならない。今のままだと、代表が勝てなくなると収入がガクッと落ちてしまう。それでも揺るがない基盤をどう作っていくか。あるいはJクラブと一緒になって、一定のスポンサー料や放映権料を確保していく。両方でいかないと難しいですよね。今は我々とすれば、この204億円の中からナショナルフットボールセンターに投資をして、代表チームのためにいい施設にしたい。その間に代表の強化、アンダー世代の育成をどのようにバランス良くやっていくか。たぶん田嶋さんとそんなに政策は変わらないでしょう。でも、優先順位をどこに置くのか、その判断をするのが、次のリーダーにとって最も重要な部分だと思います。僕にとっての最優先課題は東京五輪です。代表は代表でやります。あとはアンダー世代。そこは代表だけをやるのではなく、大学や高校も含め、日常の試合環境を整備してあげたい。時々集めてではなく、日常の練習環境をサポーターや指導者など、みんなで整えていかないといけない気がします」

田嶋「日常の部分を上げていくのは当然だと思います。この表を見た時に、『さすが朝日新聞さんだな』と思ったんですが、日本サッカー協会はこのように出していないんですよ。もう少し違う形で出したんですが、ちゃんと情報を得ていらっしゃるんだなと思いました。もう一つ、この63パーセントという数字は、各代表が強くなければいけないということなんですよ。そういう意味では各代表が強くあり続けることが重要であり、負けたら落ちてしまう。それは覚悟しなければならない。そのためにはJリーグと都道府県協会がしっかり基盤を持って根差していく。日本サッカー協会が出せなくてもしっかりやっていく。例えばイングランド代表が結果を出せなくても、プレミアリーグがしっかりしていれば次の世代につながるわけです。それと同じようにJリーグもしっかりとした基盤を持つ。同時に47都道府県の協会が基盤を持つ必要もあるんじゃないかと思っています。そうすれば収入が10パーセント減ったとしても、日本サッカー協会が行政的な手を出さなくても、都道府県協会が手を打てる。日本サッカー協会だけ収入が多くなって肥大化していく必要はないと思っています。その部分はしっかりコントロールしながら、予算をどう分配していくかをしっかり考えていく必要がある。ただ、代表が勝たなければ、やはり価値は上がらないということは、どんな状況においても同じだと思います」

 続いて『地方協会とどのように向き合うべきか』というテーマについて、原氏と大住氏、田嶋氏がそれぞれの見解を述べた。

「地方協会はそれぞれ努力して国際大会をJクラブと一緒に開催したりしていますし、そこの基盤強化については我々はかなりの投資をして47都道府県に(選手登録費などの)20億円のうち、15億円は返している。地方協会がしっかり独立して、その中で自分たちの地域に合った強化の仕方、リーグ戦のやり方や指導者育成などを考えてやっていくべきだと思っています。そこがないと日本サッカー協会だけで進めていくのは無理ですからね。地方のことは地方の方々が一番よく分かっているわけですから。ただ、地方も広範囲にわたるじゃないですか。例えば北海道の中でも5ブロックに分かれていますから。そういったことを尊重しながらやるために、どのように財源を彼らに回していくか。財源だけでなく人材も派遣していくか。そのような協力を我々はやっているわけです。そのままお金を返したほうが楽なんですけど、後で難しくなる。だから人を育てて、協力して、というやり方を取っている。そして4年後に制度自体、メンバーシップをどうするか。ご存じのように登録していないサッカーファミリーも大勢いるわけですよ。そういった方々にどうやったら登録してもらえるか。そこを根本的に変えていこうというのが、今、我々が考えていることです」

大住「47都道府県、その下に市区町村のサッカー協会がたくさんあって、その市区町村協会が都道府県協会に結びついていない場合がほとんどです。これは日本サッカー界の二重構造だと思うんですけど、実際にグラウンドを持っているのは市区町村単位の自治体で、日本サッカー協会に登録していなくても、彼らは毎週試合ができて楽しめる。だから日本サッカー協会に登録する必要がない。でも、これを何とかしないと何も解決しないですし、登録していないチームを仲間として迎え入れる必要がある。これからのサッカー協会は、登録されていないチームをどのように仲間として喜んで迎え入れられるか。入ってきてもらうのかというのが、すごく大きなテーマだと思います」

「それは最も大きなテーマです。登録していないけど、彼らはサッカーファミリーなんです。例えばルールが変わったり、レフェリーの問題とか、一番の問題は夏の時期の暑熱対策をどうするか。それらを我々の枠外でやられて、何か問題が起きたり、うまくいかなくなったりすると、大変な問題になるわけですよ。すべてに対応するのはなかなか難しいんですけど、この4年間でそれをやろうと言って今、動いています。これは間違いない事実なので、この4年間でそれをやります。やらないと、登録しない、あるいは市区町村にだけお金を収めるという二重構造になってしまうのは間違いないので」

田嶋「当然なんですけど、登録料をいただくからには何かをしてあげるべきなんですよね。例えばレフェリーをちゃんと派遣する、グラウンドを確保して提供する、そういうものがあって初めて登録してもらえる。そこを整備しているのが今、やっていることで、例えば大学の同好会のために大会を作るなど、いろいろなことを含めて考えてやっていかなければならない。これは登録料を取るためというより、登録してもらえる以上は僕らも何か与えるものがなければならない。『登録しているのにウチにはハガキ一枚すら来ていないよ』という意見をいただいたこともあります。そこで何か提供できるものを、考えていかなければならないと思います」

 そして最後のテーマは、「10年後の日本サッカー界」。会長に立候補した両者はどのようなイメージを描いているのか。興味深いところであり、原氏は「誰もが気軽にボールを蹴られる環境作り」を目標に掲げている。簡単なようで難しい課題ではあるが、原氏はこのような見解を示している。

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「一番の問題は、高校生までは多くの選手がプレーしているけど、その後、急激に登録人数が減って、大学や社会人でプレーを辞めてしまう人が多いことです。サッカーの盛んな国の人々のように、一生サッカーを続けてほしいという思いがあるわけです。11人制のサッカーだけじゃなくていいと思うんですよ。フットサルがこれだけ普及して、フットサルコートもたくさんある。形が変わっても、みんながサッカーに絡める。私もフットサルを初めてやった時に分かったんですけど、女性が一人入ったって、結構ちゃんとした試合になる。そういった点もフットサルの可能性であり、広まる要素だと思います。『今までこうだったから』という発想を変えていろいろなことをやっていけばいいと思いますし、大人がプレーすれば、当然子供もやる。お父さんもお母さんもやる。そういった新しいアイデアをどんどん出していく。例えば、サッカーだけじゃなくて他のスポーツの人たちにもサッカーをやってもらってもいい。それに僕は別にサッカーだけじゃなくていいと思っているんですよ。本音を言えば、子供のうちはサッカーだけじゃなく、もっといろいろなスポーツをやることのほうが重要かなと思っているので、そこが少しでも手が増えていけば、サッカーだけではなく日本のスポーツ人口が増えていくんじゃないかな、と思っています」

 実際に国内外で普及活動をしている北澤氏は、原氏の意見についてどのように感じたのだろうか。

北澤「すでにスタートしているものもあると思うんですよね。サッカーだけではなく、例えば『JFAこころのプロジェクト』と言って、教育現場に行って、経験に基づいて生きていくためのスキルを伝えていくという教育関連プロジェクトも実際にやられている。社会貢献については、サッカーで直接的に関わるだけじゃなく、間接的にいろいろ携われることが、これから10年後に向けて必要だと思います。それはもしかしたら介護や医療の問題につながるかもしれないし、そういった形でいろいろなコラボレーションをして、イニシアチブを取っていくことは必要なんじゃないかと思います。あと、少年サッカーを考えていくと、11人制ではなく8人制サッカーからスタートしている世代の10年後を考えると、少人数制のサッカーはいろいろな役割をこなしながら試合を行わなければいけないので、選手たちがどんな形で大人になっていくのかが非常に楽しみですね」

田嶋「今、北澤さんにおっしゃっていただいた『こころのプロジェクト』などの社会貢献事業は、僕らが絶対に忘れずに進めていかなければならないことだと思っています。同じように、アジアのいろいろな国々への普及、それから障がい者サッカーもようやく仲間に入れることができるようになり、少しずつ増やしているんですが、ファミリーを増やすことではなく、『football for all』という意識でどんどん進めていかなければいけないと思っています。その根底にあるのが『JFA2005年宣言』です。これを作る時に、みんなで議論して、なんでサッカーファミリー500万人を目指すのかという話になった。これまでW杯で優勝した国は南米のウルグアイ、ブラジル、アルゼンチン、そしてヨーロッパのドイツ、スペイン、フランス、イタリア、イングランドと全部で8つしかないんです。これらの国々に共通しているのは、老若男女がみんなサッカーに関わっている。そしてもう一つは、『Jリーグ100年構想』が理想とするように、100年近い歴史を持つプロリーグがある。そこを目指していこうじゃないか、そしてトップ10に居続けることは、スキあらばW杯で優勝するチャンスがあることを意味しているんです。残念ながら僕らはその約束を果たすことができなかったんですが、これは自分の責任も含めて、今後検証していかなければいけないと思っています。我々は『2005年宣言』、Jリーグは『100年構想』、そして各都道府県協会もそれぞれ10年、20年のプランを持っていらっしゃる。そういうことを合わせながら、僕らは考えていかなければならない。前にサッカーファミリーの数を足していったら500万人にならなかった時があって、みんなで『どうしましょう』と話したり、数合わせの中だけの500万人はやめましょうという考えに至ったりしました。そして次の目標は800万人、2050年に1000万人という目標を立てている。そこを見据えた上で、こういうミッション制度をみんなで共有していく必要があると思っています」

 アジア圏への普及活動について考えていくと、北澤氏はすでに10年ほどカンボジアでの普及活動を続けている。そんな彼の目には、アジア諸国が日本サッカー界にどのようなことを期待していると映っているのだろうか。

北澤「日本をモデルにしている国は、かなり多くなってきていますし、それが日本がアジアで苦戦している理由の一つとして挙げられると思います。東南アジアは以前はイングランドのプレミアリーグに目が向いていて、自分たちの体格に合わないものを理想として求めていたんですが、日本に目が向くことによって、劇的な変化が起こりつつあります。それを日本サッカー協会がうまく支援していく。それがアジアのレベルアップにつながっていくと思いますし、その成果が10年後に出てくると思います。僕自身は10年前からカンボジアで普及活動をしていますが、かなりのスピードで発展していますからね。その制度を作り上げたという点も、日本サッカー協会が優れている部分だと思います」

 大住氏は自身の経験を踏まえ、原、田嶋の両氏に、『日本サッカー協会の会長として日本社会に何をもたらしたいと思っているのか』と問いかけた。

大住「自分の話で申し訳ないんですが、僕は大学時代に『サッカーマガジン』編集部に入りたいと言ったら、親に『やめておけ』と言われたんですね。『サッカーなんか』と言われました。その時に父に向かって『サッカーが好きだから、趣味として仕事にするのではなく、サッカーを通じて日本の社会をもっといいものにしていきたいんだ』と言ったら、それで父が理解してくれたので今の僕があるんですけど、日本サッカー協会に求めることは、サッカー界を良くしなければ何もならないと思うんですが、それ以上に日本でサッカー協会の会長を務めるということは、同時に日本社会に何かをもたらしたいという、すごく大きなものを備えていなければならない。それを今日はお二人にお話しいただきたい」

田嶋「『2005年宣言』に書いてあるとおり、スポーツをする幸せ、スポーツをする人をサポートする幸せ、北澤君とはお互いの子供を応援に行った時にたまに会場でお会いするんですが、ああいう場面の喜びが本当にあるんですよね。それを世の中に伝えていきたい。そういう役目を僕らが担っていると思っています。もちろん日本代表という象徴的なものがあり、その勝った負けたで国民を感動させたり、がっかりさせたりすることがあるかもしれない。しかしそういう波があるにしても、僕らはいい戦いを目指していかなければならないし、それを広く広く浸透させていかなければならないし、我々にはその責任があると思っています。そしてそれはサッカー界だけではなく、スポーツ界、ひいては社会全体に影響力があると思っています。それぐらい大きな協会でありたいと思っています」

「僕自身はこういう時代だからこそ、スポーツの持っている本質が問われていると思っています。集まって頭で考えるだけで何かをやるのではなく、スポーツの根源は実際に自分で努力して、計画を立ててやってみて、勝ち負けがあったり記録に届かなかったりといった喜びや悲しみがあったりする。スポーツを通じて、そういったいろいろな経験を積んで、世の中のいろいろな組織のプラスになっていくことができなければ、スポーツの意味はないと僕は思っているので、それを我々サッカー界のリーダーとして、スポーツが持っているものは何なのかを投げかけていきたい。いろいろな人がそこに関わるということを我々サッカー界は考えていかなければならない。周りで言うのは簡単ですが、実際にそういうことができる指導者、選手を増やしていく――それが僕は日本サッカー界のリーダーとして一番必要なことなんじゃないかな、と思います」

 最後に田嶋、原両氏が、会長になったら実現すべき公約を掲げ、大住、北澤両氏が2人に対するエールを送った。

田嶋「私は『育成日本復活』を謳っています。すでに予算が立っている中で、これに予算をどれぐらいつぎ込めるかはちょっと分かりませんが、やはりトレセンの充実、そして育成が重要だという意識をもっともっと広めていきたいと思っています。それが将来のためにつながると思っています」

「僕は『開かれた協会』ですね。たとえ耳障りな論調であっても、いろいろな人の意見を聞ける。そのスタンスは変えたくないです。それがスポーツ界に最も問われていることだと思います。その中でいろいろなアイデアを出して恐れずにチャレンジしていく。それをスピード感を持ってやっていきたいです」

北澤「お話を聞かせていただいて、さっきと重なる部分はあるんですが、自分もお二人がされることを見ているだけではなく、これをきっかけに皆さんも一緒になって考えていくことが大切なんじゃないかなと。関わっている人なら当たり前だと思うんですけど、社会の人たちがどれだけ広がりを持ってこの会長選挙に関心を持っていただくかがすごく大きなことだと思います。子供でも『会長選挙どうなの?』って話ができるような世の中になっていくと、僕らが夢見るW杯優勝にも近づくのではないかと思います」

大住「最初にお二人には立候補されたことについて、日本のサッカーファン、関係者、みんなを代表していいのかどうか分かりませんが、それを感謝したいと思います。それから原さんは先ほど『スピード感を持って』とおっしゃいましたけど、政治家じゃないので、そんな言葉は使わず、何年かのうちにと具体的な数字を出して取り組んでいただきたいと思います。田嶋さんについては、会長になられた場合はFIFA理事との『二足のわらじ』になるので非常に大変だと思いますが、ぜひ、それがどのようにできるのかを示していただきたいと思っています」

 白熱の討論会は当初予定されていた1時間半をオーバーして終了した。この議論が評議員による投票に直接影響するかどうかは分からないが、日本サッカー界が抱える複数の課題と宿題について両候補が顔を合わせて議論を交わした意義は大きい。日本サッカー界が力強く前進していくために、新会長には的確で芯の通ったリーダーシップの発揮が求められるのは間違いない。

 1月31日に行われる日本サッカー協会の臨時評議員会で投開票が行われ、注目の日本サッカー協会新会長が決定する。

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