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ベトナムサッカー2015年を総括、キーワードは「黄金世代」と「日本との協力」

2016.01.12

ベトナムサッカー界にとって2015年は、良くも悪くもアイドル集団「HAGL黄金世代」のプロデビューに沸いた一年だった。その過熱ぶりたるや、スポーツ紙の一面に彼らの名前が載らないことは一日もないほどだ。この他では、男女のベトナム代表チームを率いた二人の日本人監督の奮闘、日系企業のベトナムサッカーへの投資、日越クラブ間提携の促進など、引き続き「日本との協力」がキーワードとなった。

「HAGL黄金世代」がベトナムを席巻!

「ベトナムのメッシ」ことグエン・コン・フオンをはじめとするHAGLアーセナルJMGアカデミーの第1期生が今季揃って1部ホアン・アイン・ザライ(HAGL)トップチームに昇格しプロデビューを飾った。フランス人指導者のもとで、11歳の頃から英才教育を受けた彼らは、年代別のベトナム代表で中心選手として活躍し、「HAGL黄金世代」または「コン・フオン世代」と呼ばれるようになった。HAGLは今季開幕前、それまでトップチームにいたメンバーの大半を退団させて、若手に未来を託した。しかし、開幕戦で快勝するなど、滑り出しこそ良かったものの、平均年齢21歳の若いチームは、プロで戦うフィジカルがまだ出来ておらず、リーグ中盤から失速。結局、14チーム中13位という成績で、かろうじて残留を決めた。

国内リーグでは結果が残せなかったものの、リーグ終了後の国際親善大会では、同年代のチームを相手に優勝。単なる親善大会にもかかわらずスタジアムは超満員となった。昨年のU-19ベトナム代表(7割がHAGLの選手だった)の美しいポゼッションサッカーを忘れられない多くのファンは、三浦俊也監督が率いるベトナム代表およびU-23代表のサッカーに拒否反応を示しており、「HAGL黄金世代」に陶酔しているようだ。

特に、今季終了後に海外移籍が決まったFWグエン・コン・フオン(水戸ホーリーホック)、MFグエン・トゥアン・アイン(横浜FC)、MFルオン・スアン・チュオン(仁川ユナイテッド)は国民的アイドルとなり、Vリーグ全体の観客動員数をも引き上げて、一種の社会現象にもなった。

現在20歳の彼らはリオデジャネイロ五輪アジア最終予選を戦うU-23ベトナム代表でも主力として期待されているが、チーム全体にハードワークを求める三浦俊也監督のサッカーの中では、フィジカルの問題もあり、まだ本領を発揮しているとは言い難い。若手の海外移籍を推進するHAGLからは、上記の3選手が今年、レンタル移籍で海外に挑戦するが、果たしてどこまで通用するのか。これからも注目していきたい。

なお、HAGLは昨年末に横浜FCと業務提携を結んでおり、クラブ間の人材交流という形で、来季は日本人の井手口正昭がベトナムでプレーすることになった。ベトナム1部リーグで日本人がプレーするのは、2003年にサイゴン・ポートに所属した「アジアの渡り鳥」伊藤壇以来のこと。

男女のベトナム代表で日本人監督が奮闘も評価は急落?その舞台裏とは・・・。

昨年までの日本の報道では、ベトナム代表の三浦俊也監督が現地で英雄のような扱いを受けていると報じられていた。しかし、昨年末のスズキカップ準決勝マレーシア戦2ndレグでのまさかの大敗。その後のワールドカップ・アジア予選や東南アジア競技大会(SEA Games)での苦戦などから、その評価は急落しており、一時は解任報道まで流れた。

たしかにW杯予選では、1勝2敗1分でF組3位に沈んではいるが、ホームで迎え討った強豪イラクを相手に後半終盤までリード。アディショナルタイムにPKを与えて1-1で引き分けたが、内容的には格上相手に悪くない試合だった。東南アジアのライバルであるタイに2連敗したことは批判の理由となるが、現在のタイの実力が東南アジアでは、頭一つ出ているのは誰もが認めるところ。不可解なのはバッシングが急速に強まった時期がアウェイで勝利した台湾戦の直後からということだ。当初は、格下と思われていた台湾に2-1で辛勝したため、批判を受けたと思われたが、その背景には、あるベトナムサッカー界の権力者の存在が見え隠れする。

ベトナムで八百長疑惑が持ち上がるのは日常茶飯事だが、今季残留争いを演じていたその権力者のクラブも、リーグ戦終盤で格上の相手に勝利したことで八百長を疑われた。この権力者は、以前から代表選手の招集や起用法などで三浦監督と確執があったとみられ、自クラブに向けられた非難の矛先をそらすため、メディアと連携して、三浦バッシングを開始したと噂されている。

同じようなことがベトナム女子代表でも起きている。ベトナム女子代表の乗松隆史監督は、リオ五輪2次予選を勝ち抜き、大阪で行われる最終予選進出を決めて結果を残したにもかかわらず契約が更新されず、現地では解任という形で報じられた。そして、その直前には、一部の代表選手らが乗松監督の指導法や采配を批判していたとリークする情報が流れていた。

監督批判についての真相は定かではないが、結局、乗松監督はベトナムを去ることとなり、後任にはベトナム人監督が就任した。日本人監督の招聘は、ベトナムサッカー連盟(VFF)と日本サッカー協会(JFA)の協力事業により実現したものだが、今回の日本人監督へのバッシングと解任騒動からは、長期的視野を持たず、一枚岩ではないVFFの実態が見て取れた。

日系企業がベトナムサッカーに相次いで投資、クラブ間交流は下部組織で活発化

2015年はトヨタ自動車がVリーグの冠スポンサーとなって最初のシーズンだった。ベカメックス・ビンズオンが2連覇を達成した2015シーズンは、HAGLブームも手伝って観客動員数が増加。この成功を受けたトヨタは既に2016シーズンのスポンサー契約更新を決定した。契約額は昨年が300億VND(約1億6000万円)、今年が400億VND(約2億1300万円)とされている。また、Vリーグには、2015年途中から日野自動車もスポンサーに加わっている。

一方、ベトナム代表のメインスポンサーには引き続きホンダがついているが、昨年は新たにヤンマーとオフショア開発のエボラブルアジアがスポンサーに加わった。ヤンマーは、コメ輸出世界3位の農業大国ベトナムでの農機拡販を目指しており、現地でのブランド戦略を本格化すると共に、専門家を派遣してベトナムの芝生改善プロジェクトをスタートした。さらに、ヤンマーを親会社とするセレッソ大阪もベトナム進出を狙っており、昨年はファンミーティングのネット中継とU-23ベトナム代表との親善試合を行っている。

その他では、親会社同士が不動産開発案件を展開している川崎フロンターレとベカメックス・ビンズオンも下部組織間の交流などを活発化。大宮アルディ―ジャやガンバ大阪も下部組織のベトナム遠征を行っており、特にガンバは、ベトナムサッカー選手才能開発投資ファンド(PVF)との提携が間近と伝えられている。PVFは、ベトナム最大の企業グループであるビングループ傘下のプロサッカー選手養成アカデミーで、各年代のベトナム代表チームに多くのメンバーを輩出している。

経済成長著しいベトナム市場の開拓を狙う日本サッカー界は、今後もこうした動きを継続していくと見られるが、ベトナムの若手スター2人が日本に移籍する来季以降は、一層の関係強化が期待される。

(アジアサッカー研究所/佐藤)

「サムライフットボールチャレンジ」とは、
アジアのサッカークラブや事業者の”中の人”になって、本物のサポーターやスポンサーを相手にリアルな運営を体験し、楽しみながら学ぶ&自分を磨く海外研修プログラムです。ビジネスでも大注目のアジア新興国は、チャンスも無限大。何を成し遂げるかはあなた次第!日本にいては絶対得られない体験をこれでもか!と積重なてもらいます。経験・年齢・性別・語学力不問です。
http://samurai-fc.asia/

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