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陽気なガンマン…セルヒオ・アグエロが語るタイトル奪還への熱き思い

2015.09.11

[ワールドサッカーキング10月号掲載]

この夏、レアル・マドリーへの移籍が噂されながら、シティ残留を宣言した彼に用意された新たな背番号は「10」。正真正銘のエースとして、タイトル奪還の期待を背負う。そんなセルヒオ・アグエロが、昨年2月に『FourFourTwo』のオファーに応じて実現した独占ロングインタビューがある。いつになくリラックスした雰囲気の中、軽口の合間にのぞく本音からは、2冠を達成するシーズンの充実と、翌シーズン得点王につながる自信がのぞく。“クン”の実像に迫った貴重なインタビューをお届けしよう。

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翻訳=町田淳夫
写真=ゲッティイメージズ

絶対に楽しむことをやめるつもりはないよ

「面白い話があるんだ」と、セルヒオ・アグエロは切り出した。その瞳はいたずら小僧みたいに輝いている。「まだ誰にも言ってない話だよ」

 そう言うと、話し始める前だというのに彼は腹を抱えて笑い転げた。頭の中は、ヒザの故障からの復帰戦となった2013年3月のニューカッスル戦へと既に飛んでいる。「うちがコーナーキックを取ると、ホナス・グティエレスが僕のマークに付いた。同時に、ダビド(シルバ)がショートコーナーの合図をよこした。そこで僕は、代表で長く一緒にやっているホナスのほうを向き、『やあ、元気か?』と言ったんだ。彼は『相変わらずさ。ケガはどうだ?』と聞いてきた。『おかげさまで順調だよ。あれ、誰かお前を呼んでるぞ』と僕は答え、ホナスが振り向いている間にダビドに駆け寄った。彼は置き去りさ。次のコーナーの時、『このクソッタレ。今度やったらぶっ殺すぞ!』とホナスに怒鳴られたよ。でも、絶対に楽しむことをやめるつもりはないよ。サッカーで一番大事なのはそれだと思うな」

 豪快な高笑いがマンチェスター郊外にあるシティの練習場の記者室に響いた。アグエロはピッチでのプレーと同様、明らかにこのインタビューも楽しんでいる。近頃のスター選手には大変珍しいことだ。

 だがほんの45分前、この地味なプレハブの記者室は陰鬱な雰囲気に包まれていた。取材開始の時刻を2時間半も過ぎたのに、アグエロが現れないのだ。彼はその日のトレーニングでハムストリングを傷め、治療を行っていた。おかげでシティは、その夜のチャンピオンズリーグのバルセロナ戦をエース抜きで戦うはめになったのだ。アグエロが試合のチケットと着替えを自宅に取りに帰るため、取材時間が半分に削られるという噂も流れた。

 アグエロがようやく練習場の駐車場に姿を見せても、重い雰囲気はさほど変わらなかった。肩で携帯電話を支えた彼は、取材にはほとんど関心がなさそうで、ファンの愛するわんぱく坊主のイメージとは遠くかけ離れて見えたのだか……。

「あれれ、見たような顔だな」。迎えに出た取材陣に言葉をかけるなり、雰囲気が一変した。

「シーズンの初めにもインタビューさせてもらったからね。元気だったかな。また会えてうれしいよ。取材を始めていい?」

 電話の後、チケットと着替えは彼のスタッフの1人が取りに行くことになった。アグエロは近くのテーブルに置かれた『FourFourTwo』のバックナンバーを眺め、マリオ・バロテッリが表紙になった号に目を留めた。

「僕の写真はこれよりまともに見えるようにしてくれよ」。彼はトレードマークのかん高い笑い声を上げながら、シティの元チームメートをからかう。

 素人マジシャンを気取る時も、「カントナみたいだろ」と襟を立てる時も、力こぶを見せながら「でも気を付けないと贅肉が付き始めているんだよね」と語る時も、アグエロは常に楽しげだ。ただし、軽薄な見かけの裏には、激しさと成功への決意が隠されている。彼は道化者を演じるのも好きだが、トロフィーを勝ち取ることはそれ以上に好きなのだ。


Manchester City v Aston Villa - Premier League

ゴールを決めることに僕はより真剣になった

 シティの2013-14シーズンは、蒸し暑い8月の晩のニューカッスル戦で幕を開けた。前半22分、アグエロはわずかに敵陣に入った位置でボールを拾うと、チェックに来たスティーヴン・テイラーを振り切り、ティム・クルルが守るゴールの下隅にピンポイントの正確さで蹴り込んだ。シティはこの開幕戦に4-0で大勝し、「対戦相手を攻撃サッカーで粉砕するプレミアリーグのエンターテイナー」という路線を決定付けた。

「チーム全体としてはとても順調に運んだ。すべての大会で可能な限り勝ち進み、最後まで戦うことが重要だった」と、アグエロは丁寧に整えた髭を掻きながら話す。「毎年うちは選手を補強する。それが自分を向上させるためのプレッシャーになるんだ。とりわけ僕にとっては、そのことがこれだけのゴールを挙げ、良いシーズンを送る上での助けになっている。シーズンが進むにつれて楽しみが増えるんだよ。僕が何より望むのは、自分の挙げたゴールがチームに待望のトロフィーをもたらすことだね」

 アグエロの「ゴール」が不足しているなどとは間違っても言えない。故障で時に欠場しながらも、ここまでの25試合(各種のカップ戦を含む)で26ゴールを積み重ねた。これほどの活躍を見せたのは、シーズン30点目のゴールがクラブに44年ぶりのリーグ優勝をもたらす結果となった2011-12シーズン以来のことだ。

「ゴールに関して言えば、今シーズン(2013-14シーズン)は間違いなく僕のベストだよ。さっき見てもらったとおり、僕はガンマンなんだ」

 アグエロはそう言って、先ほど終えた写真撮影のポーズを再現する。銃を構える真似をして、彼は「パンパンパン!」という叫び声を急造のスタジオに響かせたのだった。

「理由を説明するのは難しい。ただ、これまでよりも早いタイミングでシュートを打てているように思う。自信もついてきて、プレー全般にとても満足しているんだ。それに、チームメートにもずいぶん助けられている。うちにはシルバ、(サミル)ナスリ、(ヘスス)ナバス、ヤヤ・トゥーレといった偉大なパサーがいるからね。ヤヤは信じられないようなフィジカルを持ったすごい選手だよ。あれだけ長身の選手は、結構パワー不足なものなんだ。ところがヤヤには強さもある。あいつが“獲物”に突進するところを見てごらんよ。同じチームでよかったって感じだね(笑)。とにかく、彼のようにプレーを支配するMFは他にはほとんどいない」

 確かに偉大な選手たちではあるが、ナバス以外は皆、2012-13シーズンもスカイブルーのユニフォームを着ていた。それにも関わらず、ユナイテッドに勝ち点11、ゴール数で20もの差をつけられたのだ。今年は何が変わったのか?

「素晴らしいパスをたくさんもらえていることかな。昨シーズンも求めてはいたんだけど、なかなか出てこなかった。それは僕のせいじゃないよね?」

 アグエロは冗談めかして言うが、重要なポイントを突いている。

「実はそこが僕の進歩した点だと思うんだ。ゴールを決めることに関して、僕はより真剣になった。いくつか故障も抱えているけど、ピッチに戻りたくてたまらない。何としてもゴールを決めたいんだ。選手というのはサッカーの何たるかを決して忘れない。そこは、僕の居場所なんだよ。ピッチに戻ると、家でノンビリすることなんか忘れてしまう。そして呪文にかかったように突き進むのさ。もちろん、頭も使うよ。サッカーへの理解を深め、チームに適応しようと努めているんだ。それが最良の結果を得るための道だからね。例えば、FW同士の連携を考えて、今シーズンは少しだけポジションを高くしている」


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タイトルを獲得して気が緩んだんだね

「僕は2歳の時にこのあだ名を付けられた」と言って、彼は笑みを浮かべた。声の調子がおどけたように高くなる。「でも、『クン』でよかったよ。もし『ビースト』というあだ名だったら、誉められているのか、バカにされているのかよく分からないからね。それに、『ビースト』だと、どんな選手かDFにすぐ気付かれてしまうし。血に飢えた怪物か、でっかい獣のような選手ってことだ。その点、『クン』はユニークで、他のどんなあだ名とも違う。DFにもどんな選手かバレないからね。彼らは背の低い僕を見て、拍子抜けしてタックルを仕掛けてくる。僕はそれをひらりとかわして、『はい、さよなら』さ」

 アグエロはひとしきり大笑いしたが、彼の言葉には多分に真実が含まれている。「クン」というニックネームが示すとおり、シティの背番号16は捕まえるのが非常に難しく、相対したDFはたやすく翻弄されてしまう。重心の低い直線的なドリブルから、意のままに進路を変えられるのだ。

「熟練したマジシャンのように、彼は微妙な腰の動きだけで相手選手を幻惑する」と、アルゼンチンの『エル・クラリン』紙は2005年の時点で書いていた。「とどまるかと思えば消えるフェイント。引いては寄せてくる脅威。実に見事だ」

 そう、彼はマジシャンなのだ。「マジックのやり方なんて知らないよ!」と言いながらも、写真撮影の際、アグエロは手慣れたトランプさばきを披露した。

「『パパは超能力の持ち主だ』と思わせるために、息子(ディエゴ・マラドーナの娘ジャンニーナとの間に設けたベンハミン)に見せてやることはあるけどね。でも大人相手には無理だ! ただしピッチ上でならいけるかな。僕の特徴は常にDFに1対1を仕掛けること。彼らにつっかけ、次にどうなるか反応を見る。ドリブルが大好きな僕としては、その本能はプラスに働いているよ。これまでの監督たちも、僕に『自分を表現しろ』と言ってくれたしね」 

 現監督も例外ではない。「アグエロよりいいストライカーはいるかもしれない。しかし彼ほど完成した選手はいない」とマヌエル・ペジェグリーニ監督は語る。「彼は以前からトップクラスだったし、常にゴールも決めてきた。しかし最近、彼はボールのないところでチームのために働くことも覚えた」

 南米出身の師弟は、互いに敬意を抱き合っているようだ。2013年8月の時点ではペジェグリーニへの期待を明言しようとしなかったアグエロも、今では称賛を惜しまない。おふざけも冗談もなしに、彼は初めてまじめにコメントした。

「彼はとても要求の高い監督だ。一瞬も気を抜かせてくれない。僕たち選手にとって、それはとても重要なことなんだ。昨シーズンの僕たちはレベルダウンしていたと思う。その前年にタイトルを獲得して、気が緩んだんだね。その点、マヌエルは1日たりとも気を抜かせない。僕らには大事なことだよ」

 ペジェグリーニが自らについて語ったイメージとはずいぶんと違う。彼は冷静沈着な監督に見えるよう努めていると言っていた。しかし前監督のロベルト・マンチーニとはまた違った激しさを秘めているようだ。

「どんな監督もそうだけど、一人ひとり違うんだ」と、アグエロは言う。「それぞれの戦い方があり、戦術があり、トレーニング法がある。僕らはそれぞれがもたらすものを尊重しなくてはいけない。マヌエルはボールポゼッションし、ゲームを支配することを楽しませてくれる。僕らはそれを実行しようとしているだけだ。彼が来た当初は適応に手間取ったかもしれないけど、時間が経つにつれてやりやすくなった。今はとてもいい感じだよ。ホームでは常に良いコンディションだから、アウェーでのプレーを改善すればさらに進歩すると思う」

 選手が監督について語る時、一般にファミリーネームで呼ぶものだが、アグエロは違う。ペジェグリーニの名を出す時は、常に「マヌエル」と呼んだ。どうも監督と選手の関係というよりは、緊張感を交えつつも和やかな、おじと元気いっぱいの甥っ子といった雰囲気だ。

 幼少期の話や今後の展望を語ったアグエロのインタビューの続きは、12日発売のワールドサッカーキング10月号でチェック!

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