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本田圭佑の今、現地メディアが下す『リアルなホンダ』の評価とは

2012.04.25

ワールドサッカーキング 2012.05.03(No.213)掲載]
 CSKAモスクワに加入した2010年1月以降、本田圭佑は国内外での活躍によって、新天地ロシアで確かなステータスを築いた。しかしその一方で、ケガやコミュニケーション不足、移籍問題など、ネガティブな話題も少なくない。現地メディアが下す「リアルなホンダ」の評価とは、果たして。

文=ゲオルギ・クディノフ、翻訳・構成=高山 港

 2010年1月、CSKAモスクワはエールディヴィジのVVVで活躍する本田の獲得に乗り出した。彼の獲得に積極的な姿勢を見せたのはレオニード・スルツキ監督だ。移籍交渉時に自ら首を突っ込み、最終的に本田の獲得を決断したという。移籍マーケットにおいてはイェフゲニ・ギネル会長がすべての権限を行使するこのクラブで、監督の意向が全面的に反映されるのは非常に珍しいケースと言える。

 スルツキ監督は洗練されたテクニックと戦術眼を備えた本田を高く評価していた。本田にはバルセロナのチャビやアンドレス・イニエスタのようなプレーが期待できる、そう考えていた。そんなスルツキ監督の強い要望を受け、ギネル会長は大金を投資する決断を下したのだ。契約期間は4年。ロシアリーグきっての強豪、CSKAモスクワでの新たな挑戦が始まった。

 ギネル会長はアジア・ナンバーワンプレーヤーと評されていた本田の獲得に、推定で6億6000万円から8億8000万円を投じたと見られている。ロシアでは選手の移籍金や年俸などは一切公表されないのが常だが、いずれにしても異例の大金だ。ちなみにギネル会長は、ロシアサッカー界では5本の指に入る有能な会長とみなされている。ただ、この会長が実際にどれだけの資産を有しているのか、何のビジネスで財を成したのか、国内でも知られていない。本当に彼がCSKAを動かしているのかも分からないほどだ。実際、数年前までロシアのマスコミは「ロマン・アブラモヴィッチがクラブを財政的に動かしている」と書き立てていた。いずれにせよ、CSKAの財政状態がアンジやゼニトなどに次いで良好であることは間違いない。

■周囲の期待に応えるも問題は最適な起用法

 モスクワのマスコミやファンは、誰もが「本田はCSKAに大きな勝利をもたらしてくれる」と信じていた。国内リーグでのデビュー戦でゴールを決め、更にはチャンピオンズリーグ(以下CL)のセビージャ戦でクラブ史に残る勝利に貢献したことで、本田の人気は沸騰した。誰もがCSKAの歴史に名を刻む偉大なプレーヤーになると信じていた。特に2011シーズンのロシアカップでの活躍はファンを大いに喜ばせた。5月11日に行われたスパルタク・モスクワとの準決勝は、3ー3のスコアでPK戦に突入。本田は3人目のキッカーとしてしっかりゴールを決め、勝利に貢献。そして5月22日、ロシア2部のアラニア・ウラジカフカースとの決勝戦では、69分にアラン・ザゴエフに代わって登場すると、その4分後にセイドゥ・ドゥンビアにラストパスを通して決勝ゴールをアシストし、CSKAをロシア・カップ優勝に導いたのである。

 だが、すべてが順風満帆に進んだわけではない。やがて「本田がロシアから離れたがっている」というファンにとって不快なうわさが飛び交い始め、昨年8月のスパルタク・モスクワ戦では右ひざの半月板を損傷。長期間の戦線離脱を余儀なくされたのだ。

 本田の戦術理解力の高さは、ここロシアでも高く評価されている。攻撃的MFとしてラストパスを供給する一方、中盤の底でプレーメークに従事することもできる。サイドからカットインし、鋭いシュートを放つことも可能だ。問題は、「どのポジションが最適か」という点だ。本人がロシアのマスコミに直接話すことがないので周囲の声から察するしかないのだが、本田自身はトップ下でのプレーを望んでいるという。だが、CSKAでプレーする限り、これは非常に難しいリクエストである。このポジションにはCSKAのシンボルであるザゴエフが立ちはだかっているからだ。彼はCSKAの中軸であるだけでなく、ディック・アドフォカート監督率いるロシア代表のリーダー的存在でもある。本田とは違い、ヨーロッパのビッグクラブが現実的にオファーを送るほどの選手だ。今の本田にポジションをより好みする余裕はない。もちろん、強烈なまでのプロ意識の持ち主であるため、監督から指示されたポジションで常にベストを尽くしている。フロントや監督の信頼は今でも厚いようだ。しかし、ケガを再発させたことも含め、本田が居場所を失う可能性が日増しに高まっていることも否定できない。

■地元のマスコミを遮断、ファンの熱も冷める

 11│12シーズンのCSKAは、40節終了時点で66ポイントを獲得、ルチアーノ・スパッレッティ率いる首位ゼニトから15ポイント差の4位。当然、CSKAが狙うのは残り試合で勝ち点を積み重ね、2位ディナモ・モスクワ(勝ち点69)を捉えることだ。ロシアリーグの場合、1位のチームにはCL本選への出場権が与えられ、2位には予備予選からの出場、3位にはヨーロッパリーグ出場権が与えられる。つまり、CSKAはCLへの希望を残すためには、最低でも2位に入らなければならない。

 シーズン終盤戦に向けてファンが最も期待しているのはドゥンビアの活躍だ。得点ランキングで首位に立つ彼がゴールを量産すればCSKAのリーグ制覇も見えてくると、ファンは大きな希望を抱いているのだ。一方、本田が終盤戦で主役を演じる可能性は限りなく低い。最近では、モスクワのメディアも本田のケガの状況についてはほとんど触れなくなっていた。冬の移籍市場でオランダのAZから獲得したスウェーデン代表MFボントゥス・ウェルンブロームに大きな期待を寄せているためだ。確かに、CSKAにとって本田の長期離脱は痛手だったが、マスコミが話題にするのは同じくケガで戦線離脱している主将イゴール・アキンフェエフの状況であって、本田ではないというのが実状である。

 今、本田はモスクワのマスコミの話題にほとんど挙がらなくなっている。マスコミは今でも本田の総合的な能力を高く評価しているが、彼のインタビューが紙面を飾ることはないし、コメントが新聞に載ることもない。ましてや彼がテレビ番組に出演し、ロシア語でファンに語りかけることもない。ロシア語を話せないのは仕方がないとしても、我々報道陣が理解できないのは、彼がロシアのマスコミ相手に話したがらないことだ。あれだけ流暢に英語を操るのだから、もっと我々の前に姿を現してほしいと思うのだが、これまでに彼が積極的に我々とコミュニケーションを図ろうとしたことはない。マスコミとの関係をシャットアウトすることは、ファンとのコンタクトを拒否することにもつながる。ファンの熱が日を追うごとに冷めていっているのもそのせいだろう。

 また、その責任の一端は、本田の代理人を務めるマイケル・ステヴェンスにもあると考えられる。ステヴェンスは外国のマスコミに対し、次のようにコメントした。「本田に興味を抱くクラブはたくさんある。ミランやアーセナルといったビッグクラブを始め、プレミアリーグのいくつかのクラブも本田にオファーを出している」。本田が退団する可能性を新聞報道で知るファンの気分は良いわけがない。本田に対するファンの愛情が急速に冷めていくのは、当然の成り行きだった。現時点で言えるのは、代理人が語っていた「ビッグクラブからのオファー」というのはすべて“ハッタリ”だった可能性が高いということ。ギネル会長の言葉を借りると、唯一のオファーは昨年末のラツィオからのものだけだ。

 ファンの多くは、本田のことを「サムライ」、「ニンジャ」といったニックネームで呼んだ。日本に対する情報の乏しい文化圏で生活しているのだから、単純なニックネームで呼ばれることはやむを得ないだろう。問題は、彼自身からロシアの生活になじもうという気持ちが感じ取れないことだ。本田が知っているロシア語は「プリヴィェット」(親しい仲間うちでのあいさつの言葉)と「プリヤトノゴ・アペティータ」(良いお食事を)だけだと、あるチームメートが教えてくれた。その他の会話はすべて英語で済ませているそうだ。また、かつて日本でプレーし、日本語を少し話せるドゥンビアとは日本語で会話をしているという。

 また、モスクワのマスコミは本田の私生活をほとんど知らない。インタビューを受けず、テレビのスポットライトからも遠ざかっているため、ここモスクワでは神秘的存在となっているのだ。モスクワの南西にある高級住宅街、地下鉄のユーゴ・ザパドナヤ駅の近くにある近代的なマンションに住んでおり、ひざの治療に必要な器具もすべて自室内に取りそろえている。こられが我々の知るピッチが外での彼のすべてだ。

 彼が、サッカー一筋に生きる“偉大なプロフェッショナル”であることに異論を唱える者はいない。規則正しく厳格な生活を自らに課し、トレーニングセッションには必ず時間通りに現れる。日常生活で羽目を外すこともない。世界的にはあまり知られていないかもしれないが、モスクワの町では世界中の料理を楽しむことができ、また夜の誘惑もすさまじいものがある。ロシアに来た外国人プレーヤーが酒と女で身を滅ぼすケースを、我々はこれまでに何度も目にしてきた。しかし、本田の場合はそういった生活とは無縁だ。彼が食事に最大限の注意を払っているのは有名な話。ロシア人の多くは「日本人はサケ(酒)が大好き」と思っているため、本田がアルコール類を一切口にしないことを知ると一様に驚きの声を上げる。本田が口にするのは主にミネラルウォーター、ごくたまにフルーツジュース。ロシア名物のウォッカなどもっての他だ。良い意味でも悪い意味でも、本田がロシアでの生活に順応するのは難しいようだ。

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