FOLLOW US

なでしこジャパンが示した“控えメンバー”の成長、18人の枠を巡る争いに注目

2012.04.16

 昨年のドイツ・ワールドカップで初優勝を果たし、今夏に行われるロンドン・オリンピックでも金メダルの筆頭に挙げられているなでしこジャパン。そんな彼女たちの取材を続け、澤穂希選手や川澄奈穂美選手など、なでしこジャパンの選手を多く抱えるなでしこリーグの最強軍団INAC神戸の番組「INAC TV」(毎月第3・4・5金曜、BSフジ23時~)のオフィシャルキャスターも務める松原渓が、なでしこリーグやなでしこジャパンの動向やこぼれ話などを紹介していきます。

松原渓のなでしこ体験記より転載] 

 15日に2012シーズンのなでしこリーグが開幕しましたね。
 
 昨シーズン、圧倒的な実力でリーグ制覇を成し遂げたINAC神戸は、今シーズンから1部に昇格した大阪高槻を7-0で破り大勝スタート。ルーキーの京川舞選手が2ゴールを決めるなど、さらに戦力に厚みを増したINAC神戸を軸にリーグが展開することは間違いないですね。良性発作性頭位めまい症で戦列を離れていた澤穂希選手もベンチ入りを果たしており、まずは一安心です。
 
 なでしこリーグの模様は、次回に詳しくお知らせしたいと思いますので、しばしお待ちを。今回は1日、5日に行われ、なでしこジャパンが見事に初優勝を果たしたキリンチャレンジカップについてです。

 

持ち前のユーティリティー性で存在感を発揮する田中 [写真]=嶋田健一

■田中明日菜のユーティリティー性はなでしこに必要不可欠

 実は女子のカテゴリーでキリンカップが行われたのは初めて。女子単体で採算が取れると協会が判断するようになったということですから、改めて女子サッカーの発展を実感します。しかも、その最初の招待チームが女子サッカーの3強と言われてきたアメリカとブラジルなんて、すごいことです。なでしこと対戦したいというチームが一気に増えて、マッチメイクも有利になりましたよね。アメリカは時差14~17時間、ブラジルは地球の真反対から来てくれたのですから。

初戦の相手は、昨年のワールドカップ決勝で死闘を演じたアメリカ。1か月前のアルガルベカップでの対戦では1-0でなでしこが初めて90分間の中で勝利しましたが、今回は、1-1。とはいえ、あの勝利が決してまぐれではないことを実証する内容でした。
 
 なでしこの先制ゴールは、近賀ゆかり選手と川澄奈穂美選手、大野忍選手と永里優季選手が見事に連動し、狭いスペースの中でダイレクトパスを使いながら決めた、まさにバルセロナのようなゴールでした。INACのホットラインも生きていましたね。試合を通じてなでしこがボールを支配していましたが、終盤にクリアミスから決められて1-1。限りなく勝利に近い内容だっただけに、悔やまれる失点でした。

 でも、アメリカに「勝てる」と思えるようになったこと自体がすごいことなのです。
 
 印象に残ったのは、“控えメンバー”の成長でした。特に、澤選手が不在の中盤で、阪口夢穂選手と共にしっかりとボールを捌いた田中明日菜選手。 田中選手はセンターバックや攻撃的なポジションをこなせるユーティリティー性があり、オリンピックメンバーの18人の内定を一足先に決めた印象があります。もう一人は、W杯ではケガからの復帰途中で出番がなかったベテランDFの矢野喬子選手。 矢野選手はセンターバックとしてアメリカの屈強なFW陣を見事に往なしていました。今シーズンはプレーの幅を広げるためにも、「体幹を鍛えている」と話していましたが、その成果がばっちり発揮されていましたね。また、2人とも無難なプレーを選択するのではなく、ボールを持ったら常に縦を狙う意識が見えて、しかもパスの精度が高い。2人の活躍を通じて、チームの底上げを実感できました。

 ところが、あれだけ圧倒したにも関わらず、試合後のミックスゾーンで、選手たちが揃いも揃って厳しい感想だったのには驚きました。どうやら、「ワールドカップ決勝で対戦したアメリカはこんなもんじゃなかった」と、ピッチに立っていた選手たちは感じていたようです。たしかに、言われてみれば昨年のドイツ・ワールドカップ決勝のアメリカは、もっとパワーとスピードを生かした迫力がありました。
 
 ということは、今のアメリカは仮の姿なのでしょうか。だとしたら不気味です。ショートパスでつなぐサッカーをなでしこ相手に徹底して練習し、ロングボールを封印したと見せかけて虎視眈々となでしこを研究。オリンピック本番ではロングボールでひたすらパワープレー……。という可能性も十分にあり得ます。心理戦も、勝つための駆け引きですからね。
 
■結果を残した菅澤優衣香、激化するFW争い 
 
 そして、2戦目のブラジル戦。アメリカがブラジルに3-0で勝ったため、なでしこが優勝するためには3点差以上の勝利が必要でした。ブラジルといえば、FIFA最優秀選手を5年連続受賞した“女子版ペレ“こと、マルタ選手がコンディションの関係で来日しなかったのですが、それでもやはりサッカー王国の強さの片りんを見せてくれました。前半はブラジルペースで、なでしこのお株を奪うような連動したプレスに苦しめられます。
 
 そんな流れの中で、なでしこは宮間あや選手のFKから相手オウンゴールで先制するものの、悪い流れは断ち切れず、FKを決められ同点に。とはいえ、交代で入った選手が流れを変えられるのもなでしこの強さ。前半38分に永里選手を投入して流れを引き寄せると、後半は菅澤優衣香選手を投入して攻撃モード全開。菅澤選手が入ったことにより、前線でタメを作れるポイントが増えると、宮間選手と永里選手のコンビネーションで後半13分から3分間で2ゴールを決め、代表初選出の上辻佑実選手と長船加奈選手(共にベガルタ仙台レディース)も投入しました。
 
 優勝するためにはあと1点が必要でしたが、プレッシャーがかかればかかるほど力を発揮するのがなでしこジャパン。後半44分、近賀選手からの絶妙クロスに菅澤選手が合わせてゴールネットを揺らし見事に3点差をつけて大会優勝を成し遂げました。
 
 2点目と3点目を演出した宮間選手と永里選手のコンビネーションは試合を重ねるごとに良くなっているように感じましたし、4点目を決めた菅澤選手はロンドン五輪に向けてアピールしましたね。佐々木則夫監督も「今回の合宿で、一番伸びた選手と思う」と、その成長を認めていました。

 W杯優勝メンバーのFWからは永里選手、安藤梢選手、大野選手、川澄選手、高瀬愛実選手。そして、今回の菅澤選手。丸山桂里奈選手や岩渕真奈選手もケガなどで代表を離れていましたが、シーズン開幕後の活躍次第で呼ばれる可能性は十分にありますね。私の予想では、13人はほぼ当確。分からないのは残りの「5」枠です。来週のなでしこリーグ開幕後の活躍次第で、多くの選手に可能性が残されています。

 最後に、アメリカ戦後の試合後のミックスゾーンで印象に残った宮間選手の言葉を。
 
 彼女が引用していたのは、岡山県出身のタレントでロサンゼルス・オリンピック体操競技の金メダリスト、森末慎二氏の言葉でした。

「『空気だったり、会場のすべてのものが金メダルを取れるという風に一致しないと、金メダルというのは取れない。どんな細かいこともずれていてはいけない』。そのためにはやっぱり努力を続けていくことしかないですし、私たちは団体競技なので、仲間がいるので一人ではなく仲間でそれを感じられるような、そんなオリンピックにしたいと思っています」
 
 宮間選手の言葉には説得力と、周囲を引っ張る力があります。ワールドカップ優勝直後に言っていた「90分でアメリカに勝つ」ということも1年足らずで実現。澤選手とのコンビネーションが待ち遠しいです。
 
 なでしこジャパンの次の大会は、6月中旬に予定されているスウェーデン遠征。ここで、ロンドン・オリンピックに向けた最後の強化試合が行われることとなっています。
 
 残り3か月間、「18人の選考ドラマ」から目が離せません。

【関連記事・リンク】
なでしこ澤、気になる体調は“普通”「ベストな状態で試合に」
なでしこ澤、金メダルへ「夢は見るものではなく叶えるもの」
なでしこリーグ開幕、INAC神戸が7発大勝スタート…澤はベンチ入り
なでしこジャパン、6月のスウェーデン招待でアメリカと再び対戦
なでしこ、ロンドン金メダルのキーマンは澤と永里「伸び盛りの周囲を生かす存在」

INAC

『INAC TV』

BSフジ 毎月 第3金曜 23:00~23:55(再放送 第4・5金曜 23:00~)※4月20日(金)スタート!
 

2011年、女子ワールドカップ ドイツ大会優勝、ロンドン五輪アジア最終予選を突破し、五輪出場権を獲得したなでしこジャパンに7人もの選手を送り出していた「INAC神戸レオネッサ」にスポットを当てる、日本の女子サッカーチームでは初のオフィシャル番組。
 
毎節お送りするINAC神戸レオネッサ戦の中から、注目シーンを凝縮し、練習風景や選手&監督の単独インタビューや番組独自のスペシャル企画、イベント情報など、独占映像満載でINAC神戸レオネッサの魅力を伝える。また、オフィシャルキャスターとして自らも7年のサッカー経験を持つ松原渓がより深く選手に迫る。

 

松原渓

【松原渓】(まつばら けい)1983年8月25日生まれ。タレント。スポーツライター。女子芸能人フットサルチーム「南葛シューターズ」に所属。「INAC TV」(BSフジ)オフィシャルキャスターを務める。2008年よりスポーツライターとしての活動を始め、『サッカーゲームキング』などで連載を持つ。父親の影響で幼少時からアウトドア体験は豊富で、普段はハーレー(FXDL)、ロードレーサー(RALEIGH)を乗りこなす。

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

RANKING今、読まれている記事

  • Daily

  • Weekly

  • Monthly

SOCCERKING VIDEO