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バルセロナの強さを紐解くキーワード「相手を完全に打ちのめすポゼッション」

2012.03.08

提供:小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話

インタビュー:小澤一郎

乾眞寛監督 日本人はビルドアップは中盤でやるもの、いわゆるミドルサードでサイドチェンジと縦パスを使って組み立てることだと考えていますが、バルサがやっている組み立ては最終的なアタッキングサードの3分の1で、しかも一番深い位置のひとつ手前にボールを入れながら最終局面を崩していくこと。バスケットとかハンドボールみたいに、相手ゴール前の3分の1でサッカーを進めていくという考えになっています。
 
 常に3分の1に押し込めるわけじゃないけど、一回後ろへ下げることによって相手を前後に数多く走らせる。バルサの対戦相手の走行距離は、必ずバルサより多くなっています。相手からすると多く「走っている」のではなくて、多く「走らされている」。しかも、前後方向に数多く走らされているので、余計に疲労が溜まる。
 
 横へのスライドとかサイドチェンジに対してブロックを一つずつずらしながら対応するというのは、効率的にうまくやろうと思えばできなくはないです。実際トリプルボランチで、中盤も両サイドの位置を落とすと5枚。そうすると1人1人の横の距離は短くなるので。
 
 実際、(福岡大が)天皇杯で大宮とやった時に採用したのもその考え方を応用したものでした。最終ラインをコンパクトにし、中盤の列に5人を置けば、4人でスライドするより横に移動する距離は短い。だから、効率的にゾーンディフェンスできるという考えでした。
 
 その並びで横スライドの守備になるならまだ対応できるんだけど、前後方向に数多く走らされると、フィジカル的にすごく厳しくなってくる。前半たとえ頑張れたとしても、後半の終盤にガクンと運動量が落ちる。トータルなポゼッションのパーセントが70パーセント、あるいは75パーセントになるゲームというのは、最後の最後の時間帯で一気に差がついてくる。
 
 この前ベティス戦で2-2に追いつかれた後の時間帯に、シャビのスイッチが「プチッ」と入った瞬間が見て取れたというか。あそこから彼らは、動きの量だったり速さだったりサポートの動き直しだったりをもう1段上げられるのに対して、対戦相手は65分の時点で疲労がマックスになっています。
 
 結局、最後の最後で振り回されて、トータルなポゼッション率でみると7対3になっている。疲労の度合いをコントロールしようと思うのですが、結局は力を搾り取られてしまう。バルサのポゼッションというのは相手の体力を吸い取るというか、消耗させるビルドアップだということ。その大元は、縦へのボールの入りです。
 
 バーティカル・ビルドアップが相手の体力を奪い、後半の終盤に真価を見せると。前半のうちに差がついてしまえばイージーなゲームになってしまうし、前半をたとえ接戦で折り返しても後半残り25分というところで残っている体力の量が違う。
 
 日本も動くことに関しては優れた民族だから、バルサのようなサッカーから学ぶべき点があるのかもしれない。レアル・マドリードが油を振り撒きながら走るアメリカ車のような大型車で、全速で走れば一気に油を使い切ってしまうのに対して、省エネでいかなきゃいけないということを考えると、日本はそれに近づく可能性はあるわけですから。
 
 だけど、そのためには縦パスを入れながらゲームを作っていく感覚を身につけないといけない。日本代表も後ろにはたくさんつながるけど、アタッキングサードやバイタルエリアになかなか入っていけない。本田(圭佑)がいたり香川(真司)がいると入っていけるんだけど、本田がいないと途端にうまくいかなくなったり。
 
 香川がサイドから中に潜り込んでうまく入るとチャンスメイクできるけど、遠藤(保仁)のビルドアップだけで世界は崩せない。だからこそ、本田や香川は貴重な存在になる。そういう選手が増えてきて香川や本田に縦パスを多く入れられるようにならないと、失わないという意味でのポゼッションはできても、相手を完全に打ちのめしていくようなポゼッションはできない。

<続く>

セミナー「バルセロナのサッカーと育成法から日本が学ぶべきこと」を開催。乾眞寛監督がバルセロナのサッカーを詳細に解説。バルサとスペインのサッカーや育成から日本の指導現場は何を学ぶべきかも提言します。

小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話
ス ペイン在住歴5年、スペインでの指導経験も持つ気鋭のジャーナリスト・小澤一郎が、メルマガでしか読めない深い論考をお届け! 選手育成を軸足に、日本 サッカーにおける問題点の数々を鋭く指摘します。ライトファンにはディープな知識を、選手・指導者・保護者には真摯な問題提起を。あらゆるサッカーファン 必読のメルマガです!

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