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フランス革命~パリ・サンジェルマンの野望~

2012.02.27

ワールドサッカーキング 2012.03.01(No.208)掲載]
中東のオイルマネーを後ろ盾にした金満クラブがまた一つ、今度はフランスの首都に誕生した。生まれ変わったパリ・サンジェルマンは今、フランスの枠を越えた存在になろうとしている。2011年5月に「華の都」で起きた現代版の“フランス革命”。その全容を解き明かす。
psg

文=フィリップ・オークレール 翻訳=町田敦夫

「パリがいてその他大勢がいる」

 シーズンの半ばにしてこんなコメントを吐いたディディエ・デシャンは、恐らく冗談が好きなのだろう。ただし、もちろんこの言葉には裏がある。マルセイユの指揮官は、「リーグ・アンの優勝チームはパリ・サンジェルマンで決まり」と公言することで、リーグの成金クラブに掛かるプレッシャーをより高めようとしたのだ。試して損はない手法だ。

 だが現実は、リーグ・アンのタイトルレースは既に決着したも同然、というのが大方の見方になっている。スポーツディレクターのレオナルドと新監督のカルロ・アンチェロッティに与えられた資金を考慮すると、違う結果を予想するのは難しい。今シーズンのリーグ・アンは近年で最も激しいが、同時に最も予想しやすいと言える。 ただし、パリSGを「マンチェスター・シティーのフランス版」のように見るのは誤りだろう。2011年5月31日、カタール投資庁が、子会社の「カタール・スポーツ・インベストメンツ」(QSI)を通じてパリSG株の70パーセントを取得したと発表して以来、両クラブはたびたび類似点を指摘されてきた。確かに、どちらも新たな資金源として中東のオイルマネーを得たわけだが、シティーの躍進はフランスリーグとは全く異なる状況下でなされたものである。

 仮にシティーがチャンピオンシップ(イングランド2部)のクラブであったなら、パリSGとの比較は意味を持つかもしれない。だが実際には、シティーは世界屈指の金満クラブがひしめくプレミアリーグを戦っている。リーグ・アンにはマンチェスター・ユナイテッドも、リヴァプールも、チェルシーも、アーセナルも、トッテナムも存在しない。デシャンが言わんとしたのはそこだ。

 マルセイユの名物会長だったベルナール・タピが、フランツ・ベッケンバウアーの監督招し ょうへい聘とディエゴ・マラドーナの獲得を目指したのはもう遠い昔のこと。当時はボルドー、ラシン・パリ、モナコの会長たちが競って財布のひもを緩めていたが、今はパリSGだけが突出しているのだ。

 高速走行をする車はスリップストリームという気流を起こし、後方を走る車の空気抵抗を減少させるという。しかし、パリSGが他のクラブにそういった恩恵を及ぼすのは、まだしばらく先のことだろう。組織と財政が健全なクラブ(マルセイユ、リヨン、リールなど)は、ある程度の競争力を持ち得るが、それでも資金面での制約があることは否めない。パリSGの新オーナーにはそれがない。

 フランスサッカーは長いこと、有料テレビ局「カナル+(プラス)」(1991年から06年までパリSGのオーナー企業だった)に過度に依存していた。振り返れば、カナル+の経験は、今のカタールが進めているプロジェクトの「悪しき見本」のようにも思える。

 カタールの衛星テレビ局「アル・ジャジーラ」は、パリSGと同様、同国の王族の支配下にある。パリSGのチェアマン、ナセル・アル・ケライフィ(同国史上最高の元テニス選手で、タミーム皇太子の親友)が、同時にアル・ジャジーラの経営者でもあるのはもちろん偶然ではない。

 アル・ジャジーラは、フランスで新たなスポーツ専門チャンネルの開局を決めると、わずか数カ月のうちに主要なテレビ放映権を手中に収めた。その中にはフランスリーグの海外放映権、リーグ・アン(毎週2試合)や3部リーグのハイライトの放映権、そして最近までカナル+のものだったチャンピオンズリーグの好カードの放映権などが含まれている。

 パリSGとアル・ジャジーラがフランスサッカーに対して共同で侵攻を掛けているように見えるとしたら、それは事実その通りだ。そしてこの侵攻は長い時間を掛けて、注意深く準備されていた。

 だが、アル・ケライフィとレオナルドが常々「プロジェクト」と呼んでいるものについて語る前に、この大胆な試みはほとんどの人が失敗を予想するギャンブルであったことも理解すべきだ。パリSGは、90年代に数々の成功をつかみ、98年には欧州ナンバーワンのクラブにランクされている。それにもかかわらず、これまで誰一人として飼い慣らすことのできなかった奇妙な“獣”なのだ。

<続きは ワールドサッカーキング 2012.03.01(No.208)でお楽しみください>

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