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ラウールが語るバルセロナ。「バルサは偉大なクラブであり、偉大なるライバルだ」

2012.01.26

 “スペインの至宝”にして“永遠のマドリディスタ”であるラウール・ゴンサレス。16シーズンに渡ってバルサの前に立ちはだかってきた男は、幾度となくバルセロニスタを沈黙させてきた。しかし、彼はよどみなく言い切る。「バルサは偉大なクラブ」であると―。

Interview by Jose Felix Diaz, Translation by Minato TAKAYAMA, Photo by Itaru CHIBA

 ラウール・ゴンサレス。ブンデスリーガのシャルケに所属する34歳のストライカーは、現在もなお、レアル・マドリーと強いきずなで結ばれている。リーガ・エスパニョーラというリーグは、時代とともに勢力図が様々に変化しながらも、バルサとマドリーという2大クラブが圧倒的な存在感を放ってきた。90年代半ばから、“強いマドリー”が存在した時期には、いつもその象徴としてラウールがいたのだ。

 リーガ・エスパニョーラの盟主を争うライバルとして、マドリーの象徴にしてキャプテンだったラウールは、バルサを強く意識してきた。ただ、彼のライバル意識は健全なもので、試合前後に罵り合うような“場外乱闘”からは常に距離を置いてきた。対戦相手としての立場から、冷静な目でバルサを眺め続けてきたという点で、ラウールの右に出るものはいないだろう。

『バルサが優勝できた最大の要因はチームとしての成熟度だった』

ドイツに渡って1年半が経過したけど、心は今もマドリディスタなんだろう?
ラウール─もちろんだよ。マドリーは僕にとって心のチームだし、僕自身もマドリーの歴史に名前を刻んだと自負している。マドリーには今もたくさんの友達がいて、何かあるたびに連絡を取り合っているよ。

マドリーの試合はチェックしている?
ラウール─全試合チェックしている。シャルケの試合と重ならない限りは生中継で見ているよ。プロとして、シャルケの試合を第一に考えるのは当然のこと。でも、マドリーが僕のサッカー人生の重要な一部分を占めていることは否定できない。

モウリーニョのチームをどう見ている?
ラウール─ここに来て急成長しているみたいだね。素早いテンポでダイレクトパスを繋ぐスタイルを確立しつつある。今のマドリーの陣容から見ても理想的なサッカーだと思う。技術面だけでなく、パワーも増しているのが最近の特徴で、マドリディスタ好みのサッカーだという印象だな。昨シーズンとはやや異なるスタイルを目指して、それが形になっているんだと思う。

昨シーズン終盤のクラシコ4連戦をどう見た?
ラウール─まさに死闘という感じだったね。世界トップレベルの選手が必死になって勝利を追い求める……まさにクラシコだよ。ただ、余計なトラブルが多かったことも確かだ。

モウリーニョの采配については?
ラウール─あの4連戦、マドリーはいつもと違ったスタイルでバルサと戦った。中盤の底にペペを置き、バルサの攻撃のカギとなる部分にプレッシャーをかけたんだ。その狙いは当たったと思う。バルサは明らかに戸惑い、嫌がっていたからね。ただ、その代償としてマドリーは中盤での組み立てが弱くなり、結果としてバルサに主導権を明け渡してしまった。バルサの勢いを止めるためのサッカーを試みるモウリーニョの考えは理解できるけど、自分たちのスタイルを放棄したのは残念だった。

バルサがリーガとチャンピオンズリーグの2冠を獲得したのに対し、マドリーはコパ・デル・レイのみ。この結果はチーム力を反映したものと言えるかな?
ラウール─成績を見る限り、バルサの優勢は否定できない。昨シーズン、バルサは最高のサッカーをして、マドリーより重要なタイトルを手にした。ただ、それは昨シーズンの話。今シーズンになって両者の差は縮まっている。それは、開幕直前のスーパーカップでも感じられたし、シーズン序盤の戦いでも証明されている。もっとも、まだ逆転したとは言えない。僕がいた頃と同じように、マドリーは少々ツキに恵まれないみたいだ。だいたい、グアルディオラ率いる歴代最強のバルサを相手にしなければならない時点で相当ツイてないよ(笑)。バルサが凡庸なチームであれば、今のマドリーはあらゆるタイトルを独占できるだろうから。

バルサを撃破しない限り、マドリーがタイトルを手にすることはない。その考えは正しいと思う?
ラウール─いや、リーガ制覇のために最も重要なことはコンスタントに勝ち点を積み重ねることだ。マドリーはモウリーニョ体制になってまだ2年目。一方のバルサはずっと同じメンバーで、同じコンセプトのサッカーをやっている。成熟度の差はやはり存在するよ。バルサはすべての試合で勝ち点3を取るために最大限の集中力を発揮している。その姿勢は見習うべきだと思う。

ここのところ、バルサとマドリーが争っているのはスペインの王座ではなく、世界の頂点であるように思える。
ラウール─バルサは世界の頂点に立っている。結果を出しているし、プレー内容もそれに値する。最高の選手たちがバルサ独自のスタイルを実践し、サッカー界を席巻しているんだ。そのバルサをマドリーがあらゆる面で凌駕するようになれれば、その時は世界一と言っていいだろうね。

『バルサは偉大なクラブであり、偉大なライバルだ。僕はそう思っている』

君はマドリーの象徴であり、大のマドリディスタでありながら、バルサに対しての敬意を忘れなかった。
ラウール─性格は人それぞれだってことさ。僕は僕らしくバルサに接しているというだけだよ。

でも、ライバル意識はあるんだよね?
ラウール─もちろん、いつだってバルサのことは意識している。永遠のライバルだと思っているよ。でも、だからと言ってバルサを憎む必要はない。相手の良い面はちゃんと認め、受け入れるのが僕のやり方だ。それに、バルサには多くの友人がいる。クラシコでは敵対するけど、代表ではチームメートとして一緒に戦う選手がたくさんいるんだ。彼らを憎む気にはなれないし、ケンカする必要もない。バルサは偉大なクラブであり、偉大なるライバルだ。そう思っているよ。

一方、君の親友のグティは、事あるごとにバルサの悪口を言っていたよね。彼をたしなめるようなことはしなかった?
ラウール─人それぞれさ(笑)。グティは直接的な物言いをするけど、バルサをリスペクトしているという点では僕と変わらないと思うよ。

バルサとマドリー間のライバル意識には、往々にして政治色が入り込んでくる。これは仕方のないことなのだろうか? それともスポーツ的には正しいこととは言えない?
ラウール─政治がスポーツに介入するケースは少なくないし、カタルーニャがしばしばその舞台になってきたのも確かだ。特に、ラポルタが会長だった頃のバルサは政治的に利用されていた。彼自身が積極的に政治的なメッセージを発信しようとしていたからね。バルサはカタルーニャを象徴するサッカークラブで、その名を利用してバルセロナ分離主義を展開しようとするのは、むしろ当たり前の行動なのかもしれない。ただ、僕ら選手の立場からすると、ピッチ内ではサッカーに集中したいというのが本音だよ。これはバルサの選手も同じだろう。サッカーが政治の道具に使われる可能性は否定できない。特にバルサはそうだろう。カタルーニャと政治は切っても切り離せない関係にあるのだから。ただ、マドリーに政治色は一切ないと思っているよ。

ヨハン・クライフ時代のドリームチームの印象を一言で言うと?
ラウール─他のチームとは全く違うサッカー、すごく美しいサッカーをしたチームという印象だね。

では、ライカールトのチームは?
ラウール─一言で言うのは難しいな。でも、バルサが苦境にあることを承知で監督を引き受け、困難な仕事を見事に成功させた。最大の功績は、カンテラに人材を求めたことだ。カンテラで育てた選手を引き上げ、デコとかロナウジーニョといったスター選手と組み合わせて、強いチームを作り上げた。ライカールトのサッカーも強くて美しく、そして楽しいものだった。ただ、最後の年は成績不振と周囲の不理解で辛い思いをしたようだね。

ペップ・バルサの印象は?
ラウール─ペップもライカールトと同様に素晴らしいけど、あれだけ多くのタイトルを手にした今も、以前と変わらないハングリー精神を持ち続けていられるのはすごいよ。この数年間、ペップ・バルサが世界を支配している。やっているサッカーの内容でも世界最高だ。マドリディスタとしては残念なことだけどね(笑)。もっとも、今のマドリーに勢いがあることも言っておきたい。今シーズンここまでの出来を見る限り、マドリーがバルサから王座を奪い返す日もそう遠くないと思う。

かつては、“君のマドリー”がバルサを圧倒し、何年もタイトルを譲らなかった。その時もバルサは、“バルサの哲学”に基づくサッカーをやっていたはずだ。勝てなかった昔と常勝の今、バルサの何が変わったのだろう?
ラウール─バルサはカンテラの充実に力を注いだ。同時に、ライカールトとグアルディオラがカンテラから引き上げた若手をピッチに送り出す勇気を持っていた。スター選手とカンテラ出身の若手を組み合わせ、チームとして機能させるというアイデアは、元々はマドリーの戦略だった。10年ほど前のマドリーは“ガラクティコス”なんて言われていたけど、実際に目指していたのは若手との融合だった。「ジダネスとパボネス」、すなわちジダンのような外から獲得したスーパースターと、パボンのような生え抜きを組み合わせてチームを強化するという構想さ。でも、マドリーがそれを実践できない一方で、バルサが成功させた。マドリーのカンテラだって、組織としては充実しているし、そこにかかわる人たちも優秀だ。しかし、そのカンテラも孤立していては意味がない。マドリーのカンテラ出身選手の多くが他のチームで活躍しているのを見るたびに、悔しい思いをしているよ。

誰もが「才能ある若手にはチャンスを与えるべきだ」と言うけど、実際にそうしているクラブは少ない。これは早急な結果を求めるあまり、若手が育つのを待てないからだよね。解決策はあるんだろうか?
ラウール─それもバルサの方法論を見習うべきだろうな。バルサは下部組織の各年代のチームに一貫した教育方針を導入している。カンテラに加入した子供は、トップチームの年代になるまでの12年間、全員が共通のサッカー哲学を学び、バルサのスタイルを身に着けていく。自陣からパスを繋いで攻め上がるスタイルを徹底していて、最終ラインからのロングボールを禁止しているほどだ。そこまで徹底できるのは本当にすごいことだと思う。どんなチームにもサイクルが存在し、強いチームがそのままずっと存続することはあり得ない。ただ、それを可能にするのがバルサの方法論だ。トップチームに上がってきたばかりの若手も、自分がどんなプレーをすべきかちゃんと理解している。いや、頭で考える前に体が反応する。これは世代交代ではなく、新陳代謝と言うべきだろうな。

『ペップも僕も、24時間サッカーのことを考えているサッカー馬鹿だ』

バルサのサッカー哲学に同意できる?
ラウール─バルサのプレースタイルは、クラブレベルでも代表レベルでも世界を制している。彼らのスタイルはとても明確だ。センターバックの2人はやや離れてポジショニングし、両サイドバックは高いポジションを取る。中盤の3人は常にポジションチェンジを行いながら飛び出すタイミングを狙う。ウイングの2人はサイドを起点とするけど、基本的にはダイアゴナルに動き、あくまで中央突破の厚みを増す役割を担う。そしてメッシだけが好きなようにプレーする特権を与えられている。こんな感じかな。明確かつ強力なサッカーだよ。

マドリーとの最大の違いは何だろう?
ラウール─スピードに対する意識だね。マドリーは最短距離でフィニッシュに持ち込む攻めを理想とする。相手を揺さぶるために一拍置くのがバルサだとしたら、そこにリスクがあっても一気に勝負を仕掛けるのがマドリーだ。

モウリーニョがマドリーの監督になってから、両クラブの関係は明らかに悪化している。今では試合のたびに乱闘騒ぎだ。
ラウール─正直、あまり見たくない光景だね。サッカーをする分には、戦いがどれだけ激しくなっても構わない。死力を尽くして戦う姿は美しいと思う。試合の乱闘騒ぎだって褒められたものじゃないけど、勝ちたいという気持ちは伝わってくる。だけど、ピッチ外での中傷合戦は好きになれない。試合終了の笛が鳴った時点で“ノーサイド”になるべきだと僕は思っている。

そのせいで、スペイン代表が内部分裂するんじゃないかという危惧がある。
ラウール─クラブと代表ははっきり分けて考えるべきだ。選手たちはちゃんと理解しているから大丈夫だよ。デル・ボスケ監督もバルサとマドリーのライバル意識のことをずいぶん気にしていたようだけど、今では全く問題にしていないみたいだ。代表では全員がスペインの名誉のためにプレーする。そこには、クラブ間のライバル意識なんて存在しないのさ。

「クラシコはこうあるべき」なんてイメージを持っている?
ラウール─それを僕に質問するなら、答えは一つさ。マドリーが最高のサッカーをして勝つことだ。どんなに素晴らしい試合をしても、それがバルサの勝利であれば意味はない。

今のバルサに弱点があるとしたら何だろう?
ラウール─世界最高のチームの弱点を見付けるのはそう簡単じゃないよ(笑)。だけど、バルサを見ていると、メッシへの依存度が年々高まっているように感じられる。選手層が薄いとは言わないけど、替えの利かない選手はいるってことだね。

グアルディオラとは代表で一緒にプレーしたことがあるよね。
ラウール─ペップとはピッチ内外で最高の友人だったよ。チームメートとしては呼吸の合ったプレーができたと思う。試合以外でも気が合った。ペップも僕も、24時間サッカーのことを考えているサッカー馬鹿だ。だからこそ、分かり合えたんだろうね。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではグラビアページを担当。

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