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赤字は240億円強。金にモノを言わせてチームを強化するマンCの次なる一手は?

2011.12.25

 プレミアリーグの首位を快走するマンチェスター・シティだが、彼らは昨シーズンの決算で膨大な赤字を計上した。UEFAが導入するファイナンシャル・フェアプレーへの対応を迫られる中、金にモノを言わせてチームを強化してきたシティらが打つ次なる一手とは?

文/翻訳協力=アラム・カーン/田島 大 

■史上最高の赤字額はシティ首脳陣にとって想定内の先行投資

 11月に発表されたマンチェスター・シティの前年度決算に周囲が唖然とする中、当の本人たちは例によって挑戦的な姿勢を崩さなかった。2008年にシェイク・マンスールがクラブを買収してからというもの、彼らは常に強気な態度を貫いている。

 2010−11シーズンの彼らの損失は、イングランドサッカー史上最高額の1億9490万ポンド(約243億円)。シティの潤沢の資金に批判的な者は、当然のようにこの額を酷評した。だが、シティはまたしても強気な態度でこれに応戦し、投資は長期的なプランの基に行なわれてきたことを強調。クラブが目指すのは「経営可能」なサッカー界の大物になることだと高らかに言い放った。

 シティのグレアム・ウォレスCEOは、この恐ろしい数字を発表した際にこう語った。「この決算はクラブが今後何年もあらゆる面で経営可能な状態になるための投資であり、財務上の一時的な底に過ぎない。我々の損失は、急激な投資戦略に付随する予測されたものであり、今後この規模の損失を繰り返すことはない」

 ウォレスは「繰り返さない」と表現したが、UEFAのファイナンシャル・フェアプレー(以下FFP)制度の導入が差し迫っている今、この決算は「繰り返せない」とも言い換えられる。彼らがFFPを強く意識していることは明らかで、夏に締結されたエティハド航空とのスポンサー契約はそれを実証するものだろう。

 シティはピッチ上で着実に成功を収めるとともに、ピッチ外でも将来に向けて確かな基盤を築き始めている。エティハド航空との10年契約は3つの名目で結ばれた。スタジアムのネーミングライツ、ユニフォーム広告スポンサー契約の延長、そしてスタジアム周辺の土地開発の支援である。その開発では、最先端のトレーニンググラウンド、そして教育や宿泊用の施設の建設も予定されている。野心に満ち、積極的で、傲慢にさえ感じてしまうシティの計画だが、一方で、ヨーロッパ最高峰を目指す彼らの情熱はおそらく本物だろう。

 とはいえ、エティハド航空はアブダビ政府の企業であり、マンスール・オーナーはそのアブダビの王族だ。シティはエティハド航空との契約で推定4億ポンド(約500億円)の支援を受けるとされており、そこにFFPの突破口を見いだすと言われている。もちろん、その契約には誰もが顔をしかめている。シティがエティハド航空との契約で得る収入のうち、スタジアムを所有するマンチェスター市議会に渡る額は年間200万ポンド(約2億5000万円)だけとされている。アーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督は、「FFPの信頼性が問題となる」と、シティが自分たちに都合がいいようにルールを用いたことを非難しているが、アーセナルのエミレーツ航空との契約が15年で1億ポンド(約125億円)なのだから、その不満も当然かもしれない。

 シティの前CEOギャリー・クックは、エティハド航空との契約をまとめた際にこう断言していた。「FFPに背中を押されたのではない。商業成長が推進力になったのだ。この契約は最もユニークで、価値に上限はない。我々の狙いは、商業成長を続け、市場においても欧州最高峰のクラブと渡り合うことだ」

 シティはその他、ユニフォームサプライヤーであるアンブロとの契約を見直し、来シーズンから現在の4倍以上の額となる年間2600万ポンド(約32億5000万円)という破格の契約を結ぼうとしている。

■冬のマーケットでは量より質の補強と人件費削減へ

 ミシェル・プラティニ会長が推し進めているUEFAのFFPでは、今シーズンからの3年間で計3850万ポンド(約48億円)までの損失しか認められておらず、それを上回った場合、2014−15シーズンの欧州カップ戦から追放される可能性がある。だからこそ、シティはここ数年で早急な大型補強を繰り返し、FFP導入前にプレミアリーグやチャンピオンズリーグのタイトルを狙えるだけのチームを築いた。FFPの順守を目指すクラブは今後、慎重なクラブ運営へと方向転換していくことだろう。

 1月の移籍市場に向けて、シティには数多くのターゲットが取り沙汰されているが、実際の補強は指揮官が補強の必要性を語る最終ラインと中盤に2、3人の新戦力を加える程度にとどめられるはずだ。今、ロベルト・マンチーニが求めているのは量より質。指揮官は国内と欧州の厳しい日程を並行して戦うためにローテーションを用いてきたが、ここまでは必ずしもそれが成功しているとは言えない。プレミアリーグを完全に支配下に置いた一方で、チャンピオンズリーグではまさかのグループリーグ敗退を強いられた。監督はローテーションの採用がチーム力の低下につながらないような“質”の必要性を感じている。

 量より質にポリシーを移行していくと同時に、今冬と来夏の移籍市場ではチームのスリム化に向けたメンバーの選り抜きも行われるだろう。今夏、引く手あまただったクレイグ・ベラミーをフリーで放出したことを思い出してほしい。彼の放出は明らかに人件費削減が目的であった。この作業は今後も続き、多くの選手がフリー、もしくは格安の値段でクラブを去るはずだ。シティは大金で獲得した選手を安価で売却する余裕がある数少ないクラブである。

 ベラミーに関しては2009年冬の獲得の際、ウェストハムに約25億円を支払いながらフリーでの移籍を認めた。エマニュエル・アデバヨール、ロケ・サンタ・クルスも、獲得時の価格は2人合わせて80億円近かったが、大きな値落ちでの移籍が濃厚だ。

 もちろん、渦中のカルロス・テベスについても同じことが言える。一時はキャプテンを務めたストライカーも、不快な行動を繰り返した結果、クラブに見捨てられることになった。冬の移籍に向けて既にミランなどが目を光らせているが、シティの関心は彼をどこに売るのかではなく、彼の放出によって数百万ポンドの人件費が浮くという事実だけだ。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(@SoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではCover&Cover Interviewページを担当。

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