FOLLOW US

チャビ、バルセロナの哲学を語る「重要なのはスペクタクルなサッカーへの思いだ」

2011.12.17

 繊細なボールコントロールと長短自在の正確無比なパスによって、ゴールを演出し続ける司令塔。幼少の頃からバルサのDNAをたたき込まれ、指揮官ペップの考えをピッチ上で体現するこの男がいてこそ、バルセロナの攻撃サッカーは機能する。“ピッチ上の指揮官”としてチームに勝利をもたらすチャビが、バルサの強さ、バルサの哲学のすべてを解き明かす。


[写真]=兼子愼一郎

 バルセロナの司令塔としてプレーするチャビ・エルナンデスがリーガデビューを果たしたのは1998年10月3日、メスタージャでのバレンシア戦だ。記念すべきデビュー戦を、チャビはスタメン出場で飾った。あれから13年が経過し、あの時のチームメートの中で現役生活を続けているのはチャビとリヴァウドだけだ。

 チャビは31歳になった。だが、動きのキレに衰えは見えず、広い視野を生かしたパスワークはこれまで以上に研ぎ澄まされている。今が全盛期─異論を唱える者はほとんどいないはずだ。

 チャビは31年前、バルセロナ北西に位置するテラーサに生まれた。子供の頃からバルサの選手に憧れ、ブラウグラーナのユニフォームを着ることを夢見た生粋のバルセロニスタである。バルサのサッカーを学び、実践し、クラブに黄金期をもたらしたピボーテが、その哲学について語ってくれた。

「個よりも組織を重視して、チーム全体で攻めるのがペップの方法論だ」

バルセロナの哲学とは何か。その定義を一言で表すなら何だろう?
チャビ──「スペクタクルなサッカーをやろうとする気持ち」かな。バルサはいつだって攻撃サッカーなんだ。基本的なコンセプトはボールを常に動かすこと。サイドを活用してピッチを広く使うこと。ボールポゼッションを高めて主導権を握ること。ポゼッションこそがバルサの生命線と言っていいだろうね。それから、守備時にも攻撃的に振る舞うこと。これはつまり、相手がボールを持っている時にも積極的にプレスをかけ、守備陣の負担を軽減することだ。ただ、それはあくまで基本的なコンセプトであって、ペップは試合ごとに俺たちに課題を出す。状況に応じて攻撃の狙いどころに変化をつけたり、守備のパターンを増やしたり。対戦相手を研究して、微調整を行うんだ。

強いチームに必要な要素は何だと思う? 一人で局面を変えられるスター選手の存在、組織力、団結力、戦術、選手層……。
チャビ──全部だね。何一つとして欠けてはいけない。今のバルサには、そのすべてがある。ただ、やはり最大のものは「スペクタクルなサッカーをやろうとする気持ち」だよ。自分たちがサッカーを楽しみ、観客を楽しませたいという意識がバルサにはある。俺たちほどスピードに満ちたスペクタクルなサッカー、美しいサッカーにこだわっているチームは、世界中を探しても他にないはずだ。

そのスタイルを作ったのはクライフだよね?
チャビ──誰もがそう言うはずだよ。クライフはバルサの歴史に重要な足跡を残した。“ドリームチーム”を率いて、華やかで、創造的で、攻撃的なサッカースタイルを作り上げたんだ。そしてバルサは、そのスタイルを脈々と受け継いできた。これはクライフ以降、バルサが適切な方法を採り、クラブの伝統に合った監督を選んできた結果だ。

具体的にはどういうこと?
チャビ──バルサのサッカーを知る人物、あるいは近いサッカーを知る人物。アヤックス出身の監督とかね。マドリーはここ何年か、試行錯誤を繰り返している。だから結局、アイデンティティを見失って、大金を使って選手を買い集めるしかなくなるんだ。俺はバルサの方法が正しいと思うよ。相当の忍耐力が必要になるけどね。

グアルディオラもクライフから続く系譜を受け継いだというわけだね。
チャビ──そうだね。でも、ペップはクライフ流を踏襲するだけじゃなく、その進化系と呼ぶべきスタイルを築いた。彼はクライフを崇拝していて、ドリームチームでもプレーした。ペップのサッカー観はクライフ直伝なのさ。だから最初はクライフの哲学を踏襲したけど、そこから先は自分の工夫を加えて、より強いチームを作ろうとしたんだ。

自分たちがサッカー界に戦術的革新を起こしているという意識はある?
チャビ──バルサのサッカーが多くの人に称賛され、ヨーロッパ中のクラブに研究されていることは知っているよ。でも、戦術的革新という意識はない。戦術的革新というと、アリゴ・サッキのミランのイメージが強いからね。バルサは自分たちが昔からやっているサッカーをピッチで表現しているだけさ。そこに工夫はあっても、基本的なコンセプトは昔からのものを頑なに守っている。そういう意味で、革新ではないね。

君は現チームの中で、現役時代のグアルディオラと一緒にプレーしたことのある唯一の選手だ。
チャビ──カンテラ時代から、ペップは俺の目標だった。トップチームに昇格した時には、胸の高鳴りを抑えられなかったよ。

最初の関係性はどうやって築いたの?
チャビ──正直、最初は近寄りがたい存在なんじゃないかと思っていた。バルセロニスタにとってペップは崇拝の対象だからね。ところが、彼はまだ何の実績もない小僧を可愛がってくれた。話しかけると気さくに応じてくれるから、俺はうれしくていつも彼を探したものさ。同じプロとして敬意を持って接してくれたし、信頼を寄せてくれた。だから俺も彼の人間性に 惹かれたんだ。

今の2人の関係はどう表現すべきかな?
チャビ──どちらもサッカーに魅了されていて、同じバルサの哲学の下で育ってきた人間だということさ。だからペップとサッカー談義をするのはすごく楽しいんだ。

今でも話し合う機会は多い?
チャビ──もちろんさ。俺たちは同じサッカー哲学を持っている。彼が何をチームに望み、どんなプレーをしてほしいのか、彼からすれば、俺に伝えるのが一番早いし、間違いがないんだ。ライカールトが監督だった頃に比べて、バルサはより攻撃的になったと思う。ライカールトの時もゴールを常に狙う姿勢はあったけど、個よりも組織を重視して、チーム全体で攻めるのがペップの方法論だ。当然、彼と同じサッカー観を持つ俺にとっては、今のほうがやりやすい。

グアルディオラは「フットボールはMFのものだ」と言っているけど、君はどう思う?
チャビ──同意見だよ。特にバルサのサッカー哲学においては、MFが基本となる。中盤でボールをキープすること。決してボールを失うことなく、ラストパスを出すタイミングとスペースを探しながらパスを回す。それはMFの仕事だ。

「出し手と受け手の呼吸が合ってこそ初めてパスが成立するんだ」

ゲームメーカーとして心掛けていることを教えてもらえるかな?
チャビ──味方がプレーしやすい状況を自分のパスで作り出すこと。チームメートがいてこそ自分がある。これが俺の基本的な考え方なんだ。メッシみたいに一人でドリブル突破して、そのままシュートを決めるなんて芸当は、俺にはできない。みんなは俺のパス能力を褒めてくれるけど、パスは出し手と受け手の呼吸が合ってこそ初めて成立するんだ。つまり、絶妙なスルーパスがメッシに通っても、それが自分の力だとは思わない。俺とメッシの共同作業で作り出したプレーだと思っている。

本当に? それは謙虚すぎるんじゃない?
チャビ──バルサでもスペイン代表でも、アタッカー陣は質の高い動きで俺のパスを引き出してくれる。俺は、彼らが動きや目線で「くれ!」という場所にボールを送り届けているだけなんだ。

パス能力を高める秘訣はあるんだろうか?
チャビ──パスの正確性、特にロングキックの精度は日々の反復練習の中で高めるものだ。ただ、生まれつきの才能もある。例えば、視野の広いプレーができるかどうか。ピッチ上ではテレビやスタンドから見ているように、すべてが俯瞰で見えるわけじゃない。刻々と変わる状況の中、一瞬で誰にパスを出すべきかを判断しなきゃならない。この感覚を日々のトレーニングで磨くこともできるけど、限界もある。あるレベルから上は、その才能を生まれつき持っているかどうかということになるだろう。

相手との駆け引きもあるんだよね?
チャビ──俺は攻撃の選手だから、必然的に、アタッカー陣にパスを出すプレーが多くなる。当然、相手のDFはそれを阻みに来るから、ダイレクトではたいたり、壁パスを繰り返したり、スペースを狙ったりして揺さぶりをかける。ただ、すべてはFWに良い形でパスを通して、ゴールを生み出すのが目的だ。パスワーク自体が目的になっては本末転倒だよ。

君はパスに相当なこだわりを持っているね。
チャビ──パスを出すという能力については、自分でもそれなりに自信を持っている。“チャビらしいプレー”というものが存在しているとも思っているよ。だけど、それをどうやって身に着けたのかを説明するのは難しいな。幼い頃からバルサで教わったことを実践しているだけだから。パスコースの選択、ポジショニング、ボールスキル。バルサではこの3つを徹底的に指導される。分かるだろう? どれも味方を生かすためのスキル、ピボーテに最も必要とされる能力だ。だから、このクラブからは常に優秀なピボーテが生まれる。逆に、バルサで典型的なセンターフォワードが生まれることはほとんどない。まあ、誰もが知っていることだけどね。

ラ・マシアと呼ばれる下部組織で、君たちはバルサの哲学を文字どおり体にたたき込まれてきた。
チャビ──そうだね。バルサの下部組織のすべてのチーム、そして、バルサBも含めたバルサ予備軍のすべてが、同じシステム、同じサッカー哲学でプレーしている。ゲームを支配すること、パスを繋いで積極的に攻撃を仕掛けるという哲学が選手全員の体に染み込んでいる。そうやってバルサのDNAは各世代に引き継がれていくんだ。

ラ・マシアで教えられるバルサの哲学で最も重要なスキルは何だと思う?
チャビ──次のプレーを早く考えること。ボールを受ける前に、次のプレーの選択肢をいくつか準備し、優先順位まで付けられればベストだね。ラ・マシアでは、コーチが言葉で説明するだけじゃなく、それを体で理解できるような練習が行われる。自分で言うのも何だけど、先を読むことに関しては、俺には生まれつきの才能があった。ラ・マシアはそれを気付かせ、磨き上げる手助けをしてくれたんだ。同じぐらい大切なのが、ボールポゼッションの重要性だ。これは教えられるよりも、体で覚えさせられると言ったほうが正しいかな(笑)。

それはどういうこと?
チャビ──ポゼッションを高めるには、相手にボールを奪われなきゃいいんだけど、そのための基本は3つある。まずは相手選手とボールの間に自分の体を入れること。次に、ボールを自分の置きたい場所にコントロールすること。そして、パスを出す時は最も良いポジションにいる選手を選択すること。この3つを1年間、とことん反復するんだ。2年目も同じことをやる。3年目も同じ繰り返しだ。するとどうなるか分かるかい?

体が勝手に動いてパスが通る?
チャビ──そのとおり。パス回しはすべてがオートマチックに行われなければならない。連動性は、こういう反復練習でしか高められないんだ。体でパスワークを学んだら、今度は頭でその重要性を学ぶ。バルサでは、ボールをキープするという「責任」から誰も逃れられない。相手からプレスをかけられても、足元にあるボールは死ぬ気で守る。自分の子供を守るようにね。なぜかと言うと、バルサのサッカーでは、ポゼッションが途切れる瞬間が一番危険だからだ。バルサのミニゲームではゴールを置かない。つまり、シュートは要求されないんだ。得点ではなく、どちらのチームがより長くポゼッションできるかを競う。バルサがどれだけポゼッションを大事にしているか、これで想像できるだろう?

「今は現役選手としてどこまでやれるか、それだけを考えていたい」

君は、今でこそバルサとスペイン代表の押しも押されもせぬ司令塔だけど、20代前半の頃は決して目立つ選手じゃなかった。キャリアの転機は何だったんだろう?
チャビ──ポジションを上げたことだね。昔は今よりもっと低い位置、今で言うとブスケのポジションでプレーしていた。すごく重要ではあるけど、あの位置からFWにラストパスを送るなんてほぼ不可能だ。転機はライカールトの監督就任だった。俺に今のポジションと役割を与えてくれたのは彼なんだ。最初は半信半疑だった。中盤の底にいれば、ピッチ全体を見渡すことができるから、攻撃の起点となるにはそっちのほうが適しているんじゃないかってね。でも、結局はライカールトが正しかった。俺のプレーが劇的に変わったわけじゃないけど、俺のパス能力はより引き出されたし、チームも機能するようになった。監督の指示には従うものだよ(笑)。

恩人はグアルディオラだけじゃないんだね。
チャビ──ファン・ハール、フェレール、ライカールト、ペップ。俺は監督に恵まれてきたと思う。みんな恩人だよ。

有能で理解のある指揮官の下で君は成長し、バロン・ドールの最終選考に残るほどの選手になった。
チャビ──光栄ではあったけど、それで自分のスタイルを見失ったりはしないよ。バルサやスペイン代表の仲間がいなければ、チャビはただの一選手に過ぎない。そのことは自分が一番よく分かっているつもりさ。俺が高く評価されているのは、バルサとスペイン代表がタイトルを獲得しているからに他ならない。

バロン・ドールはいらないと?
チャビ──得票数で上位に入るのは光栄だけど、サッカー界では普通、その手のトロフィーはゴールを決めた選手に贈られるものだ。そういうものだと思っているから、別に文句はないよ。“パサドール”(パサー)は一人じゃ何もできない。だけど、他の選手と呼吸を合わせてプレーするからこそ味わうことのできる楽しみも存在するんだ。その点なら、我ながら相当レベルが高いと思うけどな(笑)。

もうすぐ君は32歳になる。
チャビ──俺ももう若くないから、バルサもそろそろ、俺の後釜を探す必要があるかもね。って、それは冗談だ(笑)。コンディションには何の問題もないから、あと何年かは大丈夫だよ。その間にきっと、俺やイニエスタよりうまい選手が出てくる。そうしたら喜んでポジションを明け渡すよ。

この夏に加入したセスク・ファブレガスに追い落とされるなんて不安はない?
チャビ──そうなったら歓迎するよ。だって、俺は純粋なバルセロニスタだから、バルサが勝つためなら自分がスタメンかどうかなんて関係ないんだ。

セスクをどう見ている?
チャビ──セスクは世界最高のピボーテの一人だ。視野の広さには生まれ付きの才能が必要だと言ったけど、あいつはそれを持っている。序盤戦でメッシが決めたゴールの大半がセスクのアシストだ。それは、セスクが他の選手には見えないスペースを見つける才能を持っているからさ。バルサの哲学を知っているし、アーセナルでキャプテンを務めたことで精神的なタフさも備えている。セスクの加入でバルサは相当パワーアップしたと思うよ。

引退後のことはまだ考えていない?
チャビ──今は現役選手としてどこまでやれるか、それだけを考えていたい。やがては引退後のことを本気で考えることになるだろう。監督ライセンスを取るために勉強し始めるとかね。少なくとも、サッカー界から離れはしないだろう。だって、自慢じゃないけど俺はサッカー以外のことは何一つうまくできない。だからこの世界にしがみついて生きていくしかないんだ(笑)。

【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではグラビアページを担当。

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

RANKING今、読まれている記事

  • Daily

  • Weekly

  • Monthly

SOCCERKING VIDEO