ペップ・グアルディオラ率いるバルセロナの戦術については、すでに語り尽くされた感がある。 しかし、本当にそうだろうか? 「ポゼッション重視」、「流動的にポジションを入れ替える」、「ショートパスをつなぐ」、「人もボールも動く」は、ペップ・バルサの戦術を表面上でとらえ 分かりやすく説明するためのキャッチコピーに過ぎない。練習や試合で見られる特徴的な動きから ペップ・バルサの“真の戦術”を読み解くことで、新しいバルサのスタイルが見えてくる。(第4回/全9回)
今シーズン開幕からグアルディオラが3-4-3 のシステムを試したことで、「4-3-3か3-4-3か」という議論が地元でも盛んに行われているようだ。日本代表のシステム論を眺めていてもそうなのだが、外野にとって数合わせのシステム論ほど議論しやすいテーマはないのだろう。
だが、現場の指導者や選手にとってはさほど重要性を持たないものとなっている。 その証拠に、バルサは試合中、変幻自在にシステムを変える。彼らにとっては、「変えている」つもりではなく、状況にアジャスト(適応)すべくポジションの最適化を図って動けば、自然とシステムが変わっているだけのこと。
もちろん、バルサはカンテラから明確に4-3-3のシステムをベースとしたプレーモデルで選手を育てており、レベルやスピードの差こそあれトップチームとやっていることは同じだ。だからこそ、基本のシステムやスタートポジションはあるが、特定のシステムに依存したり、固執することはない。
頑固に4-3-3のシステムを貫いているように見えながらも、実際の試合では柔軟性を持って、システムを局面ごとに変えている。システムがあってないようなものなのがバルサの強みであり、選手の戦術眼の高さを示してもいる。 バルサの選手ではないが、昨年のワールドカップで優勝した後にスペイン代表のシステムやポジションについて聞かれたシャビ・アロンソが、「よく分からない」と答えていたのは、戦術的な情報を出したくないのではなく、本当にそういうスタンスでプレーしていることの表れだろう。
目まぐるしく変わる状況に対して最適なポジションを取れる選手が“タクティカルな選手”であり、現代サッカーにおいて求められる選手である。そうであれば、「 4-3-3と3-4-3の違い」を語ったり、システム論を語ることはさほど重要ではない。実際にバルサのようなチームでプレーする選手というのは戦術を頭で理解する前に体で表現できるのだ。
確かに4バックと3バックでは守り方、戦い方に大きな変化が生じる。それでも、根底にあるバルサとしてのプレーモデルは変わらず、今やバルサの戦術においてシステムの概念は消えつつある。だからこそ、相手チームにとっては戦術ボード上の対応、机上の理論では何ともしがたい脅威を持っているのである。
(第5回につづく)