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【インタビュー】ビーチ日本代表の茂怜羅オズ、W杯で目指すは“頂点”ただひとつ

2015.07.08
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インタビュー・文=高尾太恵子

 7月9日、FIFAビーチサッカーワールドカップポルトガル2015が開幕する。

 前回のタヒチ大会、茂怜羅オズは背番号10を背負い躍動した。現在29歳のオズは、2年半前にブラジルから帰化し、ワールドカップ出場という幼い頃からの夢を“日本代表”として叶えた。攻守における司令塔を担うオズは、4試合で4ゴールを挙げ、チームのベスト8進出に大きく貢献。190cmの長身から繰り出されるオーバーヘッドは強烈なインパクトを与え、個人では大会MVPのゴールドボールに次ぐシルバーボールを受賞した。

 しかし、オズは「やっぱりメダルが欲しかった」と唇を噛んだ。リベンジを誓ったあの日から丸2年が経った今、ワールドカップに懸ける思いを明かした。

チームメイトに伝え続けたのは「とにかく楽しむこと」

――前回大会は準々決勝でブラジルに惜しくも敗れ(3-4)、ベスト8という結果でした。

茂怜羅オズ(以下、オズ) 目標に掲げていた決勝進出には、ブラジル戦で勝利することが必要でした。今でもあの時の悔しさは忘れていません。得点のチャンスがたくさんあったのに、決め切ることができなかった。チャンスで決めないと試合はどんどん難しくなりますからね。前回のようなミスは起こしたくないです。

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前回のW杯準々決勝でブラジル代表と対戦した [写真]=Getty Images

――この2年間、キャプテンとしてチームメイトに伝えてきたことはありますか?

オズ「とにかく楽しんでやろう」と伝えています。ビーチサッカーはみんなで楽しくやったほうがいい。「僕が後ろで守っているから、自分たちの好きなプレーをしてこい」と言い続けています。

――チームの変化はどうでしょう?

オズ 若いメンバーが入ってきたので、体力的にタフなチームになりました。まだまだ経験は浅いですが、技術も上達してきて、伸び伸びとプレーしています。この1年間は海外遠征も経験することもできたので、チーム全体の底上げができました。また、マルセロ(メンデス)監督が就任してからは、戦術のバリエーションが増えました。ビーチサッカーの指導者ではトップクラスの監督なので経験も豊富。チームが始動したときは、監督の言っていることが難しくて、理解するまでに時間がかかりましたが、トレーニングで何度も繰り返すことでチームに落とし込んでいきました。

――3月のW杯アジア予選を兼ねたAFCビーチサッカー選手権カタール2015では、決勝でオマーン代表に敗れ、アジア王者を逃しました。

オズ オマーンとの決勝は、選手全員が100パーセントの力を出し切ったけど、準決勝でイランを破りW杯出場権の獲得が決まったことで、集中力が切れたのかもしれません。W杯出場を決めたときは、プレッシャーから解放された瞬間でしたからね。もちろん優勝を目指していましたけど、オマーンも非常に良いチームです。チャンスを作りながらも決め切ることができずに、またPK戦で負けてしまった。本当に悔しかったです。アジアでは常にトップにいなければならないと思っています。でも正直、アジア予選はW杯本大会よりも過酷なんです。予選のプレッシャーはすごく大きいですから。それに、アジアは毎年新しいチームが出てきます。例えば最近だとレバノンが出場しました。プレースタイルや戦術などの情報が全くない中で戦わなければならない難しさがあるんです。

――敗戦で見えた課題はありますか?

オズ メンタル面の弱さですね。代表選手は実力も技術もあるのに、あまり自分に自信がないように感じます。メンタル面でもっと強くならないと、勝負どころで勝ち切ることはできません。最近、サッカー日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督も「日本人は技術があるのに、自分に自信が持てていない」と言っているのを聞いて、ビーチサッカーも全く同じだと思いました。どんなに技術があっても、どんなに強くても、「相手がブラジルだから」とか「この選手がいるから」と考えていたら試合前から負けているも同然。全員が自信を持って試合に臨まなければいけません。

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チームメイトに指示を出すオズ [写真]=Getty Images

――一方、今のチームのストロングポイントはどこですか?

オズ コンパクトに保ちながら攻撃を仕掛けられる点です。

――具体的に言うと?

オズ 得点場面を振り返ると、3人の選手が三角形を作りながら、選手間の距離を縮めてゴール前に迫っていることが多い。逆に選手間の距離が遠くなってしまうと、得点は生まれません。コンパクトになったとき、ワンツーでパスを出したり、次の動きが速くなります。例えば、サッカーのブラジル代表FWネイマールみたいに1対1の勝負を仕掛けることはしない。ネイマールのように1人で局面を打開できればいいですけど、日本人は体格で劣ることが多いので、個人ではなくチームで勝負するほうが強さが増します。3人もしくは4人が近い距離を保ちながら、チーム全員で相手を崩していくイメージですね。

――直前に沖縄で行われたアメリカ代表との親善試合では2戦連勝を収めました。W杯に向けて手応えを掴んだ部分はありますか?

オズ アメリカ代表は、W杯初戦で対戦するポルトガル代表のプレースタイルに似ているんです。多少レベルの差はありますけど、実践を想定した試合ができて、非常にいい準備になったと思います。

――前回大会、オズ選手はけがを抱えての出場となりました。アメリカ戦では豪快なオーバーヘッドを決めるなど好調ぶりを見せていましたが、今のコンディションはいかがですか?

オズ バッチリですね。まずはけがをしないようにと臨んだ親善試合でしたが、オーバーヘッドを2度決めることができてよかったです。応援に来てくれたファンにも、ビーチサッカーの魅力や面白さを伝えることができたと思っています。

――チームの雰囲気はどうですか?

オズ 若い選手がたくさん入ってきたので、明るい雰囲気ですよ。みんな仲がいいですし。オンとオフの切り替えがしっかりできています。

決勝まで行く自信はある

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攻守における司令塔を担うオズ(左)[写真]=Getty Images

――さて、いよいよW杯が近づいてきました。初戦の相手は、開催国のポルトガル代表ということで独特の緊張感があると思います。

オズ 難しい試合になることは分かっています。確かにアウェー感はすごいと思いますが、ポルトガルのほうがプレッシャーを感じているはず。僕は、相手のホームのほうがやりやすいとポジティブに捉えています。観客が多いほうがモチベーションが上がって、試合は楽しくなります。

――若い選手は緊張するのではないでしょうか?

オズ かなり緊張すると思いますよ。親善試合でも、ロッカールームで若い選手の顔を見ると表情が硬いので(笑)。だから、試合前はできる限りそういう選手たちに話しかけています。「とにかくやりたいことを出し尽くせ。みんながミスをしても僕が必ず後ろで守るから」と伝えています。

――それは心強いですね。先ほど、ポルトガル代表はアメリカ代表とプレースタイルが似ていると言っていましたが、具体的にどういう戦い方をするチームですか?

オズ ポルトガルはベテラン選手が多くて、経験値が高い。GKもフィールドプレーヤーのように足元が上手くて、プレッシャーがかからなかったり、真ん中がフリーになっているとリフティングをしながら(前線に)上がってきます。世界トップレベルの選手も数名いて、実力はありますよ。本当に手強い相手だと思います。今回は開催国ですし、モチベーションもすごく上がっているはずです。

――まさに注目の一戦ですね。日本としては、初戦で勝利を手にして勢いをつけたいところです。

オズ マルセロ(メンデス)監督も、選手たちも初戦のことしか考えていません。2戦目以降のアルゼンチン、セネガルとの試合は考えずに、まずは目の前の試合に集中することです。それにポルトガルに勝ったらビッグニュースになりますから(笑)。僕はプラスに考えていますよ。前回(2011年)の女子W杯を制覇したことで、なでしこジャパンは一気に知名度が高くなりました。ミーティングでも、なでしこの話はいつも出てきます。「俺たちもW杯で結果を残して、ビーチサッカーを知ってもらおう」と意気込んでいますよ。

――前回大会終了後に「やっぱりメダルが取りたい」と言っていました。チームの目標を教えてください。

オズ W杯という大きな舞台で「優勝します」と簡単に言うことはできない。でも、ビーチサッカーをもっと知ってもらったり、日本のレベルアップのためには結果を残さなければいけません。僕はどの大会に出ても「優勝したい」と思って臨んでいます。それは今回のW杯も同じです。自信はもちろんありますよ。

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前回のW杯でシルバーボールを獲得したオズ(右)[写真]=Getty Images

ゴールを決めた瞬間は一番幸せな気持ちになる

――前回大会ではシルバーボールを受賞しました。今回はゴールドボール(MVP)獲得に期待がかかっていると思います。

オズ 一番に目指すのはチームの優勝ですけど、どんな大会でもMVPを取りたいと思っています。僕は、子どもの頃から常に世界一の選手になりたいと思いながらプレーしています。トロフィーは何度手にしても嬉しいものですよ。

――具体的に、どういうプレーを見せたいですか?

オズ 一番の役割は守備です。失点をしないようにしっかり守る中で、最近は積極的に攻撃参加をしています。マルセロ監督からは「オズももっとアタックして欲しい」と言われているので、どんどん点を取っていきたいと思っています。僕の大好きなオーバーヘッドでゴールを決めたいですね。この前のアメリカ戦もイメージ通りのオーバーヘッドができたので嬉しかったです。毎試合1点は取りたいですね。

――マルセロ監督には攻撃参加を求められているようですね。

オズ「なんでお前はもっと攻めていかないんだ」ってよく怒られます。マルセロ監督だけではなく、他のチームの監督にも言われますよ(笑)。僕は、守備だけに集中したほうがチームのためになると思っていた。でも、監督には「もっともっと攻めていけ」と要求されるので、もっと自分を出していってもいいのかなと思うようになりました。ただ、チームメイトは僕が後ろにいることに慣れているので、守備のケアをしながら攻め上がらないとカウンターを狙われてしまいます。例えばアジア予選のオマーン戦で、僕がオーバーヘッドをしたとき、相手GKにボールを取られてしまって。咄嗟に後ろを見たら誰も残っていなかったので、そういう部分は課題ですね。もちろん試合中もコミュニケーションは取っていますけど、ビーチサッカーは攻守の切り替えが速い。スピード感がある展開の中で、守備の連携が追いつかないときもあります。なのでマルセロ監督は、僕が攻撃に入るときに他の選手がカバーに入るような作戦も立ててくれています。

――攻撃参加をするようになって楽しさは増えましたか?

オズ やっぱりシュートまで持ち込むのは楽しいです。ゴールを決めた瞬間は一番幸せな気持ちになりますね。

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――試合前は結構イメージトレーニングをされるんですか?

オズ 寝る前なんかに必ずやりますね。チャンスが来たらこういうプレーをやろうとか、こういうゴールを決めようとか。イメージ通りのプレーができたときは「よし!」という感覚です(笑)。今はすでにW杯のイメージトレーニングをしていますよ。

ビーチサッカーならではのアクロバットを楽しんでもらいたい

――W杯で初めてビーチサッカーを目にする人もいるかもしれません。どういう点に注目すればビーチサッカーを楽しめますか?

オズ サッカーとビーチサッカーの違いはやっぱり“アクロバット”です。サッカーのようにドリブルしても、砂の上なのでビーチサッカーだと地味に見えてしまうんですよ(笑)。それに強いチームほど、ボールを浮かせながらパスを出したり、ボールを浮かせてからシュートを打ってきます。特にオーバーヘッドは見どころですね。サッカーとは違う大胆なプレーを楽しんで欲しいです。

――オズ選手のオーバーヘッドも期待しています。最後に応援しているファン、サポーターにメッセージをお願いします。

オズ 日本代表のプレーで、みなさんにビーチサッカーの面白さを伝えたいと思っています。ポルトガルでチーム一丸となって頑張りますので、日本からパワーを送ってもらえると嬉しいです。ぜひ応援をよろしくお願いします!


 前回のW杯は、右足甲に骨挫傷を負い満身創痍の状態だった。重傷を隠しながら強行出場し、チームをベスト8進出に導く活躍でシルバーボールを獲得したものの、オズ自身はとても納得できる大会ではなかった。

 今回は万全の状態で臨む。豪快なオーバーヘッドを決めると約束してくれたオズが砂の上で輝いた時、日本は勝利に近づくはず。チームとしても個人としても狙うは頂点。更なる高みを目指し、ポルトガルの地で決戦に挑む。

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