2015.03.11

【現地記者分析】本田圭佑 背番号「10」の試練

【サッカーゲームキング2015年4月号増刊 『CALCiO2002』掲載】

シーズン序盤こそ好調だった本田圭佑とミランだが、その後はペースを落とし、今は不振に苦しんでいる。本田に対するフィリッポ・インザーギの信頼は変わらないが、指揮官自身も今では立場を危うくしている。もともとミランは開幕から問題を抱えていたが、本田のゴールラッシュによってそれは隠蔽されていた。チームが調子を崩すと、本田は自己犠牲精神を過剰に発揮してしまい、そのために彼自身も道に迷ったのである。

Milan - Empoli

Text by Giovanni Battista OLIVERO

理想を模索し迷走するミラン 帆を失った小舟のような本田

 セリエA第24節のミランvsチェゼーナ。ロッソネーリにとってこの2カ月で2つ目となる勝利を告げるホイッスルが鳴る。本田圭佑は足早にロッカールームへとつながるトンネルへと足を運んだ。その表情からは、勝利の喜びも、控え選手となったことへの不満も見えてこない。ミランの背番号10は、いつもと同じように淡々と振る舞っていた。

 今シーズンの本田にとって、ベンチに座ったままプレーしなかったのはこの試合が初めて。アジアカップでチームを離れていた時を除けば、本田はいつもミランのプレーの中心にいた。アジアカップ終了後、チームに合流してすぐのコッパイタリアでも、途中出場でピッチに送り出されていたのだ。フィリッポ・インザーギ監督からの信頼は変わらないにせよ、これは決して小さくない変化である。

 ラツィオに3-1で勝利した開幕戦から、本田は素晴らしいパフォーマンスでミランを牽引した。クラレンス・セードルフ監督の下で苦しみ抜いた昨シーズンとは全くの別人で、偉大なカンピオーネとして、決然とした態度でプレーしていた。当時の彼は、何の気遅れもすることなく、伝統あるミランの10番を堂々と背負い、サン・シーロのピッチ上で躍動していた。ゴール、アシスト、抜群の運動量、さらには守備面での貢献まで。そのパフォーマンスは、「セリエA最高」とまでは言わないが、間違いなく「セリエAのベスト10に入る選手」だった。

 10月19日の第7節ヴェローナ戦で、本田はセリエAで初のドッピエッタを記録し、3-1の勝利の立役者となった。それまで7試合6得点と、本職のストライカー顔負けの数字を記録していた。だが、そこを頂点として、その後は徐々にパフォーマンスを落としていった。アジアカップからの復帰後、状況はさらに悪化しているようだ。

Milan - Chievo Verona

 では、第7節までとそれ以降では何がどう変わったのか? 本田のパフォーマンス低下とミランの低迷は、奇妙にも足並みを揃えている。もともとインザーギのチームは開幕から構造的な問題を内包していた。それが本田のゴールラッシュによって隠蔽されていただけなのだ。つまり、本田の調子が落ちた後、徐々にチームの問題点が浮き彫りになり、それがさらなる本田のパフォーマンス低下を招いた。そんな悪循環が、第7節以降の状況を作り上げたのだと私は考えている。

 事実、シーズン序盤とその後のチームは全くの別物である。素早い攻守の切り替えを武器とする4-3-3システムに誰もが自信を持っていたのが、開幕からの2カ月間。その後、効果的ではあるが単純な戦術に対策を打たれると、勝ち点のペースは鈍化した。そして年末年始のリーグ中断期間に新たな方向性を探ったのだが、これが迷走を呼ぶ結果となってしまった。今年に入ってからのミランは毎試合のようにフォーメーションを変更し、戦術的継続性などとは無縁の存在となっている。

 インザーギはミランにあるべき「理想の形」を模索しているのだろうが、その作業にかなりの時間を費やしている。悪い時には悪いことが重なるもの。ケガ人も後を絶たず、チームは在り処を失ったまま漂流を続けている。その間にも上位との差は開くばかりだ。

 本田に話を戻そう。故障者リストにこそ入っていないが、疲労が蓄積していることは明らかだ。ミランのトレーニングコーチ陣は疲労を取り除くために手を打っているだろうが、その成果がはっきりと見えるには至っていない。今の本田もさながら帆を失った小舟のように漂流している。

好調のボナヴェントゥーラが本田の地位を脅かしている

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 インザーギが本田を厚く信頼していることに変わりはない。ただ、指揮官は試行錯誤の中で、本田をチームの「補強材」として使おうとしているようだ。開幕当初は本田を3トップの右に固定していたが、2月7日のユヴェントス戦では4-3-1-2の「1」の位置で起用した。ただ、トップ下と言っても、本田の持つ攻撃面での特長を生かせるような役割ではなかった。絶対王者ユーヴェとの戦いで、インザーギは本田にアンドレア・ピルロとのマッチアップを命じたのである。

 実際のところ、それはマッチアップではなくマークだった。ユーヴェが終始主導権を握る展開で、本田はピルロに対して受け身の対応を取らざるを得なかったのだ。メディアの中には「何もできなかった」と酷評する意見もあったが、私はそこまでネガティブに考えてはいない。緊張感の高い試合展開の中で、ピルロにほとんど決定的な仕事をさせなかったことは評価に値する。カルロス・テベスとアルバロ・モラタが絶好調だったあの試合、本田がピルロを自由にさせてしまっていたら、失点は3では済まなかっただろう。

 ただ、攻撃面で本田が持ち味を出せなかったのも事実である。ピルロの抑えが優先課題だとしても、ボールを持った時には見せ場を作ってほしかったのだが、実際はユーヴェ守備陣に危機感を抱かせるプレーはなかった。

 本田とピルロのマッチアップを眺めながら、私はあることを考えていた。「本田の身体的、技術的な特徴を考えた場合、セントラルMFでプレーさせるべきではないか」という最近の話題についてだ。マッチアップの相手であるピルロは、攻撃的MFからレジスタへとコンバートされ大化けした選手である。本田を復活させるには、同じ考え方をすればいいのではないか。

 だが、私はその考えを打ち消した。ミランは多くの問題を抱えている。本田はその多くをケアできる選手なだけに、起用法が議論となる。それでも「ゴールを奪うこと」は極めて重要なポイントで、そこに最も信頼する選手を置くのは当然の選択だ。

 4-3-3を使い続けるのであれば、本田のレギュラーポジションは安泰だろう。1月に加入した本職の右サイドアタッカーのアレッシオ・チェルチは、調子が上がらず順応に苦しんでいる。スピードでは断然チェルチだが、キープやパスでは本田に軍配が上がる。攻撃以外の面、つまり運動量や守備力も考慮すれば、本田のファーストチョイスは揺るがない。チェルチは試合終盤で投入され、疲れた相手守備陣をスピードで翻弄する、という役回りになるはずだ。

Italy Soccer Serie A

 一方、シルヴィオ・ベルルスコーニ名誉会長お気に入りの4-3-1-2システムとなると、ジャコモ・ボナヴェントゥーラが強力なライバルとなる。トップ下のボナヴェントゥーラは4-3-3ではポジションがなく、ウイングやセントラルMFで起用されていたが、そこでもまずまずのプレーを見せていた。第24節のチェゼーナ戦、ボナヴェントゥーラは4-3-1-2のトップ下で先発フル出場。1ゴールを決めた上に、ポストに当たる惜しいシュートなど多くの見せ場を作ったのだ。

 フィジカルコンディションが万全であれば、地力で上回るのは本田だろう。だが、“ジャック”(ボナヴェントゥーラのニックネーム)の裏へ飛び出すタイミングの良さ、パスを引き出す精力的な動き、他の選手を生かすコンビネーション作りの巧みさ(預かるのではなく、流れを止めないまま受け流すイメージ)を考慮すると、本田にとって状況は決して楽観できるものではない。

 前線で起用されるケースでの本田の課題は、他のFWとのコンビネーションだ。具体的に言えば、ここまでチーム得点王のジェレミ・メネズ、1月に加入したマッティア・デストロの2人との連係である。デストロと呼吸を合わせるのはそれほど難しくない。典型的なセンターフォワードであるデストロは動きのバリエーションが限られているからだ。問題はメネズ。彼は左右のサイドを自由に行き来し、強引なドリブルを仕掛けることも多い。良く言えば「多様性を持ったプレーヤー」だが、悪く言えば、「敵にも味方にも混乱をもたらず存在」なのだ。

 本田は開幕以来、このメネズと今一つソリが合わない。プレースタイルの面でも性格の面でも、相性は決して良くないのだろう。それでも、チーム得点王であるメネズとの(少なくともピッチ上での)関係を改善できないと、本田にとってはマイナスとなる。

Hellas Verona - Milan

 コンビネーションが重要なのはFWに限らない。シーズン序盤の好調時、本田と最も多く絡む右サイドバックにはイニャーツィオ・アバーテがいた。アバーテが後ろをケアしてくれていたからこそ、本田も意識のうちかなりの部分を攻撃に割くことができた。アバーテがオーバーラップするためのスペースとパスを本田が担当していたこともあり、この2人は相互にメリットをもたらす関係を築き上げていたのだ。

 アジアカップで本田が不在だった間、チェルチとアバーテの呼吸はあまり合っていなかった。そして本田が戻って来たタイミングでアバーテがケガで離脱。代役としてアディル・ラミ、クリスティアン・ザッカルド、ダニエレ・ボネーラが週替わりで起用されているが、本田にとっては守備面の負担を増やす結果にしかならなかった。アバーテは3月上旬には復帰予定で、本田とのコンビが復活すれば、ミランには大きな上積みが期待できるのだが……。

 本田は練習でも試合でも常に高いプロ意識を見せ、他の選手の模範となっている。FWとしてプレーしながら高い守備意識を見せ、攻守のバランスが崩れそうな時には効果的なプレーで組織の破綻を防いでいる。ただ、チームの全体的なパフォーマンスが低下した時、本田のプロ精神は「自分を犠牲にする」という方向に働きがちだ。本田の出来が悪い時は、エネルギーの多くを割いている時。そうなると当然、前線に上がって勝負できる機会は減り、ゴールも出なくなってしまう。最近の彼の不振を説明するには、これが最もシンプルかつ的を得た答えだろう。

 チーム戦術との兼ね合いもあるが、本田は犠牲的精神を過剰に発揮しない「自制心」を持つべきだろう。チームに貢献するには様々な方法がある。ただ彼の場合、優先すべきは守備ではなく攻撃だ。チームメートが頼りなく思えても、自己犠牲に偏って本来の仕事ができないのでは意味がない。守備のバランスが悪い時、逆にゴールを奪うことでチームを助けることもできるはずだ。攻守のバランス感覚は本田の長所であり、美徳とも呼ぶべきものだが、それを過剰に働かせてはならない。

ブーイングは“愛の叱咤” プレーでファンを黙らせろ

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 最後に、本田の今後について少し考えてみたい。今のところ、ミラン首脳陣は少なくとも今シーズン終了までインザーギ体制で行くということで合意している。仮にピッポの途中解任があったとしても、マッシミリアーノ・アッレグリが解任された昨シーズンと同様に、アシスタントコーチのタッソッティが暫定的に指揮を執る可能性が高い。その場合、大幅な戦術変更はなく、本田の立場も大きくは変わらないはずだ。全く別の監督が来たとしても、本田は非常に真面目でプロ意識の高い選手であり、そういう選手をあからさまにメンバーから外す指揮官は少ない。

 同様に、ミランが彼を戦力外と見なして来夏に放出することは、少なくとも現時点では考えられない。一方で、本田は今のミランと、チームを取り巻く環境についてどう考えているのだろうか?

 気になったのは、パルマ戦終了後のコメント。「(選手同士の)距離感の遠さからプレーが困難になっている。もともとミランは遠い。印象としては全盛期も遠かった。新しいミランを作っていかなきゃいけないと思う」というものだ。

 私はこれに疑問を持った。彼がどの時期を指しているかは分からないが、ミランは非常にコンパクトなサッカーをしてきた。それは、アリゴ・サッキの“革命”以降、ファビオ・カペッロ、カルロ・アンチェロッティにも脈々と受け継がれてきた伝統的なスタイルである。攻撃時にはパスワークで、守備時にはハイプレスを用いる“距離の近いサッカー”がミランのスタイル。「距離が遠い」のは現在のチームの力不足によるもので、ミランのスタイルとは関係がない。いずれにしても、彼のやりたいサッカーと今のミランのサッカーに少なからずズレが生じているのは間違いない。これが今後、大きな問題に発展しなければいいが……。

Hellas Verona-Milan 1-3 - Calcio Campionato di Serie A 2014/2015

 もう一つ、エンポリ戦の試合後、試合中に浴びせられたティフォージの口笛について、本田はこうコメントしている。「現在のミランのファンは、しびれを切らしてしまって罵声に近い部分がある。本当の愛情の叱咤なのかなと思ってしまう。それで選手が自信をなくし、つなげる場面でもロングボールを蹴って相手に簡単に拾われてしまったら意味がない」

 はっきり言おう。それこそがイタリア流の“愛の叱咤”なのだ。カルチョ離れが叫ばれる昨今、エンポリ相手の平凡なカードで会場まで足を運ぶファンが、ミランを愛していないわけがない。あの口笛こそが愛情の証なのだ。

 問題はむしろ、そうしたファンのプレッシャーに対して選手が過剰反応してしまうこと。かつて、カンピオーネが揃っていたミランでは、選手は口笛の嵐の中でも悠然と自分たちのプレーをし、結果でそれを鳴り止ませていた。ところが今のミランは、それができない。ケイスケにはこう言いたい。「君はミランの単なる一選手ではない。チームにおける最重要選手の一人であり、10番を背負ってプレーしている。その責任を果たさなければならない。ファンの批判は時に理不尽に思えるかもしれないが、それが君が率先して、ピッチ上のプレーでファンを納得させるしかないのだ」と。

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