2011年にスタートし、1000名を超えるサッカー&映画ファンが集うイベントに成長、今年も2月14日(土)、15日(日)の2日間で8作品を上映する「ヨコハマ・フットボール映画祭2015 powered by バーコードフットボーラー」。さらに今年は全国8都市で映画を上映するJAPANツアーも開催されます。
そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各作品の映画評を順次ご紹介。
今回は日本人初のプロ・セパタクロー選手であり2014年仁川アジア大会でもダブルスで銅メダルを獲得した寺本進さんに、“世界最弱”と呼ばれた米領サモアのサッカー代表チームの挑戦を追ったドキュメンタリー作品『ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦』 についての映画評を寄稿いただきました。こちらの作品はJAPANツアーの仙台開催(1/31)、福岡開催(2/28)、札幌開催(3/14)でも上映されます。
「情熱と覚悟」が巻き起こすキセキ/寺本進
0対31。
サッカーの試合ではあまり見ることのない数字。しかも代表戦。
そしてこれはフィクションではなく実話ということに驚かされる。
とにかくどんなチームの実録なのか、興味を持たずにいられなかった。
米領サモア
格闘技好きの私がすぐに浮かべたのは、K-1でも活躍した「サモアの怪人」マーク・ハント選手やマイティ・モー選手、そして相撲界では元横綱武蔵丸関。
共通して体格に恵まれているという印象はあるが、正直それ以上サモアという国のイメージを膨らませることは出来なかった。
にわかな知識でこの映画に入ったわけだが、その内容に引き込まれるのに時間はかからなかった。
私はこれまで長い年月セパタクロー日本代表として競技生活を送ってきたが、その経験がこの映画の内容と深くリンクしたからである。
選手の葛藤
私が競技を始めた約20年前。その時の日本代表チームもまさにこの米領サモア代表チームと同じ状況だった。
世界では1勝どころか1セットすら奪えないレベルで、当時ランキングがあるとしたら最下位と言えた。
経済的にも苦しく、選手たちの殆どは日中仕事をして夜のわずかな時間で練習をする。
日の丸を背負い出場する世界選手権にはほぼ自費で参加。代表ユニフォームを自分たちで買い揃えなければいけない時期も続いた。
代表選手として活動を続ければ続けるほど資金的な負担が膨らむ。生活のため一般的な収入を得ようと思えば代表活動を諦める必要があった。苦渋の決断で競技から離れていった有能な選手たちも少なくなかった。
将来の不安は常にぬぐえない。
マイナーがゆえに注目度も低く、評価されることがほとんどない。
正直日本代表として活動していても自信も誇りも持てていなかった。
何故ここまでして競技を続けているのか?
しかし、辞めたいと思ったことはない。
感覚的な部分で明確に言葉にできないが、どんなに苦しくても競技に対する「情熱」が冷める気配は全く無かったのだ。
情熱と覚悟
とにかく勝ちたかった。
米領サモアチームも同じような思いで活動してきたに違いない。彼らの言動から情熱、覚悟、揺るぎない勝利への意欲がヒシヒシと伝わってきた。
世界に自国の存在を証明するには勝つしか方法がないと理解していた。
同時に自身で選んだ道に確信を得るためにも、必要なのは結果であった。
結果が評価され、注目を浴びれば競技環境も選手のモチベーションも変わる。サッカーという世界最大の競技となれば尚更だ。そして多くの選手が希望を持って集まればもっと強くなれる。
代表選手としての役割は重く、そして明確だ。
これが「夢を追いかける」という作業といえる。
「夢」という言葉は一見華やかでカッコいい。
しかし、本気で夢を語るには大きな覚悟が必要だと私は思う。
ましてや過去に誰も成し得ていない未来を創り出すのは簡単ではない。
大きなエネルギーと時間を要する作業。
結果を得るための労力を惜しまず、犠牲をいとわない覚悟が出来た瞬間、夢に近づく可能性が生じるはずだ。
私も不安や現実を受け入れ、戦い抜く覚悟で競技に全てのエネルギーを注いできたつもりである。
勇気を持ってチャレンジを継続していれば必ず目標に近づいていくと信じ、ひたすらボールを追い続けた。
疲労なんて感じなかった。食事や寝る時間さえもったいないと思うほどに。
そして、現在は世界のトップレベルとなった日本セパタクロー代表チーム。最下位争いからメダル争いを繰り広げる上位国へと劇的に成長したのだ。
こうして自身の経験や葛藤が米領サモアチームの記録と深く重なり合い、彼らと一緒に戦っているかのような心境でその快進撃に興奮した。
しかし、軽はずみに共感できると言えない彼らだけにある強さの根源が存在する。
それは、監督、選手たちが忘れる事のできない大きな悲しみを背負っているということ。
そんな過去を受け入れ、今を生きようとするエネルギーの深さは計り知れない。
「恐れる未来などない。何だってできる」と。
そこに人間の本当の強さを垣間見る事が出来るのではないだろうか。
お金の為でなく、家族のため、そしてプライドと生き様をかけて純粋に戦う彼らを応援せずにはいられない。
世界一も世界最弱も、メジャーもマイナーも、上手いも下手も関係なく、情熱をかけた軌跡には大きな感動がある。
米領サモア代表チームの2018年ワールドカップでの活躍に注目したい。
1976年1月28日生まれ、広島県出身。元セパタクロー選手。山陽高校サッカー部だった高校時代に、地元広島開催のアジア競技大会のプレ試合でセパタクローに出会う。セパタクローの一芸一能入試で入学した亜細亜大学卒業後、セパタクロー世界最強国タイのプロリーグに唯一の外国人選手として2010年まで7年間参戦。日本人初のプロ選手であり、元日本代表主将。国内大会出場50回、うち優勝40回。国際大会でも数々のメダルを獲得。2014年、ダブルスで銅メダルを獲得した仁川アジア大会後に現役引退を発表。
【映画詳細】
『ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦』
アメリカ領サモア/ドキュメンタリー/97分
監督:スティーブ・ジェイミソン、 マイク・ブレット
配給:アスミック・エース
(C)2014 Next Goal Wins Ltd.
【ヨコハマ・フットボール映画祭について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2015年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月14日(土)、15日(日)に開催!全国ツアーの日程も含め、詳細は公式サイト(http://2015.yfff.org/)にて。