EURO2016特集|UEFA欧州選手権
2015.01.25

敗戦から浮かび上がる問題点…日本代表のUAE対策は正しかったのか?

敗戦から浮かび上がる2つの問題


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 アジアカップ準々決勝でUAEに敗れた一戦は、日本代表にとって2つの大きな問題を提示する結果になった。

 監督やコーチには、選手に対して教えられるプレーと教えられないプレーとがある。ゴールを決めるために、どうやってシュートを打てばいいのかは教えられる。しかし、ボールをゴールの枠内に入れる感覚までは教えることができない。教えられない感覚を、別の言葉に言い換えれば「決定力」と呼ぶ。日本代表には、この「決定力」が「不足」していると言われ続けてきた。「決定力不足」の問題は、なにも日本に限った話ではない。この問題は、サッカーの永遠のテーマでもある。

 監督やコーチが教えられない感覚は、実は、ある時期に養える可能性がある。それは、育成年代である。選手のテクニックやメンタル、サッカーへの考え方や取り組み方の大部分は幼少の時期に作られると言える。しかし問題は、現代表がどうかということなので、現状からいかに上積みできるかを探るしかない。

 過去から現在までの、特に外国人が日本代表の監督を務めたときに、彼らに課せられた期待は、「決定力不足」をどうやって戦術で解決するのかというものだった。戦術とは「戦い方」の意味なので、どういう戦い方をすれば「決定力不足」が解消できるのかということである。それは、日本とは異なるサッカー文化の中で養われた経験と頭脳を頼りに、外国人の知恵を借りてなんとか解決策を得られないのかという願いでもあった。

「決定力不足」を解消するためには、ゴールの確率を上げる必要がある。そのためには、ゴールまでの道のりをはっきり示してチャンスの回数を増やすことで、決定力不足は解消されると考える。3回のシュートチャンスと、35回のシュートチャンスでは、チャンスだけを数えれば35回のほうがゴールを決める機会に恵まれている。まずはチャンスの回数を増やすことが重要であった。

 確かにUAE戦を見れば日本のチャンスの回数は多い。ただしそのうち、3回に2回ゴールの枠に入るのと、35回に8回入るのでは確率的に前者が優れている。日本は、35回シュートを打って8回しかゴールの枠内に入れられない。

 ここで、一つ目の問題が浮かび上がるのである。

 ゴールまでの道のりを示してチャンスの回数を増やしても、「決定力不足」はなかなか解消されていなかったということである。そして、チャンスの内容を問題にするならば、ゴール前でフリーになれる状況になったとしても、決定的な得点が入らないのである。意図的にでも偶然的にでも、相手ディフェンダーから自由になれている場面なのに、ボールがゴール枠内に飛ばない。そうした絶対的と思われるチャンスを一試合に何度も見せられれば、「決定力不足」が解消されていないことになってしまう。

 では、「決定力不足」は、ボールをゴール枠内に入れられない選手のスキルの問題なのかと言えば、そうだとも言い切れない。そこにこの問題の根の深さがあり、二つ目の問題が浮かび上がるのである。

海外経験を積んだ選手たちが主力であっても

本田圭佑
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 日本の選手は、経験不足だと言われてきた。

 いざという時に、チャンスを決めきれないのは、選手の経験が足りないからであり、海外のクラブで活躍する選手が代表の中に増えてくれば、選手の経験不足は解消されるだろう、と考えられた。

 選手が海外のクラブでプレー経験を積めば、解決されることがたくさんある。つまり、日本のJリーグよりもレベルの高い場所でプレーすることで、日本では得られないものを与えられる。例えば、対人に当たり負けしないフィジカルコンタクトを持てることや、プレッシャーがかかった場面でも確実にシュートを決められる優れたスキルを身につけられる。そして海外クラブの指導者のもとでプレーすれば、サッカーの戦術眼も高まる。同時に、海外生活を経験することで強いメンタルを得られるかもしれない。ポジティブな側面においては、そんな風にイメージしていた。

 UAEとの準々決勝で日本のピッチに立っていたのは、FC東京に加入するディフェンダーの森重真人とガンバ大阪のミッドフィルダーの遠藤保仁以外の9人は、すべて海外のクラブに所属する選手たちだ。それも、ほとんどの選手がレギュラーかレギュラークラスである。リーグ優勝を経験した選手もいれば、チャンピオンズ・リーグの試合に出場した選手もいる。

 選手たちは、海外のクラブでプレーすることで、たくさんの経験を積んできたはずだ。さらに、今回のアジアカップのレギュラー組は、ブラジルワールドカップでの苦い経験を味わった選手で固められている。彼らは、大きな敗北から得たであろう経験を持っている選手たちでもある。

 実績がある外国人の監督を就任させて、海外のクラブでプレーする経験豊かな選手たちでレギュラーを占めても、35回シュートを打って、8回がゴール枠内に飛んで、1点しか取れなかったのだ。これが、現在の日本代表が示した現実の姿である。

 得点チャンスを作る道すじが提示される。その道すじに従って攻撃を仕かける。そして、得点チャンスの回数は増えた。内容も格段にアップした。それでも決定的な場面でゴールを決められない。決定力不足を補える希望として、海外クラブでプレーする選手が増えれば、豊富な経験を身につけてなんとかしてくれかもしれないと思われた。しかし、決定力不足は残されたままとなった。

日本がなぜ敗れたのか、一つの仮説をたてる

 アギーレ監督の指導する戦い方で、日本がずっと抱える「決定力不足」を解消できるのか、という大きな問いがある。実利的に物事をみれば、世界的に永遠のテーマである「決定力不足」という問題を、もしも解決する能力があるならば、世界のサッカー界が放っておくわけがない、という反射的な問いに直面してしまう。だからと言って、彼の実績すべてを否定することもない。

「決定力不足が問題だ」と述べただけでは、なぜ敗戦したのかという理由にはならない。UAE戦で敗れたという事実に目を背けないで、あの一戦の中で何があったのかを考えてみたい。そこで、少し視点を変えてひとつの仮説をたててみたい。それは、日本はUAEのシステムを読み間違えたのではないのかという説である。

 問題は、試合が始まって失点するまでの場面に集約される。

日本のシステムは正しかったのか


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 日本のシステムは、いつものように[4-3-3]で中盤が逆三角形。一方、UAEのシステムは[4-2-3-1]ではなく、[4-4-2]で中盤がボックス型を形成した。日本とUAEのシステムをマッチアップさせると、相手が何も対処してこなければ、日本はアンカー役の長谷部誠がフリーになれるし、また、UAEは中盤の両SHがフリーになれる可能性がみえてくる。(日本と対戦する国とのシステムのマッチアップにおける数的優位と数的不利については以前のプレビュー記事で述べた)

 UAEが[4-2-3-1]ならば、中盤のトップ下の選手が日本のアンカー役の長谷部とマッチアップすることになる。ヨルダン戦を思い出してほしい。ヨルダンが日本と戦ったとき、[4-4-2]で中盤の並びをダイヤモンド型にしてきた。ヨルダンのトップ下の選手と長谷部がマッチアップする状態になった。日本のビルドアップは、2人のCBが左右に大きく開いている真ん中に長谷部が下りてきてボールをもつときから始まる。ヨルダンは、日本のビルドアップ開始を阻止して前線の日本選手に縦パスを入れさせない。おそらくヨルダンが、中盤をダイヤモンド型にして長谷部にトップ下の選手をマークさせたのはそうした意図からだろう。

 しかしUAEは、長谷部にボールを持たせるやり方をしてきた。ここで考えられるのは、あえて長谷部にボールを持たせたのではないか、ということである。そのために、長谷部とマッチアップしない中盤がボックス型のシステムを採用してきた。なぜならば、得点を奪ってからのUAEは、長谷部とマッチアップするように[4-2-3-1]に変えてくる。それも、ちょうど長谷部と対面する中盤の3人のうちのトップ下には背番号10番のオマール・アブドゥラフマンを置いて、長谷部がUAEの攻撃に気を配らせるようなやり方をした。

[4-4-2]で中盤の構成がボックス型の場合、SHの選手はタッチラインに張らずにピッチの中よりにポジションを取る場合がある。日本がUAEのSHを「見る(マンマークではなく、相手の動きを視野に入れながら攻守・守攻においてポジショニングすること)」場合、CH、SB、MF(インサイドハーフ)のいずれかの選手が「見る」ことになる。

 UAEの先制点は、日本の左サイドから起点を作られている。UAEの右サイドのSHには、オマールが配置されていた。彼を「見る」日本の選手は、SBの長友佑都か長谷部、あるいは左インサイドハーフにいる選手(香川真司か遠藤保仁)のいずれかになる。グループリーグでの日本は、相手の選手の誰を「見る」のかという意思の疎通が選手間にあった。しかし、立ち上がりの日本は、誰が誰を「見る」のかに関して混乱している。特に、オマールのポジショニングにどう対処すればいいのか迷いが見られる。

 UAEはトライアングルを使って日本のプレスを躱す。プレスに行っては躱されるという悪循環に陥る。試合開始から曖昧だった日本のマークは、よりいっそう混沌する。日本のSBは攻撃の際に高い位置を取る。SBの背後がオープンスペースになるので、CBと逆サイドのSBはボールサイドにスライドする。FWのアル・アハマド・マブフートは、日本の2人のCBの間に立って中間ポジションを保つ。ここでも、アブフートへ誰がマークするのか曖昧になっている。そして、日本の失点に繋がっていくのだが、これらが初めからUAEの狙いだとしたら、日本の失点は相手の戦い方を読み違えたということになるのではないか。

日本はUAEのシステムを読み間違えたのか

長谷部誠
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 日本は、UAEが[4-2-3-1]で挑んでくると考えていた。誰が誰を「見る」のかは、あらかじめ打ち合わせがあった。しかし、UAEは日本の裏をかいて[4-4-2]のボックス型を採用する。長谷部がビルドアップでボールを持って前に上がるべく、わざと長谷部の前に選手を置かないシステムを採用してきた。目の前にスペースがある長谷部は、右SHのオマールの動きが気になって前に出る。長友は対面するUAEのSBとオマールを警戒してプレスに行くかどうか躊躇する動きを見せた。FWアブフートが、CBの森重と吉田麻也の間に立つ。後方から出されたミドルパスは、GK川島永嗣とCBの裏のスペースに出される。アブフートは、簡単に川島と一対一になれた。

 こうした一連の流れが、UAEにとっては想定内の計画通りの展開だったとすれば、試合開始すぐの日本の混乱は頷けるのである。

 ここまで書いてきたことが本当のことかどうかは、監督、スタッフ、選手に聞いて確認しなければわからないが、日本は、グループリーグとは違って、落ち着きのないゲームの入り方をした。無失点で勝ち上がったのは、長谷部と酒井高徳らのリスクマネージメントによるものだった。必要以上に攻撃参加せずに、味方が相手の勢いをディレイで抑えている間にすばやくスタートポジションに帰還する。しかし、試合開始早々からリズムを壊されていたのである。

 日本のシステムが[4-2-3-1]でスタートしていたならば、長谷部と遠藤をDFの前に置ける。メリットとして、日本の左のCHがUAEの右のSHアマールをマークできる。あるいは、後ろに下がっていきFWアブフートを「見る」ことができる。デメリットとして日本のトップ下は、UAEの2人のCHの間に立つことになるので1対2の数的不利になる。

 あらかじめシステムを[4-2-3-1]でスタートしてマークをはっきりさせていたならば、違った展開になっていただろうが、問題は、予想されたシステムと違ったやり方を相手がとってきた場合に、どのように対処するのかという準備がなされていなかったことである。

 経験豊富な監督と選手たちで固められたチームであっても、相手のやり方が想定したのと違ったからと言って試合開始から慌ててしまう。もしこの仮説が正しければ、日本はまんまとUAEの術中にはまってしまったことになる。日本のサッカーにとって、深くて大きな傷を残した敗戦だった。