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【ロンドンの残光】ロンドン五輪サッカー日本代表の真実「Episode 5 最終選考メンバー発表の明暗」

2014.12.28

Getty Images

GKからゲームを組み立てる重要性

 現代サッカーの特徴のひとつに、GKからのビルドアップが取り上げられる。権田修一は、GKからのビルドアップに関して試行錯誤の日々を続けていると言う。

「ビルドアップについては、今、勉強中です。今季のFC東京の数試合を振り返っているんです。そうしたらそれぞれの試合の中で違いが見えてくる。僕からのロングフィードが多い試合は、チームとしていいサッカーができていない、と思うんです。逆に、僕からのロングフィードでチャンスになった場面もある。キックには自信があるんですが、ちょっといいボールを蹴れたからと言って気持ちよくなって、僕がロングフィード一辺倒になってしまうと、チームとして悪循環に陥ってしまう。

 ボールを前に運べるときでも、僕へのバックパスが増えたりする。あるいは、僕にパスがきてもボールを大きく蹴るんだと思って、みんなが前線の方に上がって行ったりしてしまう。ボールを繋ぐためには、みんなの協力がないとできないことです。『権田がボールを持ったらみんな上がれ。大きく蹴るから』ではなくて、『マイボールだから繋ごう』という意識改革が必要で、それは練習からやっていないと持てない意識ですよね」

 権田は、さらに言葉を続けて、ビルドアップに関する選手の心理面についても話す。試合中に見せるフィールドプレーヤーのささいな表情やちょっとした仕草、そしてその日のコンディションにも気を配る必要があると言う。

「ゲームの中で選手が見せる表情とかにも目を向ける必要があると思うんです。『今日はあまりボールを受けたくないな』という表情をしている選手っているんですよね。『なんか足にボールがつかないな』とか『来てほしくないな』という選手の表情をもっと見られるようになったらいいのに、と思います。調子が良くないと感じているその選手が、もしも完全にフリーでいるときに、その選手にボールを出してあげれば、その選手はフリーでいるんだから、なんのプレッシャーも感じないでいいイメージでボールを持てるようになるかもしれないじゃないですか。

 逆に、『今日は調子がいい』ように見える選手や『今日は相手が見えていて、逆を取れる』という選手には、相手のプレッシャーが多少厳しい状況でもボールを出していいのかな、とか。それはゲームに入らないとわからないことで、前の試合も良かったから次の試合もできるというわけではないですしね。そう言った選手の表情やコンディションをもっと見極められたら、より効果的なビルドアップに繋がるように思えます」

 また、キックが得意な権田は、フィードに関しても試行錯誤を続けている。

「J1リーグで今季、優勝争いをしている(ベガルタ)仙台は、GKがロングボールを蹴っても、セカンドボールをマイボールにするんです。つまりセカンドボールを拾う確率を上げようと考えてプレーしているんですよ。とにかくセカンドボールを狙って自分たちのボールにしようという意識を強く持っているから、試合では粘り強く戦ってくる。GKがロングボールを蹴ってFWがヘディングで勝ちました、となったとします。でも、その次のプレーに活かされなかったら、僕は成功じゃないと思っているんです。最初の選手がヘディングで勝って、それだけではダメで、そのあとのボールをうちの選手が拾えなかったらいいプレーだとは言えない。

 最近、たまにやるんですけど、無回転気味のボールをバーンと相手のCBのところにわざと蹴るんですよ。CBって、相手と競らないでフリーでいた場合、蹴ったボールがちょっとしたブレ球だったなら、トラップするのもリスクがあるから、前にクリアーをするしかないんです。そうすると、前を向いている自分たちの選手の誰かがセカンドボールを前向きで拾える確率が高くなるんじゃないのかな、と考えて試しているんです。セカンドボールをどちらのチームが拾えるのかによって、攻撃に行けるのかそれとも守備に回るのか、それが大きいと思うんです。ビルドアップの質を、僕も含めてチームとして上げていかないといけない。それは、クラブでも五輪代表でも言えることです」

 この時はまだ、ロンドン五輪に参加するU-23日本代表のメンバー18名は、発表されていない。アジア最終予選で主力としてプレーした権田は、7月2日の発表会見の日を待っていた。

最終選考メンバー発表の明暗

宇佐美貴史

 ロンドン五輪に向けた最終選考メンバーを監督の関塚隆が読み上げる。関塚がMFの選手として宇佐美貴史の名前を告げた。トゥーロン国際大会での活躍が認められたのだろう。

 そして、18番目のメンバーとして杉本健勇の名前を呼んだとき、記者会見場からは「オー」というどよめきに近い声が起こる。得点力と勝負強さが買われて、190cm近い長身をもつ大型FWは最終メンバーに残る。杉本の場合、ロンドン五輪への出場を熱望して、試合に使われるクラブを求め今年3月にセレッソ大阪からJ2の東京ヴェルディに期限付き移籍をした経過がある。元チームメイトの清武弘嗣や山口螢、扇原貴宏とは意思の疎通があったこともメンバー入りできた理由の一つかもしれない。

 そして、メンバー全員の名前が告げられたことで、五輪最終予選で活躍した常連組の原口元気と大迫勇也の落選が決まった。

 18人を選考するのに、最も大きな要因は「トゥーロン国際大会」での敗因理由にあったと考えられる。実際、メンバー発表後の記者会見の中で、関塚はトゥーロンでの戦いの重要性を次のように話している。

「5月にトゥーロンを戦って、やはりディフェンスラインは補強が必要だろうと強く感じた。トゥーロンの3試合は、自分たちを見直して、ヨーロッパの国と戦う上での距離感、われわれの立ち位置が非常に分かった部分はある。その中でも自分たちがやれたこともありますから、それを多くするという点では(戦い方を)変えたいと思う」。

 ディフェンスラインの強化のために、吉田麻也と徳永悠平のDFの選手がオーバーエイジの枠で選ばれる。さらに、トゥーロンでの失点の責任をGKの判断ミスだったと捉えたのか、もう1人のオーバーエイジの枠には、バックアップメンバーとしてGKの林彰洋が呼ばれた。

 トゥーロンでの日本は、グループリーグの初戦となったトルコ戦で0対2の敗北を喫し、続く2戦目のオランダには3対2で勝利するも、リーグ戦突破を賭けたエジプト戦では2対3と敗れて、決勝トーナメントに進出できなかった。予選3試合を戦って、7失点という大量のゴールを相手に許す結果になる。これらの失点はいずれもFKなどのセットプレーからなっている。そのセットプレーをもたらした原因は、相手が日本のサイドを、特に左サイドを突破されてピンチを招いていた。したがって、個の力で負けないDF陣を補強して、なおかつコーチング力のあるGKを置いておきたい、と考えたのは道理にかなっている。

 攻撃陣に関しても、トゥーロンに呼ばれたのは、バイエルン・ミュンヘンにいた宇佐美、シュツットガルトの酒井高徳、ユトレヒトの高木善朗、メンヘングラッドバッハにいた大津祐樹、セビージャ・アトレティコの指宿洋史の欧州組5人だった。「欧州組を試す機会はこの大会しかない」と関塚が話したように、トゥーロンでの活躍次第で、誰を残して誰を残さないのかの判断基準になったのは間違いない。

 ただし、守備の要のGKである権田修一も攻撃のポイントになっていた原口も、ちょうど同じ時期にA代表に召集されていたので、トゥーロンの大会には参加できなかった。もしも、権田と原口が、この大会に呼ばれて試合に出ていたならば、試合結果も最終選考メンバーの選択も違ったものになっていたように考えられる。そう思わせるだけ、五輪最終予選での2人の貢献度は大きかったのである。
 
 アジアで通用した戦い方は、欧州では通用しなかった。事実、トゥーロンでの大敗がそれを物語っている。しかし、欧州のチーム相手にも通用した部分がある。それは、オランダ戦での勝利の中に見えた。攻撃に関しても、守備と同様に個の力で相手のプレッシャーを打開する技術をもった選手が必要性になる。そうやって関塚は考えたから、宇佐美や大津を最終メンバーに選んだ。しかし、守備に関して言えば、メンバー選考以前に、守備戦術に大きな問題を含んでいた。

 そのことを選ばれた選手たちも監督の関塚も気づかないでいた。いや、何人かの選手たちは、薄々、守備戦術に問題があることをわかっていた者もいる。でも、その問題を具体的に指摘する者が現れるまで、問題は蓋をされたままだった。オーバーエイジ枠で呼ばれる吉田麻也という存在が五輪代表のチームに現れるまで、守備戦術の問題点は改善されなかった。

【BACK NUMBER】
●Episode 4 キャプテン山村和也という存在
●Episode 3 チームの雰囲気を一変させた選手だけのミーティング
●Episode 2 攻撃側の選手と守備側の選手の乖離
●Episode 1 不協和音はロッカールームから始まった

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