Jリーグのある街で安く、いや1000円で飲み、そのクラブを知る。眉をひそめて語るお固い戦術論や技術論はシラフに任せ、酔いどれ著者がゆく、サッカーの肴を巡る旅。今回はアビスパ福岡のお膝元、博多の夜である。
[サムライサッカーキング 020 2014年5月号掲載、文・写真=竹田聡一郎]
アウェー せんべろの旅~博多編~
日本は野球の国だ。男性が3人揃えば野球談義が始まる。
じゃあ、サッカーはどうなの?
Jリーグは語れるの?
「列島各地でゲームリポートなんかより蹴球与太話を」
そんな企画を本稿で始めた。一応、サッカー連載(のつもり)であるが、前号の大阪編を見るとスタジアムや選手の写真は一切なく(ちゃんと撮って編集部に送っている)、ボールがあったと思ったらそれは鶏すき焼きの生卵だった。本格的にサッカー記事から逸脱している感があり、ついでながら次の記事は宇都宮さんのソチ五輪について、さらにページをめくると柳下さんの映画の話だったりして、サムライサッカーキング、なかなかいい度胸なのである。
ということで、甚だ簡単ではございますが、今回も「今年のアビスパは前線に比重を置いたサッカーで楽しい」、「レベスタは美しい。サッカー専用だもの」、「J’s GOALの『Jリーグスタジアムグルメ大賞』で2シャドーに選出されたウエストのごぼ天うどんは、ばりうまか」、スタジアム内については以上の3点をさくっと、しかし強く主張して天神や中州へ向かうことにする。
まずは焼き鳥店「粋恭」で「とりかわ」を肴に瓶ビール。近くの客や店員とアビスパ談義をしたいのだが、隣席の男性3人組はジョジョリオンが前作からどう変化したかを熱く語っており、店員さんに話しかけようとしても、店内は満席でセカセカテキパキしとる上に店員さんはなんだか可愛いいからナンパ目的と思われるのもあれで追加注文の「キューリ」などが来る度に「あびっ」「あびすっ」と切り出そうとしてもうまくいかずケンシロウにやられる下っ端モヒカン人間みたいになってしまったのであった。
2軒目の「しらすくじら」も同じような状況だった。ハイボールを飲むカップルにおもむろに質問してみた。
「アビスパ、知ってます?」
「名前だけは……。試合は観たことないです」
「城後、キングなんです。いい選手っす」
「はあ……。ホークスなら観たことあるけど」
無念を抱いて3軒目へ。博多には「角(ルビ:かく)打ち」という、酒屋の店頭あるいは店内で飲む、酒飲みの本懐とも言える文化がある。それをあますことなく体現している「オオトリ酒店」でヒューガルデンの生を片手に女子2人組に吐露する。僕、東京からアビスパを観にきたんですけど、みんなアビスパ知らないんです。
「そげん言われてもうちらも知らんよ」
「ホークスならよく知っとーよ。うち今宮君のファンよ」
彼女たちの博多弁は非常に可愛かったけど、今宮というより松中タイプの僕と話は続かなかった。
それにしてもホークスばかりだ。今季、プロ野球は80周年を迎える。Jリーグはまだハタチそこそこで、列島どこでもサッカー談義ができるなんてのはお伽噺なのか。
少し落胆した帰り道、もう1杯だけ飲みたくてフラリとキャナルシティ脇の屋台「ぴょん吉」に入った。瓶ビールを注文すると大将が「東京から?」と聞いてくれた。
そうです。東京です。アビスパ、観にきたんです。福岡は150万人も人がいて、サッカー専用のスタジアムがあって坂田大輔はあんなに真面目にチェイシングしているのに、みんなアビスパを、Jリーグを観てないんです。なんでですかね。
僕はひと息にまくしたてていた。
「うーん。まだまだ弱いからじゃないかな。スポーツって実はけっこう単純で『強くなったら人は応援に行くのか、人がたくさん行くから強くなるのか』って言えば、それは前者なんだよね、ミーハーもいる。便乗だってする。アビスパの目玉商品は? マーケティングはしてる? そう考えると、厳しい言い方だけど地元の人にまだまだ響いてきていないよね」
大将の簑原さんは静かな、しかし力強い「昔、絶対ヤンチャだったな」という人特有のトーンで諭してくれた。
そうか、プロの興行のニワトリとタマゴは分かりやすい。Jリーグは、アビスパを始めとした潜在能力を持つクラブや、またその選手、あるいはそれを盛り上げる我々のような書き手も、まだまだ努力が足りないのかもしれない。いつか角打ちでアビスパ談義をできる日が来るといい、と切に願う。
そう考えると新興のリーグ、それもリアル野球の国にあるJクラブの熱と現状はどうなんだろう。なんくるなるものなのだろうか、南へ向かうことにした。
<~せんべろ旅~バックナンバー>
【アウェーせんべろの旅・第1回大阪編】2万もあれば遠くへ行ける。酒も飲めるし、出会いもある
1979年神奈川県生まれ。ベルマーレのジュニア・ユースに在籍していた経験だけに頼りサッカーライターとなるが、戦術などを特に学ばずに草サッカーばかりして書いた著書『BBB ビーサン!!』や『日々是蹴球』(いずれも講談社)が一部の変わったファンに評価されている。「オレがサッカーを知らない人とのHUBになれたら」と語るが、仕事はたくさんないので「ハブはハブでも村八分のほう」と本人の知らないところで囁かれているのは内緒だ。