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ピッチに潜む“幸運の女神”…英誌がひも解く勝利と運の関係性とは

2013.07.09

[ワールドサッカーキング0718号掲載]

「今日は良いプレーができていた。ただ運に恵まれなかった」。フットボールファンなら一度は聞いたことがある敗戦の言い訳だろう。だが、本当にそうだろうか? フットボールにおける成功や失敗に、「運」はどれほど影響を及ぼすものだろうか。美しく、時に不可解なこのスポーツの真実に迫るべく、英国の専門誌『FourFourTwo』が勝利と運の関係性をひも解く。
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文=ジェイムズ・モウ Text by James MAW
翻訳=高山 港 Translation by Minato TAKAYAMA
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images

「幸運の女神」とはどんな存在なのか?

 プレーヤーに監督、そしてファン。このスポーツにかかわる誰もが、「幸運の女神」に感謝したことも、罵声を浴びせたい気持ちになったこともあるだろう。彼女はあらゆるシーンに登場するが、その本質を捉えることは難しい。我々は「幸運の女神」だとか「運」という言葉で、人間の力が及ばない要因によって起こる事象を表現する。そしてしばしば、喜ばしくないことを嘆いたり、認めたくないことから目をそらしたりする際に使っている。

 例えばフランク・ランパードのプレーに批判的な人は、「彼はラッキーなだけだ」と言う。そして、相手の体に当たって方向が変わったゴールが多いと指摘する。だが、単にラッキーなだけで、プレミアリーグ10シーズン連続の2桁ゴールという記録が生まれるだろうか。ほとんどのクラブのFWは、彼よりもゴール数が少ないのだ。

 一方、一昨シーズンのリヴァプールはシュートが33回もポストやクロスバーに嫌われ、多くのファンから「アンラッキーなチーム」と見なされた。だが、別の見方をすれば、リヴァプールは33回のチャンスを不正確なシュートで無駄にした、とも言える。

 昨年のユーロのグループリーグでは、開催国ウクライナとイングランドの試合で起こった「疑惑の判定」が話題になった。62分、マルコ・デヴィッチのシュートをジョン・テリーがクリアした場面で、ボールは完全にゴールラインを超えていたが、ゴールは認められなかった。ある新聞は「幸運の女神がイングランドを選んだ」と報じた。

 では、ウクライナが不運でイングランドが幸運だったと言えるだろうか。疑惑のゴールシーンを見返してみると、デヴィッチにボールが渡った時点でオフサイドだったことが分かる。イングランドの最終ラインは完璧なオフサイドトラップでウクライナの攻撃を無効にしたはずだが、副審はこれを見逃した。この時点でアンラッキーだったのはイングランドのほうだ。

 試合は1-0でイングランドが勝利したから、結論としては「イングランドがラッキーだった」ということになっている。だが、本当にそうかと言われれば疑わしいし、そもそも「運」と結びつけて議論すべきかどうかも怪しい。だとしたら、フットボールにおける「幸運の女神」とは、どんな存在なのだろうか?

勝利や敗北を「運」のせいにできるか

「人間の力ではコントロールできない」。メディアの人間はしばしば、この陳腐な表現で「運」を語る。だが、それは確かに「運」の本質でもある。一昨シーズン、チャンピオンズリーグ(CL)の王者となったチェルシーをサンプルに考えてみよう。

 バイエルンとの決勝戦、チェルシーのDFたちは奇跡のようなパフォーマンスを見せた。相手のホーム、アリアンツ・アレーナで、バイエルンに35本ものシュートを打たせながら1ゴールしか許さなかったのだ。試合展開から言えば、バイエルンが大差をつけて勝っていても不思議のない内容だった。

 問題は、これを「チェルシーが運のおかげで勝てた」と言えるかどうかだ。公平に言って、ラッキーだったのはチェルシーではなく、決勝をホームで戦ったバイエルンのほうだろう。バイエルンにはアルイェン・ロッベンのPKを含むいくつもの惜しいチャンスがあったが、それをことごとく外した。これは運が悪かったせいだろうか? バイエルンの詰めが甘かった、あるいは、チェルシーがよく守ったと表現したほうが正しいのではないだろうか。「運」とは、その事象がどちらのチームにもコントロールできない状況のことだ。例えば、レフェリーのひどいミスジャッジ、予期しない突風やアクシデント。2009年、サンダーランドとリヴァプールの試合では、ダレン・ベントのシュートがファンの投げ入れたビーチボールに当たり、それが決勝ゴールになった。この場合は「ダレン・ベントはラッキーだった」と言うしかない。

 かつてクリケットのイングランド代表だったジャーナリスト、エド・スミスは彼の著書の中で「運」と「チャンス」の違いをこう説明している。「チャンスは実現性を意味する。トランプでエースを引き当てる回数は4回で、1度引き当てれば3回に減る。この時、エースを引く『チャンス』と『運』は同じ意味にはならない」

 一見するとあり得ない事象は、すぐ「運」のせいにされる。もし一方のチームがシュートを20本も打ちながら6回もポストに当て、スコアレスドローに終わったら、選手たちは「今日はツイてなかった」と言うだろう。だが、もし同じような試合が定期的に起こっていたら話は変わってくる。その「運」は、別の何らかの理由で起こっていると考えるほうが自然だ。

「運」をつかむチームとつかめないチーム

「練習すればするほど、幸運が味方してくれる気がする」。メジャー大会を9回制した伝説のプロゴルファー、ゲーリー・プレーヤーはそう語る。運はある程度コントロール可能だと考えるアスリートは多い。ある調査では、ハイレベルな選手ほど「自分は運がいい」と考える傾向が強くなるのだという。

「幸運は偶然の産物ではない。コントロールできることに集中した結果、生じる副産物だ」。そう語るのはウェスト・ブロムウィッチのパフォーマンスコーチ、トム・ベイツだ。本人がしっかりと準備し、努力したおかげでラッキーな結果を生み出したと信じている場合、その選手は「運をコントロールしている」と感じるのだという。

 1990年代後半のマンチェスター・ユナイテッドは、確かに運をコントロールしているように見えた。試合終了間際に決定的なゴールを奪うことが多かったのだ。実際、そのイメージが定着したおかげで、ユナイテッドの選手はリードされていても諦めなかった。同様に、対戦相手は「終盤に強い」というユナイテッドのイメージを恐れてパニックに陥り、つまらないミスから失点した。「運をコントロール」するとは、恐らくこういう状態のことだろう。

 2010年のワールドカップでイングランドがドイツに敗退した時、その試合でゴールラインを越えたランパードのシュートが認められなかったことが「不運」と呼ばれた。では、それをイングランド敗退の理由にできるだろうか。確かに、あのゴールが認められればスコアは2-2となっていたわけだが、その後の展開は全く予測不可能で、イングランドが勝つとは限らなかった。むしろ「常に冷静で勝負強い」というイメージを作り上げてきたドイツ代表が、きっちりと追加点を奪っていた可能性のほうが高そうだ。実際、ドイツはランパードの「幻のゴール」の後、その幸運を生かして2得点を重ね、4-1でイングランドを一蹴した。

 もし、イングランドが不運なミスジャッジのせいで動揺し、本来のプレーができなかったのだとしたら、試合に負けたことを運のせいにはできない。例えばかつてのマンチェスター・ユナイテッドのように、イングランドが不屈の闘志で運を「コントロール」できるチームだったら、最終的に1-4という結果にはなっていなかったに違いない。

チャンスを見逃さない細部へのアプローチ

「運」をコントロールしたければ、どんな小さなチャンスも見逃さないことが重要になる。ロンドン・オリンピックで脚光を浴びたイギリスの自転車チームのアプローチは示唆に富んでいる。

 彼らは、自転車競技の10個の金メダルのうち何と7つを獲得した。チームのパフォーマンスディレクターを務めたデイヴ・ブレイルスフォードは、「アドバンテージを集合させる、という考え方が重要だった」と語っている。「自転車に例えれば、まずは可能な限り細かくパーツを分解することから始める。そして、すべてのパーツの性能を1パーセントずつ向上させる。それができれば、再び一つに組み上げた時、大きな変化が起こるんだ」

 彼が言う「パーツ」とは、正しい姿勢で寝ているか、遠征時にいつも同じ枕で寝ているかといった、生活のディティールの部分に当たる。手を洗う時、指の間に汚れを残すことなく完璧に洗っているかといった、およそ自転車競技に関係ないような細かいことも、時として重要になる。雨つぶが集まって洪水を起こすように、小さなことの積み重ねが、やがて大きな差をもたらすと彼は言う。

 ユーロ2012が始まる前、イングランド代表は故障者の続出に頭を抱えていた。ランパードとギャレス・バリーは筋肉を痛めて出場を辞退し、テリーも肉離れで出場を危ぶまれた。多くの人がイングランド代表の「不運」を嘆いた。

 だが、オランダ人のコンディショニングコーチ、レイモンド・フェルハイエンは、それを「準備段階のミス」と言い切った。「大会の3週間前の時点で過度なトレーニングを課せば、彼らの筋肉が悲鳴を上げるのは目に見えていた」。フース・ヒディンクやフランク・ライカールトのアシスタントを歴任してきた彼は、選手の筋肉量に応じて休養をコントロールし、ケガを予防する理論で目覚ましい成果を上げてきた。「ユーロの準備期間には、トレーニングの質を上げて量を減らすことが必要だった。イングランド代表に選ばれるような選手であれば、コンディションを整えるだけで高いパフォーマンスを発揮できる。それなら、長いシーズンを戦い終えた彼らの疲労を取り除き、新たな活力を与え、肉体をリフレッシュさせるようなトレーニングをすべきだったんだ」

「幸運の女神」はどこにいるのか? フットボールが持つ「運」という魅力とは? 続きは、ワールドサッカーキング0718号でチェック!

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