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危機的状況のバルサを救ったメッシ、大一番で“世界最高”を証明

2013.04.08

[ワールドサッカーキング0418号掲載]
メッシ
文=Alberto Gimenez Text by アルベルト・ヒメネス
翻訳=工藤 拓 Translation by Taku KUDO
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images

ミランとレアル・マドリーに計3敗を喫し、危機的状況のバルセロナを救ったのはやはり、リオネル・メッシだった。ミランとの大一番で無類の勝負強さを見せたメッシは、世界中が注目する中、“世界最高”であることを証明してみせた。

 ミランとのチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦ファーストレグ、レアル・マドリーとのコパ・デル・レイ準決勝セカンドレグと、今シーズン最も重要な2試合でまさかの2連敗を喫したリオネル・メッシとバルセロナ。それから4日、舞台をサンティアゴ・ベルナベウに移したマドリーとの再戦にて、再び彼らは屈辱的な敗戦を味わうことになる。コパの雪辱を晴らすべく必勝を期して臨んだにもかかわらず、主力を多数温存した相手にかなわなかったのである。

リーガ・エスパニョーラ 第26節vsレアル・マドリー

 既にリーグ優勝を諦めているマドリーは直後に控えるマンチェスター・ユナイテッドとのCLを優先し、クリスチアーノ・ロナウドを始め約半数の主力を温存。半ばこの試合を捨ててきた相手に対し、リベンジに燃えるこちらは気合十分。ゆえに4日前とは異なるバルサを期待できる要素はそろっていた。

 しかし、試合は4日前と同様に、早々に失点を喫する苦しい展開となる。6分、チアーゴ・アルカンタラがメッシへ送ったくさびのパスをセルヒオ・ラモスがカット。これが左サイドのアルバロ・モラタを経由してゴール前でフリーのカリム・ベンゼマへと渡り、あっさり先制点を決められてしまう。それでも18分にはディフェンスライン裏へ抜け出したメッシがダニエウ・アウヴェスのスルーパスを受け、S・ラモスの股下を抜くシュートを決めてスコアを振り出しに戻す。リーガ記録をまた1試合更新する16戦連発、しかもアルフレード・ディ・ステファノの最多記録に並ぶクラシコ通算18ゴール目はしかし、4日前と同様、いやそれ以上に動きの重いチームを目覚めさせる起爆剤とはならなかった。

 気を引き締め直した後半は立ち上がりこそメッシを起点に何度か相手ゴールへ迫るシーンを作ったものの、その流れも長くは続かない。57分にC・ロナウドが途中出場した後は一気に流れがマドリーへ傾くと、ついに82分、4日前と同じCKからS・ラモスに頭で決勝点を流し込まれてしまった。

 終了直前には、ペナルティーエリア内に侵入したアドリアーノがS・ラモスに足を掛けられる明らかなPKが見逃される不運もあった。だがビクトル・バルデスと一対一になったモラタの決定機やクロスバーに直撃したC・ロナウドのFKなど、マドリーがそれ以上に決定機を作り出していただけに、試合後に残った印象は完敗の一言。試合後、半ば我を忘れたV・バルデスがペレス・ラサ主審に執拗に食ってかかる姿は、90分を通して選手たちがためこんだフラストレーションの大きさを物語っていた。

リーガ・エスパニョーラ 第27節vsデポルティーボ

 相手は最下位に沈むデポルティーボ、しかも3日後にはミランとの決戦が控えていたとはいえ、この日のメッシのベンチスタートを予想した国内メディアは皆無だった。もともとメッシは試合でプレーしながらコンディションを調整していく選手。しかも前節マドリー戦の後には丸一週間の準備期間があった。何よりこの試合ではミランとマドリーから計3敗を喫したショックから立ち直ることが最も重要だと考えられていただけに、アンドレス・イニエスタ、ペドロ・ロドリゲス、セルヒオ・ブスケら主力に加えて16試合連続ゴール中のエースが不在の先発メンバーは、いつも以上におとなしいスタンドの雰囲気とともに一抹の不安を感じさせた。

 案の定、この日の選手たちは立ち上がりから集中力の欠如としか言いようのないイージーミスを連発。それでも38分にはこの日積極的な攻撃参加を繰り返していたD・アウヴェスのクロスを深刻な決定力不足に悩んでいたアレクシス・サンチェスが頭で押し込み、ようやく先制点が生まれた。

 とはいえ、この試合を仮想ミラン戦とするのならば、無失点に抑えた上で2ゴール以上を奪わなければ意味がない。恐らく戦前から予定していたのだろう、ジョルディ・ロウラ第2監督は62分にメッシ、67分にイニエスタを立て続けにピッチへと送り出す。既にこの時チームは全体的に運動量が落ち、試合は停滞ムードに支配されていたのだが、この2人にはワンプレーで状況を一変させるだけの力があった。

 88分、ペナルティーエリア手前でイニエスタのパスを受けたメッシがマーカーを一人抜き去りエリア内右のA・サンチェスへパス。すぐさまゴール前へ走り込んだメッシがA・サンチェスのリターンを受けると、柔らかなチップキックで飛び出したGKの頭上を抜く技ありのループシュートをゴールに流し込んだ。

 ファンとメディアがミラン戦での先発起用を求めるダビド・ビージャが不発に終わり、コンディションの低下が顕著なセスク・ファブレガスも低調なパフォーマンスに終始した。一方、不発続きのA・サンチェスが1ゴール1アシストと結果を出し、D・アウヴェスは全盛期をほうふつとさせるアグレッシブなプレーで攻守に貢献。守備陣は、実に14試合ぶりに無失点で試合を終えるなど、ミラン戦に向けては不安と期待の双方を抱かせる内容の一戦となった。そんな中、30分ほどのプレー時間でワンチャンスをものにしたメッシの決定力には、とりわけバルセロニスタに希望を抱かせるだけの説得力があった。これでリーガの連続得点記録はポーランド人FWテオドール・ペテレクが1937-38シーズンに樹立した主要1部リーグの世界記録を上回る17戦連続弾。十分な休養を得た上で決めた新たな世界記録は、今思えばミラン戦で実現する逆転劇の布石だったのかもしれない。

チャンピオンズリーグ 決勝T1回戦 2ndレグvsミラン

 ファーストレグで完封されたミランの堅守に対し、無失点を保ちつつ最低2ゴールを挙げることが求められたこの大一番。いまだニューヨークで病気の治療を続けるティト・ビラノバ監督とその留守を預かるロウラ第2監督は、マイボール時にビージャが右FWからセンターフォワード、D・アウヴェスが右サイドバックから右FWへ移ると同時に4-3-3から3-4-3へ切り替わる変則的なシステムをスタートから採用する。この判断は大当たりだった。右のD・アウヴェスと左のペドロがタッチライン際いっぱいに開いてピッチの横幅を保ち、前線ではビージャが相手センターバックの裏を常に狙い続けることでディフェンスラインを押し込んでいく。そうやってディフェンスラインとMFのブロックの間のスペースをこじ開けることで、ファーストレグではほぼ完全にコントロールされていたメッシに良い形でボールが渡るようになったのだ。

 その成果は開始早々に表れた。5分、ブスケが右サイドのD・アウヴェスへパスすると見せかけて中央のメッシへ鋭いくさびを入れる。受けたメッシはすぐ横のチャビにボールをはたき、チャビはダイレクトでメッシへリターン。この瞬間、ペナルティーエリア手前右寄りでわずかなシュートコースを見いだしたメッシは迷わず左足インサイドでシュートを放ち、ゴール左上の完璧なコースに流し込んだ。

 このゴールは既に気合の入っていたスタンドを埋める9万人超のファンの熱に更なる油を注ぐとともに、バルサの選手たちに「行ける」という自信をもたらした。勢いに乗ったバルサはその後も敵陣深くから掛ける激しいハイプレスで相手にまともなパスをつながせず、完全にゲームの主導権を掌握しながら次々にチャンスを作り出していく。13分にはメッシの落としを受けたイニエスタの右足ボレーがクリスティアン・アッビアーティの手をかすめてゴールポストにはじかれ、17分にはチャビのミドルシュートが再びアッビアーティに阻まれた。

 そして38分、勝負の分かれ目となる決定的なプレーが生まれる。最後方に陣取るハビエル・マスチェラーノがロングボールの落下点を読み違え、頭でボールを後方に流してしまう。これを受け完全にフリーで抜け出したエムバイェ・ニアンのシュートがポストにはじかれた直後、バルサはメッシが1点目とほぼ同じ位置からフィリップ・メクセスの股下を抜く鋭いシュートをゴール右隅に突き刺したのである。

 ミランが千載一遇のチャンスを逃した直後、再び驚異的な決定力を発揮したメッシのゴールは2試合合計スコアを振り出しに戻すとともに、バルサに流れを完全に引き寄せた。そして55分、ケヴィン・プリンス・ボアテングへのくさびを鋭い出足でカットしたマスチェラーノからイニエスタ、チャビとつなぎ、最後はゴール前で受けたビージャが先発起用の期待に応える逆転ゴールをマーク。その後は相手に押し込まれる苦しい時間が続いたものの、最後は92分に速攻からジョルディ・アルバがとどめの1発を決め、4-0の完勝で大逆転劇を締めくくった。「僕らはこんな試合を必要としていた。逆転は可能だと皆が信じられるよう、なるべく早くゴールが欲しかっただけに、先制点を決めた時は本当にうれしかった」。試合後メッシは目を輝かせながらそう語った後、ここ数週間受けてきた批判に対してこう答えた。「ここ数試合は少し調子を落としていたかもしれない。でも調子さえ戻れば突破できると思っていた。これが皆が見たいと望んでいるバルサだよ」

リーガ・エスパニョーラ 第28節vsラージョ・バジェカーノ

 ミラン戦の熱狂から一転、好調ラージョをホームに迎えた試合は通常の落ち着いた雰囲気に戻ったカンプ・ノウのスタンドと同様に、ピッチ上でもミラン戦で復活した激しいプレスは影を潜めた。それでもこの日は大胆にラインを押し上げて高い位置からプレスを掛けてきたラージョに対し、相手ディフェンスライン裏に広がるスペースを突く速攻が面白いようにはまった。

 主役はミラン戦でも決定的なゴールを決めたメッシとビージャのホットラインだった。まずは25分、前線でイニエスタのパスを受けたメッシがドリブルで持ち上がり、ペナルティーエリア内左のビージャへラストパス。受けたビージャは左足で難なく先制点を流し込んだ。40分には前線左で縦パスを受けたビージャが左サイドを持ち運び、最後は中央でラストパスを受けたメッシがリーガ18戦連発となる追加点。3点目は57分、相手CK直後の速攻から前線のビージャ、更に裏へ抜け出したメッシへと素早くボールが渡り、トップスピードで追いすがるDFを振り切ったメッシが飛び出したGKを見てチップキックで今シーズン42ゴール目を流し込んだ。

ワールドカップ南米予選第11節vsベネズエラ代表

 首都ブエノスアイレスにベネズエラを迎えたこの日、アルゼンチンは攻守に重要な役割を果たすアンヘル・ディ・マリアを出場停止で欠き、前線のセルヒオ・アグエロもケガで欠場した。そのためアレハンドロ・サベージャ監督は2人の代役としてワルテル・モンティージョとエセキエル・ラベッシを先発起用する。結局彼らは2人の不在を補うほどの活躍はできなかったものの、それが試合結果に響くことはなかった。地元紙が「クアトロ・ファンタスティコス」と呼び始めたアタッカー4人衆のうちの残る2人、メッシとゴンサロ・イグアインだけで十分に勝負を決めてしまったからだ。

 この試合の布陣はメッシの背後にボランチ3人、前方に2トップを配置する4-3-1-2。メッシはトップ下と3トップの右のちょうど中間あたりの位置取りからボールを受け、壁パスを交えたドリブル突破で次々にチャンスを作り出していく。29分にはゴール前右でフリーのイグアインへスルーパスを通して先制点をアシスト。44分にはイグアインの落としをペナルティーエリア左で受けようとしたところで相手DFがハンドを犯し、PKを獲得。これをゴール右上に豪快に蹴り込み、メッシはディエゴ・マラドーナに並ぶ歴代3位の代表通算32ゴール目を決めた。更に59分には、ハーフェーライン手前でマーカー2人を抜き去ったメッシが長い距離をドリブルで独走。最後はディフェンスライン裏へ抜け出したイグアインへラストパスを送り、ダメ押しの3点目をお膳立てした。「また一つ、目標のW杯出場に近づくことができたけど、まだ何も勝ち獲ってはいない。チーム間の差は徐々になくなってきている。常にパーフェクトな試合をすることが求められるんだ」

 自身の全ゴールに絡む活躍で手にした3-0の快勝。にもかかわらず、試合後メッシの口からは厳しい言葉が相次いだ。それはもしかしたら、直後に控えるボリビアとのアウェー戦の存在がそうさせたのかもしれない。

ワールドカップ南米予選第12節vsボリビア代表

 試合会場のラパスは高度3600メートル超の高地にあり、極端に空気が薄い。ゆえに慣れていない人間がその地を訪れると、何をしないでいてもかなりの確率で頭痛や吐き気を催す高山病に掛かってしまう。激しい運動をするとなればなおさらで、4年前のW杯予選ではアルゼンチンが1-6という歴史的大敗を喫する要因にもなった。メッシは当時のことを次のように振り返っている。「ダッシュする度になかなか呼吸を整えられず、ハーフェーラインまで戻るのも大変だった。あの大敗は嫌な記憶として残っている。今回は良い結果を持ち帰りたいね」

 しかし、過去4度対戦しながらいまだ一度もゴールを決めたことがないボリビアはどうもメッシとの相性が悪いようだ。もっとも、戦前の適応策も空しくハーフタイムに嘔吐するような状態ではピッチに立っているのも辛かったことだろう。この日見せた数少ない見せ場は77分の直接FK、そして84分に自らのボール奪取から得たGKとの一対一くらいだったが、いずれもGKの好守に阻まれた。

 結局試合は前半に1ゴールずつを分け合った後は最後までスコアが動かず。数少ないチャンスを決め損ねたメッシは「みんなで大きな努力を行ったにもかかわらず、勝てなかったことに怒りを感じる。一対一のシーンでは既にGKが目の前にいたので少し迷ってしまった。乾燥した芝生にも足を取られた」と悔しさをあらわにしていた。「僕らのプレーはマドリーに似ている。機を見てカウンターを仕掛け、一気に仕留めるスタイルだからね。うちにはそのための選手がそろっているんだ」

 アルゼンチン滞在中に受けた地元テレビのインタビューの中で、メッシは代表のプレースタイルについてそう説明していた。その言葉どおり、現在アルゼンチンはメッシを筆頭とする豊富なアタッカー陣の個人能力を生かしたカウンター型のスタイルを確立しはじめている。いわばそれはメッシがマドリーのスタイルにもはまり得ることを意味するのだが、バルセロニスタたちには幸いなことに、その仮定が検証されることはまずないだろう。

 バルサで今シーズン最大の窮地を乗り越えたメッシは、ハードな南米での2試合をこなした後、シーズンのラストスパートへと身を置くべく再びバルサへと戻っていった。

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