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声に乗せてサッカーを届ける 西岡明彦(スポーツコメンテイター)

2012.08.31

「実況という仕事は難しいですか?」という質問に「いや、難しくないですよ。見たままを言えば良いんですから」とさらりと答えた。そして付け加えるように「まぁそれが一番難しいんですけどね」と小さく笑った。

 実況者、西岡明彦(にしおかあきひこ)の名はプレミアリーグのファンなら一度は耳にしたことがあるだろう。現在は実況にとどまらず、スポーツコメンテイターとしても活躍の場を広げている。マスコミの仕事を意識し始めたのは大学4年のことだった。

「スポーツに関わる仕事がしたくて、最初にひらめいたのがマスコミでした。その中の選択肢の一つにアナウンサーがあったんです」

 広島ホームテレビにアナウンサーとして勤務し、主にサッカーと野球の実況を担当した。1998年のワールドカップ後、スポーツアナとして広島を飛び回った6年半の局アナ生活に別れを告げ、渡英を決意する。人生の大きな選択とも思えるこの決断を下した理由は単純明快だった。

「プレミアリーグが好きだから」

 ロンドンでは、大学に通いながらテレビ朝日ロンドン支局でのアルバイト、スカイスポーツでのインターン、そしてプレミアリーグ観戦と充実した日々を過ごした。新しい挑戦に満ち溢れた一年を経て帰国した後、スポーツコメンテーターとしての人生がスタートした。

渡英したばかりの1998年にウェンブリー・スタジアム前で撮影した写真。「プレミアリーグが好きだから」充実した日々を送れた。

「しゃべりすぎてもいけないし、しゃべらなすぎてもいけない」

 実況をする上で一番意識しているのは「テレビの前に座っている視聴者」だと言う。

「視聴者が一番自然にサッカー中継を見ることができる環境を作ること。そのためにはしゃべりすぎてもいけないし、しゃべらなすぎてもいけない。プレーの邪魔をしてもいけないし、脱線して雑談していてもいけない」

 世界でもトップクラスのサッカーが展開されるプレミアリーグは、試合中継においてもそのレベルにふさわしい実況と解説が求められる。専門チャンネルと契約してまでもサッカーを見たいというコアなファンを満足させるために、試合の空気感と寄り添うような実況が一役買っているのかもしれない。

「元選手や元監督が務める解説者の言葉を最大限に引き出すことも私たちの仕事。そのためには解説者と会話のキャッチボールをしなければならない。解説の人と歯車が合わなければ仕事にならないですから」

 話を進めていくうちに意外な言葉が飛び出した。

「アナウンサーって大きく分けて2タイプいると思ってて、1つは生涯現役でしゃべってたいという人。僕、そこには全然こだわりはないんです。サッカー界で仕事をしたいわけで、テレビ業界で仕事をしたいんじゃないんです。なので今よりもサッカーのためになる仕事であればそっちをやる。今はメディアを通じてサッカーの魅力を皆様に知ってもらうという立場でやっているんです」

 話は過去へとさかのぼる。

「ロンドンから帰ってきた時はJのクラブで仕事をするか、テレビの仕事をするかを考え、実はJのクラブの仕事をやろうとしたんです」

 ではなぜ解説者としての西岡明彦が生まれたのだろうか。

「当時、29歳とか30歳だったんですけど、サンフレッチェのある人に『Jクラブの現場とメディアの仕事と2つの選択があるけど、今の君なら、まずテレビの世界で頑張って、それから将来的にクラブでの仕事に就いても良いのでは』と言われて」

 結果的にこのアドバイスが西岡氏の心を動かし、彼をスポーツコメンテーターへと導いた。

「自分のストロングポイントを見つけることですかね」

 サッカージャーナリストやサッカー業界で働こうという人にアドバイスはありますか、という質問に少し考えた後、こう答えた。

「今振り返ってみると、これだけスカパー!の中継を担当させていただいているのは、日本でプレミアリーグがそれほど普及していない時にロンドンに行って、ロンドンに住んで、プレミアを毎週見てっていうアナウンサーが他にいなかったからだと思うんです。「プレミアリーグ好きで、会社辞めて現地に住んじゃった変わったやつ」というのが僕のスタートライン。『プレミアリーグの中継に関しては誰にも負けませんよ』っていうのが僕のストロングポイントだったんです」

 自己表現の一つとして自分の強みを持つこと。さらに自分のストロングポイント、言い換えれば武器を見つけるためには、足を運ぶことが大事だと続けた。

「最近はテレビを見て原稿を書く人が少なくないですよね。でも、そういうのじゃたぶん広がらないと思う。やっぱり今活躍している人は、ライターもそうだしアナウンサーも現場に足を運んでいる。試合を見に行くっていうことは、サッカーを見に行くと同時にそこにいる選手や監督に会いたいから。僕らはサッカー選手じゃないのでテレビを見ただけでそのチームがなぜ強いのかを知るには限界があるんです。『その理由は何ですか』という疑問をファンを代表して聞くことが私たちの仕事なのかなと思います。そういう積み重ねが結局自分のストロングポイントになると思いますね」

 今よりもサッカーのためになる仕事であれば喜んで引き受ける、と言い切る彼は、これからもサッカーのためにその人生を捧げていくだろう。いつか試合中継の画面から西岡明彦の名前が消え、プレミアリーグとともに彼の実況を愛していた人々を落胆させる日が訪れるかもしれない。しかし、それは実は祝福すべき時でもある。そう、サッカー界のさらなる発展のために、彼が新たな居場所を発見した時なのだから。

インタビュー・文=三瓶大輝(サッカーキング・アカデミー

西岡明彦さんのオフィシャルblog-Fever Pitch-はこちら

●サッカーキング・アカデミーの受講生が取材、原稿を担当しました。
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サッカーキング・アカデミー

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