2015.05.12

現状に甘んじることなく、常により良いものを 奥村洋介(ナイキジャパン フットボール マーチャンダイジング マネージャー)

ナイキジャパン奥村洋介
ナイキジャパン奥村洋介

 選手にとって、シューズは必要不可欠なアイテムだ。

 多くのスポーツメーカーから様々なデザインや機能性を備えたものが発売される中、若者から人気の高いナイキのシューズを日本のプレーヤーに提供している人物がいる。ナイキジャパンでマーチャンダイズを担当している奥村洋介さんだ。「消費者にベストなものは何か」を日々追求している奥村さんが、フットボールとの出会いを振り返る。

小学校の卒業文集に書いた夢

 奥村さんがフットボールと出会ったのは小学1年生の時。友人に誘われて、地元のチームに入ったのがきっかけだった。

「小さい頃はプロの選手になりたいと思っていた」という奥村さんだが、徐々にその難しさに気付いていく。それでもフットボールの世界で生きていくという夢は強く持ち続けていた。

「小学生の時はずっと『スポーツに関わる仕事がしたい。何かモノに関わることをしたい』と思っていました。小学校の卒業文集にそう書いたぐらいです」

 将来を見据えながら高校まで真剣にフットボールに取り組んだ奥村さんは、日本の大学を中退した後にアメリカに留学して5年間を過ごし、帰国のタイミングでナイキジャパンに入社した。

「当時、ナイキに対してはバスケットボールやライフスタイルウェア、とりわけ『機能性ウエア』に強いブランドというイメージを持っていました。競技で使っている素材を普段着として使用するという発想には驚きがありましたね」

 テクノロジーを生かした商品展開は、昔も今もナイキの強みだ。奥村さんも「そこは他のブランドに負けないところ」と力を込める。

日本特有の環境を伝えるために

 入社後、営業職で7年間を過ごした奥村さんは、その後アパレルのプロダクト担当を経て、2012年から現在の仕事であるマーチャンダイジング本部のフットボール担当になった。

 マーチャンダイジングとは、商品の企画や調達、販売方法などを戦略的に行う活動のことだ。ナイキは商品開発をアメリカの本社が一括で行っており、開発中の商品に対して日本で販売する上でのポイントを伝えたり、どの商品を日本に持ち込み、いつ発売するかを決めたりするのは日本のマーチャンダイザーの仕事となる。アメリカの本社では年に4回ミーティングが行われ、奥村さんはその場で本社の開発者に対し、日本で収集した消費者の声を届けている。

「日本で販売する上で大切なことを本社の商品開発チームに伝えています。そのためには、普段から情報収集が欠かせません。関東近郊の学校を訪問したり、息子のチームメートにヒアリングしたり。“真の消費者”に近い高校生や大学生に発売前のシューズを試し履きしてもらう機会を設け、感想を聞くこともあります」

 商品開発にかかる時間は2年から3年、さらに開発された商品が世に出回るまでには約1年をかけているという。マーチャンダイザーは、その期間じっくりと商品の展開方法を考え、必要であれば改良点なども指摘する。

「完成したものに対して意見を伝え、改良することもあります。欧米やヨーロッパと違い、日本は土のグラウンドが主流です。この特有の環境に耐えられるよう、数年前からつま先部分に『リグラインドラバー』というプロテクションをつけた日本モデルを販売するようになりました。これは私たちの意見が取り入れられたものですね」

 日本人の細かな要望を伝える難しさに加え、日本で起こる小さな変化をとらえるのは更なる困難を伴う。

「最近は日本でも人工芝のグラウンドが増えてきたことや、これまで“甲高幅広”と思われてきた日本人の足型がだんだん変化してきていることもあり、情報の伝え方は更に難しくなりました。『耐久性があれば良い』、『ただ幅が広ければ良い』というわけではなくなったので、その変化を日々キャッチし、正確な情報として伝えなければなりません」

 そのように苦労を重ねているからこそ、喜びを感じることは多い。

「子供たちを見ていると、発売されたばかりの新商品を履いていることに驚かされます。決して安くはない商品も買ってくれていること、最新のアイテムを履きたいと思ってくれていることがうれしいですし、これこそ私の仕事の醍醐味だと感じています」

ナイキジャパン奥村洋介

子供の年代に対し、いかにナイキフットボールを伝えるか

 ナイキがメーンターゲットとしているのは、10代から20代の若い世代だ。今年3月にフクダ電子アリーナで行われたU-22日本代表対U-22ミャンマー代表の国際親善試合では、日本人選手の半数以上がナイキのシューズを着用していたというデータがあるなど、若い世代から圧倒的な支持を得ている。

「若い年代から履いてもらいたいと思っているので、いかにブランドの強さを見せるかが重要だと考えています。その点では、我々が契約しているアスリートが大きな役割を果たしてくれています。最近では、若者から人気の高いネイマールやクリスティアーノ・ロナウドがピッチで最高のパフォーマンスを見せてくれることで、多くの関心を集めています。また、うまい、速いというだけではなく、社会にポジティブな影響を与えてくれる選手を起用することで、スポーツカルチャーの部分でも新しい感覚を取り入れることが多いですね」

 ナイキの魅力は、スポーツを通して確実に若い世代へ響いている。

「先入観にとらわれず、まずは試してほしい」

 近年は、消費者のニーズにも変化が見られる。

「昔は耐久性に対する要望が強かったですが、最近はボールを感覚的に操れるもの、軽くて動きやすいものが求められるようになっています」

 好まれるデザインも昔とはだいぶ変わってきた。最近のシューズには、蛍光色を使った派手なものが多い。

「僕らが派手すぎると思ったデザインでも、若い子にはあまり抵抗がない。だから彼らと直接コンタクトを取り、消費者の気持ちになれるように心掛けています。消費者が派手なシューズを好むのは、プレーで目立ちたいという表れだと思います。目立つシューズだと、プレーをしていて気持ちが良いですからね。『このシューズに負けないないプレーをしたい』。そう思ってもらえたらうれしいです」

 様々な種類のシューズが店頭に並んでいるため、どれを選べばいいのか分からない方も多いはず。日本人選手の特徴をよく知る奥村さんがオススメするシューズ選びのコツとは。

「試し履きをすることが一番です。日本人はみんな『自分は幅広甲高だ』と思いがちですから、まずは自分の足をしっかり知ってほしいですね。ナイキのシューズは足にしっかりフィットさせるために履き口がタイトになっているものが多いので、『きついかも』と履くのを諦められてしまいがちです。でも、まずは靴ひもを履き口からつま先の方まで緩めて、しっかり広げた状態で履いてもらいたいですね」

「消費者の向上心に負けたくない」

 シューズは時代とともに進化し、消費者のニーズもまた変わってくる。そのような変化と向き合い、消費者が求めるものを提供し続けていくのが奥村さんの使命だ。

「今もたくさんの人に履いてもらっているのですが、現状に甘んじることなく常により良いものを提供していきたいです。消費者の向上心に負けたくないですからね」

 シューズを手にした奥村さんの表情から、笑みがこぼれる。

「競技人口が増える一方で、年齢とともにフットボールから離れていく人も多いです。でも、どんな形でも良いからプレーを続けてほしいです。海外だと年齢に関係なく、あらゆる場面でフットボールをやっていて、文化として根付いていますよね。日本もそうなってほしいと思っています。おじいちゃんになってもプレーしていてほしいですし、その時にナイキのシューズを使ってくれていたら、もっとうれしいです。そのためにも、みんながフットボールを続けられる環境を作っていきたいですね」

インタビュー・文=尾谷萌(サッカーキング・アカデミー
協力=サッカーショップKAMO 原宿店

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