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ビデオ判定ですべて解決!? よくある3つの誤審をなくす効果的な方法

2013.11.11

レヴァークーゼン対ホッフェンハイム
【2013年10月18日、レヴァークーゼン対ホッフェンハイム。ゴールネットに穴が開いていたため、ボールがネットの外側から中に入り、ゴールが認められる誤審が起きた】

 プレミアリーグでは今シーズンから「ホークアイ」を利用した「ゴールディシジョンシステム」が採用されている。サッカーでは初の試みだ。そのきっかけとなったのは2010年に開催された南アフリカ・ワールドカップで起こった数々の誤審である。以降、各国リーグ戦やチャンピオンズリーグなどの国際大会では、誤審が起こるたびに最新技術の導入が叫ばれてきた。

 理想としては最新技術に頼らず、審判だけで試合を裁くことが一番だ。しかし、プレーのスピードに審判が追い付けず、何が起こったのか把握できていないことがある。その結果として誤審が多発する事態となった。

 この問題を解決するための方法として、FIFAが導入したゴールラインテクノロジーやUEFAが採用している追加副審制度、野球など他のスポーツで既に使われているビデオ判定がある。

審判のミスジャッジが目立つ近代サッカー

 世間で騒がれている誤審とはどういったものなのか。よく起こる誤審は大きく三つのケースに分けることができる。

 一つ目は、オフサイドやハンドなどの反則を犯しながらも見逃され、ゴールが認められた場合である。2010年ワールドカップのアルゼンチン対メキシコでカルロス・テベスが決めたゴールや、2012-13シーズンのチャンピオンズリーグのパリ・サンジェルマン対バルセロナでズラタン・イブラヒモヴィッチが決めたゴールは、明らかなオフサイドであるにもかかわらず、副審が見逃したため得点が認められてしまった。

 二つ目は、危険なタックルや暴力行為を審判が見逃した場合である。2010年ワールドカップ決勝のオランダ対スペインではナイジェル・デヨングが相手の胸元を右足で蹴るも、イエローカードで済んだ。2011-12シーズンのプレミアリーグのマンチェスター・シティ対トッテナムではマリオ・バロテッリが対戦相手の頭を踏みつけるも処分が出なかった。両方とも審判が見逃したため、正しい判定が下されていない。

 三つ目は、行き過ぎたシミュレーション行為を審判が見逃した場合である。2009-10シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝のバルセロナ対インテルではセルヒオ・ブスケが行き過ぎたシミュレーション行為を行った。相手の手が顔に触れると叩かれたと主張し、顔を押さえて倒れ込む。しかも、審判が退場を宣告する瞬間を手の隙間からのぞいていたのである。翌年にもダニエウ・アウヴェスが似たようなことを行った。両方ともリプレイを確認すれば、退場に値しないことが一目で分かる。

スペイン対オランダ
【2010年ワールドカップ決勝のオランダ対スペイン。デヨングが相手の胸元を右足で蹴るも、一発退場にはならなかった】

時間も費用もかからず、正しい判定を下せる

 誤審を防ぐ方法として、他のスポーツでは以前からビデオ判定が導入されている。野球ではフェンス際やポールぎりぎりの際どいホームランの判定のみ、アメリカンフットボールでは直前のプレーで審判が下した判定に、ラグビーでは審判がトライかどうかの判断が難しい時に、テニスではライン際の微妙な判定の時に、映像で確認を行っている。

 ビデオ判定を導入するメリットとして、審判の下した判定が正しいかどうか試合中に判断できる点がある。オフサイドなどの反則がありながらゴールが認められた場面では映像を確認することで審判が見落とした反則を取ることができる。危険なタックルや暴力行為などで選手が倒れている場面では映像を確認することで何が起こったのか詳細が分かり、正しい判定が下せる。これはシミュレーション行為で倒れている場面でも同様のことが言える。また、ゴールラインテクノロジーなど最新技術を設置する時間や費用がかからないという点もある。放映権の関係で各スタジアムにはテレビカメラがあり、その映像を使うため設置の時間も費用もかからない。

 反対にビデオ判定を導入するデメリットとして、確認のための時間がかかるという点がある。しかし、ゴールパフォーマンスや選手が倒れている時は時間が止まっているので、その間に映像を確認できるはずだ。そして、ビデオ判定が審判の尊厳を奪う可能性がある。審判の決定は尊重されるべきものだが、審判も人間なので時には間違いを犯す。そのような間違いをなくすためにもビデオ判定が必要なのだ。ビデオ判定は審判の尊厳を侵害するものではなく、あくまで正しい判定を下すための手段である。

反則や暴力行為などは見逃され続ける

 FIFAは誤審を防ぐ方法として、ゴールラインテクノロジーを導入した。これはボールがゴールラインを完全に割ったかどうか瞬時に知ることができる技術で、現在4種類のシステムが承認されている。スタジアムに設置した複数台のハイスピードカメラでボールの位置を捕捉し素早く審判へ知らせる「ホークアイ」と「ゴールコントロール」、マイクロチップなどを埋め込んだボールとゴールに設置した機械が発生させる磁場の変化を利用して、ボールの動きを感知し1秒以内に審判へ伝達する「ゴールレフ」と「カイロス」がある。昨年のクラブワールドカップで「ゴールレフ」と「ホークアイ」が試され、今年開催のコンフェデレーションズカップでは「ゴールコントロール」が採用された。

 メリットはボールがゴールラインを割ったかどうか、すぐに分かる点だ。デメリットは機械の設置に多額の費用や時間がかかる点、このシステムがゴールラインを割ったかどうか判断する場面でしか使われない点だ。オフサイドなどの反則や暴力行為、シミュレーション行為など誤審の原因となっているプレーは見逃されるため、有効な対策ではない。

バルセロナ対インテル
【2009-10シーズンのCL準決勝バルセロナ対インテル。ブスケが顔を叩かれたと主張し倒れ込む。しかし審判が退場を宣告する瞬間を手の隙間から冷静にのぞいていた】

増員しても裁くのは人間でありミスは続く

 UEFAは誤審を防ぐ方法として、追加副審制度を導入している。通常、審判は主審1人と副審2人に第4審判1人の計4人で試合を裁く。これに両ゴール脇へ1人ずつ追加副審を配置して計6人で試合を裁くのが、追加副審制度である。追加副審の主な仕事は、ペナルティーエリア付近でのプレーを集中的に見ること、その付近での反則などを主審が見逃した場合の報告である。ただし、報告があっても最終的な判定は主審が下す。UEFA主催の大会では2009年から正式に採用され、現在はチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグ、イタリアのセリエAで導入されている。

 メリットはゴールラインテクノロジーと比べて、機械の設置時間や多額の費用が抑えられる点だ。かかるのは追加副審の人件費だけである。デメリットは試合を裁く審判も人間であり、見逃しなどミスは起き続けるという点だ。実際にEURO2012では追加副審が目の前でゴールを見逃しており、チャンピオンズリーグなどでも誤審が起こり続けている。審判を4人から6人へ増員したにもかかわらず誤審が起きているので、これも有効な対策とは言えない。

審判のためにも選手のためにも必要なもの

 サッカーはユニフォームやスパイクなどで次々と最新技術を採り入れ、進化し続けている。その中で審判や判定だけが取り残されているのは問題である。審判にかかる負担を軽減しつつ判定の精度を高めるためにもビデオ判定の導入が不可欠だ。

 しかし、導入するためにはルールを設ける必要がある。ビデオ判定の乱用を防ぐため、使う場面を限定しなければならない。それが前述した三つのケースである。また、選手にはビデオ判定を要求する権利があるべきだ。誤審の影響を一番受けるのはプレーする選手である。その場合は要求できる回数を制限したり、要求できる人物を限定したり、と細かいルールを決める必要が出てくる。明確なルールを作った上で新しいシステムを導入すれば、現在あるゴールラインテクノロジーや追加副審制度よりも、必ずより良い成果が得られるはずだ。

文=若林祐樹(サッカージャーナリスト養成講座受講生)

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