2016.08.06

武藤雄樹 × 武藤敬司 #ダブル武藤(後編)

Photo by Shin-ichiro KANEKO

浦和レッズの選手と異業種の多様なプロフェッショナルが熱いトークを展開する連載対談企画『RS(アールズ)』。
第2弾は“武藤”とういう共通点から、武藤雄樹とプロレスラー・武藤敬司の対談が実現した。

武藤雄樹(むとう・ゆうき)
1988年11月7日生まれ、神奈川県出身。武相高から流通経済大を経て2011年にベガルタ仙台へ加入。4年間で70試合6得点という成績を残して2015年に浦和レッズへ移籍すると、一気に得点力が開花。周囲と連携した効果的なポジショニングからチャンスに絡み続け、同年は13ゴールでチーム得点王に輝いた。同年夏の東アジアカップでは日本代表デビューを果たし、代表初ゴールもマーク。ツイッターアカウントは @yuukimutou
武藤敬司(むとう・けいじ)
1962年12月23日生まれ、山梨県出身。1984年に新日本プロレスに入門。蝶野正洋、橋本真也とともに“闘魂三銃士”として名を馳せ、天性のセンスを武器に数々のタイトルを獲得。「グレート・ムタ」としては世界を股にかけて活躍した。2002年に全日本プロレス代表取締役社長就任。2013年に新団体WRESTLE-1を旗揚げし、現在はプロレス総合学院の校長として後進の育成も手掛ける。ツイッターアカウントは @muto_keiji

プロアスリートとして
世の中に元気を与えたい

武藤雄樹 武藤さんのプロレスって、昔からエンターテイメント性が高いですよね。

武藤敬司 ちょうど俺たちがデビューした1980年代って、UWFという実に地味なプロレスが隆盛を誇っていてね。試合では選手がお客さんに一切パフォーマンスをしない。でも、その一方でアメリカのプロレスはショーアップされた感じで、俺はそっちへ修行に行っていたから、当時のスタイルが非常に地味で嫌だったのよ。コーナーポストに駆け上がってTシャツを破ったり、観客席に投げたりした先駆者は俺だからね。そこからみんながやりだすようになったんだけど。競技としてのレスリングでも素晴らしいパフォーマンスを出せた時には、そういうことをやってもお客さんがいい反応をしてくれた。武藤くんもゴールを決めた時にパフォーマンスをするから、サポーターがいい反応をしてくれるわけで、シュートを外してるのにポーズを取れないもんね(笑)。

武藤雄樹 それはできないですね(笑)。

武藤敬司 そんなことしたらブーイングだもんね。プロレスでも試合をやっていて観客席の手応えを感じる時があって、そういう時に自然に出る動作があるわけよ。そういうのが美しく、カッコ良く見えたりするんだろうね。狙ってやるためのパフォーマンスも考えたりするけど、本質的にはそういうものじゃない気がする。やっぱり自然な感情から出た延長線にあるもののほうがお客さんの共感を得られるよね。

武藤雄樹 そうですね。やっぱり僕もゴールを決めたあとは自然とガッツポーズが出ています。

武藤敬司 ただ、これからは無理矢理にでも“LOVEポーズ”をやってもらわないと困るよ。自然もへったくれもなく、これを(笑)。

武藤雄樹 そうですね(笑)。ゴールを決めて“LOVEポーズ”をすると、サポーターの皆さんもすごく喜んでくれますしね。

武藤敬司 埼玉スタジアムへ行った時、みんなが声を掛けながらポーズを取ってくれたりしたんだよね。あれはうれしかったな。サポーターの人に認知されているんだなと思って。

武藤雄樹 僕としてはゴールを決めないとパフォーマンスができないので、そういった意味ではいいプレッシャーですし、これからも結果を出し続けたいという気持ちになりますね。それに自分としてはそんなに体が大きくなくてもゴールを決められるところをいろいろな人に見てもらいたいし、何かを感じ取ってほしいという気持ちも強いので。

Photo by Shin-ichiro KANEKO

武藤敬司 さっき「ヨーロッパへ行くことが選手として一つの夢だ」って言っていたけど、これからサッカー選手としてどうなっていきたい?

武藤雄樹 自分の中ではドリブルで相手を抜いて行くことだったり、個人の部分をもう少しレベルアップしないと、海外では通用しないと思っています。日本代表を目標にした時にも同じだったと思っているので、今の特長に加えて一人で仕掛けられるような力を持たなければいけません。やっぱり海外の選手は“個の力”が強いですから。

武藤敬司 また日本代表にも入ってほしいよね。

武藤雄樹 去年の東アジアカップで日本代表にデビューして、強化合宿にも呼んでもらいましたけど、やっぱり一度行くと「また入りたい」という気持ちになりますね。子供の頃から日本代表でワールドカップに出ることが夢でしたし、2年後のワールドカップが年齢的には最後のチャンスだと思いますので。そこを目標に頑張ります。武藤さんは今、どんなことが目標なんですか?

武藤敬司 俺? 俺は若いレスラーを育てたりとかかな。そこがないと未来につながっていかないからね。選手としての目標はそんなにないよ。個の追求はかなりやってきたから。今は『WRESTLE-1』が浦和レッズに負けないくらいのサポーターに囲まれたところで試合をしたいってことかな。あとは……プロレスを通じて世の中に元気を与えたいとは思うよね。

武藤雄樹 それは僕もあります。サッカー界も復興支援活動とかに積極的に参加するようになっています。

武藤敬司 俺、震災と不思議な巡り合わせがあるんだよ。2011年3月11日の東日本大震災は当日に全日本プロレスの試合が宮城県石巻市であって大変だった。俺は試合に出ていないから東京にいたんだけど、18時半からの試合に向けてスタッフが準備していたところで地震が来て。選手たちは仙台市付近の高速道路上で揺れに遭いながら、おかげさまでみんな無事で帰ってきたけどね。今年の熊本地震でも2日後に熊本でうちの興行が予定がされていたし、2007年7月16日の新潟県中越沖地震の時は全日本プロレスの試合が新潟県新発田市であった。1993年7月12日の北海道南西沖地震でも新日本プロレスの試合で札幌にいたからね。

武藤雄樹 僕も東日本大震災の時は仙台にいました。いろいろと復興支援活動はしましたね。チームが頑張ることで、すごくたくさんの人に「元気をもらえる」という言葉をいただきました。サッカーはたくさんの人に夢や元気を与えられると思うんですよ。見に来てくれる人だけじゃなくて、テレビで見てくれている人にも。僕たちが全力でプレーして活躍することで、たくさんの人に「また頑張ろう」って思ってもらえたらうれしいです。まずは僕は一生懸命サッカーを頑張って、そういう思いを届けられればと思いますし、仙台を含めた復興支援はこれからも続けていきたいと思っています。

Photo by Shin-ichiro KANEKO

武藤敬司 熊本地震の直後もサッカー選手がすごく頑張っていたよね。

武藤雄樹 巻(誠一郎)さんですね。浦和からも西川(周作)さんとかが熊本へ行って、子供たちとボールを蹴ったりする復興支援をしていました。やっぱりスポーツはみんなに元気を与えることができますよね。

武藤敬司 そこは一緒だよね。俺たちからしたらプロレスでみんなを元気にさせることしかできないから。俺はプロレスを、武藤くんはサッカーを通じた活動に自然となるよね。東日本大震災が発生した後、3月21日に両国国技館で大きな大会を予定していて、結果的には施設の使用許可が出たんだけど、その代わりに発電機は自分たちで持ち込む必要があるくらいの状況で。結果的にはそこでチャリティ興行をできたんだけど、東北で被災した人たちが試合を見にきてくれて募金を入れて行くんだよ。「やってくれてありがとう」って。そういう声もまた自分たちの力になるよね。

武藤雄樹 僕も仙台時代に石巻とか南三陸へサッカー教室に行ったんですけど、そこで子供たちがみんな「頑張って」って言ってくれるんですよ。だから、絶対にピッチで結果を出さなければいけないと思いましたし、みんなが本当にスタジアムへ試合を見に来てくれるので、絶対にいいプレーをして元気を与えることが使命だと思っていましたし、チーム一丸となりましたね。

武藤敬司 これってきっと震災の復興支援に関することだけじゃないんだよね。俺たちはファンに支えられてやっているわけだからさ。例えば、「武藤さんの大ファンです。今年受験なのでサインをお守りの代わりにください!」って頼まれたりすると、大きな力を与えているんだなって実感するし、「妹が大きな病気で手術をしなければいけなくなったんですけど、その妹が武藤さんのファンなのでサインをお願いします!」って頼まれたりすると、レスラー冥利に尽きるなと思いますよ。見てくれている人やファンに支えられてやっていることだし、何かの力になりたいと思うよね。震災の復興支援活動だけじゃない。ちょっとしたこと逆にそういうことから元気をもらって、明日の活力になる。

武藤雄樹 そうですよね。僕も「ゴールを見たら頑張れる」って話をもらうと、また決めたいなと思うんです。サッカースクールをやった時に子供たちが笑顔になってくれて、その子たちがサッカー選手を目指すための活力にして頑張ってくれていると思ったら本当にうれしいし、それも自分の力になりますよね。

武藤敬司 アントニオ猪木さんが言っていたんだけど、古代ローマ時代なんかは苦しい時は「食べ物とサーカスを」って考え方だったらしいよ。昔からエンターテイメントって人を元気にさせる源でもあったんだよ。

武藤雄樹 やっぱりそこは変わらないんですね。

Photo by Shin-ichiro KANEKO

武藤敬司 俺さあ、ドリブルなのか何なのかは分からないけど、武藤くんに必殺技を作ってほしいんだよ。

武藤雄樹 「武藤雄樹と言ったらコレ!」みたいなものですか?

武藤敬司 そう。ちょっとした何かでいいんだよね。新しいドリブルのやり方とか。

武藤雄樹 結構難しいですね(笑)。もし必殺技があったら、そういうプレーを楽しみに試合を見に来てくれるお客さんも増えそうですけどね。うーん、分かりやすい必殺技か……(笑)。プロレスの技って自分で作るんですか?

武藤敬司 作ることもあるけど、偶然出たりもするよ。ただ、今のプロレス界ってあらゆる技が出回っちゃってて、なかなか隙間を抜くのは難しいな。それに必殺技には説得力がないとダメだから。だから武藤くんなら作れるよ。

武藤雄樹 頑張って編み出そうと思います(笑)。

武藤敬司 例えば、常に相手の裏をかいたポジションに動いていたりしたら、外国の選手はみんな「忍者ムーブ!」って言うかもね。分身の術みたいに突然現れたり(笑)。そうだ、スパイクにバネを入れて2メートルくらいジャンプしたりとかは?

武藤雄樹 それ、ルール的に怒られそうですね(笑)。

武藤敬司 そっか(笑)。じゃあ、「シャイニングウィザードボレー」とかいいじゃん。ひざでいこうよ。でも、ひざだとボールが跳ねないか。

武藤雄樹 確かに足で蹴ったほうがいいかもしれないですね(笑)。

武藤敬司 低いボールを「シャイニングウィザード」の形で蹴ってみたら? ゴール前で相手のひざを踏み台にしたら反則?

武藤雄樹 たぶんダメですね(笑)。

武藤敬司 ダメか……。じゃあ、台にできるものがないな。

武藤雄樹 あとは味方に頼むとか(笑)。

武藤敬司 それ、いいじゃん!

武藤雄樹 で、そのまま飛び込んで、ひざでジャンピングボレーみたいな(笑)。

武藤敬司 それは完璧なシャイニングウィザードボレーだね。あとは……ゴールバーを使ったムーンサルトからシュートするとか。ゴールの上って登ってもいいの?

武藤雄樹 つかまるのは大丈夫ですけど、登るのはどうなんだろう。2.5メートルくらいありますけど(笑)。

武藤敬司 つかまって蹴上がりかなんかで登れるじゃん。登ったことある人はいないでしょ? そこでシュートしたら目立つよ!

武藤雄樹 そうですね(笑)。目立つとは思うんですけど。あとはオフサイドとかいろいろあるかなと……。

武藤敬司 ああ、オフサイドかー。味方に台になってもらうのは?

武藤雄樹 それはできますね。味方が台になるのは大丈夫です。

武藤敬司 じゃあ、味方と3人くらいで肩車をして、武藤くんが一番上になって、そこにパスしてもらって、そのままヘディング。それなら相手は届かないじゃん。「ダブルインパクト」的なやつね。

武藤雄樹 簡単にバランスが崩れちゃいそうですね。

武藤敬司 でも、相手に押されたらファウルでしょ?

武藤雄樹 確かに(笑)

武藤敬司 だから素早く3人くらいで。三人いたらすごく高いから。で、一番上に乗っかって。

武藤雄樹 そこにボールが来て。

武藤敬司 急角度のヘディングで(笑)。。

武藤雄樹 すごく練習が必要ですけど、夢はありますね(笑)。

武藤敬司 そうしたら絶対にみんなが覚えてくれるよ。

武藤雄樹 間違いないですね(笑)。でも、サッカーもキャラ立りしている人が多いですけど、プロレスも一人ひとりにすごくキャラクターや見せ方がありますよね。

Photo by Shin-ichiro KANEKO

武藤敬司 プロレスって最終的にそいつが持っている性格や人間性が出るからね。俺が若い時は遊びも何もかもすべて練習や試合のエネルギーにしてたから。まじめなヤツって、まじめなプロレスしかやらないから、お客さんは見ていても面白くないんだよ。ちょっとふざけた人生を送ってるヤツのほうが表現が面白くて、何かが伝わってくる。(アントニオ)猪木さんなんて、でたらめな人生送ってるじゃん。でも、だからこそあの人は最高のプロレスができたんだと思う。俺はそういった意味も含めてプロレスは“芸術”だと思っているから、試合をやる限りは見に来てくれたお客さんの心に残ってほしい。だからこそ痛くても戦えるんだよね。結局、自分の人間性に色付けしてキャラクターを確立できたヤツが一番強いと思うのよ。だから武藤くんもキャラ付けしないと。

武藤雄樹 そうですね。最近はサポーターの皆さんに“LOVEポーズ”を楽しみにしてもらえていますし、僕の場合だったら点を決めたらお寿司を食べることも浸透してきたかなとは思いますね。

武藤敬司 何でお寿司なの?

武藤雄樹 仙台の時に外国籍選手とのツイッターのやり取りから始まったんですよ。僕がゴールを決めた時に、その選手が日本語の自動翻訳を使って「寿司をもたらそう」みたいなメッセージを送ってきて。それをサポーターが見て、「武藤が決めたら寿司を食べるらしいよ」みたいなところからスタートして、それでお寿司を握るゴールパフォーマンスをしたりとか。

武藤敬司 本当は食べてないの?

武藤雄樹 実際に食べたりもしましたけど、最近は僕がゴールを決めた日にサポーターの皆さんが試合後にその足でお寿司を食べに行くって流れで盛り上がってくれてるみたいですね。

武藤敬司 じゃあ、浦和でお寿司屋さんでも始めるか(笑)。そのためにも武藤くんに頑張ってもらわないとね。

武藤雄樹 そうですね。ファーストステージはチームとしても個人的にも、ちょっと残念な形で終わってしまったんで……。

Photo by Shin-ichiro KANEKO

武藤敬司 俺は常に日刊スポーツでチェックしてるからね。それが俺の活力になっているから。ゴールを決めた時は「ようやった!」って思いながら練習しているし、もし決められなくても「何やってんだ!」って考えながら俺も頑張ってる。まあ、あまり気負わずにサッカー道を邁進してほしいね。

武藤雄樹 ありがとうございます。ファーストステージの序盤戦は順調にゴールを決めることができていたんですけど、チームが勝てない時期に決められなくなって、すごく不甲斐ないなって……。とにかくやり続けることが大事だと思うので、またゴールを決めて勢いに乗っていけるように、セカンドステージも頑張っていきます。

Photo by Masashi ADACHI

武藤敬司 また試合を見に行かせてもらいますよ。あんなにおいしい食事を出してもらえるなら、毎試合でも行きたいくらいだから(笑)。

武藤雄樹 (笑)。次は生でプレーしている姿を見せたいですね。前回はメンバー外になってしまいましたけど、“LOVEポーズ”をするところまでイメージできていたんで。

武藤敬司 そうそう。俺もイメージしていたんだよ。武藤くんのパフォーマンスにどう便乗して目立とうかなって(笑)。

武藤雄樹 いやー、ずっとあこがれの存在だったので、こうやってお会いできて、話をできて、すごくうれしいです。本当に刺激になりますし、僕もまた武藤さんの存在を活力として頑張ります。

武藤敬司 今後はクラブと一緒に何かイベントができたりしても面白いよね。

武藤雄樹 そうなったらうれしいですね。

取材・文=青山知雄

『武藤雄樹 × 武藤敬司 #ダブル武藤(前編)』はコチラ

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