2015.06.08

「観る人の心を惹きつけるサッカー、というのは絶対表現しなきゃいけない」大儀見優季(ヴォルフスブルク)

‘å‹VŒ©—D‹G/Yuki Ogimi (JPN),  MAY 24, 2015 - Football / Soccer : MS&AD Nadeshiko Cup 2015 match between Womenfs Japan and Womenfs New Zealand at Marugame stadium, Kagawa, Japan. (Photo by AFLO) [2268]

インタビュー=サッカーキング編集部 Interview by SOCCER KING
写真=嶋田健一、アフロ、ゲッティ イメージズ Photo by Kenichi SHIMADA,AFLO,GettyImages

 22歳で日本を離れ、ドイツのポツダム、イングランドのチェルシーで研鑽を積んできた大儀見優季。今冬、自らの成長のため、ドイツ屈指の強豪ヴォルフスブルクに移籍。さらなる厳しいポジション争いへと身を投じた。常時出場には至らなかったものの、リーグ戦9試合で5ゴールを決め、来シーズンに向けて手応えを掴んでいる。その一方、確立された攻撃パターンと序列のなかで、自らの持ち味を発揮することに苦労しているようだ。

 なでしこジャパンでは、4年前のワールドカップで全試合に出場、チームは優勝を果たしたものの、自らはわずか1ゴールに終わるという悔しさを味わった。2年後のロンドン・オリンピックでは3ゴールを決め、銀メダル獲得に貢献。目前に迫るカナダ・ワールドカップに向け、テストマッチでゴールを連発するなど、絶対的エースは好調を維持している。

チームのサッカーを変えるくらいの強い気持ちで

――まずは、今シーズンを振り返って、あらためてどのような感想をお持ちですか? ツイッターでは「心技体共に成長を実感できた」とコメントされておりましたが。
大儀見 新しいチーム、新しい環境でのスタートになって、入団したチームがヨーロッパ・チャンピオンで、色々と簡単にはいかないだろうな、とは思っていました。入団当初はスタートから使ってもらえましたが、監督の評価や、チームメートの信頼を完全に勝ち得るまでは、この半年では至らなかったというのが正直なところです。

――途中で入団することの難しさを感じましたか?
大儀見 それは今までも経験しています。ポツダムのときも、チェルシーのときもそうでした。ただ、それまでと違う難しさを感じました。チームの中には、監督から評価を得ている選手の序列が決まっていて、それを完全に崩すところまでいけなかったかな、という印象です。

――ヴォルフスブルクには、ヨーロッパ・チャンピオンになるだけの強さが備わっていると感じますか? 外から見ていて、オフ・ザ・ボールの動きに関しては、大儀見選手が際立っているような印象を受けますが。
大儀見 個の能力が高い選手は多いとは思いますが、チームとして、オフ・ザ・ボールの動きの質が高いかといわれたら、そうでもないですね。自分がやりたいプレーをピッチで単純に表現しようという、我が強い選手たちの集まりです。戦術的にも、サイドから個人で突破して、クロスが上がって、ドイツ代表のアレキサンドラ・ポープがヘディングで決めるっていう、そんな形が完全にでき上がっています。

――周囲の選手が大儀見選手の動きを理解しないと難しいですね。
大儀見 ポツダムでもチェルシーでも、自分のところでボールを受けないと、自分の特徴が生かせないだろうな、とは認識していました。ですが、ここでは、動き出しや相手との駆け引きといった、オフ・ザ・ボールの動きを無視したサッカーが行われているので、なかなか自分がボールを引き出せずにいます。

――そんな中でも、リーグ戦8試合に出場して5ゴールを挙げました。この成績に関してはどのように評価していますか。
大儀見 もっと点を取りたかったというのが、正直なところです。ただ、移籍して最初のシーズンで5点を取れたというのは、ポジティブにとらえても良い部分だと思うし、ポツダム時代も最初の半年間は、同じような成績でした。自分としては、この半年で完全にポジションを奪うつもりできたので、それを達成できなかった悔しさは残りますが、来シーズンに向けて、大きなアドバンテージを得たと思います。

COLOGNE, GERMANY - MAY 01:  Yuki Ogimi (2R) of Wolfsburg looks on up prior to the Women's DFB Cup Final between Turbine Potsdam and VfL Wolfsburg at RheinEnergieStadion on May 1, 2015 in Cologne, Germany.  (Photo by Alex Grimm/Bongarts/Getty Images)

――来シーズンに向けての、ヴォルフスブルクでの目標を教えてください。
大儀見 フォワードの中心であるアレキサンドラ・ポープよりも、もっと存在感を出せるような選手にならなきゃいけない、と思っています。点を取ることはもちろん、チームのサッカーを変えるくらいの姿勢で、たとえ嫌われても、自分の持っているものをもっと強く表現していきたいです。そのためにも、ワールドカップで結果を出すことが大事ですね。

――4年前のワールドカップ優勝を機に、女子サッカーを取り巻く環境が劇的に変わりました。大儀見選手にとって、この4年間はどのようなものでしたか。
大儀見 ひと言でいうと、ものすごく苦しかった4年間でした。ポツダムでの最後のシーズンでは得点王を取りましたが、自分が絶対的な存在になっていて、そういう安定した場所でサッカーを続けることにかえって不安を感じていました。で、そのあと移籍したチェルシーでは、環境が悪くて……。

――やはりブンデスの方がいい、と考えますか?
大儀見 はい。(チェルシーでは、)サッカーを仕事として捉える、意識の高い選手が少なかった。そういうなかで(自分からチームメートに)求めづらい部分もありました。(クラブの)環境も、ロッカールームやシャワールームがなく、クラブハウスもありませんでした。なぜ自分はこんなところでサッカーやっているんだろう、と何度も自問しました。でも、どんな環境でもやらなきゃいけないというか、苦しい環境ほど自分自身と向き合わなきゃいけなくなるから、その分、精神的に成長できたと思います。そういう場所で一度やれたというのは大きな経験になりました。

――日本の宮間選手のように、イメージを共有できるような選手にも恵まれませんでした。
大儀見 そこが一番苦しかったですね。自分の考えるイメージを共有できないという、苦しさ。それを突きつめて考えるのがバカバカしく思えるときもあります。だからと言って、自分の表現したいサッカーばかりをするわけにもいかないから、違うところを伸ばさないと、試合にも出られないし、監督からも評価してもえられない。チームが変われば選手も違うし、考え方も違うから、自分の足りないところを伸ばしていけると考えています。

澤さんの能力や経験は必ずプラスに作用します

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――なでしこジャパンについてお聞きします。ワールドカップに向けて国内合宿がスタートしましたが、現在のコンディションはいかがでしょう。
大儀見 自分の感覚としては、とても良い状態です。シーズンを半年間過ごして、一番上がってきている状態にいると思います。

――今回のワールドカップは、日本サッカー史上初めて、国際大会でディフェンディング・チャンピオンとして迎えます。連覇への期待、プレッシャーを感じますか?
大儀見 プレッシャーはそんなに感じていません。周囲の期待は当たり前のことだと受け止めています。もちろん、そんなに簡単じゃない、とは自分たちでも思っていますが、“できる”という自信の方が、できない、というイメージよりずっと強いです。

――今回、選ばれたメンバーには、ドイツ・ワールドカップとロンドン・オリンピックの両大会に参加した選手が15名も選出されました。大舞台を経験している選手が、これだけ多くいるのは、やはりアドバンテージになりますか?
大儀見 はい。ワールドカップのピッチには普段と違う、独特の雰囲気が漂います。自分が2007年に初めてのワールドカップを経験したときも、それを強く感じました。こうした大舞台を、一度だけでなくて、二度も三度も経験している選手がいるのは、ポジティブに働いていくと思います。しかも、日本のいるグループは、日本を除いてすべて初出場のチームですから。また、ワールドカップ優勝を経験した選手たちは、トーナメント戦をどのように戦えば勝ち抜けるかも、熟知しています。

――佐々木監督は、会見のなかで「戦える選手」を選んだと強調していました。戦う姿勢の重要性についてはどのように考えますか?
大儀見 自分は戦わなければ生きていけない環境でサッカーをやってきたから、自然とそれが出せるのだと思います。昔から代表に入っている選手は、今より環境も悪かったし、戦う姿勢を見せないと試合にも出られませんでした。若い頃から自分のためだけではなく、チームのため、女子サッカーの未来のために、と思って、たくさんの競争を勝ち抜いてきました。ギリギリの戦いになった時に、そういう思いが、普段以上の力を発揮させるのではないか、と思います。

――澤穂希選手が復帰したことについては、どのような感想をお持ちですか。
大儀見 素直にうれしいです。また一緒にプレーできる、という喜びもありますし、澤さんの持つ能力や経験は、とくに今回、初めてワールドカップを経験する選手たちにとって、必ずプラスになると思います。

――澤選手にとって、最後のワールドカップになりそうです。
大儀見 澤さんがキャリアの最後に、日本代表としてワールドカップに出ることは、私自身もうれしい。選ばれないで終わっていく澤さんを見たくありませんでした。これまで素晴らしい功績を残してきた選手ですから、私たちも最後にちゃんと(キャリアに)花を添えて大会を終えたいです。

――今回のメンバーには、妹の亜紗乃選手も選ばれました。姉妹でワールドカップに臨むということについては?
大儀見 代表で一緒にプレーするのは、昔からの夢でした。自分もそうですが、やっぱり親が一番うれしいのではないかと思います。最高の親孝行ですよね。亜紗乃はポツダムに行ってからだいぶ変わりました。それまでは末っ子気質というか、甘ったれで、人に頼らないと生きていけないような性格だったんです。それが逆に、一人で何とかしなきゃいけない環境に身を置いたことで、自分で考えて壁を乗り越えられる選手に成長しました。その過程を見てきたから、なおさらうれしく感じます。

――二人はとても仲が良いですね。
大儀見 はい。今はとても仲がいいです。ただ、年子ですし、互いに比べられることもあって、実は関係が悪かった時期もあります。それを乗り越えて、距離が縮まりましたね。

――ワールドカップのグループリーグの展望について聞かせてください。スイス、カメルーン、エクアドルという初出場の国ばかりです。まず初戦であたるスイスは、ブンデスリーガでプレーしている選手も多いし、チームメートもいます。
大儀見 スイスは最近、力をつけてきていますし、この間も親善試合でスウェーデンに勝利しました。チャンピオンズ・リーグで対戦したチーム(ローゼンゴル)の中にスイスの10番(ラモナ・バックマン)がいたのですが、衝撃的でした。テクニックに加えて、スピードやフィジカルも備えていて、マルタ(ブラジル代表)以上の選手かもしれません。他にもブンデスリーガで中心選手として活躍している選手が多くいます。ただ、初出場ですので、そのまま実力を発揮できるとも思いません。相手が大会の雰囲気に慣れてしまう前に、つまり初戦で当たるのは幸運です。

――カメルーンとエクアドルについては、あまり情報がありませんが。
大儀見 そうですね。一人、カメルーンの選手とポツダムで一緒にプレーしたことあったんですが、ほとんど何も知らないです。

目標は全勝優勝。ゴールに対する執念を見てほしい

――この4年間、ライバル国もレベルアップしてきています。3月のアルガルヴェ・カップではフランスに逆転負けを喫して決勝進出を逃しました。戦い方に問題がありましたか?
大儀見 この4年間で相手が研究してきているからなのか、自分たちが成長していないのか、ひとつに絞ることはできないと思いますが、今までやってきたパスをつないでゴールを目指すサッカーにプラスして、縦の速い攻撃も必要だと感じます。相手の状況に合わせて、戦い方を使い分けることが、得点を取るために大事なポイントになるのではないかと思います。

――守備面についてはいかがでしょう。
大儀見 守備に関しては、アルガルヴェ・カップでも立ち上がりにやられてしまうシーンが多かったですし、チームとしてどの時点でボールを奪いに行くか、はっきりしない部分がありました。一対一で対応できる能力は、日本の選手はそこまで高くないし、複数人で(組織的に)ボールを取りに行く状況は増えると思います。その場合、割り切って、(引いて)ブロックして守るのか、前から(プレッシャーをかけに)行くのか、というところの意思統一を大会までにはっきりさせる必要があると思います。ただ、(アルガルヴェ・カップに負けたことでかえって)やりやすさは少し出ると思います。前回のワールドカップの時も、その年のアルガルヴェは全然だめでしたから。

――もし日本が順当に勝ち上がれば、ベスト8でブラジルと対戦することが予想されます。ブラジルに関しては、どのような印象を持っていますか?
大儀見 オリンピック以来、直接対戦したことはありませんが、そこまで大きな変化はないのかな、というのをテレビで見ていて感じます。まだ結局、マルタやクリスチアーノ頼みのサッカーをしているなっていう印象です。

――オリンピックの準々決勝は、日本のベストゲームと言っていいくらいの内容でした。
大儀見 そうですね。(マルタとクリスチアーノの二人にあえて)自由にボールをもたせて、奪ったらすぐにカウンターを仕掛けて、相手をいら立たせました。ブラジル人は短気なところがあるから、いかに相手をイライラさせることができるかどうかがポイントだと思います。

――ドイツ、アメリカ、フランスは、優勝候補の筆頭と言ってもいいチームだと思いますが、一番の強敵はどこだと思いますか。
大儀見 スイスです。100パーセント確実に勝てるっていう可能性がない限り、まずは目の前の相手のことを考えます。他のチームと当たることも想定はしますが、前もって考えていても、その通りになるとは限りませんから。

VANCOUVER, BC - OCTOBER 28: Yuki Ogimi #17 of Japan fouls Kadeisha Buchanan #3 of Canada in Women's International Soccer Friendly Series action on October 28, 2014 at BC Place Stadium in Vancouver, British Columbia, Canada.  (Photo by Rich Lam/Getty Images)

――ところで、今大会のフィールドは人工芝ですが、これは日本にとってプラスに働きますか?
大儀見 人工芝は間違いなく私たちにとって有利に働くと思います。パスがぶれないですからね。外国人はパワーを使うから、人工芝でやった時に、負担がかなりかかるし、疲れが溜まりやすいと思います。

――今回はワールドカップということで、日ごろサッカーを観ない人たちも注目すると思います。そういう人たちに向けて、アピールしたいことはありますか?
大儀見 観る人の心を惹きつけるサッカー、というのは絶対表現しなきゃいけないと思います。頭と体じゃなくて、やっぱり、心でプレーしないといけない。その部分を表現できれば、観ている人を惹きつけられると思います。

――個人として、大儀見選手のこういうところを見てくれたら嬉しいというのはありますか?
大儀見 一つひとつのプレーに必ずメッセージをもたせているので、それを感じ取ってほしいです。何を考えてプレーをしているのか、明確に、誰にでも伝わるように表現していきたいと思っています。あとはゴールに対する執着心。こだわり。常にゴールから逆算して、考えながらプレーしています。

――ワールドカップでは、チームとして具体的な目標を掲げていますか?
大儀見 優勝しかないですよね。ただ、言うのは簡単ですし、ただ優勝するだけではなく、さらにもう一個高いところに目標を置いた方がいいと思っています。ですから、いつもこういう質問をされたときには、ただ優勝するだけじゃなくて、必ず後に何かつけるようにしています。

――それはたとえば?
大儀見 前回できなかったのは全勝優勝ですので、全部勝って優勝したいと思います。

――個人として、目標はありますか?
大儀見 数字的な目標はいつも作りません。自分だけが特別だとは思っていませんし、あくまでもチームの中の一人として、という意識でいます。ただし、(エースとしての)自覚はあります。前回もやってやろうという気持ちを持ってはいたんですが、うまくいきませんでした。この4年間で大きく色んなことが変わって、それが自信にもつながっていますので期待してください。

Japan v New Zealand - International Friendly