2012.06.18

【第1回】南米サッカー通 名良橋晃が語る チリサッカー、南米サッカーの魅力

文=池田敏明
写真=市川陽介、ウニベルシダ・デ・チリ

「みんな、人生賭けてますよね」。

 元日本代表で鹿島アントラーズのOBでもある名良橋晃さんは、南米サッカーの魅力についてそんな言葉で表現してくれた。

 デコボコのピッチで繰り広げられる、テクニカルでスペクタクルなプレー。選手やサポーターがストレートにぶつける、むき出しの感情。紙吹雪、発煙筒、ロケット花火、スタンドを覆う巨大フラッグ、そして飛び交う罵声と歓声。選手も、監督も、そして観客も、まさに命懸けで目の前の90分間に挑む。現役時代、鹿島で数多くのブラジル人選手とプレーし、現在はコパ・ブリヂストン・スダメリカーナやコパ・リベルタドーレスの解説を担当している“南米通”の名良橋さんにとって、かの地で繰り広げられるサッカーは「一味もふた味も違う」という。

「スルガ銀行チャンピオンシップ2012」でヤマザキナビスコカップ優勝チームの鹿島が対戦するウニベルシダ・デ・チリは、コパ・ブリヂストン・スダメリカーナ2011を制して南米王者に輝いたチリの名門。名良橋さんはその現状を取材すべく、チリ・サンティアゴへ足を運んだ。チリサッカー連盟を表敬訪問してセルヒオ・ハドゥエ会長に話を伺い、ウニベルシダ・デ・チリのクラブハウスではトレーニング施設を見学して選手や関係者らにインタビュー。

 そしてチリ国内最大のイベント、ウニベルシダ・デ・チリとコロコロの“スーペル・クラシコ”を観戦した。その衝撃的な展開と結末に、名良橋さんは「自分が試合に出るわけじゃなかったけど何故か武者震いしたし、あの結果にはグッときた」と、チリサッカーのレベルの高さを改めて実感していた。

 チリのサッカーと言えば、イバン・サモラーノ、マルセロ・サラスの“サ・サ・コンビ”を思い出すファンもいるだろう。奪ったボールを素早く前線に預け、ワールドクラスの実力を持つ2トップの個人技に託す。中盤から最終ラインにかけては弱さが垣間見えたものの、2人が奏でるハーモニーでゴールを量産し、世界中のファンを魅了した。

 しかし今、チリサッカーは目まぐるしくレベルアップしている。きっかけとなったのは2007年8月、マルセロ・ビエルサ監督のチリ代表監督就任だ。細かくパスをつなぎ、人数を掛けてスピーディーに敵陣を襲う超攻撃サッカーは、瞬く間にチリ代表をレベルアップさせた。彼自身は2011年1月に辞任したものの、名良橋さんは「今でもビエルサの影響力は残っていますね」と分析する。協会を表敬訪問した時、グラウンドではU−20チリ代表が練習試合を行っていたが、彼らが実践しているサッカーはまさにビエルサのスタイルだった。

「攻守の切り替えが速く、ショートパスをテンポ良く繋ぐサッカーを実践しています。それに前線の選手はスピード、センターバックは高さと強さを備えているなど、一人ひとりの個性、特長が活かされています。ビエルサによってすべてが変わりましたね」

 ブラジルやアルゼンチンに比べると地味な印象が拭えないチリサッカーだが、確かな実力を備えていることは紛れもない事実だ。

 そして今年8月に来日するウニベルシダ・デ・チリは、今のチリサッカーを象徴するチームと言える。

「いい意味で裏切られました。見ていてすごく楽しかったです」

 コロコロとのスーペル・クラシコ観戦後に名良橋さんが口にしたコメントが、その魅力をすべて物語っている。2012年8月1日、カシマサッカースタジアム。“南米のバルサ”と称されるほどの美しい攻撃を武器とするウニベルシダ・デ・チリのサッカーが、ついにベールを脱ぐ。

【動画編】名良橋晃が語るチリサッカー、南米サッカーの魅力