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2014.02.05

「僕は“裸足の夢”はとても怖いものだと思っている」――清水英斗

 2011年に産声を上げ、サッカーファン、映画ファンから熱い支持を集めてきた「ヨコハマ・フットボール映画祭」。今年も2月8日(土)〜11日(火/祝)の4日間で世界のサッカー映画の珠玉の作品か9作品を一挙上映! そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各9作品の映画評を順次ご紹介。今回は“プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター”清水英斗さんより2010年米アカデミー賞外国語映画賞 韓国代表作品『裸足の夢』の映画評をご寄稿いただきました。

裸足の夢

「僕は“裸足の夢”はとても怖いものだと思っている」清水英斗

 この広い世界の中には、「そんなのあり得ないだろう!」というチームがいくつか存在する。

 たとえば映画『インビクタス』で描かれた、1995年の南アフリカ・ラグビー代表がそれにあたる。アパルトヘイト(人種隔離政策)の傷跡が残る南アフリカで、白人スポーツのラグビー代表に黒人の選手が交じって一緒にプレーし、白人と黒人の団結の象徴として両方から応援してもらう。それは故ネルソン・マンデラ氏が考えたプランだが、当時は“そんなのあり得ないだろう!”と誰もが思っていたはず。

 また、イスラエルには、イスラエルとパレスチナの両国の子どもが交ざって出来たクラブチームが存在する。解決の道がなかなか見えない紛争地域において、クラブは試合のキックオフ前に必ず、イスラエルとパレスチナ、2つの国旗を束ねて振る。和平の希望として、紛争がひどかった時期から行われてきた。当時は特に、“そんなのあり得ないだろう!”と思われていたかもしれない。

 この映画『裸足の夢』に登場する、東ティモール民主共和国を代表するサッカーチームも、同じように、いや、もしかしたらそれ以上に、“そんなのあり得ない”チームかもしれない。なぜならチームの主力となる2人のサッカー少年の間には、とんでもない遺恨がある。2002年にインドネシアの実効支配から独立し、21世紀最初の独立国となった東ティモール。長きにわたる内戦の中で、お互いの肉親や親族同士は殺し合いを繰り返してきた。自分の肉親を殺した人間の親族と、同じチームを組んで、ゴール前でパスを出せって!? そんなバカな! 

 でも、それは現実のものになる。成し遂げた監督は、韓国からやってきたどうしようもないクズ人間、キム・ウォンガンだ。『裸足の夢』の主役である元サッカー選手の彼は、引退後の事業で失敗し、再起の地として選んだ東ティモールで、サッカーチームを創設する。いや、“創設”と言えば聞こえはいいが、キム・ウォンガンはなかなかにどうしようもない。子どもに対して1日1ドルの分割払い契約でスパイクを与え、貧しい子どもの少ない稼ぎから搾取するという、詐欺スレスレのクズ商売を思いつく。

 でも、ひょんなことから、子どもたちの指導とチーム作りに本気になり、やがて、東ティモールの代表として、広島で行われる国際大会の『リベリーノカップ』へ出場する夢を抱くようになる。しかし、さまざまな問題が山積みとなり、キム・ウォンガンは子どもたちを裏切って挫折。すると、プロ選手を夢見る一人の少年がとんでもない行動に……。

 僕は“裸足の夢”はとても怖いものだと思っている。

 話はそれるが、昨年、僕は取材でアフリカのエチオピアを訪れ、とても貧しい国のサッカーに触れた。子どもたちはスパイクはおろか、靴を買うこともできず、ゴムのサンダルや裸足でボールを蹴ることも少なくない。そのボールも、古い靴下を丸めて作ったソックスボールだ。その地で、15歳の少年が僕に話しかけてきて、こう言った。

 「俺はドログバになる」

 僕は固まった。なぜならこの日本で、あんなに綺麗な目で、真っすぐ前を見て夢を語れる人には出会ったことがないからだ。ドログバなんて、明らかに無謀な夢だ。でも、そう思っても、笑えないし、茶化せない。裸足の夢はいつも一途で、真っすぐで、傷つきやすい。生半可な気持ちで関わると、とんでもないことになる。

 きっとキム・ウォンガンも、それを痛感したんじゃないだろうか。金稼ぎのつもりで子どもたちの夢に入り込んだのだが、彼らの“裸足の夢”は、いつも物事が中途半端になっていた、キム・ウォンガンの人生をも変えていくことになる。

 刺激になったのは、子どもたちの側も同様だ。内戦でボロボロに傷つき、何もない国と形容される暗い国、東ティモールで、失敗しても、倒れても、「次だ!次!」と懲りずに立ち上がる韓国人。どうしようもないダメ男には違いないが、子どもたちは、「次だ、次!」と反省を知らない馬鹿ポジティブな男に引っ張られていく。暗い世界観なのに、人を見れば何もかもが痛快でしかない。

 実は、この映画『裸足の夢』は、実話を元にしたフィクションである。キム・ウォンガンのモデルであるキム・シンファン氏は、同じく元サッカー選手。一攫千金を夢見て訪れた東ティモールで少年チームを立ち上げ、実際に2004年と2005年に広島で行われたリベリーノカップで連覇を果たしている。今も東ティモールで指導を行っているそうだ。

 韓国と東ティモールの出会いが、日本の広島で完結する。そのせいか、この種の映画にしては珍しく、親近感を覚えながら見られるのも特徴のひとつだろう。

 また、映画を観ていて、「あれっ?」と思ったのは、役者たちが割とガチなレベルでサッカーがうまいこと。実は出演しているのは、実際にキム・シンファン氏が率いた東ティモールのサッカー少年だというから、なるほど、納得だ。彼ら自身が出演したことで、ドキュメンタリーのリアル感と、作ったドラマの痛快さが、何ともうまい具合にミックスされている。といっても、2004年当時からは月日が経ちすぎているので、彼ら本人は高校生くらいの役で登場し、もっと幼い東ティモールの子どもが主役で出演している。

 その役者である少年たちが、2010年に撮影のために広島を訪れた。そのときの様子が在東ティモール日本国大使館のホームページに載っているのだが、彼らのコメントがとても心に響いたので、ここに一部を抜粋させていただきたい。

 「僕は日本の広島に初めて行って、とっても嬉しかったです。広島は大きな街で、ルールがきちんとしていて、人々はゴミを道端に捨てたりしません。通りで遊んでいる子どももいませんでした。僕は日本で多くの新しい友達を作ることができてとっても嬉しかったです。僕は東ティモールが日本のようだったらすばらしいのになと思いましたが、そんなことは結局関係ないのです。東ティモールは僕の国だからです」(フェルナンド君)

 「日本と韓国はとても美しい国で、全てが良かったです。でも、僕たちは自分たちの母国を否定できません。僕たちは日本で多くの友達に会うことができて本当に嬉しかったです。東ティモールはそんなに良くないかもしれませんが、僕の国です。ありがとう」(リカルド君)

 この映画、オススメです。

【プロフィール】
清水英斗(しみず・ひでと)
1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。ドイツやオランダ、スペインなどでの取材活動を機に逆輸入ライターとしてメディアの世界へ参戦。雑誌『ストライカーDX』の編集者、Goal.com Japanの編集長を経て、現在はフリーで活動中。近著に「3時間でサッカーの目利きになる」(ベストセラーズ)、「サッカー好きほど知らない戦術の常識」(カンゼン)、「だれでもわかる居酒屋サッカー論」(池田書店)、「あなたのサッカー「観戦力」がグンと高まる本」(東邦出版)等がある。

『裸足の夢』
(韓国/ドラマ/120分/2010年制作)
上映:2月9日(日)17:25~/2月10日(月)19:00~
主演:パク・ヒスン/コ・チャンソク/清水圭
監督:キム・テギュン
配給:Spring has come Ltd.
舞台:現代 韓国/ティモール

【ヨコハマ・フットボール映画祭2014について】

世界の優れたサッカー映画を集めて、2014年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月8日(土)・9日(日)・10日(月)・11日(火/祝)に開催! 詳細は公式サイト(http://yfff.jp)にて。

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