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今こそスパイクと向き合おう! プロホペイロ松浦紀典が教える本格スパイクお手入れ術【Supported by MIZUNO】

2020.05.04

日本サッカー界におけるホペイロの第一人者・松浦紀典氏 [写真提供]=MIZUNO

 サッカーができないこの時期。練習もできず、不安な日々を過ごしている選手の皆さんも多いことだろう。でも、そんな時こそ“おうち時間”でできることがある。それがサッカー選手の相棒・スパイクのお手入れだ。

 そこで今回は、毎日練習や試合がある日々では中々手が回らないスパイクの本格的なお手入れについて、日本を代表するスポーツメーカー・ミズノの協力のもと、京都サンガF.C.所属のプロホペイロ 松浦紀典氏に電話インタビューを実施。この時期だからこそやっておきたいお手入れ方に加え、ギアを大切にするという姿勢がプレーに及ぼす影響についても語ってもらった。

 松浦氏は、日本におけるプロホペイロのパイオニアである彼だからこその視点や経験を交えた貴重なエピソードをふんだんに語ってくれた。部活動やクラブチームで選手としてプレーしている人はもちろん、指導者や保護者の方々にも必読のインタビューだ。家で過ごすこのゴールデンウィークは、スパイクと一緒にサッカーと向き合う姿勢や意識も磨いてみてはいかがだろうか。

取材・文=生駒 奨(サッカーキング編集部)
写真・動画提供=ミズノ
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―――大変な状況のなか、取材を引き受けていただいてありがとうございます。所属されている京都も活動を休止中ですが、松浦さんは現在どのように過ごされていますか?

松浦紀典(以下、松浦) 僕は自宅に選手のスパイクを持って帰ったり、一人でクラブハウスに行ったりして作業しています。本来なら、ゴールデンウィークは試合が連戦になる予定でしたが、ぽっかりと時間ができてしまったので、通常試合をこなしながらではできない手入れや補修をしっかりやっています。自宅でトレーニングしている選手たちから、「こういうトレーニング器具が欲しい」といった連絡が来ることもあるので、そういった細かい要望にも応えられるように努めています。

―――サッカーキング読者にも、練習や試合ができずスパイクを放置してしまっている人がいると思うのですが、長期間使用しないと状態が変化してしまうのでしょうか?

松浦 スパイクの敵は「湿気」と「乾燥」です。冬、乾燥している時期に長期間放置するとカチカチに固まってしまいますし、梅雨の時期だと湿気を吸ってカビやにおいが発生します。着用していないスパイクでも、1週間に1回は様子を見て、クリームなどを塗ってあげるようにしたほうがいいですね。

―――なるほど。では、改めてスパイクのお手入れについて、正しい手順を教えてください。

松浦 そうですね。まず、読者の皆さんに伝えたいのは、スパイクも一度履いたら必ずお手入れしてほしいということ。普段、学生や子供たちと触れ合う機会で、「練習が終わった後どんなことをする?」と聞くと、シャワーを浴たりご飯を食べたりして体をケアする、着ていたウェアを洗う、といった答えが返ってきます。でも、「スパイクは?」と聞くと、みんな黙ってしまうんです。体やウェアと同じように、スパイクも当然汚れやダメージがたまっているのに、なぜか同じようにケアをする人は少ないんですよね。

―――確かに。むしろスパイクやシューズが一番酷使されているのに、不思議ですよね。

松浦 そうなんです。だから、僕は選手が履いたスパイクは、たとえ着用時間が5分でも必ず手入れします。手順としては、洗顔と同じとイメージしてもらえると分かりやすいと思います。お風呂などで顔を洗う時、まずはクレンジングや洗顔フォームでしっかり汚れを落としますよね。そのままだと乾燥してしまうので、乳液や化粧水でコンディションを整えると思います。スパイクのケアも実は一緒です。まず濡れタオルで全体の汚れを取る。特別なケア製品じゃなく、普通の濡れタオルでOKです。これで、8割以上は汚れが落とせます。そして、しっかり乾燥させて、できればスパイク用のコンディショニングクリームを塗ってあげてください。僕はいつも、ミズノさんと一緒に作ったスパイクケアアイテム『P.』のコンディショナーを塗ってから、シューキーパーを入れて保管しています。これが、お肌で言うと化粧水や乳液に当たるので、とても重要です。

スパイクを丁寧に磨き上げる松浦氏 [写真提供]=MIZUNO

―――洗顔で例えると、とても分かりやすいですね。スパイクには天然皮革の物や人工皮革の物がありますが、どれも同じように手入れしていいのでしょうか。

松浦 はい、基本的にはどんなスパイクも同じように手入れしてもらいたいです。よく、人工皮革のスパイクは手入れしなくていい、と思っている人がいますが、どんな素材のスパイクも手入れをすると必ず状態がよくなります。それに、最近は人工皮革で縫い目が少ないスパイクも多いですが、目立たないだけで必ずどこかに縫い目があります。雨の日はそこから水が入り込んできますし、シューズが痛んでいると、その縫い目からほつれてきます。例えば、先ほどご紹介した『P.』のコンディショナーは、防水効果がありますし、ステッチの縫い糸を補強する効果もあります。人工皮革の物でも、ニット素材の物でも、『P.』のようなコンディショナーを薄く塗っておくことでいい状態で長持ちしてくれます。

スパイクのコンディションを整えるには、専用クリームを定期的に塗ることが重要 [写真提供]=MIZUNO

―――なるほど。しっかりと汚れを落としつつ、コンディショナー等でいい状態を保ってあげることが重要なんですね。そのほかに、特にこの時期だからこそやってほしいお手入れはありますか?

松浦 インソールのお手入れですね。インソールは、足が直接触れるところです。よくスパイクのにおいに悩んでいるプレーヤーがいます。あれは、体から出る汗に含まれるたんぱく質や油、皮脂がインソールに付着し、においの原因となっているのです。この時期だからこそ、インソールは徹底的に洗ったほうがいいと思いますね。
 洗い方としては、あまりブラシなどを使ってゴシゴシ洗うと傷んでしまうので、やわらかいスポンジに洗剤などをつけて優しくこすってあげてください。洗面器に殺菌効果のある洗剤と漂白剤などを入れて漬け置きするのも効果的です。洗った後は、しっかりすすいで乾かしてください。ちなみに僕は、普段から毎回の練習後に選手たちのスパイクのインソールをきれいにしています。選手からの評判も上々ですよ。

―――ありがとうございます。お手入れの方法や重要性はとてもよく理解できました。では、スパイクを買うとき、松浦さんはどんなものを選べばいいと思いますか?

松浦 デザインだけで選ばず、自分の足に合ったスパイクを買ってほしいですね。よく、「履けばだんだん馴染んできますよ」という言葉を聞きますが、基本的にスパイクは足に合わせてくれません。「あのメーカーのスパイクが欲しい」、「プロ選手と同じモデルを履きたい」という気持ちは分かりますが、自分の足に合っていないスパイクを履いてしまうと、選手生命を大きく左右します。実際、足に合わないスパイクを履いていたせいでプレーできなくなるかもしれない状態になってしまった学生選手に会ったことがあります。その選手は、比較的足の幅が広かったのですが、細身でスタイリッシュなデザインのスパイクを履き続けたせいで外反母趾になってしまっていました。僕とお医者さんで説得して足に合うスパイクを履くようになり、今もプレーを続けていますが、その当時は立っているのがやっとで、ボールも蹴られない状態でした。足に合わないスパイクを履くと、サッカーを辞めなくてはならなくなる可能性すらあるんです。

―――スパイクにこだわりがある選手は多いですが、自分の考えに固執しすぎずにパフォーマンス優先でスパイクを選ぶことも大事、ということですね。今まで担当されてきたプロ選手の中で、「この人のスパイクに対する意識はすごいな!」と感じた選手はいますか?

松浦 そうですね……。本田圭佑選手、吉田麻也選手、(田中・マルクス)闘莉王さん、楢﨑正剛さん、藤田俊哉さんなど、日本代表に選ばれるような選手はみんなすごくスパイクに対する意識も高いし、自分のパフォーマンスのために道具にも妥協しない選手ばかりですね。ただ、やっぱり一番印象に残っているのは三浦知良選手。カズさんは口では「どんなスパイクでもプレーできるよ」とおっしゃるんですが、本当はめちゃくちゃこだわっています。例えば、新しいスパイクをおろすとき、普通の選手は練習の直前に「マツさん、新しいスパイク出して!」と言ってきます。だから僕は、いつ選手にそう言われてもいいように、常に次のスパイクを履ける状態で用意しておくのですが、カズさんは違います。「マツ、今履いているスパイクはあと1週間履いたらお終いだ。来週から新しいスパイクを出してくれ」と言うんです。サッカーが生活の中心になっているから、今履いているスパイクの状態が完璧に分かって、交換すべきタイミングも事前に分かるんですね。そんな選手、25年以上プロホペイロをやっていてカズさんと闘莉王さんしか出会ったことがないです。

―――すごい……。常にサッカーのこと、最高のパフォーマンスをすることを考えているからこそ、スパイクとも正しく向き合うことができるようになるんですね。

松浦 はい、間違いなくそうです。憧れたり、形から入ることも悪いことではありませんが、プロ選手や日本代表を目指すなら、プレーのことを意識して、スパイクやギアと向き合ってほしいですね。逆に言えば、スパイクをぞんざいに扱わず、しっかりと正しい向き合い方ができれば、プレーにも絶対にいい影響が出るはずです。

―――ありがとうございます。最後に、サッカーキング読者に向けてメッセージをお願いします。

松浦 新型コロナウイルスの影響で、世界的に自粛期間が続いています。医療従事者の方々や配送業、小売り業の方々など、最前線で戦ってくれている人がいる中で、僕たちは自分を見つめ直す大切な時間を与えてもらっているなと思っています。この企画を通じてお伝えしたように、普段使っている道具の手入れなどをして、有意義に過ごしてほしいです。練習や試合、学校や仕事など、今まで当たり前だったことができないなかで、普段は気づかなかった「いつも通り」や「当たり前」が実は貴重で大事なことだったんだな、と、僕自身も実感しています。
 この時間を生かすのも生かさないのも自分次第。サッカーキングさんをはじめとした様々なメディア、クラブ、リーグが過去の試合の振り返りや家の中でできることを発信しています。そういったコンテンツを見て、イメージを膨らませるのも大事だと思います。ぜひ、学生の方や一般ユーザーの方にも、この時間を無駄にしないで、スパイクだけでなく、サッカーができるという当たり前のことに感謝してほしいですね。
 あと、最後にもう一つ。スパイクを磨くのも大事ですけど、まずは手を洗いましょう(笑)。

【松浦氏監修 5STEPで今日からできる簡単デイリーシューズケア】※出典 ミズノ公式YouTube

MIZUNO × 松浦紀典 本格シューズケアセット『P.』

Profile

松浦紀典

日本で初のプロホペイロとして活躍。大手メーカーでの勤務後、当時のヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)でルイス・ベゼーハ・ダ・シルバ氏のアシスタントとしてホペイロとしての活動をスタート。選手から絶大な信頼を受けており、本田圭佑(ボタフォゴ)、吉田麻也(サンプドリア)等多くのサッカー選手のシューズ等の管理・ケアを行っている。スパイクの手入れにおいては、靴底を特殊な機材で削り加工を加え、選手の足にあったオーダーメイドでシューズを手入れすることが特徴。他にマネできる人がいない唯一無二のホペイロとなっている。現在は京都サンガF.C.に所属。
ブログ:blog.livedoor.jp/roupeiro_matsu

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