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“本田圭佑流”イメトレから自己流の「楽しむ」術への移行、筑波大DF鈴木大誠が見据えるプロへの道筋

2016.08.24

 タイトルが懸かった一戦。名の知れた選手との対峙。大きなプレッシャーが掛かるほど、相手選手のレベルが高いほど、DF鈴木大誠は「ワクワクして仕方がない」と胸が高鳴る。それは全国制覇を果たした星稜高校時代から、筑波大学に進学した今も変わらない。夢に向かって一心に突き進む彼の中には、経験から培われた確固たる自信と、サッカーへの飽くなき情熱がある。

インタビュー・文=平柳麻衣、写真=瀬藤尚美、内藤悠史

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■プレースタイルを変えるために、わざと性格を変えた

 鈴木大誠は、サッカーを始めた時から「プロになる」と言い続けてきた。中学時代に作成した『目標シート』には、直近から10年後までの理想の道筋が記されている。

高校1年時、「強い高校に入って全国大会に出る」
高校2年時、「スタメンに定着する」
高校3年時、「全国高校サッカー選手権で優勝」
大学、「筑波大学に進学する」

 その筋書きどおりに歩んできた大誠の人生は、サッカー一色だ。

「今までずっとサッカー中心の生活を送ってきて、もう僕にはサッカーしかない。この先プロを目指すのは自然な流れだと思います。最初は親から奈良県内の進学校を勧められましたし、別に勉強ができなかったわけじゃないんですけどね」

 それでもサッカーひと筋で生きてきた理由――。「シンプルに、サッカーは楽しいから。僕が一番情熱を捧げられるのは、サッカーやなと思ったから」。ブレることのないサッカーへの強い想いが、大誠の心にある。

 センターバックを務める大誠は、183センチの高さを生かした空中戦や対人の強さが武器だ。また、「声が出なくなったら終わり」と話すように、試合中は常に大きな声を出してディフェンスラインを統率する。だが、それは元々備えていたものではなく、「プレースタイルを変えるために、わざと性格を変えた」のだという。小、中学校時代の大誠は、全体のバランスを取ることや、味方のカバーリングを得意としていた。しかし、全国屈指の強豪、星稜高に進学した時、それでは個の能力が全く通用しなかった。

「僕は周りを動かしていただけで、相手FWと一対一で全然戦えなかったんです。相手と真正面で対峙した時、癖で体がスッと下がってしまって。それは、いつも周りを一歩引いたところから見ようとしてしまう性格のせいだと思いました。そんな人間じゃアカン。人間から変えなプレーも変わらへんなと」

 そして、ピッチ内でもピッチ外でも「ガツガツした」スタイルへと変貌を遂げる決意をする。

「日頃から『俺は強い心を持っている』、『俺は相手にガツガツいける』と自分に言い聞かせて、プレーも性格もどんどん凶暴になろうとしました。元々、お喋りではありましたけど、今みたいにガンガン喋る性格になったのはその頃からです。サッカーのために性格を変えるなんて、バカだろうって思う人もいるかもしれないけど、僕は本当にDFとして強くなりたかった」

 サッカーのために人格をも変えた大誠は、常に自分の気持ちに素直だ。そのため、大誠がインタビュー時に発する言葉からは、「自分を良く見せよう」とする余念が感じられない。

「メディア用の受け答えなんて全く考えてないですよ。元々、クソ真面目な性格の上に、僕が後から乗っけた“凶暴さ”が加わっているから、言いたいことは全部伝えてやろう、一つ質問されたら10倍返したろうと思っています。僕が喋っていると、圧迫感を感じませんか? 言葉の弾丸が飛んでくるような。僕はプレーだけでなく、言葉でも攻めるんです」

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■最後の選手権はどうしても勝ちたかった

 大誠はサッカーにおいてどこまでもストイックで、事前の準備に事欠かない。星稜高時代は試合前日、最低1時間をかけて念入りにイメージトレーニングに取り組んでいた。

「スタッフが集めてくれた相手のスカウティング情報や、予想フォーメーションを見て、相手がどんなプレーをしてくるか考えるんです。それに対して、僕はこうやって対処しようとイメージします。試合中に『この選手はこういうタイプだから』なんて考えている余裕はないので、相手選手がボールを持った瞬間に自分が無意識に動けるようになるまで、ひたすらイメージを頭に刷り込んでいました」

 このイメージトレーニングを始めたのは、星稜高の大先輩である日本代表FW本田圭佑(ミラン)の影響だという。

「河崎(護)監督が、本田さんはいつもイメージトレーニングをしていたと話してくれて、自分もやってみたら手応えがあったので、それが習慣になりました。特に最後の選手権(第93回全国高校サッカー選手権大会)は、どうしても勝ちたかったので入念に準備しましたよ。チームメイトもみんなやっていて、試合前のロッカールームで各自、自分のサッカーノートを見返していました。他校ではロッカーでサッカーノートを開く人はあまりいないので、異様な光景だったと思います」

 その努力が実を結び、星稜高は悲願の初優勝を果たすこととなる。ところが最近、大誠はこの“本田流”から脱し、“自己流”の準備法を心得た。

 転機は今年5月のJR東日本カップ2016関東大学サッカーリーグ戦前期リーグ第5節、順天堂大学戦の前だった。1年時から出場機会を得ていた大誠は、チームが1部に上がった今季、2年生ながらレギュラーに定着。しかし、筑波大は開幕からの4試合で1勝2分け1敗と波に乗りきれず、個人としても納得のいくパフォーマンスができずに苦悩していた。

「順天堂大戦の前日にスカウティングシートを見てメモを取ろうとした時、全くやる気が出なかったんです。それなら無理して続けるべきじゃないなと思って、簡単なことだけ整理して頭に入れて、リラックスした状態で試合に臨みました」

 長らく遂行してきたルーティンをやめることには、勇気が必要だった。「イメージトレーニングが次の日のやる気に直結すると思っていたので、明日の試合、ヤバイなと思いましたよ(苦笑)」。しかし、フタを開けてみれば順天堂大に5-0で完勝。その後の前期リーグ戦を3勝2分け1敗と白星先行で駆け抜けるきっかけとなった。また、大誠が心の中に抱えていた“しこり”も取れたのだという。

「今まで悩んでいたことが一気に吹っ切れました。相手の情報をびっしり詰め込んでカチコチに固まっていた頭がほぐれたことで、ディフェンス全体の雰囲気が良くなり、連係も改善されたような気がします。でも、僕にとって試合前の準備がものすごく大切であることは今も変わっていないです。高校時代の自分にはその方法が必要だっただけで、今は試合に向けて『楽しみやな』という気持ちを引き立たせることを重視しています」

 新たな準備法で安定感を取り戻した大誠は、いまや筑波大の守備の要として欠かせない存在となっている。

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■最終目標は「CL優勝」、でも今は「プロには届いていない」

 筑波大入学後、チーム内外での厳しい戦いを通して、大誠は「毎日成長できているので、ものすごく楽しい」と充実感を漂わせる。また、筑波大の3年生、FW中野誠也とFW北川柊斗の存在も大きい。過去にJクラブの練習に参加した経験を持つ2人は、大学サッカー界の中で“限りなくプロに近い”レベルにいる。

「あの2トップとは公式戦で絶対に対戦したくないです(苦笑)。中野さんは動き出しが早くて、ボールを持った瞬間にゴールを決めるまでの道筋が見えているので、僕はその道筋を読んで、どこで止めるかを考える。北川さんはゴールへ向かう意識が強くて、どうしたら自分がシュートを打てるのかをわかっているので、僕はいかにシュートコースに入るかを考える。日々の練習で2人との駆け引きを楽しめています」

 大誠が中学時代に作成した『目標シート』の続きは、「Jリーグでプレーする」、「海外でプレーする」、そして最終目標は「チャンピオンズリーグ(CL)優勝」だ。夢は壮大だが、今はまだ「プロに届いていないので、とにかくプロになることだけを考えています」。自分の足元をしっかりと見つめ、目標を一つひとつクリアしていくことが、確固たる自信と新たなモチベーションを生んでいる。

「選手権の時のように、満員のスタジアムでプレーしたいです。でも、現状の大学サッカーでは難しいし、正直、自分たちの力だけではどうすることもできない。インカレの決勝さえも、僕が高校時代に見た景色と全然違ったんです。だから僕は、『もう一度あの景色を見たいなら、プロになれよ』と自分に言い聞かせています」

 人生のすべてをサッカーに懸けてきた。夢の続きを追いかける大誠は、これからも貪欲に自らの成長を求め、邁進していく。いつかまた、満員のスタジアムで大歓声を浴びる日を思い描いて。

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